家族介護における心構えについて

家族介護における心構えについて
現代における介護業界が抱える問題は深刻です。介護を家族が担う事も珍しくない世の中で「介護」にはどのような在り方が求められるでしょうか。
本コラムでは、現代における介護の問題点から、介護の在り方について紹介します。
岩舘 亜沙美 講師
八戸学院大学 短期大学部 介護福祉学科
介護福祉士/認知症介助士/認知症世界の歩き方公認ファシリテーター/高校教員(福祉)
日本介護福祉学会/日本介護福祉教育学会/日本認知症ケア学会/日本グリーフ&ビリーブメント学会
東北福祉大学総合福祉学部社会福祉学科(社会福祉学)学士、特別養護老人ホームで施設介護職員を経験後、介護福祉士養成校教員となる。光星学院高等学校専攻科介護福祉学科専任教員を経て現在、八戸学院大学短期大学部介護福祉学科講師として、コミュニケーション技術、生活支援技術、介護実習を担当。

Ⅰ.はじめに 「介護」の変遷~これまでとこれから~

1970年代から「介護」という言葉が頻繁に使われるようになる以前は、日本における介護は家族が中心に担ってきました1)。しかしそれ以降、核家族化が進み、家族の介護をすることが難しい時代となりました。次第に「介護」は社会問題として認識されるようになり、共助の考えのもと、2000年に介護保険制度が誕生しました。そのことによって、「介護」は家族のものから、社会的なものへと移行していきました。

今後、「団塊の世代」といわれる昭和22(1947)年~昭和24(1949)年に生まれた世代が全て75歳以上となる令和7(2025)年に向けて、後期高齢者の増加とともに要介護高齢者が増大し、少子高齢化の更なる進行や、世帯構成の変化などにより、「介護サービスの増大」が見込まれています2)。また、急速な高齢化とともに認知症高齢者も増加しており、要介護状態でも住み慣れた地域で自分らしい生活を続けられる地域環境が求められています。

しかしながら、介護保険の財源不足や介護を担う人手不足など、多くの問題を抱えています。これらのことから、「介護保険」だけに頼るのではなく、社会全体で地域の高齢者を支援する必要性が高くなり、2005年に「地域包括ケアシステム構築」が誕生しました。「誰もが住み慣れた地域で暮らす」という思いを大切にした「介護予防」「医療」「福祉」の充実の政策です3)。「介護」の変遷から、「家族介護における心構え」について考えてみたいと思います。

Ⅱ.現代の高齢者介護における問題点と課題

現代の「老老介護」の現状

日本は、老年人口と呼ばれる65歳以上の高齢者の割合が25%を超え、4人に1人が高齢者という時代になりました。それに伴い、介護が必要な方の※老老介護や※認認介護が増加しています。

2022年に厚生労働省が行った「国民生活基礎調査」によると、在宅で介護をしている人の63.5%が「老老介護」であるという実情でした。また、「主な介護者」の約半数は同居家族であり、具体的には「配偶者」が22.9%、「子」が16.2%、「子の配偶者」が5.4%。別居の家族も含めると、主な介護者の6割近くは家族。

同居する主な介護者の内訳をみると、女性が68.9%、男性が31.1%であり、年齢は60歳以上が8割弱4)。(図1)「介護する側」「介護される側」が共に65歳以上という“老老介護”は6割を超えているのです。

「主な介護者の状況」

図1「要介護者等」からみた「主な介護者」の続柄別構成割合

介護が必要になった高齢者を社会全体で支えるしくみ「介護保険制度」ができてから20余年が経ちます。しかし、今もなお、家族などが日常生活の支援者となっている場合、「介護保険サービス」を利用していない人も多くいると考えられています。介護サービスの利用に至らない理由として栗本・金山・矢庭(2002)らは、自分自身で何とか日常生活を継続することが出来る場合や同居家族の介護により、日常生活を継続することが可能であると考えています5)。

「介護保険制度」を活用していない人が多くいることを鑑みると、今「介護」を目の当たりにしている方に必要となるしくみや情報が届いておらず活用されていないことも考えられます。また、介護費用などのお金の悩みを抱えている方もいらっしゃるかと存じます。年金と預貯金だけで介護費用が足りるのかどうか、また毎月の介護費用にどのくらい用意しておけばよいのか、現役引退している高齢者世帯では年金収入だけでは心配なところではないでしょうか。

