「最近、親が転びやすくなった」「もの忘れが増えてきた」——そんな変化に気づいたとき、多くの方が感じるのが、「介護が始まったら、自分の仕事や生活はどうなるんだろう?」という不安ではないでしょうか。「まだ大丈夫」と思っていても、介護はある日突然、本格化することがあります。
しかし、事前に準備しておくことで、自分の生活を犠牲にせずに介護を進めることは十分に可能です。この記事では、介護が始まるとどんな変化が起きるのかをお金・時間・精神面に分けてわかりやすく解説したうえで、「自分の生活を守るために今からできる準備」「介護が必要になったらすぐやること」「在宅介護で使える工夫」「施設入居を考えるタイミング」まで、順番にご紹介します。
まだ介護が始まっていない方も、すでに介護が始まっている方も、ぜひ参考にしてください。
親の介護が始まると自分の生活はどう変わる?
介護が始まると、お金・時間・精神面の3つで、自分の生活に大きな変化が生じます。在宅でかかる介護費用は月平均5万円にのぼり、介護を理由に仕事を辞める方は年間約9万人います。
何も準備しないまま介護が始まると、生活が急に変わってしまうため、あらかじめ知っておくことが大切です。
お金への影響
在宅介護の場合は、親の年金や貯蓄で賄う方が大半です。しかし、施設介護になると費用がかかるため、親の経済力で賄えない分をご家族が負担するケースも多いです。
在宅介護にかかる費用は、要介護度によって月3〜7万円台と大きく異なります。
出典:公益財団法人家計経済研究所「在宅介護のお金と負担」2016年調査
表を見ると、介護保険サービスの自己負担(介護サービス費)は月2万円前後にとどまるケースが多いことがわかります。
費用の大部分は、おむつ・尿取りパッド・介護食・医療費といった介護保険が適用されない出費です。
施設によって費用の幅が大きく、月4万円台の特養から平均24万円近い介護付き有料老人ホームまであります。在宅介護の平均5万円と比べると、施設入居は費用が増えるケースがほとんどです。親の貯蓄や年金でどこまで賄えるかを、施設を選ぶ前に確認しておきましょう。
・介護保険の自己負担額は実際に使ったサービスの量によって変わります
・介護費用の中でも、おむつ費などのサービス外費用が大きい割合を占めます
・費用を抑える制度(高額介護サービス費など)もあります(H2-4で詳しく説明します)
時間への影響(パターン別生活スケジュール付き)
介護が始まると、自分の自由な時間は確実に減ります。要介護度が上がるほど必要なサポートの量が増えるため、介護に使う時間も長くなります。
厚生労働省の調査によると、「半日以上を介護に費やしている人」の割合は、要介護度1、3、5と高くなるにつれ、1割、5割、6.5割と高くなっていきます。
以下の3つの例で、状況によって生活の変わり方がどう違うかを確認してみましょう。
事例① 【介護者】正社員/別居 【要介護者】要介護度2

デイサービスに預けていない時間以外は、ネットカメラと緊急通報システムで見守りを行っている状況。
デイサービスに預けていない日でも、1日2回の訪問介護によって、人の目が入るようにしています。
週末1日は帰省し、洗濯や掃除、買い物を代行しています。自分の時間は就寝前のわずかな時間になるため、日曜日は自宅に帰って、自分の休息にあてています。
事例② 【介護者】専業主婦/同居 【要介護者】要介護度2(認知症)

母親がデイサービスを利用している間になるべく自分の時間を持つようにしています。
デイサービスにいかない週末は、介護の時間が長く、自分の時間が限られています。
事例③ 【介護者】正社員/同居 【要介護者】要介護度3

平日は仕事のため、ショートステイに預けています。
金曜日の帰宅後は、自分が中心に介護をしていますが、トイレ介助や通院など、負担が大きいため、訪問介護を1日3回いれて、自分の時間をとるようにしています。
このように、要介護度が上がるほどサービスだけでは補いきれない時間が増えていくことがわかります。
特に仕事をしながら同居で介護をしている場合は、両立が難しくなりやすいです。
ある調査では、介護経験者の約2割(21.6%)が介護を理由に仕事を辞めており、年間約9万人が介護離職しています(内閣府調査)。
