「親の認知症の進行を遅らせたい」「筋力低下を防ぎたい」そんな悩みをもったご家族は少なくないでしょう。これらの予防に適した「コグニサイズ」をご存じでしょうか。
この記事では、以下の3つの内容をご紹介します。
- コグニサイズの基礎知識
- 「座っててできる」コグニサイズについて
- 施設・自宅で手軽に実践できるコグニサイズの方法
では、順番に確認していきましょう。
コグニサイズとは?始める前のチェックポイント
コグニサイズとは、認知(英語でコグニション)と運動(英語でエクササイズ)を組み合わせた造語で、「コグニションエクササイズ」の略語です。
記憶力の低下を予防しながら、身体を動かす事で脳の活性化にもつながるトレーニング。同時に鍛えられるので、一石二鳥とも言えます。
コグニサイズはどのように生まれたのか、その基礎的な部分と、どんな効果・目的があるかを解説していきます。また、コグニサイズを実践するうえでの注意点もあるので、ぜひご確認ください。
コグニサイズの基礎知識
「コグニサイズ」この言葉が生まれたのは、国立長寿医療研究センター。先述でもお伝えした通り、認知機能、運動機能の低下予防に特化したトレーニング方法です。
2025年には認知症を患う高齢者の数が700万人を超えるとされており、これが背景となってコグニサイズの開発が進んでいます。これは、厚生労働省が発表している『認知症の人の将来推計について』のデータでも明らかにされている事実です。
日本の総人口は2012年の1億2,752万人から、2025年には1億2,066万人に減少することが予測されています。そんな中、認知症を患うとされている人数が2025年に700万人を超える見込みです。これは100人中、6人が認知症患者になる計算になります。
そんな問題を抱えている日本の高齢化問題。そんな中で、開発されたのが「コグニサイズ」です。
このコグニサイズの特徴は、高齢者の方に向けたエクササイズ(トレーニング)なので、簡単にすぐ始められます。また、楽しく実践できるのもポイントの1つです。
足腰に何らかの疾患がある方、車椅子での生活をされている方、麻痺がある方でも、座ったまま取り組めるエクササイズとしても、知られています。
参考:認知症の人の将来推計について|厚生労働省
トレーニングする目的
トレーニングする目的は、主に以下の2点が挙げられます。
- 運動によって身体の機能を維持するため
- 脳を使う機会を増やして認知症予防、進行を遅らせるため
しかし、「トレーニング」と言われると、堅苦しく聞こえてしまう方もいるのではないでしょうか。 「自分には出来ない」「失敗したらどうしよう」など、拒否反応にもつながります。そのため「完璧に、コグニサイズを覚える」のが目的ではありません。
大切なのは、習慣として取り入れ、脳と身体を楽しく安全に動かそうとする意識です。この習慣が、認知症予防、全身運動を行うきっかけとなります。
期待できる効果
コグニサイズを取り入れると、認知機能向上への効果が期待されています。
これは、国立長寿医療研究センターにて、2014年11月・2015年7月の『老年期認知症研究会』の論文でも公式に発表されている情報です。
参考:認知症予防の科学的根拠について|国立長寿医療研究センター
どのような効果が期待できるか、コグニサイズの実施前、実施後でMRI検査を行なっています。そこで脳の萎縮に、どれくらいの変化が見られるか検証したのです。期間としては6ヵ月間、対象者は65歳以上の高齢者、約1,500名。そのうち、検証の条件に当てはまる100 名の軽度認知症(MCI)の 高齢者がこの検証に参加しました。
その結果、コグニサイズの実施前・実施後では、脳萎縮の改善が見られています。身体を動かしながら、同時に脳を使うのは認知症予防としての効果が期待できると証明されたのです。
また、ほかに考えられる効果を以下の表にまとめました。
対象内容 | コグニサイズで期待できる効果 |
身体面 |
|
神経面 |
|
高齢者によくある病気 | 以下の病気に関する予防につながる。
|
多方面で効果が期待できる、認知症トレーニングと言えます。
実施する際の注意点
コグニサイズの実施を促す側の介護スタッフや、ご家族の方は以下に注意してください。
