「介護疲れ」を軽減するためには

「介護疲れ」を軽減するためには
介護をしていると感じる「介護疲れ」。実体験を交えながら介護疲れへの対処方法をご紹介します。
武田卓也 教授
大阪人間科学大学 人間科学部 社会福祉学科
社会学博士
日本介護福祉学会 日本社会福祉学会
23歳から約14年間母親の家族介護を経験。その後、介護福祉士の養成に携わり、専門学校、短期大学を経て、2011年4月より大阪人間科学大学で教壇に立ち、後進の育成に尽力している。
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介護のかたちの多様化と介護疲れ

少子高齢社会が進展する中で、誰もが介護が必要になる可能性や介護を担う可能性があります。特に認知症(中核症状、行動・心理症状)、脳血管疾患、骨折・転倒などに起因して要介護状態になる場合が多いでしょう。また、介護者が介護を担う環境は個別性が高く、介護のかたちや介護の実態は複雑で多様です。

例えば65歳以上の人を65歳以上の人が介護する老老介護、認知症の人が認知症の人を介護する認認介護があります。また、介護を担う介護者も18歳未満のヤングケアラーや18歳以上から39歳までの若年介護者孫介護者男性介護者など様々です。

在宅介護を担う介護者は、介護が必要な人の生活や人生と自らの生活や人生とを重ねながら日々葛藤しながらも、その場面、その時々に最善の方法を選択しながら介護を担っていると思います。その反面、介護者は介護を最優先することで、疲労やストレスが蓄積し介護に疲れ、心身に不調を抱えることもあります。

2016年の国民生活基礎調査では、同居の主な介護者の悩みやストレスの有無について、「ある」と回答した割合が68.9%となっています。また、介護疲れは大切な人が大切な人を苦しめてしまう高齢者虐待などの人権侵害につながる可能性もあります。

介護疲れが起きる原因

介護疲れは、一般的に介護する人が介護を担うにことによって抱える悩みやストレスを蓄積することで、身体的、精神的に疲労している状態だと思います。また、介護疲れは介護を起因とするうつ病にもつながりかねません。それは心身に影響を与えてしまいます。

介護疲れが起きる原因は、介護を担うことで生じる肩こりや頭痛、腰痛などの身体的な負担、介護が必要な人や認知症の人への対応に困難を抱えたり、その人や周囲の人と介護者の人間関係のもつれにつながったり、命の選択や介護の方向性の判断とその責任の重圧などによる精神的な負担、介護の終わりが見えない不安の中での介護サービスの利用や介護にかかわる費用負担、介護離職の心配などの経済的な負担が絡み合って生じると考えます。

このように記すと、介護疲れが起こる原因について大枠での理解は得られるでしょう。しかし、介護疲れの実態やそれによって何が起こるのか、その本質を捉えることは難しく、それを理解するには介護体験を紐解く必要があります。そこで次に介護者が実際に抱えた介護疲れとその原因や対処方法を私の介護者としての経験から考えたいと思います。

介護者が抱えた介護疲れの実際とその原因

私は23歳からくも膜下出血に倒れた母親(当時49歳)の介護を14年間、主介護者とし担いました。私は介護が長期化するにつれて、母親の状態の変化や介護者(私)を取り巻く環境の変化、いつまで続くか分からない介護への不安などが原因となり、疲労やストレスが降り積もる雪のように蓄積されることで介護疲れを抱えるようになりました。

介護疲れを抱えると心身ともに多様な影響がでますが、私の場合は、一時的ですが介護を担うことが億劫になり、それどころか何事をするにも気力がなくなったことを覚えています。

また、私の介護疲れは、大別すると一時的な介護疲れ常に抱え続ける介護疲れがありました。一時的な介護疲れは解消されるのですが、常に抱え続ける介護疲れは軽減することはあっても解消されることはなく、付き合い続けなければならない厄介なものでした。

後者を言い換えると、私は介護を担い続けている間、慢性的な介護疲れ状態に陥っていたといえます。その慢性的な介護疲れの原因は常に頭痛の種で、気分転換をしても終えるとすぐに頭の中に戻ってきます。結局、慢性的な介護疲れは介護が終わるまで解消することはありませんでした。私の慢性的な介護疲れの原因は複数あるのですが、ここでは2つほど紹介します。

介護施設の退所に対する不安

一つは、私は考え抜いたすえに、乏しい介護体制では施設サービスを利用することが最善だと考えて選択しました。

当時は介護保険制度が始まり、施設入所方法が措置制度から契約制度に変わりました。このため契約上、施設に入所しても長期入院をした場合、契約期限内に施設に戻ることができなければ退所せざるを得ず、治療を終えると次の施設を探さなければなりません。

これが私の最大の介護リスクとなり、退所に対する不安を常に持ち続けることが慢性的な介護疲れの原因になりました。実際、施設に入所した数年後に母親は誤嚥性肺炎を患い、長期入院のすえに退所となりました。それによって身体的精神的経済的な側面に疲労の波紋が広がり疲れはててしまった経験があります。

徒労感と対応ができないことへの訴えによる強いストレス

いま一つは、私は仕事を続けるために遠距離介護をしていました。一番遠くは往復12時間以上をかけて施設や病院に通いました。まだ当時は若かったので身体的な負担はあるものの睡眠をとると回復していました。

それよりも私が会いに行くと母親は安心するのでしょう。知人や親戚への対応とは異なり、本音で自分の思いをぶつけてきます。私が対応できる訴えならばいいのですが、その訴えは「今すぐ帰る」「帰れば調理もすべて一人でできるから連れて帰れ」「お父さんに会わせて」など、対応ができないことばかりでした。

毎回、長い時間をかけて会いに行っても、怒り心頭で強い口調で同じことを繰り返し訴えられると、徒労感や対応の困難さからの強いストレスを受け、疲労を抱えたことを思い出します。

介護疲れを軽減してきた方法

ここでは皆さんの参考になればとの思いから私の介護疲れを軽減してきた方法を紹介したい思います。但し、介護は個別性が高いものですから参考になる部分は人によって異なることを前提として記します。

介護疲れを軽減するには、介護に対する考え方を変えることが効果的だと考えています。私の場合は、「母親の人生の中に私の人生を含めて介護する」という考えから、「私の人生の中に母親の人生を含めて介護する」という考え方に変えました。すると私の人生が主になり、私が自分の人生を生きる中で、できる限りの範囲で母親の介護を担うことができます。この考え方の転換が私の心を楽にし、介護疲れの軽減につながりました。

また、介護疲れの軽減を図るために大切にしてきたことがあります。それが以下の10のことです。

①全力で介護はしない
②ほどよい距離感を保つ
③介護体制を鳥瞰し家族介護システムを考える
④情報を得るために専門職を頼る
⑤周囲の好意や利用可能な介護サービスは折り合いがつけば積極的にお願いする
⑥本音で話せる人を持つ
⑦緊急時以外は仕事を優先する
⑧自分の人生を生きることを優先する
⑨本人の思いも無理のない限り尊重する
⑩介護している自分をほめること

おわりに

介護を担う人は真面目で一生懸命に介護していると思います。また完璧な介護を求め介護する人や、これまで育ててくれたことへの感謝を込めて介護しているかもしれません。しかし、介護を一人で抱え込み、介護を頑張りすぎると心身ともに疲弊し、気づいた時には悲しい出来事につながる可能性もあります。

私は介護を頑張っている時ほど素直に自分の弱さを伝えることが大切だと思います。また、一度立ち止まって冷静に介護体制を鳥瞰したり、今の自分の心身状態を把握することが介護疲れと付き合うためには必要なことの一つであるように考えています。

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