一人暮らしで身寄りのない親戚に、物忘れが目立ちはじめた、
だけど、引き取って一緒に暮らすことはできない。
認知症が進んで様々なトラブルに直面する前に今からできる準備は8つ、症状が出てからすぐやることは5つあります。
身寄りのない一人暮らし|認知症になって直面する問題
身寄りのない一人暮らしの方が認知症になると、生活を回す手続きが本人の手を離れます。
以下の5つの問題が、同時に起こります。
- お金が動かせなくなる(口座凍結・振込・年金の管理)
- 契約・手続きが自分でできなくなる(入院同意、施設入所、賃貸更新、解約)
- 住まいを失うリスク(火の不始末、近隣トラブル、ゴミ屋敷化、更新拒否)
- 衛生面・健康面の管理ができない
- 詐欺・悪質訪問販売の標的になる
成年後見の申立ての動機は、預貯金等の管理・解約が93.4%で最多。
身上保護74.2%、介護保険契約45.7%と続きます(最高裁判所・2025年)。
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お金が動かせなくなる(口座凍結・振込・年金の管理)
認知症で判断能力が失われたと金融機関が確認すると、本人名義の口座からの引き出しや解約が止まります。
たとえば、次のような事態が起きます。
- 家賃や水道光熱費の引き落としが止まり、滞納の通知が届く
- 介護サービスを使いたくても、利用料を本人の預金から払えない
- 入院費や施設の入居一時金を、本人の資産から出せない
- 親戚が立て替えても、立て替え分を本人の資産から回収できない
成年後見の申立ての動機で最も多いのが、預貯金等の管理・解約の93.4%です。
お金が止まってから慌てて動く例が、大半を占めます。
→ 打ち手:準備①任意後見契約/準備④日常生活自立支援事業/お金管理の担い手を決める
契約・手続きが自分でできなくなる(入院同意、施設入所、賃貸更新、解約)
判断能力が不十分になると、入院の同意も施設の入居契約も本人だけでは進みません。
たとえば、次のような事態が起きます。
- 手術や入院が必要でも、同意書にサインする人がいないため治療が遅れる
- 空きのある施設が見つかっても、入居契約を結べずに入居できない
- 賃貸借契約の更新ができず、住み慣れた部屋を出ることになる
- 使っていない携帯電話や定額サービスを解約できず、引き落としが続く
成年後見の申立ての動機は、身上保護が74.2%、介護保険契約が45.7%。
介護が必要になった時点で、契約そのものが壁になっています。
認知症の方が結んだ契約を取り消せるかどうかは、以下の記事で解説しています。
→ 打ち手:準備①任意後見契約/準備⑦身元保証を決めておく
住まいを失うリスク(火の不始末、近隣トラブル、ゴミ屋敷化、更新拒否)
一人暮らしの住まいは、気づく人がいないまま悪化し、住み続けられなくなります。
65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は、2020年で男性15.0%・女性22.1%。
2050年には男性26.1%・女性29.3%まで上がる見込みです。
近隣が異変に気づく機会は、今後さらに減ります。
→ 打ち手:準備③見守り契約/準備⑧住まいの見通し/安全確保の仕組を作る
衛生面・健康面の管理ができない
服薬も通院も途切れ、体調が悪化しても誰も気づけなくなります。
たとえば、次のような事態が起きます。
- 薬が大量に残る、あるいは飲んだことを忘れて重ねて飲む
- 通院が途切れ、高血圧や糖尿病の治療が止まる
- 食事が菓子パンだけになる、真夏でもエアコンをつけない
- 入浴しなくなり、皮膚の病気やけがに気づかれない
認知症が疑われても、医療にも介護にもつながっていない人は珍しくありません。
訪問支援の対象も、次の4つのいずれかに当てはまる人と決められています。
- 認知症疾患の臨床診断を受けていない
- 継続的な医療サービスを受けていない
- 適切な介護保険サービスに結び付いていない
