介護の仕事、現場のリアルに迫る

介護の仕事、現場のリアルに迫る
読者の皆さんは「介護」に従事している方々に対してどのようなイメージを持っていますか?本コラムでは介護の仕事現場のリアルに迫り、当事者の方々がどのような想いを抱えて介護に従事しているかを紐解きます。
坂井 敬子 准教授
和光大学 現代人間学部 心理教育学科 心理学専修
国家資格キャリアコンサルタント
日本キャリアデザイン学会,日本キャリア教育学会,産業・組織心理学会,など。
民間企業での人事職を経て,2010年に中央大学にて博士(心理学)を取得。2011年より静岡大学勤務。2017年より現職。キャリア心理学を専門とし,主に大学生や人と関わる仕事に就く若年層を研究対象とする。
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介護はどんな仕事だろうか?

現在の日本には,介護職員はどのくらいいるのでしょうか。厚生労働省(2024)の令和4年介護サービス施設・事業所調査に挙げられた介護職員を合計すると,189万人を超えます。この数は,介護予防のみを行う事業所を含まないものなので,実際には介護職員はもっと多く存在しています。

働く施設・事業所のタイプはさまざまです。特別養護老人ホームなど利用者が居住する施設,利用者宅を職員が訪問する事業所,デイといわれる利用者が通所する施設,ショートといわれる利用者が短期入所する施設などです。

どんな業務をしているのか,施設や事業所のタイプによって大きく違うのが実情です。ここでは特別養護老人ホームに焦点をあてることにしましょう。利用者が,食事,入浴,排泄,移動などするにあたってのさまざまな介助,ベッドメイキングなどの環境整備,そしてレクリエーション家族対応といったコミュニケーション,部屋の巡視や記録,など。日勤と夜勤では各業務の比重が大きく異なりますが,このように多岐にわたるものです。

同僚には同じ介護職員ばかりでなく,生活指導員,看護師,栄養士などがいます。他の介護職員とも他の職種とも,連携をとりながら利用者を見守り支えていくのが介護の仕事となります。

特別養護老人ホームでの利用者居室には大きく分けて2タイプがあります。多床室とユニット型個室です。どちらで働くかによって,その介護職員の日々の動線や業務は違うことでしょう。

世間の人が介護職員に持つイメージは,当人たちのとはやはり違う

ここで,介護職員に対するイメージを調査した,私たちの研究を紹介したいと思います(Sakai & Sato, 2018)。特別養護老人ホームではたらく介護職員には,どんな資質や態度が,どのくらい求められるのか――。私たちが考えたのは,この認識が,当事者である介護職員と世間の人とでは違うのではないかということでした。

調査分析の結果としてわかったことは,以下のようにまとめることができます。

1. 世間の人たちの介護職イメージはざっくりしている

1-1. 世間の人たちが捉える「利用者への親しみ」を,介護職員は「人への親しみ」と「利用者に対する観察・対応」とに区別している

介護職員にとって「人への親しみ」は,たとえば「人と接することが好き」「思いやりがある」といった文章項目をものさしとして測れる内容です。人に対する働きかけや温かさのようなものといえるでしょう。

一方,「利用者に対する観察・対応」は,たとえば「サービス利用者の様子を細やかに見る」や「普段の言動や状態をよく知っている」などで測れる内容です。こちらは,冷静な観察眼のようなものですね。

世間の人は,介護職員に求められる要素としてどちらも同じように評価してしまいますが,介護職員は別物として評価しているということです。筆者は講習や実習の中で,指導員が「ウォームハートにクールヘッド(どちらも大事)」と繰り返しいうのを聞きました。まさにそのことです。

1-2. 世間の人たちが捉える「業務パフォーマンス」を,介護職員は「チーム協働」と「個人のパフォーマンス」とに区別している

介護職員にとって「チーム協働」は,たとえば「他のスタッフと協調的に働く」「状況に応じて臨機応変に動く」などで測れる内容です。文字通りチームで,他スタッフや状況に適応し働くことです。

一方「個人のパフォーマンス」は,「指示されたこと,教えられたことをきちんと理解する」「ミスをして注意をされたら受け容れる」などで測るものです。こちらの方は,個人に焦点化してパフォーマンスをとらえています。

介護職員が,チーム協働を個人のパフォーマンスとは独立してとらえているということは,それだけ,介護職員にとってチームで働くことが重要ごとだからです。

2. 世間の人たちの介護職イメージは,当人たちのイメージとずれている(図1)

図1 介護職イメージの違い(出典: Sakai & Sato, 2018)

2-1. 世間の人が考えるほどには,「人への親しみ」や「おおらかさ」は求められない

「人への親しみ」をどう測るかは,さきほど示したとおりです。「おおらかさ」の方は,たとえば「些細なことを気にしない」「物おじしない」で測れるものです。

どちらも1点から5点の幅で測っていますので,ちょうど真ん中は3点です。3点を超えれば,他の職業よりも求められるのだという認識を表します。介護職自身の回答も平均が3点を超えていますので重要だとみなされているわけですが,それでも世間の人ほどは重視していないということです。外れてはいませんが,介護職に対する世間の固定観念といえます。

2-2. 世間の人が考えるよりも,「チーム協働」や「仕事へのこだわり」が求められる

「チーム協働」をどう測るかはすでに説明したとおりです。「仕事へのこだわり」は,「なぜこの職業を選んだのか他人に説明できる」「仕事にやりがいや誇りを見出す」などで測定できます。どちらも世間の人の回答が真ん中である3点を超えていますが,介護職自身の回答はそれ以上でした。