そのため、訪問介護やデイサービス、ショートステイなどのサービスをうまく活用していく必要があります。
・介護サービスをうまく使うことで、自分の時間をある程度確保できます
・「サービスに頼るのは申し訳ない」という気持ちは不要です。サービスを使うことが、介護を長く続けるコツです
・要介護度が高くなると、夜間の対応が必要になる場合があります
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精神面への影響
介護が始まると、精神的な負担も大きくなります。
介護をしている方の6割以上が精神的なつらさを感じているという調査結果があります。
「自分だけが頑張らなければ」という気持ちが続くと、心も体も限界に達してしまうことがあります。
ケアスル 介護の調査では、介護経験者の約半数(45.7%)が「介護疲れ・疲労」を最も大きな悩みとして挙げています(アンケートVer.2、n=300、2023年)。
また、「相談しても悩みが解消しなかった」と感じた方が58.3%にのぼっており、周囲に頼れない孤独な介護の実態が浮かび上がっています。
一人で抱え込まず、ケアマネジャーや相談窓口につながることが、自分を守る第一歩です。
・介護が始まると、お金・時間・精神の3つが同時に影響を受けます
・準備がない状態で介護が始まると、介護をする側が先に倒れてしまう「共倒れ」になるリスクがあります
・「いざとなったら考えよう」ではなく、今から準備しておくことが自分と親の両方を守ります
親の介護がはじまって、自分の生活を守った体験談3選
親の介護は、ある日突然始まります。脳梗塞、転倒による骨折、認知症の診断——きっかけはさまざまですが、多くの人が「何の準備もないまま」介護生活に突入しています。
それでも、仕事・お金・心の健康といった「自分の生活」を手放さずに乗り切った人たちがいます。
ここでは、実際に自分の親を介護しながら生活を守り抜いた3人の体験談を紹介します。
体験談①【時間・仕事】介護を”プロジェクト”にして、自分の時間も仕事も守った
【インタビュー情報】
・お名前:鈴木さん(仮名)
・性別:女性
・年齢:40代
・職業:会社員(テレワーク中心)
・状況:3きょうだいの末っ子。母(78歳)が庭で転倒し要介護2に。近くに住む本人へ介護が集中したが、公的サービスと役割分担の仕組み化で負担を大きく軽減した
鈴木さん:介護をやってみて思ったのは、介護は公的機関がしっかり助けてくれるということ。調べれば調べるほど使えるものが多いので、どれだけ早く動くかが勝負です。早く動けば、家族の軋轢も生まれません。感情論で動かないこと。事実ベースで「これは家族が解決すべきことか、公的サービスで解決できることか」を見極めて、家族の中だけで揉めずに頼る。それが一番だと思っています。
「段取りが命。介護をプロジェクトとして設計した」(もっと読む)
■ 元気だった母が、庭で転倒して突然歩けなくなった
母は78歳。それまでずっと健康で元気だったのですが、ある日、庭で転んで打ちどころが悪く、骨が見えるほどの大怪我をして歩けなくなりました。そのまま要介護2に。認知症などの予兆があったわけではなく、本当に突然のことでした。
しかも、救急車を呼ぶことすら母は分からなくて。「どうしたらいいと思う?」と私に電話がかかってきたところから、すべてが始まったんです。私は3きょうだいの末っ子で、上に兄が2人。でも兄たちは「何かあったら言って」というだけで、主体的に関わる意識がそもそもありませんでした。
■ 救急搬送の翌々日に福祉事務所へ。「段取り」に全てをかけた
私には、以前おつき合いしていた方が目の前で脳梗塞で倒れ、介護認定を手伝った経験がありました。だから「これは怪我にも応用できる」と分かっていたんです。
救急搬送の翌々日には、母の状態の写真や診断書を持って福祉事務所へ駆け込みました。要介護認定が出る前の見込みの段階から、介護器具を安くレンタルできる制度を使い、車椅子マークの駐車枠なども申請して。「使える武器」を全部そろえたんです。これ全部、段取りが命だと思っていて。その段取りに、私は全てをかけました。
