現在の日本は高齢者人口の増加に伴い、認知症高齢者も増加の一途を辿っています。2017年に学生(18歳~20歳)を対象に「高齢者や認知症に対する認識」に関するアンケート調査を行いました。その結果から、本コラムでは現代の若い世代と高齢者や認知症の人へのかかわりの現状とこれからの課題などについてお伝えします。
聖和学園短期大学 キャリア開発総合学科
介護福祉士、介護教員講習会修了、アクティビティ・ワーカー養成担当教員免許、認知症ケア上級専門士
日本地域福祉学会・日本認知症ケア学会
郡山健康科学専門学校 介護福祉学科卒業(教育・社会福祉専門課程)専門士
東北福祉大学 総合福祉学部 社会福祉学科卒業(社会福祉学)学士
福島大学大学院地域政策科学研究科地域政策科学専攻修了(地域政策)修士
特別養護老人ホームなどで介護福祉士として勤務を経て、2009年4月〜介護福祉士養成に従事。
現在は、ケアワーク、地域コミュニティ、防災系の科目を担当する。
社会的なつながりや生きがいに焦点をおき、高齢者の地域活動に関する研究を行っている。
はじめに
厚生労働省は、全国の100歳以上の高齢者が過去最多の92,139人になったと発表しました。前年から1,613人増えています。この人数をイメージしやすいようにお伝えすると、東京ドームの収容人数は、55,000人ですので、東京ドーム2個分の収容人数に近いくらいということになります。
今後もさらに高齢者人口(65歳以上)は増加が続き、「団塊の世代」が75歳以上となる2025年には、3,677万人に達すると見込まれています。その後、2042年に3,935万人でピークを迎え、その後は減少に転じると推計されています。
一方、認知症高齢者については、超高齢社会の進行とともに増え続け、2020年の時点で約600万人、さらに有病率が上昇してしまう場合にはハイペースで認知高齢者が増え、2025年には約700万人で高齢者の約5人に1人は認知症になると言われています。今や認知症は誰もが関わる可能性のある身近な病気と言えます。
認知症に関しては、メディアで取り上げられる頻度が増え、社会一般的に広がってきていることもあり、若い世代にとっても「認知症」という言葉を耳にする機会は増えてきています。
また、近年は核家族化の進行や都市の住宅事情等により、三世代の同居率が低下し、若い世代と高齢者や認知症の人とのふれあいの機会が減ってきているため、実際に若い世代が身近で接する機会は決して多くないのが現状です。
認知症を予防し、高齢になっても心身共に健康で質の高い生活を維持することは、多くの人の望みであり、健康長寿は超高齢社会にある我が国の大きな課題となっています。質の高い生活を維持するために、つまり高齢者や認知症の人の介護や福祉を充実させるには、世代間の相互理解と支持が大変重要であると考えます。したがって、現在このような状況にある若い世代が高齢者や認知症の人にどのようなイメージを抱いているのかを把握し、高齢者や認知症に関する正しい知識やかかわり方について、早くから普及させて行くことが必要になっています。
高齢者との接触状況
同居している家族の高齢者(65歳以上)の在否については、「同居している」は31%、「同居していない」は69%でした(図1)。
同居していると答えた人の自分との関係性(続柄)については、「祖母」が59%で最も高く、次いで「祖父」が38%、「曾祖母」が2%、「曾祖父」が1%でした(図2)。
祖父母と同居していないと答えた学生がと会う頻度については「月に1~2回程度」が35%で最も高く、次いで「半年に1回程度」が27%で、「年に1回程度」が17%、「週に1回程度」が13%で、「ほとんど会わない」は8%でした(図3)。
高齢者に対して抱くイメージ
プラスのイメージは約3割、マイナスのイメージは約7割でした。どちらにおいても「主観的-客観的」側面から見ている傾向があります。特に「社会的存在」の主観的イメージでは、プラスのイメージが約8割を占めています。その一方でマイナスのイメージに高齢者の身体的側面である運動機能の低下や活動能力の低下に学生の視点が向けられていると考えられます。