- 周辺に危険な物はないか
- 余裕のあるスペースが、確保されているか
- 見守りが出来る状況か
- ご本人の体調や健康状態に問題はないか
これらの注意点に配慮しながら、安全に楽しくコグニサイズを実施しましょう。
また、季節にもよりますが、夏場は汗をかいて脱水症状への危険が伴います。反対に、寒い季節では水分を摂らない方が多くいらっしゃいます。
必ず、トレーニングやレクリエーションの開始前後は水分補給をしっかりしておきましょう。
コグニサイズを実践する際のポイント
コグニサイズを実施する際、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 無理をしない
- 軽く準備体操をする
- 休憩を入れる
- 少しずつ内容や、種類を増やす
- 日々、コツコツ継続する
また、「ほかの方は出来ているのに・・・」と、思う必要は全くありません。一人ひとりに合った方法でトレーニングをする事が大切です。
今回、ご紹介するトレーニングは「座ってできる」コグニサイズ。立って行なうコグニサイズとは違い、「手を動かすだけ」「周囲の方を見てマネしてみる」といった事でも、十分楽しみながら安全に身体を動かすことができます。
自宅でお過ごしの方でも、簡単・気軽に認知症予防トレーニングが出来るのでオススメです。
座って行うコグニサイズの基本の動き
実際にコグニサイズを始める前に、椅子に座ってからの基本的な動作について解説していきます。
座って行なうコグニサイズは、安定した椅子があれば簡単に始める事が可能です。また、車椅子をご利用の方、どちらかの手や足に麻痺がある方でも大丈夫です。
ブレーキをしっかりとめて動かない事を確認してください。そうすれば、車椅子に乗ったままでも安全に、コグニサイズを実施する事が出来ます。
自宅でのリハビリや、デイサービス・特別養護老人ホームなどでのレクリエーション活動でも使われているエクササイズです。
基本の動きとして、ご紹介するのは3つです。
- 大きく足踏み
- 前後に足を動かす
- 左右に足を開く
では、順番に確認してみましょう。
基本の動き1:大きく足踏み
- しっかりと、椅子の奥まで腰かけて座ります。
- どちらの足からでも結構です。片足ずつ交互に上げましょう。
この時に、太ももからしっかり足を上げるイメージです。 - 足を下ろす時は、勢いはつけずに、ゆっくり地面に下ろしましょう。
<ポイント>
太ももを、座面から少しでも離す意識をしてください。太ももをしっかりと上げる事で腸腰筋(ちょうようきん)と呼ばれる、腰から太ももにかけての足の筋肉を鍛えられます。
無理はせず、身体のバランスが不安定な場合は、肘置きを持って行なってください。
基本の動き2:かかと・つま先を上下に動かす
- 椅子にしっかりと腰かけます。
- 肩幅に足を開き、足先は前に向いた状態です。
- まずは、つま先を地面に付けた状態でかかとだけ浮かせます。
この時、背伸びをする感覚で足の指だけが地面に付いているイメージです。 - 次は、反対にかかとを地面に付けたまま、つま先を浮かせます。
- この「かかと浮かし」→「つま先浮かし」を交互に繰り返しましょう。
<ポイント>
ふくらはぎ全体にある筋肉で、下腿三頭筋(かたいさんとうきん)を動かします。ふくらはぎの筋肉は「第二の心臓」とも呼ばれるほど大切な役割を持つ部分です。
足首を上下に動かすと、筋肉が伸びたり縮んだりします。この伸縮運動により血流が良くなり身体が温まるので、準備体操としても最適です。
基本の動き3:左右に開く
- 椅子にしっかり腰かけます。
- なるべく両足をくっつけて、座ります。
- 背筋を伸ばしましょう。
猫背になっていると、次の動きがしにくいです。 - 足を閉じた状態から、大きく左右に開きます。
不安定な場合は、肘置きを持って行なってください。 - 「開く」→「閉じる」を繰り返し行ないます。
<ポイント>
両足を同時に上げる事で、腹筋にも力が加わります。腹筋は身体のバランスを取るのに欠かせない筋肉の1つです。
この動きで、太ももの筋肉と体幹を刺激しましょう。
座ってできるコグニサイズ~施設編~
