• 認知症
  • 【公開日】2024-02-14
  • 【更新日】2024-02-16

認知症のある人への意思決定支援はどうしたら良い?

認知症のある人への意思決定支援はどうしたら良い?
日常生活や介護施設入居において「意思決定」が必要な場面は多くあります。認知症の方の意思を反映させた意思決定をするためにはどうすれば良いのでしょうか。本コラムでは意思決定に必要な支援について解説します。
金 圓景 准教授
明治学院大学 社会学部社会福祉学科
博士(社会福祉学)、社会福祉士
日本福祉大学地域ケア研究推進センター研究員、筑紫女学園大学を経て、2020年より現職。認知症のある人と家族が安心して暮らせるために必要な支援について調査研究を進める中で、看取り後の家族が認知症のある本人の代わりに決めた施設や治療方法などに後悔していることに着目し、意思決定支援の在り方について研究を進めている。
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「認知症」への誤解と不適切なケア

今日、認知症は、誰もがなりうる身近な病気として考えられています。しかし、認知症になると「何もわからなくなる」とか「一人では何もできなくなる」と思うなど、認知症への誤解や間違った認識が広がっています。また、「認知症は病識がない」と誤解している人も多いが、実際には認知症ではないかと心配で自ら病院に訪れる人が増えています(木之下2020)。さらに、認知症が病名だと勘違いしている人も少なくなく、認知症と診断されただけで家族は、危ないという理由で「一人で出掛けるのは禁止」とか、「すぐに財布を取りあげる」など不適切なケアにつながってしまうことが多々あります。

家族は、本人の安心・安全のためにとった行動だと思いますが、本人はこれまでの自由を奪われてしまったと感じてしまいます(丹野2021)。どのような病気が原因で認知症になったかによって、症状の特徴や適切なケア方法も異なりますが、「認知症」という言葉だけが独り歩きしてしまい、本人の意思が把握されないまま不適切なケアにつながっています。

認知症になった家族の安心・安全を確保するために必要なこと

家族が認知症になったとき、多くの人が心配するのは、安心・安全な暮らしをいかに確保するかです。認知症になった家族の安心・安全を確保するためには、認知症の原因となる病気について正しく理解してください。

たとえば、認知症の原因となる病気として最も多いと言われているアルツハイマー型認知症の場合、「記憶障害」から始まることが多いです。しかし、記憶障害の程度や進み具合は、人によっても異なることを理解する必要があります。つまり、認知症だからと言ってみんな同じ症状が出るわけではありません。また、認知症と診断されたからと言って何もわからないわけではなく、忘れていくことへの不安と戦っていることを理解した上で、本人の意思を尊重することを忘れないでください。

認知症になった家族の忘れていくことへの不安を軽減させるためには、失敗する権利を認め、本人の意思決定を支援してください(丹野2021)。そのためには、本人との「対話」を通して、本人に合った対策を一緒に考え、話し合ってください。ここで重要なのが、「また同じこと聞かないで」という姿勢ではなく、どうしたらいいか「一緒に考える」姿勢です。本人が抱えている不安を話し合える家族がいて、今の症状を受け入れられるだけでも大きな安心につながります。

しかし、家族にはそれぞれの歴史があるので、このような関係を持てないこともあり得ます。その場合には、ケアマネジャーや相談員などの専門職の力を積極的に借りてください。また、分からない・困ったときには、上手に制度やサービスを活用できるように介護保険自治体の福祉サービスなどについての情報を集め・理解しておくことをお勧めします。認知症になった家族だけでなく、ケアする家族も安心・安全に暮らすためには、「適切な相談先を確保」する必要があります。ケアする家族が安心・安全な暮らしは、認知症になった家族の安心・安全にもつながるので、「家族だけで抱え込まない」ことが重要です。

認知症になった家族への意思決定に支援が必要な場面

家族は、認知症が進むにつれ本人が一人で決めることに対し、不安を感じる場面が増えると思います。そこで、介護福祉サービスや成年後見制度などの利用を始める人も少なくありません。言い換えると、認知症になった家族への意思決定支援が始まるのは、家族としてこれまでの生活に不安を感じ始めたときが多いです。

家族として、不安を感じ始めることの多い場面の一つが「ひとり歩き」です。なお、従来は、「徘徊」と言われましたが、本人にとっては行きたいところや目的があって「ひとり歩き」をしていることから「徘徊」を「ひとり歩き」言い換える自治体が少しずつ増えています。

とは言え、ひとり歩きの後、行方不明や途中で事故に遭うなどのリスクがあることから家族としては、本人の生命と安全を第一に考え、介護施設への入居を検討する人も少なくありません。介護施設への入居を検討する際に、認知症になった家族への意思決定に支援が必要となる場面が多々あります。その他にも、認知症が進むにつれお金の管理や食事内容、整髪、衣服などの日常生活だけでなく、介護事業所や医療機関・治療方法など、様々な場面で意思決定に支援が必要となります。さらに、人生の最終段階において延命治療をするか、しないかという難しい選択に迫られ、意思決定に支援が必要な場合が多々あります。

意思決定支援とはなにか

そもそも「意思決定支援」とは何か。海外では、Supported Decision-Making(SDM)と言われており、そのまま訳せば、「支援付き意思決定」となります。つまり、本人が意思決定できるように支援することを意味しており、意思決定する前段階にある情報収集・状況の把握・理解などの部分を丁寧に支援することが重要であると言われています。

