• 在宅介護
  • 【公開日】2024-03-22
  • 【更新日】2024-03-22

独居高齢者における在宅療養支援の具体例

独居高齢者における在宅療養支援の具体例

日本の高齢者人口は1950年以降初めて減少しましたが、総人口に占める高齢者人口の割合は29.1%と世界最高、75歳以上人口は初めて2000万人を超え10人に1人が80歳以上です1)。

世帯構造では、高齢者のいる世帯数は全世帯の49.7%を占めており、一人暮らしの高齢者は男女ともに増加傾向にあります。令和2年では男性の15.0%、女性の22.1%が一人ぐらしの高齢者でした2)。

高齢者の要介護者等数は増加しています。65~74歳と75歳以上で、それぞれ要支援、要介護の認定を受けた人の割合を見ると、65~74歳では1.4%、3.0%であるのに対して、75歳以上では8.9%、23.4%となっており、75歳以上になると要介護の認定を受ける人の割合が大きく上昇します3)。

蒔田 寛子 看護学科長・教授
豊橋創造大学大学院 健康科学研究科 豊橋創造大学 保健医療学部 看護学科
看護師、保健師、ケアマネジャー
日本在宅看護学会 日本在宅ケア学会 日本看護科学学会 日本看護研究学会 日本公衆衛生看護学会 東海公衆衛生学会
千葉大学看護学部卒業、聖隷クリストファー大学博士前期課程、同後期課程修了(看護学博士) 大学卒業後、行政保健師、病院看護師、看護専門学校の教員、訪問看護師の経験を経て、大学教育に携わるようになる。在宅看護に関する研究に主に取り組んでいる。独居高齢者の療養生活支援に関する研究、在宅高齢者の救急車利用に関する研究、多職種連携支援に関する研究などである。

【在宅療養生活を支える様々なサービス】

支援が必要になっても住み慣れた地域で生活できるよう地域包括ケアシステム構築が推進され、介護保険制度などの公的制度を中心に、地域の実情に応じたサービス提供体制が整備されてきました。
在宅療養者を支援するサービスの一部を紹介します。

1.医師の診療(訪問診療、往診)

医師が診断し必要な治療をします。たとえば人工呼吸器を装着している療養者では呼吸器の設定、定期的な気管カニューレ交換を行い、がんの終末期であれば麻薬の投与、死亡診断と死亡診断書の作成をします。療養生活では状態も変化するため適宜ACP(advance care planning)を行い、療養者と家族の意向を確認しています4)。

2.訪問看護

訪問看護師が自宅など居宅に訪問し、療養上の世話または必要な診療の補助を行います。対象者の年齢や状態により、介護保険か医療保険での訪問看護になります。

3.訪問介護

訪問介護員(ホームヘルパーなど)が訪問介護を行います。訪問介護には、身体介護(食事・排泄・入浴などの介護)、生活援助(掃除・洗濯・買い物・調理などの生活の支援)、通院時の乗車・降車などの介助があります。

4.訪問リハビリテーション

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が、療養者の心身機能の維持回復をはかり、日常生活の自立を助けるために訪問し必要なリハビリテーションを行います。

5.訪問入浴介護

入浴車などにより、訪問して浴槽を提供して入浴の介護を行います。寝たきり状態になり家のお風呂での入浴が難しい人でも入浴することができます。

6.通所介護

日中施設に通い、入浴・排泄・食事などの介護、機能訓練などを行います。理学療法士などがリハビリテーションを行う施設のサービスは通所リハビリテーションです。

7.ショートスティ(短期入所生活介護・短期入所療養介護)

特別養護老人ホーム、介護老人保健施設などに短期間入所し、その施設で入浴や排泄・食事などの介護や機能訓練などの支援を受けます。介護老人保健施設や介護療養型医療施設では必要な医療を提供します。

8.福祉用具の貸与

歩行器、歩行補助杖、車椅子、介護ベッドなどを貸与します。

【様々な支援を得ながら一人暮らしをしている療養者の事例を紹介】

事例1 団地で一人暮らしのAさん

要介護1、85歳の女性です。夫とは10年ほど前に死別し、市営団地の3階に一人暮らしです。子どもはいますが疎遠で、Aさんに会いに来ることはなく、支援者も連絡をとることがありません。市営住宅にはエレベーターがないため、階段の上り下りができないAさんは3年間家から出たことがありません。