介護職においてチーム協働がどういう意味を持つのかは,さきほども触れました。介護職員にとって,チームで働く意識はとても強いのです。

また,仕事へのこだわり,仕事にポジティブな要素を見出すことも,世間からみなされている以上に重視されています。

では,仕事にポジティブな要素を見出すとは,具体的にどんなことなのでしょうか。ここで,介護職への助言や教育に長く携わる高口光子さんと三好春樹さんの考えを紹介したいと思います。

介護職当事者はこう語る

下記は,介護アドバイザー高口光子さんが示す,介護の専門性です。

(I) 介護職が,介護の原則を,知識・技術・人間観をもって実践し,老人との間に良き体験を積み重ねることで,固有名詞を持った,充実した関係性を築けること。

(II) プロの介護職はチームをもっているので,老人との応対における介護職自身の反応をチームに対し,言葉として発言することができる。チームがそれを事実と認定し対象化してくれるので,介護職は反対を対応へと変容させていくことができる。つまり,チームを持つことで,継続的に,健全な介護を保証してゆけること。

(III) 介護関係の継続により,「たった一人のお年寄り」として老人と巡り合い,その結果,無関心の中の衰弱死ではなく,思いの中にある自然死として,老人の最後を看取ることができること。

(高口,2008,pp. 37-38)

高口さんの説明を筆者なりにまとめると,介護職は,たまたま出会った老人,ゆくゆく老い逝くその人に対し,その人にふさわしい介護をするよう努める。その中で,食べた,排泄したという当たり前のことがひとつひとつ嬉しく思われる。良い体験が生まれていく。気になる固有名詞を持った存在になっていく。こういうことが,(I)で表現されていることです。

(II)の解説は,介護職務の影の部分として,老人の「問題行動」に触れます。その状況に嫌悪感で混乱する職員もいれば,冗談で割り切ることができる職員もいる。新人介護職は,チームあってこそ,対応可能性のバリエーションを手に入れられる。お年寄りへの否定を,興味と関心に変えられる可能性にひらけるということ。職員はどうしても対応できなければ,他の平気な職員と交代することが可能。こういうことは,過去の深いかかわりを持つ家族にはできないこと。

さらに(III)について。介護する日々の中で繰り返される食事・排泄・入浴が,たったひとりのかけがえのない存在につながっていく。やがて老人の機能障害が進み,介護職は,今まで培った関係性の中でその人の死を考える。亡くなった暁には,その人と出会えたこと,ともに過ごせたことが良かったと思える。その時,介護の専門性は全うされる。

こうした,個々の利用者と職員との関係のかけがえなさ。介護研究者・教育者である三好春樹さんがいう,ブリコラージュとしてのケアという考えに,その良さをうかがうことができます。ブリコラージュは,フランスの文化人類学者であるレヴィ・ストロースの言葉で,未開や原始社会の生産方式を表します。近代社会を超えていくものとして高く評価され,サイエンス(科学)にはなりえなくとも,アートにはなりえるとされます。

三好さんは,ブリコラージュの特徴を介護にあてはめ,人と同じ介護をやっていてはアートではない,個性的であるべきだといいます。利用者個々がどう亡くなったのか(つまりどう生きたのか),関わって自分はどう感じたのか,表現することを介護者に求めています(三好,2008)。

以上,ここでは,介護という仕事の専門性が,利用者との関係性のかけがえのなさ,関係の個性にあるというお話に触れました。紹介した介護業界の有名人2人は,このサイトの読者ならすでにご存じかもしれません。それでも,この2人の主張に触れれば,何度でも介護職の魅力を発見できるのではないかと思います。

ケアするのは職員だけでない

この記事では,介護職員,特に特別養護老人ホームなど施設で働く介護職員にスポットを当てました。介護職の魅力の一端を理解していただけたなら,介護職を推す者として幸甚です。

さて,この記事の締めくくりに,介護職にとどまらない,介護の“現場”の魅力をお伝えさせてください。これまでの話をじっくり読まれた読者は,ケアする主体は職員だけではないことを,うすうす察していただけたのではないでしょうか。

利用者もまたケアの主体であるということです。関西大学で教鞭をとられる種橋征子さんの書籍では,そのことが緻密な調査の基に示されています(種橋,2017)。たとえ自己に対して明確な認識を持ちにくいような認知症高齢者であったとしても,意識疎通ができにくい寝たきりの高齢者であったとしても,職員からケアされることを通じて,心から安心できる居場所が得られること,こだわりから解放されることといった成長が得られる。そしてまた,こうした利用者たちも他の利用者たちと同様に,介護職員の成長を助ける存在であるということです。利用者は,ケアする人でもあるのです。

【文献】

  • 厚生労働省(2024).令和4年介護サービス施設・事業所調査の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service22/index.html(最終閲覧日2024年2月21日)
  • 三好 春樹(2008).ブリコラージュとしてのケア 上野 千鶴子 他(編)ケアという思想(pp. 151-162)岩波書店
  • Sakai, K. & Sato, R. (2018). The Differences in Professional Views of Elder Care Work between Elder Care Workers and Ordinary Adults. Poster Presentation #0098 in International Conference on Industry, Business and Social Sciences (IBSS).
  • 高口 光子(2008).介護の専門性 上野 千鶴子 他(編)ケアすること(pp. 35-54)岩波書店
  • 種橋 征子(2017).介護現場における「ケア」とは何か ―介護職員と利用者の相互作用による「成長」― ミネルヴァ書房
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