高齢者における拘縮対策とそのポイント

高齢者における拘縮対策とそのポイント
手足や首,背中,あごなどの関節の動きが悪くなり、介護の難易度を高めてしまう関節拘縮.立つ,座るといった日常生活活動も難しくてしまう拘縮は一度発生すると改善することが難しいと言われています.本コラムでは実践できる拘縮対策とそのポイントについて紹介します.
沖田 実 教授
長崎大学生命医科学域(保健学系)
理学療法士
日本基礎理学療法学会,日本結合組織学会,日本ペインリハビリテーション学会,全国介護・終末期リハ・ケア研究会
急性期病院での理学療法診療業務を経験した後に,大学教員となり,2007年より現職.長年,拘縮の病態や発生メカニズムの解明のための基礎研究に従事.2011年からは高齢者の拘縮対策に関して青梅慶友病院(東京都)と共同研究を実施し,その成果は書籍としても上梓している.
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拘縮とは何でしょう?

重度な要介護状態にある高齢者では,「極端に曲がった肘や真っすぐに伸びない膝,握ったままの手のひらや開いたままの口元」などといった姿が時々みられます(図1).このような姿になるのは,手足や首,背中,あごなどの関節の動きが悪くなる関節拘縮(以下,拘縮という)が発生したからです.要介護状態になったからといって,誰もがこのような姿になるわけではありませんが,超高齢社会を見据えた制度がつくられ,高齢者を対象に提供される医療や介護の体制などが整えられつつある今日においても,拘縮の影響を受けたこのような姿はなくなっていません.

図1 重篤な拘縮を有する高齢者 (出展;参考文献2)のP2の図1)

また,わが国の高齢化率の増加に伴って寝たきりとなる高齢者も増加するといわれており,その数は2040年までに100万人を超えると推計されています.そして,ある調査では寝たきり高齢者の7割近くに重篤な拘縮が発生していたと報告されており,単純推計にはなりますが2040年までに70万人の高齢者に重篤な拘縮が発生する可能性があります.つまり,高齢化率が高まるわが国においては,拘縮の発生をいかにして予防するか,その対策が極めて重要といえます.

高齢者における拘縮の問題

拘縮の発生によって手足や首,背中,あごなどの関節の動きが悪くなると,起きる,座る,立つ,歩くといった基本的動作能力が制限されるだけでなく,衣食住に関係する日常生活活動の遂行も困難になります.そして,高齢者に拘縮が発生するとこれらのことのみならず,さらに2つの問題が加わります(図2).

図2 高齢者における拘縮の問題

①拘縮は介護の難易度を高める

その一つは介護の難易度を高めるという問題があります.例えば,肩関節や股関節が十分に開かなければ,わきの下(腋窩)や股のつけね(鼠径部),股間の清潔を保つことは難しく,肘関節や膝関節が曲がった状態であれば,衣類を着替える際の介助を円滑に行うことができません.また,手指が伸びず握ったままの手のひらの場合,ツメを含めた衛生管理が不十分になりがちで,皮膚に傷ができ,そこからばい菌が入り,全身状態が悪くなることもあります.このように,拘縮が重篤化すると清潔を保つという介護の基本すら困難となり,その対応は慎重かつ高頻度に行わなければならないことから,介護者にとっても大きな負担となります.

②拘縮は最期の姿に直結する

もう一つの問題は最期の姿に直結することです.高齢者には遠からず迫っている死があります.最期を迎えたそのときに,口は開いたままで手を組むこともできず,脚が極端に曲がった姿は,残された家族にどう映るでしょうか.まして,死の直前までその姿でいなければならなかった本人には,どれだけの苦痛があったでしょうか.

それらを考えると,高齢者の拘縮を防ぐ目的は望ましい生活や望ましい姿を実現することであり,やむを得ず発生したとしても,それを最小限に抑える必要があるといえます.ただし,拘縮はいったん発生するとその改善は難しく,しかも進行する可能性がありますので徹底した予防策が求められます.「ご遺体はケアの通信簿」という言葉がありますが,高齢者の最期の姿はそれまでどれだけしっかりと介護を行ってきたか,また,適切なリハビリテーションやケアが提供されてきたかといった,これまでの関わりの成果であることを認識する必要があります.