厚生労働省(2018)は、「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」のなかで意思決定支援について「意思を形成するための支援と、本人が意思を表明することの支援を中心都市、本人が意思を実現するための支援を含む」と述べています。言い換えると、本人の意思決定能力に配慮しつつ「意思形成支援」、「意思表明支援」、「意思実現支援」を交差させながら、支援することを意味します。

大事なことは、どんなに重度の認知症の人でも本人の「能力存在推定」という見方です(佐藤2017)。厚生労働省(2018)のガイドラインにおいても、「認知症の症状にかかわらず、本人には意思があり、意思決定能力を有するということを前提にして、意思決定支援をする」とし、「意思決定能力」について本人が説明内容を「理解する力」、「認識する力」、「論理的に考える力」、「選択を表明する力」によって構成されると述べています。

ただし、注意すべきことは、家族や周りの人は理解しがたい選択をした場合、本人の「意思決定能力」を疑ってしまうことです。しかし、考えてみれば認知症の有無に関係なく、私たちは周りからは理解されない言動や行動をとることがあると思います。以前は、何も言われなかった自分の選択に対し、認知症と診断されただけで周りから阻止されてしまうことは納得しがたいと思います。ここで重要なのは、もともと本人が好きなこと(選好など)や歩んできた人生をどれくらい把握しているかによって、本人の意思決定を理解し、支援できるかが変わります。

しかしながら、誰かの意思を把握し、その意思を尊重した支援を行うことは簡単ではありません。家族の意思決定を支えることは、なおさら簡単ではありません。なお、意思決定を支えるなかで、迷ったときに参考になるのが次の3原則です(名川2019)。

  1. 「表出された意思」(expressed wish)
  2. 「意思と選好に基づく最善の解釈」(best interpretation of will and preference)
  3. 「最善の利益」(best interest)

意思決定支援のプロセスと注意点

それでは、意思決定支援をどのように進めるべきか。ここでは「介護施設入居」を中心に、意思決定支援のプロセスと注意点について述べます。なお、本来であれば、介護施設に入居することについて本人は、どのように考えているか、意思を把握し、決定を支援していくところから述べるべきですが、以下では介護施設入居が決まった前提で紹介します。

まず、「入居する介護施設選び」に向けて、本人の好みなどを考慮し、適切だと思われる介護施設のパンフレットなどの情報を集め、本人にとってわかりやすく比較・分析した内容を可視化したものなどを用いて説明する必要があります。ここで大事なのは、どのような施設で暮らしたいかなど、「開かれた質問」をすることで本人の意思を尋ねることです。可能であれば、本人が希望する介護施設に直接見学または短期入所などを通して、体験することをお勧めします(意思形成支援)。

その後、本人にとって話しやすい家族または関係者などに入居したい介護施設について話し合える場を設ける必要があります。相手によって、遠慮してしまって本当の思いを語らない場合があることも注意する必要があります。場合によっては、時間差を置いて本人の表明された意思を確認するか、複数の人でそれぞれ確認し、本人の生活歴や価値観などとの整合性を確認することが望ましいです(意思表明支援)。最後に、本人の意思を反映して入居する介護施設を選びます(意思実現支援)。

この時に注意してほしいことは、意思形成・表明・実現支援は必ずしも一方向で進むのではなく、場合によっては何度も交差させながら行う必要があることです。また、各プロセスで困難・疑問が生じた場合は、家族だけでなく、本人のことをよく知る関係者や専門職などを交えたチームで話し合うことが望ましいです(厚生労働省2018)。

これまで家族や専門職などによる代行決定が当然視されていた時代は、介護施設に入居した認知症高齢者が家に帰りたがることを「帰宅願望」と言われ、家に帰ろうと外に出て「ひとり歩き」をした場合、問題行動をする利用者として扱われることがありました。しかし、ある日突然、知らない所で生活することになった本人の立場からすると、家に帰りたいのは当然です。本人が自分の意思で施設を選んだわけではなく、「納得」して入居したわけではない場合、なおさら帰宅願望が強くなることを理解し、家族として出来ることを今から備えてください。

まとめ

従来は、家族や専門職が代わりに入居先や治療方法などを決める「代行決定」が当たり前のように行われていたが、世界的に「代行決定から意思決定支援」へのパラダイムが転換しています(佐藤2017)。

意思決定を支援することは、簡単ではないが、本人の意思を尊重した支援ができれば、本人だけでなく、支える家族にとっても大きな満足感が得られると思います。そのために、今から備えるべきことは、「お互いを知る・理解する」ことです。家族だからこそ、知っていることもあるが、逆に家族だからこそ、知らなかった「外の顔」があります。ぜひ、お互いを知る・理解できるように、家族間で「対話」する場を増やしてください。延命治療など、話しづらい話題についてお互いの考えを知りたいときは、「人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)」や「もしバナゲーム」などのツールを活用することをお勧めします。

また、「介護保険制度や自治体の福祉サービスについても正しく知る・理解する」こと、何事も家族だからといって「一人で抱え込まない」ことが大事です。ぜひ、周りのネットワークを駆使しながら、本人にとって納得できる意思決定支援に近づけることを願います。

【引用文献】

  • 丹野智文(2021)『認知症の私から見える社会』講談社+α新書.
  • 木之下徹(2020)『認知症の人が「さっきも言ったでしょ」と言われて怒る理由』講談社+α新書.
  • 厚生労働省(2018)『認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン』
  • 佐藤彰一(2016)「「意思決定支援」は可能か(ケアの法ケアからの法)」『法哲学年報』2016,pp57-71.
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