親や本人が高齢となり介護も必要になってきた、もしくは今後必要になるかもしれないと考え始めたとき、いざ有料老人ホームを探し始めたら、選択肢が多く迷われる人もいるのではないでしょうか。
介護の必要性を感じていて、できれば24時間体制で介護スタッフがいてくれる施設がいいと考えている人は、行政から特定施設の指定を受けている「介護付き有料老人ホーム」という選択肢もあります。
本記事では、介護付き有料老人ホームの特徴やメリットとデメリットについて解説しています。
介護付き有料老人ホームの特徴
まずは、介護付き老人ホームの特徴を見てみましょう。
自治体の指定を受けている
介護付き有料老人ホームは、介護保険制度上の「特定施設(特定施設入居者生活介護)」の指定(認定)を都道府県または各市区町村から受けている高齢者施設を指します。
この特定施設の指定を行政から受けるには、運営・設備・人員といった基準を合格しなければいけません。例えば人員でいえば下記のような基準があります。
職種 | 備考 |
---|---|
管理者 | 1名配置 |
生活相談員 | 入居者100名に対し、生活相談員は1名以上の常勤を配置 |
介護スタッフ |
要支援の入居者10名に対し、介護スタッフを1名以上配置 要介護の入居者3名に対し、介護スタッフを1名以上配置 介護スタッフ1名以上は常勤 |
看護スタッフ |
入居者が30名未満の場合は、看護スタッフを1名以上配置 入居者が31名以上の場合は、入居者50名ごとに看護スタッフを1名以上配置 看護スタッフ1名以上は常勤 |
機能訓練指導員 | 1名以上配置 |
計画作成担当者(ケアマネージャーなど) |
入居者100名に対して、計画作成担当者は1名以上配置 |
介護付き有料老人ホームでは、外部の介護サービスを利用せず、施設内のスタッフが介護サービスを行います。
また、設備に関してはプライバシーが保護されている居室、食堂・浴室などの共用スペースがあり、一時介護室や機能訓練室、健康管理室など介護などに必要な部屋などもあります。
火災報知器などの防災面やバリアフリーも設置されており、安全面も考慮されています。
上記のように運営・設備・人員の基準はありますが、基準よりもスタッフを増員したり、設備を充実させるなど、より手厚いサービスが受けられる施設もあります。
看取りにも対応「終の棲家」
入居条件は施設ごとに異なりますが、基本的に要介護5の人まで入居可能です。また、原則終身利用なので、終の棲家として選ぶ人もいます。
施設側としても看取り加算が見直されたこともあり、看取り介護に力を入れる施設も増えています。終の棲家として入居を考えている場合は、施設の看取り体制を確認しましょう。
サービスと入居費用は施設ごとに異なる
主に民間事業者が運用しているので、利用者のニーズに合わせて多様化するサイクルが早いことが特徴的です。
24時間体制で介護スタッフが常駐することや入居者3名に対し1名以上の介護・看護スタッフを配置するなどの基準通りに運用している所もあれば、基準以上の人員配置やサービスを行っている施設もあります。
施設自体にそれぞれの特色が出やすいため、サービス内容や費用なども施設ごとに異なります。様々な選択肢から自身に合った施設を検討し、選びましょう。
介護付き有料老人ホームの3つのタイプ
介護付き有料老人ホームの中にも、介護の必要有無で大きく3つのタイプに分かれています。介護が必要なのか、自立して生活できるのか介護の度合いでも選択できるので、ぜひ確認しましょう。
介護専用型の特徴
介護専用型は、原則65歳以上の高齢者であり要介護1以上の人が入居できます。重度の要介護状態や認知症の高齢者でも受け入れ可能な施設もあります。
緊急の場合でも早急に対応ができ、介護が必要な人でも生活がしやすい環境づくりがなされています。
混合型の特徴
混合型は、自立・要支援・要介護の人が入居できます。
入居対象が介護専用型と比べて限定的ではないので、例えば、夫婦2人で入居することも可能です。入居した時点では自立して生活できていた人が介護を必要としたときに、そのまま生活できるのも嬉しい点です。
自立型の特徴
自立型は、自立した人のみ入居できます。
居室や共用スペースなどの施設が充実しており、見守りなどのサービスもあるので安心して生活を送れる環境づくりになっています。
