• くらし
  • 【公開日】2024-04-24
  • 【更新日】2024-04-30

「医療、福祉」の労働力不足を補う外国人労働者
~地域差に焦点をあてて~

「医療、福祉」の労働力不足を補う外国人労働者<br>~地域差に焦点をあてて~

高齢化が進展する中、「医療、福祉」サービス需要が高まりを見せる一方、この産業では労働力不足が深刻化しています。これに対し日本人の採用だけではその不足を解消することが困難なため、近年、この産業では外国人労働者の受入が急速に進展しています。本稿では、「医療、福祉」の労働力不足の現状と外国人労働者受入の実態を地域差に基づき説明します。

佐藤 彩子 准教授
公立大学法人公立鳥取環境大学 経営学部
博士(経済学)・大学教員
経済地理学会、日本地理学会、日本地域経済学会、日本地域政策学会
専門は地域経済学・経済地理学。九州大学大学院経済学府博士後期課程在学中より、介護サービス労働力と地域との関係をテーマに研究に従事し、最近はこの産業で就業する外国人労働者の存在が地域活性化や地域再生、地域の多文化共生等に与える影響に注目している。主な論文に「介護サービス労働力の質的不足の地域差」(『公立鳥取環境大学紀要』第 16 号、2019年)、「「介護」の特定技能 1 号外国人の受入実態と課題―大都市圏集中傾向に焦点をあてて―」(『日本地域政策研究』(日本地域政策学会)第 29 号、2022 年)など。
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「医療、福祉」の労働力不足の現状

図1では、2019年から2023年までの「医療、福祉」職種別有効求人倍率の推移を示しました。「職業計」の有効求人倍率は「医療、福祉」の7職種すべてと比べて一貫して低く、「医療、福祉」の労働力不足は他産業以上に深刻です。中でも「介護サービス職業従事者」の有効求人倍率は「医療、福祉」の中でも一貫して高く、2023年時点で3.78を示しています。

 

図1 「医療、福祉」職種別有効求人倍率の推移

注)パートタイムを含む常用を対象とした値である。

出所:厚生労働省『職業安定業務統計(長期時系列表)』より作成。

ただ、この介護サービス労働力不足の程度には地域差があります。図2では2022年2月時点における都道府県別介護関係職種の有効求人倍率を示しました。

職業計の全国平均が1.16であるのに対し介護関係職種の全国平均は3.63であり、介護関係職種は職業計と比べて労働力不足が深刻であることがわかります。

介護関係職種の有効求人倍率が全国平均(3.63)を超える都道府県は高い順に、岐阜県(5.65)、奈良県(5.20)、茨城県(4.94)、東京都(4.91)、愛知県(4.60)、富山県(4.37)、静岡県(4.32)、大阪府・埼玉県(4.09)、愛媛県(4.06)、岡山県(4.01)、石川県(4.00)、広島県(3.95)、群馬県(3.90)、三重県(3.87)、千葉県(3.69)、福井県(3.67)であり、北陸地方等の地方圏が一部存在しますが、多くは大都市圏とその隣接県地方ブロックの拠点となる県です。

したがって、今後は人口規模が大きい大都市圏とその隣接県、地方ブロックの拠点となる県ほど介護サービス労働力の確保がより一層求められ、労働力不足問題は早急に取り組むべき課題であるといえます。

 

図2 都道府県別介護関係職種の有効求人倍率

注)1. 2022年2月時点のデータである。  2. 介護関係職種の有効求人倍率の全国平均は3.63、職業計の有効求人倍率の全国平均は1.16である。

出所:厚生労働省(2022)『令和4年度厚生労働白書』より作成。

「医療、福祉」における外国人労働者の動向

介護サービス労働力不足を解消すべく、近年、この産業では外国人労働者の受入が急速に進展しています。表1では、産業別の外国人雇用事業所数、外国人労働者数の推移を2019年~2023年まで纏めました。

いずれの年も事業所数では「製造業」「卸売業・小売業」が相対的に多くなっていますが、「医療、福祉」は2019年の11,700箇所から2023年の20,537箇所まで8,837箇所増加しており、その増加率は75.5%で、他の8産業と比較して最も高いです。

他方、労働者数では「製造業」「サービス業(他に分類されないもの)」が相対的に多くなっていますが、「医療、福祉」は2019年の34,261人から2023年の90,839人まで56,578人増加しており、その増加率は165.1%で、他の8産業と比較して最も高いです。中でも「社会保険・社会福祉・介護事業」の増加率は事業所数で86.8%、労働者数で193.6%と「医療、福祉」の平均以上に高く、介護サービス産業は「医療、福祉」の中でも近年、急速に外国人労働者の受入が進む産業です。