糖尿病で医師が往診し治療しており、インシュリンの自己注射をしています。ふくよかな体系で膝関節の痛みが強いため歩行は伝い歩きで、何とか家の中を移動しています。1週間に1回訪問看護が入り、健康状態、血糖値の確認、足浴などの支援を行い、1週間に3回訪問介護の生活援助が入っています。団地の隣人(高齢の一人暮らしの女性)が毎朝食事を差し入れてくれます。隣人は定年まで大学教授をしており、Aさんは「学のある変わった人」と話し、時々お礼をします。お礼の品は近くのスーパーではなくデパートが良いと考え、訪問介護員にデパートでお礼の品を買ってきてもらいます。

訪問看護師が健康状態の支援をするようになり血糖値が安定していましたが、また変動があるようになった時期がありました。大変親切でAさんが頼りにしていた訪問介護員が、好意で午後の紅茶などの糖分の多い飲み物を差し入れしていたことがわかり、やめてもらったところ血糖値も落ち着いてきました。

3年間家から出たことがないAさんですが、往診や訪問看護、訪問介護、隣人の支援で一人暮らしの療養生活が継続できています。支援者の好意が思いもよらないことにつながることもありましたが、医師、訪問看護師などの医療職も支援しており、様々な専門職が連携することで、異常にも早期に気づき対応することができます。

事例2 気を張って暮らすBさん

要介護2、78歳の女性です。夫は5年ほど前に亡くなり、子どもはいません。良性の脊髄腫瘍のため下半身麻痺があり、バリアフリーの一軒家に一人で暮らしています。甥家族が車で5分程度のところに住んでおり、頼めば買い物に連れて行ってくれるそうです。

車椅子で家の中を移動しています。流し台はBさんが車いすでも利用しやすいように低めに作られていて、簡単な食事の支度は自分でしており、昼食のみ宅配弁当です。洗濯物は室内に自分で干して取り込み、車椅子で家の中を掃除しています。ゴミ出しは隣人に依頼していますが、生ごみは水分をよく切ってできるだけごみが軽くなるように気をつけています。そして時々お世話になっている隣人にはお礼をします。自分でできるだけ何でもやりたいのですが、無理して転倒し骨折したことがあり、それ以来支援者に依頼することも増えてきました。

1週間に2回、訪問看護師が健康状態の確認、家庭浴介助、お風呂場の掃除などの援助を行い、1週間に3回訪問介護員が生活援助で入り掃除など行います。医師の診察は月に1回の通院ですが、その際は介護タクシーと通院時の乗車・降車の介助を依頼します。

平日は支援者の誰かが訪問していますが、一人での時間も多く、車椅子で出かけることがないBさんは月に1回の受診時、病院の売店で買い物をすることが楽しみです。家庭浴の介助後、Bさんの依頼で訪問看護師が浴室の掃除をしています。掃除は法制度上訪問看護の役割ではありませんが、きれい好きで一人暮らしのBさんにとっては必要な援助であり、訪問看護師は柔軟に対応しています。

Bさんは車椅子の生活ですが家はバリアフリーであり、できるだけ自分でできることは自分で行い、援助してもらいたいことは支援者を選んで依頼しています。車椅子で買い物は簡単ではないので、月1回の病院売店での買い物が楽しみになっているBさんなのですが、健康な人には当たり前のことが大切なのだと教えてくれます。

事例3 認知症が進んだCさん

要介護2、90歳の女性で10年以上前に夫と死別し、1戸建ての持ち家で一人暮らしをしています。夫が亡くなった頃より物忘れが進みアルツハイマー型認知症の診断を受けています。子どもはおらず、頼りになる親族もいないため、以前から付き合いがあった近所の女性(Dさん)が後見人になり日常生活のお世話もしています。

1週間に2回、訪問看護師が健康状態の確認、配薬、家庭浴介助の援助を行い、1週間に4回訪問介護員が掃除・食事の準備などの生活援助をします。医師が訪問診療しています。