そのうえで、兄たちとケアマネジャーを入れたLINEグループを作り、必要な資料をすべて写真で共有しました。遠くに住む兄は、母の担当者も、施設のホームページも、何も分からない。だから会社員がやるように全部ファイルにまとめて、「分からないことをゼロ」にしたんです。
■ 自分の負担を、1か月半で「100→10」まで下げた
食事づくり、病院の送迎、ケアマネとの打ち合わせ——娘の私にしかできないこと以外は、どんどん兄たちに分担させました。介護計画の相談なんて、私が全部やる必要はなくて、遠隔でもできますから。
母にも「まず公的サービスを使って、それでダメな時だけ子どもに声をかけて」と口を酸っぱくして伝えました。「娘に頼めば5000円浮くかもしれないけど、私はそれ以上の損をしている」という話まで、母を泣かせるくらい真剣にしました。
始まった当初、私の負担を100とすると、手続きに走り回って一時は200まで増えました。でも器具や制度が全部そろった結果、2週間で80、1か月で40、1か月半後には10〜20くらいまで下がったんです。全部のインフラを整えたうえで、私は戦略的に一歩引きました。自分の体調不良を理由に、あえて距離を置いて、兄たちが動かざるを得ない状況をつくったんです。
■ 自分の時間は、絶対に手放さなかった
私はシングルで、自分の体調管理にもすごく気をつけていて、ジムにも通っています。その、1日にたった1〜2時間しか持てない自分の時間を、介護で取られたくなかった。だからこそ、感情論ではなく仕組みで解決することにこだわりました。
兄たちには「ほんまごめん、しんどいんよ」と下手に出ながら、心の中では「ふざけんな」と思っていましたけどね(笑)。でも感情的に責めても何も動かない。だから最後まで、事実ベースで通しました。
■ これから介護が始まる方へ
まずは福祉事務所に駆け込んでください。私も100%何も分からないまま行きました。母の状態の写真を見せて「こういう状態で、どんなサービスが受けられますか」と聞けばいいんです。介護は、親が65歳以上ならフルサポートに近いくらい使える制度があります。感情論で動かず、事実ベースで、頼れるものは全部頼る。それが、自分の生活を守る成功の形だと思います。
鈴木さんは「仕組み」で時間と仕事を守りました。
とはいえ、多くの人が次にぶつかるのが「お金」の壁です。親の貯蓄が思ったよりない、費用が毎月重くのしかかる——。
次は、費用にはっきり線を引き、公的制度を徹底的に使い倒して乗り切った方の話です。
体験談②【お金】「費用は出さない」と線を引き、公的制度をフル活用した

【インタビュー情報】
・お名前:佐藤さん(仮名)
・性別:女性
・年齢:30代
・職業:障害児福祉の仕事(介護職員初任者研修 保有)
・状況:一人っ子・既婚・子育て中(子の一人に障害=ダブルケア)。母が50代で若年性アルツハイマーを発症し要介護3・激しい徘徊。父の急死で介護と費用が本人一人に集中した
佐藤さん:これから介護をされる方に伝えたいのは、マジで線引きした方がいい、ということです。「親だけど、費用もお世話もできない」というのは、どんどん言ってしまった方がいい。少しでも「自分がやればいいんですかね」と言うと、そこに付け込まれるので。もう私はできません、と最初からはっきり言った方がいいです。
「役所は自分から動かないと、何も教えてくれなかった」(もっと読む)
■ 父の急死で、介護も費用も一人っ子の私に集中した
母は50代で若年性アルツハイマーを発症しました。要介護3で、免許を持っていた人なので体力があり、徘徊が本当に激しくて。車で1時間の距離を、週3回通っていました。私は一人っ子で、既婚・子育て中。子どもの一人には障害があり、いわゆるダブルケアの状態でした。
もともとは父が母の面倒を見ていたのですが、その父が急死してしまって。2時間前まで元気だったのに、というくらい突然でした。そこから、すべてが私一人に一気にのしかかってきたんです。
■ 「母にかかる費用は出さない」と、はっきり線を引いた
父が亡くなって通帳を開いてびっくりしました。母本人の貯蓄が、ほぼゼロだったんです。私にも子どもがいて、お金のかかる時期。全部を負担するのは無理でした。だから「母にかかる費用は出さない」と決めて、父が遺したお金の範囲だけで賄うことにしました。