「老老介護」の問題にはそのような背景により介護サービスに繋がっていないケースがあります。「介護保険制度」は「介護を社会で支える」ことを目的としています。「老老介護」に直面する高齢者や家族が、介護サービスが入らず困窮しているようであれば、介護サービスを利用することができるよう地域包括支援センターや市区町村に連絡して頂きたいと思います。

お住いの地域にある「地域包括支援センター」は、介護に関する全般的な総合案内をしてくれるところです。保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員(ケアマネージャー)等が在籍し、専門知識と経験を活かしてチームで介護サービスのコーディネートをしてくれます。家族介護者が抱える多様な課題への支援や住み慣れた地域で「自分らしい暮らし」を続けるために、健康管理や介護予防活動に主体的に取り組めるよう「介護予防の視点」でアプローチしています。

※「老老介護」
老老介護とは、高齢者の介護を高齢者が行うことです。主に65歳以上の高齢の夫婦や親子、兄弟などのどちらかが介護者であり、もう一方が介護される側となるケースを指します。
※「認認介護」
認認介護とは、高齢の認知症患者の介護を認知症である高齢の家族が行うことです。

Ⅲ.在宅介護におけるご家族のあり方

これからの「介護」は自分を犠牲にして尽くすものではなくて良いのです。なぜなら、介護・看護のプロフェッショナルに委ねたほうが、ご本人にとってより良い状況に改善できるからです。そのためには、家族介護者が過度な負担を背負い込むことなく、介護保険サービスを上手に活用しながら生活していけるよう、各介護保険サービスの内容を知ることが大切です。自宅で暮らしながら受けられる介護サービスは沢山あります。それでも、在宅介護がつらくなり始めたら心身を壊して「共倒れ」になる前に、施設への入所を検討することも選択肢の1つだと言えます。

施設に入れるのは可哀想だとか、家族が見捨てた感じがするなどとためらう方もいらっしゃるかと存じます。夜中に起こされることが増えて睡眠不足から体調を崩されるケースもよくあるものです。さらには、「認知症」を伴うことで、理解力の衰えによりコミュニケーションが難しくなり暴言暴力に繋がってしまう状況もあります6)。介護者からすればショックでストレスが募り疲弊してしまいかねません。

疲れ切った介護の先には、見返りを求めるがあまり「高齢者虐待」という悲しい結末に繋がりかねません。在宅介護をなさっている方は、自分自身の心身のケアがとても大事となります。家族介護者は介護のプロではないので完璧な介護を目指して頑張り過ぎないことが大切なのです。全てを1人でこなそうとせず、介護サービスを利用して、介護する時間から開放されて「リフレッシュする時間」を持つことがもっとも有効なストレス解消法となりえます。

Ⅳ.少子高齢社会における介護のあり方

今後、少子高齢化が一段と進み、家族規模が小規模化することで、多くの労働者が老親の介護に直面することが予想されています7)。介護が始まると環境が変わり、生活パターンを変えざるを得ない状況が出てくるでしょう。

多様な働き方を選ぶことができる社会を目指して育児・介護休業法(育児休業・介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)があります。この法律によって労働者が休暇を取得する権利が認められています。また、介護休業は休業期間中の経済的支援のために所定の手続きを行うことで介護休業給付金の支給が受けられます8)。短時間でも取得できますから、通院の付き添いが終わってから仕事に戻るなど多様な働き方が可能となります。周囲に「介護」の理解を得ることにより、介護と仕事の両立を実現する環境が整うのではないでしょうか。

さて、仕事をしながら介護をする人を「ビジネスケアラー」といいます。ビジネスケアラー当事者は、介護に伴う肉体的・精神的負担は大きく「仕事と介護の両立」は容易ではありません。仕事に支障が出る人や、退職を余儀なくされる人が多い現状です。日本における「ビジネスケアラー」の数は、ピークを迎える2030年時点で約318万人になると推計されており、労働力人口の減少などに直面する我が国では、きわめて重大な課題となっています9)。