しかし、自立型の場合は施設数がまだ少なく、介護が必要になったときに退去しなければいけないケースもあるので事前に確認が必要です。
介護付き有料老人ホームとその他の老人ホームの違い
老人ホームは、介護付き有料老人ホームの他にも「住宅型有料老人ホーム」や「健康型有料老人ホーム」があります。
介護付き有料老人ホームとの大きな違いは、特定施設入居者生活介護の指定を受けているか、受けていないかという点です。
入居時の条件やサービス内容などは施設ごとに異なりますが、一例として比較表でまとめました。
有料老人ホーム | 介護付き有料老人ホーム | 住宅型有料老人ホーム | 健康型有料老人ホーム |
---|---|---|---|
特定施設入居者生活介護指定 | 有 | 無 | 無 |
入居条件 |
原則、65歳以上の人で要介護1以上 (施設により変動有) |
原則、60歳以上の人で自立~要介護1以上 (施設により変動有) |
原則、60歳以上の人で自立~要支援1以上 (施設により変動有) |
初期費用 | 0~数千万円 | 0~数千万円 | 0~数千万円 |
サービス内容 |
施設スタッフによる、食事や掃除などの生活サポートや入浴、排せつなどの介助や介護サービス |
外部の介護サービスと契約し、必要な介護サービスを受ける | 食事や掃除などの生活サポート |
介護付き有料老人ホームのメリット
特徴についてはご理解いただけたと思いますが、メリットはどのようなところにあるのかをみてみましょう。
24時間体制の介護サービスを受けられる
介護付き有料老人ホームでは、介護スタッフを24時間体制で常駐させることが義務付けられているので、日中や夜間関係なく介護サービスを安心して受けることができます。
日中は看護師が常駐している
介護スタッフはもちろんのこと、看護師や准看護師の日中の配置も義務付けられています。介護スタッフでは行えないインスリン注射などの医療行為が可能なので必要な場合処置を行ってくれます。
ただし、医療スタッフの24時間常駐は義務付けれていないため事前に確認が必要です。
協力医療機関と協力契約を結ぶことが定めれているので、対応できないわけではありませんが、夜間時の心配などある方は医療スタッフが24時間体制で常駐している施設を探す必要があります。
費用の大きな変動がない
介護付き有料老人ホームは、介護保険サービスにかかる費用が定額制なので月々の費用に大きな変動がありません。
要介護状態の人でも介護サービスの利用量を増やした際に介護費用の変動がないので、安心して介護サービスを受けられるのはメリットといえます。
下記の表は、要支援1~要介護度5までの1ヶ月間の1割自己負担額です。地域によって1単位の金額は異なります。
介護度 | 自己負担額(1割・1ヶ月) | 単位数(1割・1ヶ月) |
---|---|---|
要支援1 | 5,430円 | 5,430単位 |
要支援2 | 9,300円 | 9,300単位 |
要介護1 | 16,080円 | 16,080単位 |
要介護2 | 18,060円 | 18,060単位 |
要介護3 | 20,130円 | 20,130単位 |
要介護4 | 22,050円 | 22,050単位 |
要介護5 | 24,120円 | 24,120単位 |
レクリエーションが充実
イベントやレクリエーションも充実しています。花見や夏祭りなどの季節ごとのイベントや、誕生日や小旅行などのイベントを開催する施設もあります。
他にも、脳の活性化や身体機能の向上・維持などの目的もある、ゲーム大会や音楽会といったレクリエーションを行う施設も多くあります。
これらのレクリエーションは、施設スタッフが企画していることが多いので、入居者が安心して楽しめる工夫がたくさん盛り込まれています。
介護付き有料老人ホームのデメリット
メリットとしては、安心して介護サービスが受けられる面やレクリエーションなどを楽しみながら生活が送れることでしたが、一方で下記のようなデメリットもあります。
入居費用・月額費用が高額
介護付き有料老人ホームに入居する際の必要な費用は、主に入居一時金と月額費用です。