注) 1. 各年10月末時点のデータである。 2.産業分類は日本標準産業分類(2013年10月改定)に対応している。

出所:厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(各年10月末時点)』より作成。

「医療、福祉」における外国人労働者受入の地域差

介護サービス産業を含む「医療、福祉」では近年、外国人労働者の受入が急速に進んでいますが、その受入度合いには地域差があります。

介護サービス産業における外国人労働者の制度的受入は、①2008年度のEPA(Economic Partnership Agreement、経済連携協定1))創設、②2017年の技能実習制度対象職種への介護の追加、③2017年の介護福祉士資格を取得した留学生への在留資格「介護」の創設、④2019年の改正入管法施行に伴う「特定技能」の創設の4つに基づいていますが、これらのうち国が表立って労働力不足解消を目的に初めて外国人労働者の受入を認めたのは④です。

そこで、表2では都道府県別に「医療、福祉」で働く外国人労働者数、日本人労働者数と「介護」における特定技能1号外国人数を示しました。

まず「医療、福祉」で働く外国人労働者は全国で48,630人存在し、このうち大都市圏は32,322人で66.47%を占めます。これに対して、同産業で就業する日本人労働者は全国で7,584,377人存在し、このうち大都市圏は3,545,806人で46.75%を占め、同産業で就業する外国人労働者は日本人以上に大都市圏への集中が顕著です。

この傾向は「介護」の特定技能1号でも見られ、22,492人中、大都市圏が12,925人で57.46%を占めます。したがって、「介護」における特定技能1号外国人を中心に、「医療、福祉」で就業する外国人労働者の大都市圏集中度合いは日本人以上に高いと考えられます。

この背景には大都市圏ほど給与水準が高く、日本での生活を支える外国人コミュニティが発達している等の理由が考えられます(日本経済新聞2019年10月25日)が、既述のように介護サービス労働力不足は地方圏では大都市圏ほど深刻ではない(図2)ものの、不足している事実に変わりはなく、各地域が地域特性を踏まえたかたちで外国人労働者の受入を検討せざるを得ない時期にきていると考えられます。

表2 都道府県別「医療、福祉」で働く外国人労働者数、日本人労働者数と「介護」における特定技能1号外国人数

 

 

「医療、福祉」で働く外国人労働者数 「医療、福祉」で働く日本人労働者数 「介護」における特定技能1号外国人数
人数(人) 割合(%) 人数(人) 割合(%) 人数(人) 割合(%)
北海道 674 1.39 351,571 4.64 1,130 5.02
青森県 140 0.29 86,783 1.14 213 0.95
岩手県 180 0.37 85,030 1.12 76 0.34
宮城県 450 0.93 134,550 1.77 174 0.77
秋田県 148 0.30 72,191 0.95 70 0.31
山形県 230 0.47 74,893 0.99 115 0.51
福島県 304 0.63 108,700 1.43 155 0.69
茨城県 971 2.00 155,516 2.05 633 2.81
栃木県 547 1.12 106,740 1.41 234 1.04
群馬県 938 1.93 124,983 1.65 445 1.98
埼玉県 2,828 5.82 392,119 5.17 1,389 6.18
千葉県 2,861 5.88 331,143 4.37 996 4.43
東京都 5,826 11.98 637,569 8.41 2,111 9.39
神奈川県 3,885 7.99 498,902 6.58 1,590 7.07
新潟県 438 0.90 146,867 1.94 109 0.48
富山県 369 0.76 68,994 0.91 181 0.80
石川県 329 0.68 74,335 0.98 149 0.66
福井県 290 0.60 51,908 0.68 139 0.62
山梨県 274 0.56 50,639 0.67 127 0.56
長野県 660 1.36 137,427 1.81 254 1.13
岐阜県 944 1.94 121,112 1.60 542 2.41
静岡県 1,318 2.71 210,315 2.77 543 2.41
愛知県 4,079 8.39 397,592 5.24 1,748 7.77
三重県 718 1.48 106,989 1.41 281 1.25
滋賀県 476 0.98 83,870 1.11 176 0.78
京都府 1,182 2.43 151,410 2.00 397 1.77
大阪府 6,582 13.53 494,060 6.51 2,561 11.39
兵庫県 2,839 5.84 328,800 4.34 992 4.41
奈良県 578 1.19 86,110 1.14 318 1.41
和歌山県 329 0.68 66,855 0.88 105 0.47
鳥取県 108 0.22 43,799 0.58 37 0.16
島根県 140 0.29 56,474 0.74 95 0.42
岡山県 626 1.29 129,353 1.71 342 1.52
広島県 995 2.05 186,503 2.46 427 1.90
山口県 521 1.07 99,245 1.31 191 0.85
徳島県 341 0.70 55,548 0.73 95 0.42
香川県 345 0.71 62,939 0.83 196 0.87
愛媛県 376 0.77 95,760 1.26 355 1.58
高知県 200 0.41 54,953 0.72 106 0.47
福岡県 1,522 3.13 347,494 4.58 879 3.91
佐賀県 175 0.36 64,823 0.85 293 1.30
長崎県 284 0.58 111,407 1.47 119 0.53
熊本県 387 0.80 141,552 1.87 434 1.93
大分県 302 0.62 87,933 1.16 145 0.64
宮崎県 221 0.45 82,978 1.09 179 0.80
鹿児島県 305 0.63 135,509 1.79 346 1.54
沖縄県 395 0.81 90,134 1.19 300 1.33
全国 48,630 100.00 7,584,377 100.00 22,492 100.00
大都市圏 32,322 66.47 3,545,806 46.75 12,925 57.46
地方圏 16,308 33.53 4,038,571 53.25 9,567 42.54