さらには、ビジネスケアラーの介護負担が大きい場合、その子どもである高齢者の孫世代にしわ寄せがいき「ヤングケアラー」の増加にもつながっている10)と言われています。介護が必要になったために生産性が低下したり、離職したりすることによる日本全体における経済的損失の推計は、2030年時点で約9兆円になると推計されています11)。

こうした問題を受け、経済産業省は企業による従業員の仕事と介護の両立支援を促すガイドラインの策定に取り組んでおり今後、ビジネスケアラーへ支援強化の見込みであり、期待したいところです。それでも、仕事と介護の両立で、家族の介護に悩んだ際には、抱え込まずに、自治体や地域包括支援センターに相談しましょう。

Ⅴ.「まとめ」

多様化する社会と「家族介護」のこれからについて述べてまいりました。「老老介護」や「認認介護」「ビジネスケアラー」等が増えていく時代だからこそ、これまでの「介護」は変わらなければなりません。今後の「家族介護における心構え」は、地域や周りの専門家の助けを借りながら、できるだけ介護者の負担を減らす「チームで支え合う介護」の時代へと必然的に変わらなくてはならないのです。

「仕事や社会参加など自分の生活を両立すること」と、「健康維持や生活の質の維持」、この両輪が円滑にまわることで高齢者の「人生の質」もまた同時に確保されると考えます。高齢になっても自立した生活を継続し、住み慣れた地域で暮らしていくために、自分自身のケアの「自助」はもちろんのこと、介護保険制度や医療保険の「共助」と、地域の助け合い支援の「互助」、行政による支援の「公助」これらの社会資源を最大限に活用することで「自己犠牲」の介護ではなく、親の「介護」を肯定的に受入れて共に輝く人生を送りたいものです。

【引用・参考文献】
1)坪田康佑:「老老介護で知っておきたいことのすべて」,アスコム,2023.11月2
日,P.28‐P.251
2)河北美紀:「介護認定審査会委員が教える困らない介護の教科書」,同友館,
2021年12月4日,P.34-P.39
3)東京都社会福祉協議会:「困りごとから探せる介護サービス利用法」,東京都社会
福祉協議会,2017.5月1日,P.171‐P.174
4)内閣府:「令和2年版高齢社会白書(全体版)」「https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/zenbun/
index.html」(2024年3月1日検索)
5)栗本和美,金山時恵,矢庭さゆり「公的介護保険制度の未利用者の状況―A郡
O町の調査から―」,新見公立短期大学紀要,第23巻,2002年,P.133-P.139
6)厚生労働省:「高齢者虐待防止の基本」https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/boushi/060424/dl/02.pdf(2024年3月1日検索)
7)岩井佑佳音・秋山恵美子:「ケアラー専門職の心のありよう‐仕事の介護と親の介護の両立について‐」,日本介護福祉士会,介護福祉士,2022.3,№27,P.58‐P.69
8)厚生労働省:「平成29年度介護離職防止のための地域モデルを踏まえた支援手法の整備事業 市町村・地域包括支援センターによる家族介護者支援マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000307003.pdf(2024年3月1日検索)
9)厚生労働省:「仕事と介護の両立 ~介護離職を防ぐために~」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/index.html(2024年3月1日検索)
10)こども家庭庁支援局虐待防止対策課:「ヤングケアラーについて」https://www.cfa.go.jp/policies/young-carer/(2024年3月1日検索)
11)経済産業省:「ビジネスケアラー支援に向けて「企業経営と介護両立支援に関する検討会」を開催します」
https://www.meti.go.jp/press/2023/11/20231106001/20231106001.html(2024年3月1日検索)
12)厚生労働省:「福祉人材確保対策」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/fukusijinzai/index.html(2024年3月1日検索)
13)三菱UFJリサーチ&コンサルティング:令和2年度厚生労働省老人保健健康増進等事業「介護・労働施策等の活用による家族介護者支援に関する調査研究事業」,「労働施策や地域資源等と連携した市町村、地域包括支援センターにおける家族介護者支援取組ポイント」(2024年3月1日検索)
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2021/04/koukai_200423_8.pdf
14)厚生労働省:「地域包括ケアシステムの5つの構成要素と「自助・互助・共助・公
助」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-3.pdf(2024年3月1日検索)