施設も「将来、生活保護になってもいい老人ホーム」に限定して探してもらいました。ショートステイを2か月渡り歩いて、緊急案件として、なんとか特養に入ってもらえました。
■ 診断が出た瞬間、「今すぐ使える制度は全部」と医師に頼んだ
若年性アルツハイマーは、ある意味で精神疾患としての診断になるので、自立支援医療の対象になるんです。診断が出た瞬間に、「今すぐ使えるサービスの診断書を全部書いてください」と先生に頼みました。
介護保険の医療費が戻ってくる制度、自立支援医療、障害者手当、タクシー券……3〜5種類の制度を組み合わせて使いました。母の年金はまだ60歳前で当てにできなかったので、公的制度でやりくりするしかなかったんです。
■ 役所は、自分から突っ込まないと動いてくれなかった
経済的に苦しいと伝えても、役所や病院から何か案内が来ることは全くありませんでした。自分で調べなければ、何も分からない状態でした。私は障害児福祉の仕事をしていて初任者研修も持っていたので、その知識で「もっと使える制度がありますよね」と突っ込んでいきました。
「この認定額では生活できないので、再認定してください」と自分から言って。それでも対応が鈍いので、「このままだと母のことを殺しそうですけど、大丈夫ですか?」とまで言って、やっと動き出したんです。「なんで一般市民がここまで突っ込まないといけないんですか」と言ったのを、今でも覚えています。
一番大事なのは、ケアマネジャーを早く見つけること。私は最初ケアマネがいなくて全部一人でやりましたが、見つかってからは本当に早かった。通帳の分からない引き落としも、一つずつ紐解いてくれました。
■ これをやっておけばよかった
後悔していることが、いくつかあります。一つは、「せめて5年分くらいの貯金をしておいてほしかった」ということ。それから、まだ話せるうちに「これからどう過ごしたいか」を親と話しておけばよかった。
もう一つが、通帳・クレジットカード・年金証書のありかを、元気なうちに把握しておくこと。母の通帳には謎の引き落としが3〜4年も続いていて、調べても分からず、結局それが「潰れたガソリンスタンドのクレジットカード」だったと最後に判明しました。その分は自腹を切るしかなかったんです。特に年金証書や年金手帳のありかが分からないと、これからの人は本当に困ると思います。
■ これから介護が始まる方へ
サービスはとにかく使い倒してください。そして、自分がどこまでできるのか、線引きを最初に決めておくこと。話したくない時は、無理に親に近づかなくていい。お互いのためです。「できない」ことは、はっきり言っていいんです。
佐藤さんは、自分から制度を取りに行く強さで家計を守りました。
でも、誰もがそこまで気を張り続けられるわけではありません。
一人で抱え込んだ結果、心が折れてしまうこともあります。
最後は、うつを発症しながらも「頼る」ことで生活を取り戻した方の話です。
体験談③【心】一人で抱え込んでうつに。「頼る」ことで生活を取り戻した
【インタビュー情報】
・お名前:田中さん
・性別:女性
・年齢:50代
・職業:パート勤務(介護が落ち着いた後に就業)
・状況:一人っ子・既婚・子育て中。母(81歳)が骨折とコロナ入院を機に歩行不可に。人を頼れず一人で抱え込み、うつを発症。夫にすべて打ち明けたことで立て直した
田中さん:本当に伝えたいのは、もう一人で抱え込まないで、ということです。まず家族から。旦那さんでも、お子さんでも。家族に相談しづらかったら、友達でも、役所でもいい。とにかく誰でもいいから、相談してほしいんです。
「一人だと頭がカチカチになって、意地になっていた」(もっと読む)
■ 骨折とコロナをきっかけに、母が歩けなくなった
母は当時81歳。もともと要介護1で、足が少し不自由なくらいでした。週3回デイサービスに通い、私も週3回くらい実家に行って介助していたんです。それが3年前、母が左腕を骨折して。ほどなくコロナにもかかって入院し、その入院生活の間に足の筋力が衰えて、完全に歩けなくなってしまいました。