コグニサイズは、レクリエーションの一環として、取り組む施設が多いです。集団で過ごす事が多いため、ほかの利用者さん、介護スタッフの方々と楽しく実践できるのが、メリットでしょう。
また、ご病気や、身体状況によって「座って行なう方」「立って行なえる方」に分かれる場合も考えられます。どちらでも、みんなで自然と楽しめるのも、魅力の1つです。
そんな、複数の方と楽しめるコグニサイズをご紹介します。
実施するときは、見本で介護スタッフの方が対面になるような環境をつくり、ほかの介護スタッフは転倒などの危険に備えて、周囲の見守りを行ないながら実践しましょう。
施設編コグニザイズ1:足踏み×しりとり
足踏みをしながら、みんなで「しりとり」をするコグニサイズです。
- 基本の動き2で紹介した、足踏みを行ないます。
- 「いち、に、いち、に」のリズムで皆さんと足並みを揃えましょう。
- そのリズムに合わせて順番に、しりとりを実施します。
- 答えを言ったら「いち、に」と次に答えるタイミングを統一するとスムーズです。
<楽しむためのポイント>
テンポよく進まなくても、反対に盛り上がります。その分、足踏みする時間や「次、何を答えよう?」といったハラハラ感なども増して、脳への刺激につながるでしょう。
また「食べ物だけ」「食べ物以外」など、しりとりのルールを決めると更に盛り上がります。
施設編コグニザイズ2:足踏み×指折り
足踏みとしながら、手の指を動かしながら、数かぞえをするコグニサイズです。
- 基本の動き2で紹介した、足踏みを行ないます。
- 「いち、に、いち、に」のリズムで皆さんと足並みを揃えましょう。
- そのリズムに合わせて、親指から順に指折りしながら1〜5まで数えます。
- 「5」までいったら小指から順番に指を開いていきます。
<楽しむためのポイント>
初級・中級・上級と、指折りの方法を少し変えてみましょう。例えば、小指から順に指折りして数えたり、グーの状態で親指から指を開いたり、3の倍数だけ指折りしたりなど。
指折りや、数え方を変えるだけでレパートリーが広がり、自然と盛り上がります。
施設編コグニザイズ3:ばんざい×腕組み
足を使わず、上半身をメインに動かすコグニサイズです。
足に疾患をお持ちの方や、下半身を動かせない方でも簡単かつ安全に認知症予防が出来ます。
始める前に、腕全体を動かすので前の方や、物に当たらないように間隔を開けて行ってください。
- 椅子(または、車椅子)にしっかり腰かけます。
可能な方は、椅子の背もたれを使わず行うと筋力向上への効果があります。 - 肘を伸ばして、バンザイをして肩幅に開く。
- 腕を下ろしたタイミングで、腕組みします。
- 腕を組んだ時に、右手は左脇の下・左手は右腕を掴む
- 再びバンザイをして、腕を下ろして腕組みします。
- 今後は反対に、右手は左腕を掴む・左手は右脇の下。
<楽しむためのポイント>
何度か繰り返し「ストップ」と合図した時に、皆が同じ状態かを確認します。
動作が違っている方・合っている方・両方の手が脇の下になっている方など、お互いの状態を確認し合うと楽しめます。
施設編コグニザイズ4:ばんざい×手伸ばし
こちらも座ったまま出来て、足を使わないコグニサイズです。下半身を動かせない方でも、簡単かつ安全に認知症予防が出来ます。
腕全体を動かすので、前の方や物に当たらないよう間隔を開けて行ってください。
- 椅子(または、車椅子)にしっかり腰かけます。
可能な方は、椅子の背もたれを使わず行うとよいです。 - 肘を伸ばして、バンザイをして肩幅に開く。
- 腕を90度の位置(胸の前)で止める。
この時、右手はそのまま伸ばした状態で、左手は右肩に置く。 - 3)の状態から再びバンザイをする。
- また3)の状態に腕を下ろす。
この時、先ほどの反対で左手はそのまま伸ばした状態で、右手は左肩に置く。 - この動きを、交互に行ないます。
<楽しむためのポイント>
腕組みと同じように最後のポーズに違いが生まれて、お互いを確認し合って楽しめます。
2人1組で向かい合わせになると、相手と動きが逆になるので、更に認知症予防のトレーニングとして、効果が期待できそうです。
施設編コグニザイズ5:歌×足
「あんたがたどこさ」を歌いながら、『基本の動き1〜3』を組み合わせて出来る、コグニサイズです。