- 診断されたが、介護サービスが中断している
一人暮らしで身寄りがない場合、4つすべてに同時に当てはまる例が出てきます。
→ 打ち手:準備⑤地域包括支援センター/準備⑥民生委員/介護保険を申請する
詐欺・悪質訪問販売の標的になる
本人が被害に気づかないまま、同じような契約が何度も重なります。
たとえば、次のような事態が起きます。
- 訪問販売で同じ布団や浄水器を、何度も契約している
- 電話勧誘で高額な健康食品を、定期購入し続けている
- 通帳に身に覚えのない引き落としが、毎月続いている
認知症等の高齢者の消費生活相談は、毎年8,000件台で推移しています。
本人からの相談は約2割にとどまり、高齢者全体の約8割と大きく開きます。
1件当たりの契約金額も、高齢者全体より高額です。
85歳以上では、高齢者の相談全体の11.2%を占めます(消費者庁・令和5年版消費者白書)。
→ 打ち手:準備③見守り契約/準備④日常生活自立支援事業/準備⑥民生委員
身寄りのない一人暮らし|認知症の初期症状とは
認知症と診断される手前に、軽度認知障害(MCI)という段階があります。
MCIは日常生活にはあまり支障を来さない程度の認知機能の障害を指します。
「まだ一人で暮らせている」時期にこそ、打てる手が多く残っています。
初期症状を知る
認知症の初期症状には、さまざまな機能低下が見られます。
中でも顕著なものが、以下の6つです。
初期症状の見分け方は、以下の記事で詳しく解説しています。
初期症状が進行すると
認知症の初期症状が進行すると、深刻な機能障害に陥ります。
最終的には寝たきりになることさえあります。
短期記憶の障害が進行すると、長期記憶にも影響を及ぼします。
見当識障害の悪化で、自分が今いる場所の把握も難しくなります。
自宅にいながら「家に帰る」と言って落ち着きません。
昼夜の感覚もなくなるため生活のリズムが変わります。
そのまま自宅で生活するのが難しくなります。
幻覚や妄想などもひどくなることがあるため、専門医の受診が必要です。
進行後に現れる症状は、以下の記事にまとめています。
身寄りのない一人暮らし|認知症になる前にやるべき準備
判断能力が残っているうちにしか結べない契約があります。
準備の順番が、結果を左右します。
- 準備①任意後見契約を結ぶ
- 準備②死後事務委任契約を結ぶ
- 準備③見守り契約を結ぶ
- 準備④日常生活自立支援事業に申し込む
- 準備⑤地域包括支援センターに相談しておく
- 準備⑥民生委員に相談する
- 準備⑦身元保証を決めておく
- 準備⑧住まいの見通しを立てる
準備①任意後見契約を結ぶ
任意後見契約とは、判断能力があるうちに「誰に・何を任せるか」を自分で決めておく契約です。
お金も契約も動かせない事態にならないように、元気なうちに任せる相手と範囲を決めましょう。
本人の希望どおりの相手に、希望どおりの範囲だけを任せられます。
任せられるのは、預金の管理、支払い、施設の入居契約、介護サービスの契約などです。
契約は公正証書で結びます。
判断能力が落ちた後、家庭裁判所が選んだ監督人のもとで効力が動き出します。
叔父・叔母や甥・姪は三親等、いとこは四親等。
親戚の立場でも、効力を動かす手続きを請求できる場合があります。
成年後見制度全体の仕組みは、以下の記事で解説しています。

準備②死後事務委任契約を結ぶ
死後事務委任契約とは、葬儀や納骨、行政機関への届出、家財の処分を誰かに託す契約です。
通常の委任契約は、本人が亡くなった時点で終わります。
死亡後に誰も動けない事態にならないよう、別の契約として結んでおきましょう。
国のガイドラインは、託せる事務を5つに整理しています。
葬送、行政機関への届出、家屋の賃貸借契約、公共料金、携帯電話の解約です。
契約書と重要事項説明書には、支援内容・預託金の取扱い・残金の扱いを必ず明記します。
準備③見守り契約を結ぶ
見守り契約とは、定期的な電話や訪問で安否と判断能力の変化を確認してもらう契約です。