私は一人っ子で、父はもう亡くなっています。母の介護は、ずっと私が主体でやってきました。
■ 金銭面と精神面のダブルで、うつを発症してしまった
母が急に歩けなくなり、もう自宅では見られない。その事実と、施設にかかるお金の不安が重なって——私はうつを発症してしまったんです。自分の老後資金や子どもの学費を切り崩すことになるのでは、という将来の不安もありました。
私はもともと、あまり人を頼るタイプではなくて。一人で抱え込んで、夫にも家族にもあまり相談していませんでした。夫は当時、工場勤務で3交替の不規則な仕事。「迷惑をかけたくない」「心配をかけたくない」と思って、言えなかったんです。でも、それがかえって自分を追い込んでしまいました。
■ 「もう無理」と夫に打ち明けたら、生活が回り始めた
本当にもう無理だ、となって、ようやく夫に相談しました。銀行口座の貯金がいくらあるか、母の経済状況、毎月かかる費用まで、全部打ち明けたんです。
そこからは、動けない私に代わって夫が主体で動いてくれました。生活保護の申請も、施設の手配も。施設は、母の入院先のソーシャルワーカーさんが自宅の近くで数件ピックアップしてくれて、サービス付き高齢者向け住宅に入居できました。今は生活保護と年金で、母の生活が成り立っています。私も少し前から、仕事を始められるまでになりました。
■ これをやっておけばよかった
夫に打ち明けたとき、「何でもっと早く言わなかったんだ」とめちゃめちゃ怒られました。本当に、もっと早く相談すればよかった。
一人で抱えていた頃は、自分一人の考えだと、頭がカチカチになって、意地になっていたところがあったんです。でも周りの意見を取り入れられるところは取り入れる。そうすることで、自分自身もすごく楽になりました。柔軟に、受け入れられるところは受け入れる。それが大事だと思います。
■ これから介護が始まる方へ
お金の面では、親御さんにはやっぱり、元気なうちにしっかり貯蓄をしておいてもらえたらと思います。夫の実家は将来に備えて生活設計をきちんとしていた家で、正直、羨ましかったです。早いうちからの備えは、本当に必要だと痛感しました。そして何より、しんどくなる前に、誰かに話してください。
3人が守ったものも、やったことも違います。
ただ、3人に共通していたことが一つあります。
自分だけで抱え込まず、公的サービスや家族、制度を遠慮なく頼ったことです。
守りたいものは違っても、「頼る」という一点は同じでした。
ただ、こうした対応の多くは、介護が始まってから走りながら身につけたものです。
もし始まる前に少しでも備えられていたら、負担はもっと軽くできます。
次の章では、親が元気なうちにできる準備を整理していきます。
親の介護が始まる前に、自分の生活を守るためにできる準備
ここまでの3人には、成功だけでなく「これをやっておけばよかった」という後悔もありました。
そしてインタビューした多くの人が、同じように「準備不足」を悔やんでいます。
ほとんどの人は、脳梗塞や転倒骨折、認知症の診断で、ある日突然介護に突入します。
逆に、比較的うまく乗り切れたのは、事前に知識やお金の状況を把握できていた人でした。
大事なのは、「元気なうちに知っていたか」です。
ここでは3人の学びを軸に、親が元気な今日から始められる準備を整理します。
準備①│親のお金を「棚卸し」しておく
介護費用は、親自身のお金でまかなうのが大原則です。
だからこそ、判断能力があるうちに「どこに・いくらあるか」を把握しておきましょう。
・年金の種類と毎月の受給額
・預貯金の額と、通帳・キャッシュカードのありか
・加入している保険と、保険証券のありか
・証券口座・不動産・ローンなどの資産と負債
・使途不明の引き落としがないか(不要なカードは解約)
お金の体験談②の佐藤さんは、母の貯蓄がほぼゼロだと介護が始まってから知りました。
さらに、潰れたガソリンスタンドのカードの引き落としが3〜4年も判明せず、自腹を切ったといいます。
特に年金証書のありかは、分からないと本当に困ります。
可能なら、認知症が進む前に公正証書遺言や家族信託まで整えておくと安心です。
準備②│使える制度と相談先を知っておく
介護の制度は、知って自分から動く人にしか手厚く働きません。