『基本の動き1』の足踏みをして「あんたがたどこさ」の「さ」の時だけ『基本の動き3』の足を左右に開く動きをします。
「さ」が、立て続けに出てくるので、脳の活性化には最適かつ全身運動にもつながります。
<楽しむためのポイント>
歌はそのままで、足の動き・腕を追加するなど、動かす部分を増やす事で、楽しみ方が何通りにも広がります。少しテンポを早めたり遅めたりするのも、運動機能・認知機能への効果が高まるでしょう。
座ってできる簡単コグニサイズ~自宅編~
座って行うコグニサイズは、ほかの方と盛り上がるのも楽しいですが、1人で手軽に出来るのも魅力の1つです。
デイサービスや施設入所とは違い、在宅生活がメインの方も少なくありません。内気な方や、何でも1人でしたい気持ちの強い方でも気軽に認知症予防ができます。
注意点として、自宅でするときは、まわりの物に当たってケガをしないか確認しましょう。動く範囲が狭いとは言え、余裕のある広さで実践することをオススメします。
もちろん、準備体操も忘れずに行なってください。認知症予防としては、ご家族と一緒に楽しむのも脳の活性化につながるでしょう。
では自宅で簡単に出来るコグニサイズを3つご紹介します。
自宅編コグニザイズ1:かかと上げ+グーパー
『基本の動き2』の、かかとを上げる動きと、手をグー・パーする動きのコグニサイズです。
- 安定した椅子(または車椅子)にしっかり腰かけます。
- かかとを上げた時に、手をグーにする。
- 次に、かかとを下ろした時に、手をパーにする。
- この動きを「いち・に・いち・に」のリズムで繰り返します。
<楽しむためのポイント>
グー・パーするタイミングを反対にしたり、つま先だけを上下にしたり、慣れてきたら色んなアレンジをしてみましょう。
自宅編コグニザイズ2:かかと×つま先+グーチョキ
先述と同様に『基本の動き2』で、ふくらはぎの筋力を使います。同時にグー・チョキを交互に行うコグニサイズです。
- 安定した椅子(または車椅子)にしっかり腰かけます。
- かかとを上げた時に、手をグーにする。
- 次は、かかとを下げると同時に、つま先を上げます。
この時、同時に手をグーからチョキにする。 - この動きを「いち・に・いち・に」のリズムで繰り返します。
<楽しむためのポイント>
グー・チョキ以外に、パーを混ぜたり、グーチョキパーの順番を変えたりすると、脳へ刺激が伝わり、認知症予防へ更に効果が期待できます。
自宅編コグニザイズ3:足踏み+手をたたく
『基本の動き1』の足踏みをして数を数え、3の倍数のタイミングで手をたたくコグニサイズです。
- 安定した椅子(または車椅子)にしっかり腰かけます。
- その場で足踏みをし、「1・2・3・・・」と数を数えながら左右交互に膝を叩く。
- 3の倍数の時だけ、胸の前で手を叩きます。
3・6・9・9・12・・・と続けます。
<楽しむためのポイント>
3の倍数以外に、奇数の時だけ、6の倍数の時だけ手を叩くなど、色んな組み合わせでアレンジが出来ます。
頭を使いながら、足・手を動かすので全身運動が出来て、認知症トレーニングに楽しく取り組めます。
座ってできるコグニサイズ│安全・簡単・楽しく取り組もう
コグニサイズについての知識、施設や自宅で簡単に楽しく取り組めるトレーニング方法をご紹介してきました。
コグニサイズを取り入れる事で、認知症予防、身体機能の低下予防につながります。ご紹介したトレーニング方法は、ほんの一部で、組み合わせは幾通りにも広がります。
ぜひ、ご家族の認知症予防、現状維持のためのトレーニングとして始めてみてはいかがでしょうか。いつまでもお元気で過ごしてほしいご家族のために、出来る事から一歩ずつ始めてみてください。
Q.寝たきりの場合でも、このようなトレーニングは効果がありますか?
A.ベッド上で身体を動かさなくても、脳を使う事、指先を少し動かすなどでも十分、効果が期待できます。ご家族の呼びかけ、声掛けだけでも脳の活性化につながるでしょう。
Q.麻痺がある場合は出来ないですか?
A.麻痺のある方でも実践可能です。特に今回ご紹介のコグニサイズは、座ったままできるので比較的安全に行なえます。しかし、心配な方は主治医に相談または、状況に応じて無理のない範囲で行ってください。