Cさんは季節の衣替えができないので、Dさんが一緒に衣服や布団を替えています。ゴミ出しの前日に入った訪問介護員がCさん宅のごみをまとめておき、翌朝Dさんがゴミ出しをしています。Cさんの家のすぐ近くにコンビニエンスストアがあるため、一人で買い物に行くことができますが、冷蔵庫の中には同じものが多く入っていたり、賞味期限切れの食品が入っていることがあるため支援者は冷蔵庫の中を確認するようにしています。Dさんが年金、貯金通帳の管理をしていて、1000円札を10枚ずつCさんに渡し、使いすぎないようにしています。コンビニエンスストアの店員もCさんを見守ってくれています。Dさんは、生活の楽しみも大切と考え、時々Cさんを郊外の緑の多い地域へドライブに連れていきます。のんびりと道の駅や公園に立ち寄り、Cさんはとても喜ぶそうです。

認知症が進んだ一人暮らしの女性ですが、以前から付き合いのあった近隣住民が後見人となり親身に支援している事例です。コンビニエンスストアの店員の見守りもCさんにとっては重要であり、専門職ではない支援者と訪問看護師や訪問介護員が連携しています。

事例4 一人暮らしを続けたがん終末期のEさん

要介護5、72歳の男性で子どもが2人いますが、40代で妻と離婚後は一人暮らしです。妻とは疎遠ですが、子どもたちは時々訪問してくれ、Eさんは頼りにしています。胃がんの終末期であり余命は1ヶ月程度と医師から説明を受け在宅での療養生活を開始しました。腹痛がありますが医師が鎮痛薬を処方し疼痛をコントロールしてくれます。ほとんど食事は摂れておらずアイスやゼリー、水分を少量摂る程度で、下肢のむくみと筋力低下でベッド上の生活になっています。

医師の訪問診療と訪問看護師の支援を受けています。1週間に3回の訪問看護では健康状態の確認、薬の管理、身体の清潔保持の援助などをします。介護保険で訪問入浴介護を1週間に2回、訪問介護を毎日9時と21時に身体介護で入れています。地域の民生委員がゴミ出しをしてくれます。多くの支援者が訪問するEさんの家の鍵は、支援者だけがわかるような屋外に保管して利用しています。一人暮らしでは安否確認が重要なため、Eさんには8時と22時に訪問看護に電話連絡してもらいます。子ども2人は休日に訪問してくれます。

病状が進み、疼痛コントロールの薬の量は増え、意思の疎通は困難になりましたが、最期まで自宅で過ごしたいというEさんの希望に沿い、療養生活支援を続けました。血圧が測定できなくなりいよいよとなった日には、子どもたちが元妻に連絡し、3人で付き添っており、23時頃に元妻と子どもたちに看取られ最期をむかえました。医師の死亡診断後、訪問看護師が元妻と子どもたちと一緒に身体を拭き、洗髪、口腔ケア、エンゼルメイクを行いました。健康な頃はおしゃれだったというEさんらしい服装で、穏やかな表情でした。

がんの終末期は病状の進行により、疼痛の増強、呼吸困難、倦怠感、意識低下など様々な症状が出現しますが、在宅の医師と訪問看護師の支援により、多くの症状は療養生活が継続できるように緩和されます。また医師と訪問看護師は、これからどのような体の変化が起こるか予測し、その際の対処方法なども事前に説明します。事前に今後の体の変化を聞いておくことは、安心につながります。

【まとめ】

独居療養者は今後も増加することが予測されますが、家族がいない独居だからこそ、療養者はできることは自分で行い、必要な支援は依頼し、支援者との関係を良好に保つように気配りし、療養生活が継続できるようにしています。また独居だからこそ支援者も家に入りやすく、支援をしやすいということもあります。療養者の在宅で生活したいという意向がはっきりしていれば、それにそってサービスを整えることができますが、家族がいることで家族と療養者の考えが異なる場合も多いです。そして家族がいることで、自宅で生活したくてもできない場合があります。自宅は家族にとっても生活の場であるため、そこに支援が必要な療養者がいることで家族の生活は大きく変わり、難しい場合があります。

独居だから療養生活できないことはなく、様々な公的サービスと親しい間柄の人々の好意の支援を得て生活することは可能です。

【引用・参考文献】

1) 総務省:統計からみた我が国の高齢者,2023.https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics138.pdf
2) 内閣府:令和5年版高齢社会白書,p9-p10,2023.
3) 前掲2),p29-p30.
4) 尾﨑章子,蒔田寛子(編):療養者が望む暮らしを支える地域・在宅看護過程,医歯薬出版,p32-p34,2023.