「困ってから調べる」のではなく、相談先を先に1つ決めておくのがコツです。
・地域包括支援センター=最初の相談窓口(親の住む地域の担当)
・介護保険=要介護認定を受けると1〜3割負担でサービスが使える
・高額介護サービス費=自己負担の上限を超えた分が戻る
・自立支援医療・障害者手当など(若年性認知症などで対象になる場合)
・ケアマネジャーは、合わなければ変更できる
時間・仕事の体験談①の鈴木さんは、救急搬送の翌々日に福祉事務所へ駆け込みました。
お金の体験談②の佐藤さんも「一番大事なのはケアマネを早く見つけること」と話しています。
早く動けるかどうかは、事前に相談先を知っているかで決まります。
準備③│家族で「お金の分担」まで話し合っておく
「親がボケたら施設に」という会話は多くの家族がしています。
ですが「費用は誰がいくら出すか」まで踏み込めているケースは、ほとんどありません。
・実務・情報収集・金銭負担を、誰がどう担うか
・親の年金や貯蓄を、どこまで介護に使ってよいか
・費用が足りなくなったとき、どうするか
・決めたことは口約束にせず、共有できる形(LINE等)に残す
心の体験談③の田中さんは、経済状況まで夫にすべて打ち明けたことで生活が回り始めました。
お金の話は気まずいものですが、介護が始まる前のほうが、むしろフラットに話せます。
準備④│住まいを整え、親を「他人の手」に慣れさせておく
体が弱ってから慌てるより、元気なうちに「転ばぬ先の杖」を用意しておくほうが安全です。
これは上記3人とは別のインタビューで聞かれた後悔です。
・手すり・段差など、転倒しやすい場所の点検(介護保険の住宅改修が使える場合も)
・デイサービスの見学に一緒に行ってみる
・実費でもヘルパーを試し、親を「他人が入ること」に慣れさせる
ある方は「もっと早く手すりを付けていれば、父の転倒は防げたかも」と悔やんでいました。
別の方は、親が「他人の世話はいや」と拒み、仕事を退職し、家族だけで抱え込む結果になったといいます。
元気なうちに外部との接点を作っておくと、いざという時の抵抗が小さくなります。
準備⑤│親の実態を知る接点を保ち続ける
そもそも、親の今を知らなければ、準備も判断もできません。
特に別居・遠距離では、ここが最大の落とし穴になります。
・最低でも月1回は連絡を取る
・重要な話は、電話でなくできるだけ対面で
・生活破綻のサイン(郵便物の滞留・冷蔵庫の中・片付けの乱れ)を観察する
姉任せで実家に行かず、久しぶりに入ったら家がゴミ屋敷だった、という声もありました。
顔を合わせ続けること自体が、詐欺や異変を早く察知する立派な準備になります。
とはいえ、これらの準備が整わないうちに介護が始まることも少なくありません。
次の章では、介護が本格化する前に、すぐ動くべきことを見ていきます。
親の介護が本格化する前に、自分の生活を守るためにすぐやるべきこと
「様子を見よう」と後回しにすると、実際にサービスを使い始めるまでに数ヶ月かかることがあります。介護が必要だと気づいたら、まず動き出すことが最優先です。要介護認定(介護保険サービスを使うために必要な手続き)の申請から判定まで約1ヶ月かかるため、気になる兆候があったらすぐに行動することが、自分の生活を守ることにもつながります。
動き出すタイミングを見極める
介護が必要なサインは、身体・認知・生活の3つの変化に現れます。「もしかして?」と感じたら、以下のチェックリストで確認してみましょう。いくつか当てはまる場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
【介護が必要なサイン チェックリスト】
▼ 身体の変化
・転倒や転びそうになることが増えた
・歩き方がふらついている・小股になっている
・体重が急に減った・食事量が明らかに減っている
・入浴や着替えを嫌がるようになった
▼ 認知の変化
・同じことを何度も聞いてくる
・日付や曜日・季節がわからなくなってきた
・物の置き忘れが増えた・探し物が多くなった
・料理を焦がす・火を消し忘れるようになった
▼ 生活の変化
・家の中が以前より散らかっている
・冷蔵庫に同じものが大量に入っている
