ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)を予防し,元気に長生き

ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)を予防し,元気に長生き

今回はロコモティブシンドローム(日本語で「運動器症候群」)についてとその予防方法についてご紹介します。

 鶯 春夫 教授/学科長
徳島文理大学 保健福祉学部 理学療法学科
理学療法士/医学博士
徳島県理学療法士会会長/日本理学療法士協会代議員
1986年に理学療法士となり一般病院に勤務後、2010年に医学博士(徳島大学)を取得し、同年に徳島文理大学教授に就任した。専門は健康増進、介護予防、地域リハビリテーションで、2014年から徳島県理学療法士会会長に就任、2017年に日本理学療法士協会協会賞、2020年に徳島県表彰、2022年に厚生労働大臣表彰を受賞した。

ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)とは

ロコモティブシンドローム(以下、ロコモと略す)とは、2007年に日本整形外科学会が提唱した言葉で、「運動器の障害のために立ったり歩いたりするための身体能力(移動機能)が低下した状態」を指し、日本語では「運動器症候群」と言います。運動器とは骨や関節、筋、神経などの身体を支え動かす役割をする器官のことで、ロコモが進行すると、将来介護が必要になるリスクが高くなります。

厚生労働省の「2022年国民生活基礎調査」によると、要介護者と要支援者を合わせた全体の原因疾患としては、認知症と脳血管疾患が多いのですが、軽度な要支援者のみの原因疾患としては、ロコモと大変関連深い、関節疾患や高齢による衰弱、骨折・転倒で半数を超えています(表1参照)。

 

1位 2位 3位
要支援者 関節疾患

(19.3%)

高齢による衰弱

(17.4%)

骨折・転倒

(16.1%)

要介護者 認知症

(23.6%)

脳血管疾患

(19.0%)

骨折・転倒

(13.0%)

要支援者

要介護者

認知症

(16.6%)

脳血管疾患

(16.1%)

骨折・転倒

(13.9%)

表1 要介護・要支援の原因(厚生労働省「2022年国民生活基礎調査」)

一般的に体力は20歳を超えると少しずつ低下し、男女ともに40歳代後半から体力水準が目に見えて低下すると言われています。つまり、早い人では40歳代からロコモになっている可能性があります。40歳を過ぎれば他人事ではなく、ロコモのチェックやその対策を実践してみましょう。

 

ロコモかどうかのチェック方法

  • ロコモのチェックとして、以下の7項目が挙げられています。
    ①片脚立ちで靴下がはけない
    ②家の中でつまづいたり滑ったりする
    ③階段を上がるのに手すりが必要である
    ④家のやや重い仕事(掃除機の使用や布団の上げ下ろしなど)が困難である
    ⑤2kg(1リットルの牛乳パック2個)程度の買い物をして持ち帰るのが困難である
    ⑥15分くらい続けて歩くことができない
    ⑦横断歩道を青信号で渡り切れない
    この7項目は「ロコチェック」と呼ばれ、1つでも当てはまればロコモの心配があります。
  • 「ロコモ度テスト」として、脚の筋力を調べる「立ち上がりテスト」や歩幅を調べる「2ステップテスト」、身体の状態や生活状況を質問紙で調べる「ロコモ25」の3つのテストがありますが、比較的実施しやすい「立ち上がりテスト」を紹介します。

「立ち上がりテスト」では、40cm、30cm、20cm、10cmの4種類の高さが異なる台を準備し、それぞれの台から両脚で立ち上がれるか、さらには片脚で立ち上がれるかを確認します。両脚で立ち上がる場合は、台に腰かけ両腕は胸の前で交差させます。この時、両脚は肩幅くらいに広げ、足部を少し手前に引きます(図1参照)。

そして、反動をつけずに立ち上がり、そのまま3秒間保持できれば合格です。片脚で立ち上がる場合は、図1の姿勢から左右どちらかの脚を軽く持ち上げ、膝を軽く曲げます。そして、反動をつけずに立ち上がり(図2参照)、そのまま3秒間保持できれば合格です。なお、膝や腰に痛みがある場合は無理に行わないようにして下さい。

図1 両脚で立ち上がる時の開始姿勢
図2 片脚での立ち上がり

片脚で40cm台から立ち上がれないが、両脚で20cm台から立ち上がれる場合はロコモ度1(移動機能の低下が始まっている状態)、両脚で20cm台から立ち上がれないが、30cm台から立ち上がれる場合はロコモ度2(移動機能の低下が進行している状態)、両脚で30cmの台から立ち上がれない場合はロコモ度3(移動機能の低下が進行し、社会参加に支障をきたしている状態)と判定されます。ロコモ度2や3と判定された場合には、整形外科専門医の受診をお勧めします。

家庭でこのテストを実施する場合、75歳未満の方は普通の椅子(約40cm)から片脚で立ち上がることができれば、ほぼ問題ないと判定していいでしょう。75歳以上の方は20cm台の代用として、お風呂場の椅子(図3参照)や階段などを用いて、手を使わずに痛みもなくスムーズに両脚で立ち上がれることができれば、ほぼ問題ないと判定していいでしょう。いつまでも歩き続けるために、毎月1回はこれができるかどうかを確認する習慣をつけて下さい。

図3 風呂場の椅子からの立ち上がり

ロコモトレーニング

ロコモ対策のためのトレーニングとしては、バランス能力を高めるための「開眼片脚立ち」と下肢筋力を高めるための「スクワット」が推奨されています。いつまでも一人で歩けることや転ばない身体作りが目標です。トレーニングは安全に無理なくできる程度から始め、慣れてきたら「少しきつい」と感じる程度で毎日行いましょう。