異変に誰も気づかない事態にならないように、任意後見契約とセットで結んでおきましょう。
「いつ後見を動かすか」を判断する人が決まります。
やってもらうのは、決めた頻度での連絡と訪問、そして緊急時の初動です。
国のガイドラインは、緊急連絡先の受託を身元保証等サービスの1つに位置づけています。
連絡先は、かかりつけ医や担当ケアマネジャーにもあらかじめ伝えておきます。
本人が身に着ける、自宅の目につく位置に掲示しておく方法もあります。
準備④日常生活自立支援事業に申し込む
日常生活自立支援事業とは、社会福祉協議会がお金の管理や手続きを手伝う制度です。
支払いが滞って生活が止まる事態にならないよう、判断に迷いが出た時点で申し込みましょう。
後見人を立てるほどではない段階から、お金の出し入れを支えてもらえます。
やってくれるのは、預金の引き出しや預け入れ、公共料金の支払い、通帳や証書の預かりです。
福祉サービスの利用手続きや、住民票などの行政手続も手伝ってもらえます。
対象は「契約の内容について判断し得る能力」が残っている方に限られます。
判断能力を完全に失うと申し込めなくなるため、早い段階での着手が要ります。
利用料は平均で1回1,200円。
初期相談と生活保護受給世帯の利用料は、無料です。
準備⑤地域包括支援センターに相談しておく
地域包括支援センターとは、市町村が設置する高齢者支援の総合窓口です。
いざという時に一から説明し直す事態にならないよう、疑わしい段階で相談しておきましょう。
相談内容が記録に残り、次に動くときの起点になります。
扱うのは、介護の総合相談、権利擁護、地域の支援体制づくり、介護予防の援助です。
全国に5,487か所、ブランチ(支所)を含めると7,374か所あります。
相談先は本人の住所地の担当センターで、遠方の親戚が電話で相談することもできます。
準備⑥民生委員に相談する
民生委員とは、厚生労働大臣から委嘱を受けて担当地域を見守る、無給の地域の相談役です。
異変が誰の目にも触れない事態にならないよう、担当の民生委員に一声かけておきましょう。
親戚が月に一度しか行けなくても、地元に見る目が1つ増えます。
やってくれるのは、担当地域の住民の生活状態を日ごろから把握しておくことです。
困りごとの相談に乗り、必要な福祉サービスを教え、行政の窓口につないでくれます。
任期は3年で、職務上知った個人の秘密を守る義務を負っています。
親戚の事情を打ち明けても、近所に広まる心配はありません。
担当の民生委員は、市町村の福祉担当課または社会福祉協議会でわかります。
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準備⑦身元保証を決めておく
身元保証とは、入院や施設入居で求められる保証人の役割を、民間事業者が引き受けるサービスです。
保証人がいないために入院も入居も断られる事態にならないよう、依頼先を決めておきましょう。
身寄りがなくても、施設の選択肢が狭まりません。
引き受けてもらえるのは、緊急連絡先、入退院や入退所の手続き、利用料の連帯保証などです。
国は2024年6月、サービスを「高齢者等終身サポート事業」と呼び直しました。
あわせて事業者向けのガイドラインが示されています。
契約が長期にわたること、費用が前払いになることから、事業者選びには注意が要ります。
身寄りがない方の施設入所の手続きは、以下の記事でまとめています。

準備⑧住まいの見通しを立てる
住まいの見通しとは、今の家に住み続けるのか住み替えるのかを、先に決めておくことです。
本人の意思がわからないまま住まいが決まる事態にならないよう、話し合っておきましょう。
判断できるうちに決めておくと、住み替えが本人の希望どおりに進みます。
決めるのは、住み続ける条件、住み替え先の希望、費用の出どころの3つです。
判断能力を失ってからの住み替えは、後見人の選任と家庭裁判所の関与を挟むぶん長引きます。
65歳以上の一人暮らしの割合は、2020年で男性15.0%・女性22.1%。