加齢による身体機能の変化は外見上の変化および機能上の変化となって表れるため、その一部分を見てマイナスイメージに捉えているのでしょう。また「怒る」、「口うるさい」、「頑固」のマイナスイメージについては、加齢の進行により、適応能力が減退し、環境の変化に順応していくことが困難になり、現れてくるものとも言われています。
これらのことから、学生の抱くイメージでは、元気で優しく、知識豊富で孫好きの高齢者というプラスのイメージと加齢により、様々な機能が低下し、心身が衰えていく過程にあるというマイナスのイメージの側面が共存していると考えられます。また、高齢者と言ってもどの年代の高齢者をイメージするかでも変化があると思われます(表1)。
表1 高齢者に対して抱くイメージについて(自由記述)
カテゴリー1 | カテゴリー2 | 項目 | 延人数 |
身体機能 | 外観(5件) | よぼよぼ | 1 |
しわしわ | 1 | ||
しみ | 1 | ||
たるみ | 1 | ||
年寄り | 1 | ||
身体の衰え・病気(71件) | 介護が必要になる | 7 | |
身体的に弱っていく | 13 | ||
身体が不自由 | 17 | ||
怪我が多い | 1 | ||
足腰が弱い | 19 | ||
寝たきり | 1 | ||
舌がまわらない | 1 | ||
聴覚・視覚の衰え | 6 | ||
疲労がたまりやすい | 1 | ||
あまり食べない | 1 | ||
体調不良がち | 3 | ||
骨粗鬆症 | 1 | ||
精神機能 | 性格・心理特徴(14件) | 声が大きい | 1 |
怒る | 3 | ||
口うるさい | 2 | ||
頑固 | 3 | ||
態度が大きい | 1 | ||
精神的に弱い | 1 | ||
自分勝手 | 1 | ||
細かい | 1 | ||
マナーに厳しい | 1 | ||
イライラしている | 1 | ||
社会的存在 | 知的特徴(27件) | 知識や知恵が多い | 5 |
物忘れ | 9 | ||
認知症 | 5 | ||
ボケ | 1 | ||
幼児退行 | 2 | ||
何度も同じことを聞いてくる | 2 | ||
ボーっとしている | 1 | ||
注意力が落ちる | 1 | ||
コミュニケーション能力が低い | 1 | ||
主観的イメージ(65件) | 温厚 | 1 | |
優しい | 25 | ||
おおらか | 2 | ||
癒される | 1 | ||
明るい | 2 | ||
いきいきしている | 1 | ||
大先輩 | 2 | ||
敬うべき | 1 | ||
いたわらなければならない | 1 | ||
友人との交友が深い | 1 | ||
趣味を持っている | 1 | ||
話し掛けてくる・話好き | 8 | ||
孫が好き | 4 | ||
細かい作業が上手い | 1 | ||
料理が上手い | 1 | ||
65歳以上の年配者 | 1 | ||
行動がゆっくり | 8 | ||
危なっかしい | 1 | ||
事故が多い(自動車運転) | 4 | ||
死が身近 | 1 | ||
その他(11件) | 昔ながらのやり方を大切にしている | 1 | |
いずれはなるもの | 1 | ||
散歩 | 1 | ||
力が強い | 1 | ||
自由 | 4 | ||
暇 | 1 | ||
バスマナーが悪い | 1 | ||
迷惑 | 1 | ||
全体像を描いたイメージ | 全体像を形容詞で(18件) | 可愛い | 2 |
元気 | 11 | ||
笑顔 | 1 | ||
古い | 1 | ||
固定概念 | 2 | ||
かわいそう | 1 | ||
主観的イメージ(9件) | 昔ながらのやり方を大事にしている | 1 | |
いろんな人と仲良くなれる | 1 | ||
いずれはなるもの | 1 | ||
守りたくなる・助けたくなる | 1 | ||
あまり食べない | 1 |
認知症に対する知識と認識について
