心がつながるタッチケア

心がつながるタッチケア

タッチケアとは、手や指を使って、触れる・さするなどの肌に優しくおだやかな刺激を伝えることで、からだとこころを癒し、健康の維持や健康を増進することをいいます。また、 認知症の方々へのケアや障がいのある方々のケアなどにも用いられ、家族を含めた介護にたずさわる方々との心のきずなを作るためにも役立てることができるとされています。今回はそのタッチケアについて紹介いたします。

外村 昌子 教授
森ノ宮医療大学看護学部看護学科
看護師/教員
日本老年看護学会/日本認知症ケア学会/看護人間工学会
大阪市立大学附属看護専門学校卒業。同附属病院脳神経外科病棟勤務。大阪市立大学大学院前期博士課程修了。森ノ宮医療大学大学院後期博士課程修了。2012年より森ノ宮医療大学看護学科にて勤務し、現在に至る。
老年看護学を指導し、認知症ケア(タッチケア・ユマニチュード)について研究している。

タッチケアの効果

・リラクゼーション(リラックス効果)

肌に直接触れるマッサージを行うと、「幸せホルモン」とも呼ばれているセロトニンとオキシトシンが分泌されます。セロトニンは、気分の安定や幸福感に関与しており、うつ病や不安障害などの精神的な問題の予防や改善に効果があります。また、体内時計を整える役割もあり、不眠症の方など睡眠障害を抱えている方に良い効果をもたらすホルモンです。

オキシトシンは愛情や絆、信頼関係の形成に関与しており、セロトニン同様に心の緊張をほぐし、ストレスを緩和させる効果があるとされています。これらにより、タッチケアを受けた後には、イライラした気分がおさまり、気分を落ち着つかせ、こころが癒されている効果が実感できます。

ストレスが溜まって、いつの間にか体調を崩してしまったという時には、多くの場合自律神経のバランスを乱しています。タッチケア(手や指のマッサージ)は、交感神経をおさえて副交感神経を活発にし、リラックス効果が得られます。手のひらや指、背部・腰部などがマッサージにより筋肉の緊張が緩むと、血圧が下がる、心拍数は低下する、筋肉を弛緩させる、などの役割がある副交感神経が優位になり、からだやこころの緊張やストレスを減らすことが出来ます。ハンドマッサージの際にアロマオイルなどを用いると、さらにリラックス効果が高まるでしょう。

・血流を促進する

多くの人が悩まされている肩こりは筋肉の張りや血行不良が原因といわれています。手や指を使用し、手のひら、腕、背中などの筋肉を刺激するマッサージは、血流を促進する効果も期待できます。血行不良が起きると、筋肉に酸素が行き届かなくなり、筋肉の張りやこりを感じる原因になります。タッチケア(マッサージ)で血行を良くすれば、それらも改善されることも可能となります。

また、タッチケア(マッサージ)は、手足の先の冷えの改善も期待できます。末端冷え性の原因は、心臓から遠い部分にある手指まで血流が十分に行き届かず、手指の温度が上がりにくいことが考えられます。マッサージで血流を促進すると、手足の冷えにも改善がみられるでしょう。

睡眠の質が良くなる

良質な睡眠にはからだを落ち着かせる副交感神経を優位にさせ、からだを「休息モード」にする必要があるといわれています。そのためには、副交感神経を刺激するタッチケアやハンドマッサージは睡眠の質を改善する働きもあると考えられています。

また、眠ろうとする時にタッチケアやマッサージを受けるとからだと心の緊張がゆるんできます。これにより、眠りに入りやすい状態になるため、おだやかな深い眠りに入りやすくなるでしょう。夜間によく目が覚める、浅い眠りが気になるときにはタッチケアやハンドマッサージを試してみることをお勧めします。

・認知症の方々への良い効果

認知症のあるご高齢者はストレスホルモンがたまりやすい状況にあり、それらが原因で様々な行動・心理症状(イライラや暴言など)につながるといわれています。タッチケアを受けることにより認知症のある方たちのイライラがおさまり、少しでもおだやかに過ごすことが出来れば、介護者の方たちの負担もずいぶんと軽減されることになります。また、タッチケアを実施した方にも、心がおだやかになる効果が期待でき、きずなが深まります。

ハンドマッサージで手指を刺激すると、神経の活動が活発になり、脳の活性化につながるといわれています。手のひらや指先には多くの神経が存在し、手で感じた刺激は脳に伝わりやすいといわれています。そのため、適度な刺激は脳を活性化させ、高齢者の場合は認知症予防や記憶力向上の効果も期待できるでしょう。

【タッチケアの方法】

■タッチケアで気をつけること

・アロマオイルを使用してマッサージする場合は、アレルギー反応が出現することもあるためパッチテストが必要です。
・皮膚が炎症を起こしているとき、関節炎・静脈炎などの炎症を起こしている部分は避けます。また、痛みがあるときも避けましょう。

■ハンドマッサージ

手のひらにはたくさんのツボがあり、ツボを刺激することで個人差はありますが痛みの軽減、血行促進、自律神経のバランスを整える効果を得られる場合があります。

<2人用ハンドマッサージ>

1.バスタオルを敷いた上に両手を載せて、タオルでつつみ、温める。

2.適量のクリームやマッサージオイルを手に取り、手のひらや指に均等に塗布する。片手ずつ。


3.手のひらから肘、手の甲から肘に向かって優しくマッサージする

4.手のひらに円を描くように押しながらマッサージする。

5.手の甲の骨の間を順番に少し押しながらマッサージする。

6.指をつまんでゆっくりと引っ張り、くるくるとまわしながら、指先をおさえる。それぞれの指に対して数回繰り返す。

7.最後に最初のようにしばらく手をつつみ、心を落ち着ける

<背部のマッサージ>

服の上からで大丈夫です。椅子に座って実施しましょう。
両手で指は閉じて、各3回程度、約10分以内としましょう。

                1.首の後ろから肩へなでるように                    2.背中の中心から時計周りに円を書くように

 

              3.背中の中心から四角をかくように                     4.腰から肩へ楕円を書くように

 

【参考・引用文献】
・堀内園子 「見て、試して、覚える触れるケア 看護技術としてのタッチング」鍬谷書店 2010/07/01
・岡本 佐智子「看護にいかす 触れるケア: エビデンスに基づくハンドマッサージとメディカル・タッチ」
中央法規出版 2020/12/24
・鈴木みずえ「認知症の介護に役立つハンドセラピー」池田書店 (2014/12/12)