【開眼片脚立ち】

眼を開けた状態で、最初は片脚を少し持ち上げて1分間保ちましょう。途中で脚をついても、すぐに持ち上げて1分間行いましょう。転倒予防のために、壁の近くや何かにつかまることができる場所で行います(図4参照)。右脚で1分間、左脚で1分間の片脚立ちを1日3セット行うことを目標とします。

図4 開眼片脚立ち

バランスに自信がない人は、机や椅子の背もたれなどに手や指をついて行って下さい。バランスが向上してくれば、次第に手の支えを少なくしてみましょう。踏ん張っている脚の膝関節や股関節に痛みが出る時には無理に行わないで下さい。

通常は両手を下に垂らした状態で片脚立ちを行いますが、バランスに自信がある人は両手を腰に当てて行って下さい。さらに、楽々1分間できるようになれば、少し上げた脚をもう少し高く上げて行ってみましょう。太ももが水平になるぐらいまで持ち上げて行えば(図5参照)、上げた脚の筋力トレーニングにもなります。

図5 開眼片脚立ちの工夫

また、二重課題運動として、しりとりをしながら行ってみたり、100から順番に7を引く計算をしながら行ってもいいでしょう。しりとりや計算に注意が向き過ぎるとバランスが乱れやすくなります。別の課題を行いながら片脚立ちができるということは、バランスが安定してきた証拠です。

私は毎日が忙しくて運動をする時間を確保できない人には、片脚立ちをしながら歯磨きすることを薦めています。そのようにすれば、より難しい片脚立ち運動になる上、朝食後・昼食後・夕食後と1日3回実施しやすくなるからです。ただし、転倒のリスクが高くなるので、最初は片手を壁や机などについて行って下さい。

なお、開眼片脚立ち時間は年齢と足指の筋力に関連が認められているので、バランスが悪い人は足指を鍛える運動も行ってみて下さい。最初は、裸足になって足の指で大きくじゃんけんをしてみましょう。指の付け根の関節までしっかり動かして下さい。動きが悪い人は、手で足の指を曲げたり伸ばしたり、開いたりしてほぐしておきましょう。そして、足指でタオルを手前にたぐり寄せる「タオルギャザー」という運動を行ってみましょう(図6参照)。左右3回ずつを1日3セット程度行ってみて下さい。

図6 タオルギャザー

【スクワット】

両脚を肩幅程度に広げて立ちます。つま先は少し外側に向けますが、つま先と膝は同じ方向に向けて下さい。両手は胸の前で交差させておきますが、後ろに転倒しそうな人は両手は前に上げておくといいでしょう。その姿勢から目線は前に向けたまま、背中を丸めないようにして、おしりを後ろに引くように、2~3秒間かけてゆっくりと膝を曲げます(図7参照)。そして、ゆっくりと元の姿勢に戻りましょう。

図7 スクワット

この時、膝を直角以上曲げたり、膝をつま先より前に出さないで下さい。このことを守らずに行うと膝を痛めてしまう恐れがあります。膝に痛みが出現する場合、スクワットは中止です。また、息を止めて頑張って行うと血圧が上がります。息は止めないようにして下さい。まずは5~6回程度を1セットとし、1日3セットが目標となります。楽にできる人は回数やセット数を増やしますが、筋肉が「少しきつい」と感じたら止めて下さい。

下肢の筋力に自信がない人は、机やしっかりした椅子の背もたれに両手をついて立った後、4秒程度かけてゆっくり椅子に座りましょう。そして、4秒程度かけてゆっくり立ち上がりましょう(図8参照)。これを同様に5~6回程度を1セットとし、1日3セットを目標としましょう。

図8 足腰が弱い人用のスクワット

この運動でも難しい場合や膝に痛みが出現する場合は、椅子に腰かけた姿勢から片脚ずつ4秒かけて膝をまっすぐ伸ばし、4秒かけて元の姿勢に戻す運動に切り替えて下さい(図9参照)。この運動では膝に体重をかけないので、膝に痛みを起こすことなく太ももの前の筋肉を鍛えることができます。回数は筋肉が「少しきつい」と感じたら終了です。30回行っても「楽」な場合は、足首に1~2kg程度の重りをつけて行ってもいいでしょう。

図9 膝伸ばし運動

運動を継続するコツ

運動は継続して実施することが大切です。継続して実施しなければ効果が出ません。継続するためには、運動する時間を決めましょう。毎朝9時とか、午後3時と決めるといいでしょう。仲間との運動が継続しやすいのは、時間を決めて集まるからです。その時間は他の予定を入れなくなるので運動を実施しやすくなります。また、運動を実施したらカレンダーなどに印をつけるなど、記録をつけることもいいでしょう。

最後に

運動器を鍛えてロコモを予防することは、健康寿命を延伸するためにも大切なことです。さらに、元気で長生きするために大切なことは「人とのつながり」です。社会とのつながりが減少し、生活範囲が狭くなれば、こころや身体に悪影響が生じやすくなります。「人とのつながり」が少なくなれば、心臓病や認知症、筋力低下などを引き起こし、結果として「早死にリスクが50%高くなる」といった調査結果も報告されています。人生100年時代をいきいきと元気に暮らすために、多くの仲間と一緒に趣味やボランティア、地域活動などの楽しみを作っていきましょう。