認知症についての知識については「どのような症状の病気かある程度知っている」が75%で最も多く、次いで「認知症という言葉ぐらいは知っている」が13%、「どのような症状の病気かよく知っている」が9%、「まったく知らない」が3%でした(図4)。
認知症の人とかかわった経験について
認知症の人とかかわった経験については、「ある」は24%、「ない」は76%でした(図5)。
あると答えた人がかかわりをもった場所(機会)は、家族に認知症の人がいる(いた)が56%で最も多く、次いで職場体験・ボランティアが22%、実習が13%、親戚のなかに認知症の人がいる(いた)が5%、近所付き合いが5%でした(図6)。
今後の社会生活で高齢者や認知症に関する知識の必要性について
知識の必要性については、「そう思う」が59%で最も高く、次いで「とてもそう思う」が34%、「そう思わない」が5%、「全く思わない」が2%でした(図7)。
認知症に対して抱くイメージ
認知症が示す症状や特徴に関する記述が大半を占めました。そのうち、物忘れをはじめ中核症状に属する内容、行動・心理症状に属する内容、生活障害に属する内容、病気として捉えている内容があげられました。介護に関する記述内容では、“大変”という言葉を含む記述や介護負担感に属する記述内容が多くあげられました。一方、周囲の理解やサポートが重要などと受容的な対応に属する記述内容もあげられました(表2)。
表2 認知症に対して抱くイメージ
カテゴリー1 | カテゴリー2 | 記述内容 | 記述件数 |
症状・特徴 | 中核症状
(59件) |
物忘れ | 36件 |
同じ事をいう | 4件 | ||
思うように会話ができない | 3件 | ||
できていたことができなくなる | 2件 | ||
何年も住んでいるのに家の構造がわからなくなる | 1件 | ||
相手を理解していない | 1件 | ||
昔の事覚えてる 体のこと覚えてる | 2件 | ||
行動・心理症状(7件) | 徘徊する | 2件 | |
お金がなくなったとすぐ言う | 1件 | ||
怒りっぽい | 2件 | ||
情緒不安定 | 1件 | ||
勝手な思い込みが強い | 1件 | ||
生活障害
(13件) |
一人で行動するのが危険 | 1件 | |
一人で行動しづらくなる | 1件 | ||
少し生活に支障が出る | 1件 | ||
自覚がない、認めない | 2件 | ||
周囲が異常に気づく | 1件 | ||
助けがないと生活できない | 7件 | ||
病気(6件) | 大変な病気 | 2件 | |
周りの理解が必要な病気 | 1件 | ||
誰でもなり得る病気 | 1件 | ||
病気の一つ | 1件 | ||
突然起こる可能性高い避けられない | 1件 | ||
介護 | 介護負担感 (16件) | 怖い | 2件 |
可哀想 | 1件 | ||
どう接していいかわからない | 1件 | ||
接するのも難しい | 1件 | ||
とても大変 | 6件 | ||
介護が大変 | 3件 | ||
周りに迷惑をかけてしまう | 1件 | ||
ストレスが溜まりそう | 1件 | ||
受容的対応
(8件) |
自分はなりたくない | 1件 | |
社会の課題だと思う | 1件 | ||
伝えたいことはあると思うから聞いてあげるといい | 1件 | ||
寄り添いがたい大切 | 1件 | ||
周りが支える | 1件 | ||
よくその人を見てあげることが大切 | 1件 | ||
周りのサポートがとても重要 | 3件 |
まとめ
学生が高齢者や認知症の人とかかわる機会や頻度は決して多くありません。そのため、高齢者や認知症についての知識や認知症の人のイメージは、実際に関わった経験からというよりもテレビやSNSなどを通じて、イメージしていることが多いと考えられます。
一方で、認知症の人にかかわりをもった場所(機会)の6割が家族や親戚などの身内にいるという点から認知症がいかに身近なものなのかということを改めて感じさせられます。また、症状の知識においてもイメージにおいても“認知症=物忘れ”という構図が定着していることがうかがえます。