2050年には男性26.1%・女性29.3%まで上がる見込みです。
身寄りのない一人暮らし|認知症状が見られたらすぐやること
認知症の症状がすでに見られる場合は、準備ではなく実行の段階です。
以下の5つを、上から順に進めます。
- 認知症の診断書をもらう
- 地域包括支援センターに相談する
- 介護保険を申請する
- お金管理の担い手を決める
- 安全確保と気づいてもらう仕組を作る
順番に意味があります。
診断書がないと、介護保険の申請も後見の申立ても先へ進みません。
認知症の診断書をもらう
診断書がなければ、介護保険も成年後見も動き出しません。
本人が受診を拒む場合は、認知症初期集中支援チームに訪問してもらえます。
複数の専門職が本人と家族を訪問し、受診と介護サービスの導入まで伴走します。
窓口は地域包括支援センターです。
「本人を病院に連れて行けない」と伝えれば、訪問による支援につながります。
何科を受診すればよいかは、以下の記事で解説しています。
地域包括支援センターに相談する
相談しておくと、要介護認定の申請からケアマネジャーの手配まで一度に進みます。
身寄りがない場合は、市区町村長が後見開始を申し立てる仕組みもあります。
親戚が遠方でも、電話1本で本人の住所地の担当センターにつながります。
2025年の成年後見の申立人のうち、市区町村長によるものは10,139件で23.7%。
本人(24.8%)に次いで2番目に多く、身寄りのない方の受け皿になっています。
最初の相談先の選び方は、以下の記事にまとめています。

介護保険を申請する
要介護認定を受けないと、訪問介護もデイサービスも使えません。
申請は本人以外でも、次の窓口が代わりに手続きできます。
遠方に住む親戚が何度も足を運べない場合でも、代行の仕組みが用意されています。
申請後は市町村の職員が本人と面接して、心身の状況を調査します。
本人が遠方に住んでいる場合は、その市町村へ調査を任せることもできます。
申請から認定までの流れは、以下の記事で解説しています。

お金管理の担い手を決める
決めておかないと、生活費も医療費も本人の口座から出せません。
判断能力がどの程度残っているかで、使える制度が変わります。
法定後見の申立ては、本人・配偶者・四親等内の親族ができます。
叔父・叔母や甥・姪は三親等、いとこは四親等にあたります。
担い手は、親族に限りません。
2025年に選任された成年後見人等の83.6%は、司法書士や弁護士などの親族以外です。
親族が候補者として申立書に記載された事件は、約19.7%にとどまります。
引き受ける親族がいなくても、制度は動きます。
安全確保と気づいてもらう仕組を作る
連絡経路が親戚1人だけだと、連絡が取れなくなった時点で打つ手がなくなります。
本人の異変に誰かが気づく経路を、複数用意しておきます。
・地域包括支援センターに本人の状況を登録し、担当者の氏名と連絡先を控える
・本人の住む地域の民生委員に、訪問時の様子を共有してもらうよう依頼する
・かかりつけ医と担当ケアマネジャーに、親戚の連絡先をあらかじめ伝えておく
・緊急連絡先を本人が身に着ける、自宅内の分かりやすい位置に掲示する
・市町村の高齢者見守りネットワーク(配食・新聞配達等との連携)の有無を確認する
民生委員は、担当地域の住民の生活状態を日ごろから把握する役割を担っています。
経路を5つ用意しておけば、1つ途切れても異変が誰かの目に留まります。
身寄りのない一人暮らし|認知症が心配な方へ
身寄りのない一人暮らしの方の認知症対策は、本人の判断能力が残っているかどうかで打ち手が入れ替わります。
準備の並び順には理由があります。
日常生活自立支援事業も任意後見契約も、契約内容を理解する力が残っているうちしか結べません。
住み替えを含めて検討する段階になった場合は、以下の記事もあわせてご覧ください。

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