・薬の飲み忘れが増えた・薬が余っている
・光熱費の請求書が未払いになっていた
「なんとなく心配」という段階でも、地域包括支援センター(介護の無料相談窓口)に相談するだけでよいです。何も決めなくて構いません。早めに相談しておくと、いざというときに動きやすくなります。
介護開始直後にやること。スムーズに動くための環境・仕組みを整える
「何から手をつければいいかわからない」という方のために、やるべきことを順番にまとめました。すべてを一度にやる必要はありません。まず①と②だけでも動き出すことが大切です。
特に②の要介護認定の申請は、最優先で動く必要があります。申請していない間は、デイサービス(通いの介護サービス)や訪問介護(自宅に来てくれる介護サービス)などの介護保険サービスが使えません。
「まだそこまでじゃないかも」と思っていても、申請だけは早めにしておくことをおすすめします。

・まず①地域包括支援センターへの相談と、②要介護認定の申請だけでも動き始めましょう
・要介護認定は申請から約1ヶ月かかります。認定が下りるまでの間、介護保険サービスは使えません
・一人で全部やろうとしなくてよいです。ケアマネジャーが手配を手伝ってくれます
ピッタリの施設を提案します
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在宅介護が始まったら、自分の生活を守るためにできる工夫
在宅介護が始まったら、「全部自分でやらなければ」と思わないことが最初のルールです。
一人で抱え込むと、精神的・身体的な限界がすぐに来てしまいます。
在宅介護と仕事・育児が重なる「ダブルケア」の状態にある方は全国で約25万人おり(内閣府調査)、お金・時間・精神面それぞれの工夫を組み合わせることが、自分の生活を守るカギになります。
お金に余裕がない場合
介護費用が家計を圧迫していると感じたら、費用を軽減できる制度が複数あります。
難しく考える必要はなく、「こういう制度がある」と知っておくだけで、いざというときの選択肢が増えます。
これらの制度を活用することで、デイサービスの利用頻度を増やしたり、紙おむつなどの日用品の費用を抑えたりすることができます。
使える制度は自治体によって異なるため、まず自分で調べてから、市区町村の窓口またはケアマネジャーに「使える制度があるか確認してほしい」と伝えましょう。
・高額介護サービス費は申請しないと返ってきません。ケアマネジャーに「申請が必要な制度はありますか?」と確認しましょう
・自治体の独自補助は、市区町村の介護担当窓口またはケアマネジャーに相談すると教えてもらえます
・制度の内容は定期的に変わるため、最新情報は窓口で確認することが大切です
仕事・育児と介護が重なっている場合
仕事や育児と介護が重なると、自分の時間は急激に減ります。
デイサービス・ショートステイをうまく組み合わせることで、まとまった自分の時間を確保できます。

上記からもわかるように、サービスの利用頻度を増やすほど、仕事・育児・自分の時間を守りやすくなります。
土日のどちらかは自分の時間が欲しい場合は、デイサービスなども組み合わせましょう。
また、職場の介護休業制度(通算93日まで取得可能)は、「長期で休む」だけでなく、ケアマネジャーや施設を探す時間を確保するために短期間使うこともできます。
介護休業で一時的に休むことで自分の体と心を守ることが、結果として長く働き続けることにつながります。
テレワークや時短勤務への変更が可能かどうかも、早めに職場に確認しておきましょう。
・デイサービスの利用日数を増やすほど、自分の自由な時間が増えます
・ショートステイはまとまった休息・旅行・入院時の緊急対応としても活用できます
・介護休業は「仕事を完全に辞める前に使う制度」です。離職の前に必ず検討しましょう
精神的にしんどくなってきた場合
介護が続くと、誰でも精神的につらくなることがあります。「しんどい」と感じたら、それは限界のサインです。
一人で抱え込まず、相談窓口・レスパイトケア・介護者コミュニティの3つを活用しましょう。
