中央大学 文学部 心理学専攻
公認心理師、臨床心理士
日本高次脳機能学会、日本神経心理学会
中央大学を卒業後、大学病院の脳神経内科や地域のリハビリテーションセンターで認知症や高次脳機能障害を持つ患者とその家族を対象に臨床活動に従事してきました。
2013年から現職です。研究面では、当事者ができることや得意なことに焦点を当て、それらを臨床に活かす方法を探っています。
これまで30年近く、脳神経内科や地域のリハビリテーションセンターで、臨床心理士として、様々な認知症や高次脳機能障害の患者さんやそのご家族の方々お会いしてきましたが、その中で気づかされたことの一つは、患者さんに対する支援はもちろんのこと、患者さん家族への支援が大切だということです。
認知症の患者さんたちは、身近にいる家族の方々によって身体的にも心理的にも支えられていますが、それと同時に、家族の方々の気持ちや態度をとても敏感に感じ取り、その影響を受けています。家族の方々がイライラしていると、それに応じて患者さんも不安定な態度になり、それを受けて家族の方々はより一層対応に苦慮するようになったりします。
いわゆる負のスパイラルです。もちろん、その逆も同様で、家族の方々が落ち着き安定していると、患者さんたちもそれを受けて、安定することがあります。あたかも患者さんと家族は、合わせ鏡のようにして、それぞれ影響しあっているのです。
介護をしているご家族の中には、自分だけが息抜きをして楽しんだりすることに後ろめたさを感じたり、あるいは自分以外の人に介護を任せることを申し訳なく思う人がいます。もちろんその気持ちは理解できますが、家族の方々にとって心地良い状態であることは、家族自身のためであると同時に、患者さん本人のためでもあります。合わせ鏡である家族が良い状態であることは患者さんにとって何よりも大切なことです。
筆者が2019年に実施した認知症や高次脳機能障害の介護者への調査*では、対象者の半数以上の方々で、心理的な負担感を測定する尺度や抑うつを測定する尺度でカットオフ点(この点数を超えると注意が必要になる点数です)を超えていることが分かりました。
認知症のご家族の方々にはケアマネさんを通じて依頼しましたので、介護保険を利用していると考えられますが、それでも多くの方々は疲弊している状態であると言えます。また介護の負担感が高いほど、心理職へ相談したいという思いが強いことが明らかにされました。
認知症についての医療的な立場での相談機関としては、各地の認知症疾患医療センターが挙げられ、その中のスタッフには心理職も含まれています。しかし筆者らが最近に行った調査では、認知症疾患医療センターの心理職の主な業務は認知機能検査であり、家族へのカウンセリング等を行っている施設はごく一部でした。相談先としては、まだ身近な存在とは言えないようです。
以前に訪問診療の医師に同行して、家族の方々のお話を伺う機会がありましたが、傾聴するというだけでも家族の方々は少し楽になられたようです。介護保険制度の中で言語聴覚士や作業療法士、理学療法士などの専門職が一躍を担っていますが、心理職が公認心理師として国家資格化されたことで、本人や家族への心理支援も大きな役割になるのではないかと考えています。
先の調査からも、認知症の家族の方々は、「家族が心理相談やアドバイスを受けたい」というニーズが最も高かったことからも、将来的には地域の身近な存在としての心理職となることを期待したいと思います。