学生がこれまでの成育歴の中で高齢者との接触体験(同居の有無、健康状態、同居している祖父母の介護の有無)などがプラスなものであったのか、またはマイナスなものであったのか、職場体験やボランティア体験、地域社会などで高齢者や認知症の人とどのようにかかわってきたかなど、影響を受ける要因は多く存在するのだろうと考えます。
こうした現状にいる学生は、高齢者や認知症の人に対して決して無関心ではなく、9割の学生がこれからの社会生活において高齢者や認知症の人とかかわるうえでの専門的知識の必要性があると感じていることも事実です。
今後の超高齢社会において、多様な世代が多様な状態にある高齢者や認知症の人とともに地域で暮らし、さらには介護にも携わる可能性が高まっていきます。人間形成の過程で、あるいは他の何らかの機会に高齢者や認知症の人と良いかかわりが持たれ、プラスのイメージが形成されることが超高齢社会でみんなが円滑に暮らす可能性を高めることができるのではないでしょうか。
誰もが認知症についての正しい知識をもち、認知症の人や家族を支える手立てを知ることを目的として、認知症サポーター養成講座が地域で開講されています。年齢制限はなく、地域の誰でも、大人でも子どもでも研修を受ければ認知症サポーターになれます。
認知症施策の一つであるこの認知症サポーターには、下記5点が期待されています。
①認知症に対して正しく理解し、偏見をもたない。
②認知症の人や家族に対して温かい目で見守る。
③近隣の認知症の人や家族に対して、自分なりにできる簡単なことから実践する。
④地域でできることを探し、相互扶助・協力・連携、ネットワークをつくる。
⑤まちづくりを担う地域のリーダーとして活躍すること。
新オレンジプランでは、認知症サポーターの養成と活動の支援として、量的な養成だけでなく、任意性を維持しながら様々な場面で活躍してもらう事に重点を置くことや講座を修了した者が復習もかねて学習する機会をもうけ、より上級な講座など地域や職域の実情に応じた取組みを推進すること、大学などで学生がボランティアとして認知症高齢者等とかかわる取組みの推進がされています。
これからの時代、地域の一員として、認知症を正しく理解し、受容的に対応できる力を身につけることは、介護に直接かかわるか否かにかかわらず重要です。認知症に関する知識がないばかりに偏見をもったり、最悪の場合は、虐待に発展してしまう例も少なくありません。自分の家族や周りの大切な人が認知症と診断されたとき、また地域で生活されている認知症の人を温かく見守っていくためにも、地域で開催されている認知症サポーター養成講座を受講してみることをお勧めします。そして認知症の人やその家族を温かく見守る応援者になりましょう。
【参考・引用文献】
1.厚生労働省「百歳高齢者表彰の対象者は47,107人」
https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001145390.pdf
2.厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/nop1-2_3.pdf
3.「認知症を知り地域を作る」キャンペーン 認知症サポーターキャラバン
https://www.caravanmate.com/
4.倉鋪桂子・原祥子(1997)「看護学生の高齢者のイメージについて」.島根県立看護短期大学紀要.2:9-15.
5.水沼国男・寺沢宗典・高橋則人・鶴浩幸・松本勅(2003)学生の高齢者のイメージに関する研究(第1報).明治鍼灸医学第32号.25-35.
6.草津市健康福祉部 長寿福祉課:認知症の高齢者に関するアンケートの実施について
https://www.city.kusatsu.shiga.jp/shisei/kaigishingikai/hokoku/kodomokenkofukushi/choju-ninchishou.files/anketoshiminn.pdf#search=%27草津市+認知症アンケート%27
7.齋藤美香・東海林初枝・阿部和宏(2018)「学生が抱く高齢者・認知症に対する認識」に関するアンケート調査.聖和学園短期大学紀要.第55号.63-73.