ケアスル 介護の調査では、介護で困ったときに最も頼りにされた相手は「ケアマネジャー」(67.5%)で、次いで「病院・医者」(27.9%)、「家族・親族」(24.8%)、「地域包括支援センター」(7.5%)でした(アンケートVer.5、n=5,000、2023年)。
「誰かに話す」だけでも気持ちが楽になることは多く、困ったときにすぐ相談できる相手を事前に見つけておくことが大切です。
ピッタリの施設を提案します
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施設入居を検討するタイミングと進め方
在宅介護に限界を感じたとき、施設入居は「親を見捨てること」ではありません。
施設に預けることは、親も自分も守るための選択肢のひとつです。介護者が無理をして倒れると、その後の介護を誰もできなくなります。
「限界が来てから考える」のではなく、余裕があるうちに施設という選択肢を知っておきましょう。
施設入居を考え始めるタイミングは、「親の状態」と「介護者の状態」の両方から判断することが大切です。
どちらか一方だけが限界でも、施設を検討するサインになります。
施設入居を検討したきっかけの1位は「病気や認知症の悪化」(42.4%)、2位は「在宅介護の限界」(37.2%)です(ケアスル 介護 アンケートVer.17、n=250、2023年)。
「まだ大丈夫」と思っているうちに状態が急変するケースも多く、余裕があるうちから施設の情報を調べておくことが安心につながります。
・「もう少し様子を見よう」と思いがちですが、人気の施設は入居まで数ヶ月〜1年以上かかる場合があります
・「見学だけ」「話を聞くだけ」でも構いません。まず情報収集を始めるだけでよいです
親の介護は「義務」なのか
ここまで準備や工夫を見てきましたが、心のどこかにこんな思いはないでしょうか。
「そもそも、親の介護は子どもがやらなければいけないものなの?」
この問いに、法律と現実の両面から向き合っておきます。
結論を先に言えば、「自分の生活を壊してまで背負う義務」ではありません。
法律が定める「義務」の中身
法律上、子には親を「扶養する義務」があります。
ただしそれは自分の手で介護をする義務ではなく、主に「経済的に援助する」義務です。
まずは、その中身を整理しておきましょう。
つまり法律は、「仕事を辞めてでも、自分で身体介護をしなさい」とは求めていません。
介護保険をはじめとする制度は、その負担を社会で分け合うために用意されています。
ただし「関わらない」ことと「引き受けたのに放置する」ことは別問題として扱われます。
同居して介護を担っている人が世話を放棄した場合などは、責任を問われることもあります。
それでも「やらなければ」と縛られてしまう
法律がどうであれ、多くの人を縛るのは「親不孝だと思われたくない」という気持ちです。
インタビューでも、「自分がやらなきゃ」と一人で抱え込み、心身を壊した人が少なくありませんでした。
体験談③の方は、頼れずにうつを発症しています。
相談せずに無理を続け、自分が倒れて救急搬送された、という声もありました。
・弱音を吐ける相手が、一人もいない
・「自分がやらなきゃ」が口ぐせになっている
・睡眠・食事・自分の時間が、どんどん削られている
これらは、共倒れの手前のサインです。
義務感は、時に自分だけでなく親をも巻き込んで、共倒れに追い込みます。
「頼る」ことは、親不孝ではない
制度や他人を頼ることは、介護から逃げることではありません。
むしろ、介護を長く続けるための現実的な戦略です。
お金の体験談②の佐藤さんは「できないことは、はっきり言っていい」と語りました。
時間・仕事の体験談①の鈴木さんは、公的サービスを総動員して自分の時間を守りました。
3人とも、親を見捨てたのではなく、「頼りながら関わり続ける」道を選んだのです。
・地域包括支援センター(介護の最初の相談窓口)
・ケアマネジャー(合わなければ変更もできる)
・家族・きょうだい(実務/情報収集/お金で分担する)
・友人や役所の窓口(誰でもいい、まず話すことが大事)
親の介護は、あなたの人生と引き換えにするものではありません。
自分の生活を守りながら、使える制度と人、サービスに頼る。
それが、親にとっても自分にとっても、いちばん長続きする関わり方です。