注)1. 「医療、福祉」で働く外国人労働者数、日本人労働者数は2020年10月1日時点、「介護」における特定技能1号外国人数は2023年10月末時点でのデータである。
     2. 大都市圏とは東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)、名古屋圏(岐阜県、愛知県、三重県)、大阪圏(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)をさし、それ以外が地方圏である。

出所:総務省統計局『令和2年国勢調査』、厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)』より作成。

まとめ

本稿では、介護サービス産業を含む「医療、福祉」の労働力不足の現状と外国人労働者受入の実態を地域差に基づき説明しました。介護サービス産業で働く外国人労働者が提供する介護サービスに対して、約9割の利用者が満足している(『外国人介護人材の介護現場における就労実態等に関する調査研究事業』、p.85)との調査結果2)も存在し、介護サービス産業で就業する外国人労働者は今後、ますます増加するものと予想されます。

「医療、福祉」はどのような地域に居住しようとも、人生のどこかで多くの人がかかわりをもつ産業であるとともに、特に介護サービス産業においては人生の後半を支える重要な産業です。したがって、この産業における労働力不足解消は早急に取り組まなければならない課題です。

他方で、地方圏を中心に労働力不足に加え人口自体の不足を問題に掲げている地域が存在し(日本経済新聞2021年7月17日)、そのような地域にとって介護サービス産業における外国人労働者の受入は当該地域の介護サービス労働力不足解消だけでなく人口増加にも一定の役割を果たしうると考えられます。この点で、介護サービス産業で働く外国人労働者は「地域活性化」「地域再生」にも貢献しうる貴重な存在であると考えることができます。

謝辞
本稿は、「東京大都市圏における外国人介護職員の就業:在留資格「技能実習」「特定技能1号」に着目して」(2021年6月~2022年3月、令和3年度公立鳥取環境大学特別研究費、研究代表者:佐藤彩子)、「労働力不足解消に向けた外国人介護職員の就業:「地域的文脈」が定着に与える影響」(2022年4月~2025年3月、文部科学省科学研究費補助金(若手研究B)、研究代表者:佐藤彩子)に基づく研究成果の一部です。ここに記して感謝申し上げます。


1) 経済連携協定とは、2つ以上の国(または地域)の間で、自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)の要素(物品及びサービス貿易の自由化)に加え、貿易以外の分野、例えば人の移動や投資、政府調達、二国間協力等を含めて締結される包括的な協定である(財務省「経済連携協定(EPA)」(https://www.mof.go.jp/customs_tariff/trade/international/epa/index.htm (2021年3月6日閲覧))。
2)この調査はEPA介護福祉士候補者と介護の技能実習生を受け入れる全国の介護サービス事業所・施設において、過去1年以内にこれらの外国人労働者からサービスを受けたことのある利用者およびその家族を対象に、令和5年2月6日~2月24日に実施されたアンケート調査である。有効回収数は3,222件である。

【参考・引用文献】

  • (株)サーベイリサーチセンター(2023)『外国人介護人材の介護現場における就労実態等に関する調査研究事業(令和4年度生活困窮者就労準備支援事業費等補助金 社会福祉推進事業)』。
  • 厚生労働省(2019)『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末時点)』。
  • 厚生労働省(2020)『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和2年10月末時点)』。
  • 厚生労働省(2021)『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和3年10月末時点)』。
  • 厚生労働省(2022)『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和4年10月末時点)』。
  • 厚生労働省(2023)『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)』。
  • 厚生労働省『職業安定業務統計(長期時系列表)』。
  • 厚生労働省(2022)『令和4年度厚生労働白書』。
  • 財務省「経済連携協定(EPA)」(https://www.mof.go.jp/customs_tariff/trade/international/epa/index.htm (2021年3月6日閲覧))。
  • 総務省統計局(2020)『令和2年国勢調査』。
  • 日本経済新聞(2019)「在留外国人最多282万人 7年連続増、大都市集中が課題」2019年10月25日、電子版。
  • 日本経済新聞(2021)「87市区町村人口減脱す 北海道・占冠村 外国人、交流深め定住」2021年7月17日、電子版。
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