入居一時金は終身利用権を得るために支払う前家賃で、入居一時金の金額は数百万円~数千万円と高額です。現在は入居一時金を無料にしている施設などもあります。
高額になる理由として、設備の充実度や立地条件などが挙げられます。気になる施設があるときは事前に確認しましょう。
介護サービスを利用しなくても定額費用が発生
上記のメリットでもお話をしましたが、介護付き有料老人ホームでは介護費用が定額です。そのため、あまり介護を必要としない人でも要介護度によって支払わなくてはいけません。
外部の介護サービスを活用できない
住宅型有料老人ホームのように、介護付き有料老人ホームでは個別に外部の介護サービスを利用できません。
つまり、今までのデイサービスや訪問リハビリなどの介護サービスを利用者が希望したとしても、原則利用はできなくなります。
介護付き有料老人ホームをとりまく環境変化と在宅ケア
家族としては、プロに任せたいと考えている人や自宅での介護に限界を感じている人など様々な理由で高齢者施設について調べているのではないでしょうか。
一方で、自宅で過ごしたいと考えている高齢者も多いようです。
時代の流れは施設から在宅へ
内閣府「平成24年度高齢者の健康に関する意識調査」の結果によると、54.6%の高齢者は自宅で最期を迎えたいと希望しているデータが出ています。
他にも、どこで介護を受けたいかというアンケートでは、34.9%の高齢者が自宅で介護してほしいと回答しており、自宅での介護や看取りを希望している傾向があります。
最期を迎えたい場所 | 総数 |
---|---|
自宅 | 54.6% |
病院などの医療施設 | 27.7% |
特別養護老人ホームなどの福祉施設 | 4.5% |
また、高齢化社会の介護については課題が多く、そのひとつとして介護スタッフの人員不足があります。こういった背景から、施設ではなく自宅での介護へと流れを変えています。
自宅でも問題なく介護が受けられるように、「地域包括ケアシステム」の構築が進められています。
「地域包括ケアシステム」は、高齢者が住み慣れた地域で安心して最期まで暮らしていけるよう、医療・介護・生活支援・住まい・予防を地域で協力し合い、一体的に提供する体制のことです。
団塊の世代が75歳以上になる2025年を目途に、取り組みが推進されています。
ケアできる家族の有無がポイント
自宅での介護となると、そのケアを家族ができるかどうかも課題のひとつです。仕事や育児などもありながら、24時間体制で介護するのは不安という人も多くいるのではないでしょうか。
介護の場合、家族だから大丈夫ということはなく、頑張っていても精神的・身体的に限界を感じることがあります。
訪問介護サービスを利用するなど自宅での介護方法は多種多様なので、限界を感じる前に無理せずケアマネージャーなどに相談しましょう。
ミドルステイ・ショートステイに対応する施設の活用
訪問介護サービスの他にも、ミドルステイ・ショートステイの活用も有効です。
有料老人ホームのミドルステイ・ショートステイの場合、「明日から短期宿泊をお願いしたい」という希望でも相談に乗ってくれる施設もあります。
今後、高齢者施設への入居を考え始めた方も、高齢者施設の雰囲気や自身にとって必要である物を見極める経験にもなるので、ミドルステイ・ショートステイから始め、検討してみるのもいいでしょう。
介護施設はリハビリ目的での短期入居も考えてみよう
介護施設への入居は本人にとっても家族にとっても大きな選択になると思います。本人が「終の棲家として探しているのか」「最終的には自宅に戻りたいのか」など入居目的を明確にしましょう。
費用や環境、介護の度合いなど細かな希望もケアマネージャーや施設スタッフなどに細かく伝え、本人と家族がストレスなく安心して生活が送れるよう、目的に沿った施設選びが大切です。
上記のように、自宅での看取りを希望している高齢者も少なくありません。その場合は本人の希望と家族の要望を踏まえ、もし自宅に戻りたいのであれば、ミドルステイ・ショートステイなどの選択肢もあります。
ミドルステイやショートステイを運営している施設ではリハビリに特化した施設もあり、自宅に戻るという目標は、本人の意欲にもなります。
短期入居でリハビリ目的として介護施設を利用することも検討してみましょう。