拘縮の原因

「拘縮」は医学的には関節周囲に存在する皮膚や骨格筋(筋肉),靭帯,関節包(関節を包む袋のこと)などといった軟部組織の変化によって関節の動きが制限された状態と定義されています(図3).そして,その主な原因は一定期間,関節を動かせなかった,あるいは動かさなかったといった,いわゆる“関節の不動”によって発生します.ちなみに,動物実験の結果ではたった1週間,実験的に関節を動かさないようにしただけで拘縮が発生することが明らかになっています.また,高齢者に拘縮が発生する場合の多くは,その背景に加齢などに伴う身体活動量の減少が影響しています.実際,療養病床入院中の高齢者128名を対象に調査したことがありますが,この結果では身体活動量が少ないほど拘縮が重篤化することが明らかになっています.

図3 拘縮の原因(出展;参考文献2)のP28の図1)

拘縮の正体

では,一定期間,関節の不動を行うと皮膚や骨格筋,関節包などといった軟部組織にはどのような変化が起こるのでしょうか.この点に関しては,これまで動物実験を通して詳細に調べてきました.その結果,皮膚ではその深層部の皮下組織,骨格筋ではその内部に存在する筋膜(筋周膜や筋内膜という),関節包ではその内層の滑膜に,コラーゲンと呼ばれるタンパク質の著しい増加に伴う線維化と呼ばれる変化が生じることがわかりました(図4).

少しやさしい表現をすると,豚肉や牛肉などの内部にかたいスジが含まれていることがあり,それを食べると食感的にかたく感じると思います.このスジこそがコラーゲンであり,本来柔らかい組織にコラーゲンが増えてしまうとかたくなってしまい,結果的に関節の動きも制限されてしまいます.つまり,このような状態が拘縮の正体です.

図4 拘縮の正体 (出展;参考文献4)のP88の図2-5,P115の図3-21,P157の図5-4)

拘縮対策の実際とそのポイント

①日々の生活の中でからだを動かす

拘縮の正体である軟部組織の線維化は,一定期間の関節の不動によって発生します.ということは,拘縮を予防するためには関節の不動を起こさないようにすること,すなわち,日々の生活の中でしっかりとからだを動かすことが重要です.特に,身体活動量が少ないほど拘縮が重篤化することが明らかになっていますので,全身を動かし,身体活動量を高めることが重要です.

そして,その際のポイントですが,実施時間は数分程度と短くてもかまいませんので,できるだけ頻度を多くしたが効果的といわれています.ですので,朝,昼,晩の決まった時間にラジオ体操のような全身運動をすると良いでしょう.また,杖やシルバーカーなどの有無に関わらず,歩ける人は数分間歩くだけでも脚の拘縮の予防に効果的ですので,定期的な散歩やウォーキングなどはおすすめです(図5).

図5 日々の生活の中でからだを動かす(出展;参考文献2)のP106の図8,P135の図12)

②介助であってもからだを動かす

拘縮は発生していないものの,すでに自分自身でからだを動かすことが難しい方の場合は介助であってもからだを動かすことが重要です.例えば,寝ていることが多い方はできるだけ起こして座ってもらう,車いすなどに座りっぱなしの方はできるだけ立ってもらうといったことだけでもあごや首,背中,脚の拘縮の予防に効果的です.

また,介助者によって関節を動かすこともできますが,これは安易に行わない方が良いです.自分自身でからだを動かすことが難しい方の場合は皮膚や骨格筋,骨なども非常にもろく,弱くなっていますので,やり方によってはケガにつながり,最悪の場合,骨折や脱臼などを引き起こすこともあります.ですので,関節の動かし方については医師や理学療法士,作業療法士などといったリハビリテーションに精通している専門家に相談した上で行うよう心掛けてください(図6).

図6 介助であってもからだを動かす(出展;参考文献2)のP247の図7)

③痛みに留意する

からだを動かしていないと痛みが起こりやすいこともわかっており,ひどい場合はからだに触れただけで“痛い”と訴える方もいます.当然,このような時はまず専門家に相談しましょう.そして,介助の際のポイントとしてはあまり痛くないところから動かす,痛みが強い部分は“さする”“なでる”といった愛護的な触れ方を徹底することが重要で,全く触れないようにすると痛みはさらに強まりますので,この点は留意が必要です.

④拘縮が発生してしまったら

すでに拘縮が発生してしまっている方への対応については必ず専門家に相談してください.相談の上でアドバイスされる内容,例えば,温湿布や温水浴などの温熱療法は軟部組織を柔らかくする効果がありますので,その励行に努めるなどのアドバイスがあるかもしれません.また,温熱療法の後に関節を動かすとより効果的ですので,そのやり方についてもしっかりとアドバイスを受けた上で行うと良いと思います.当然,痛みを伴うことも非常に多いですので,愛護的な触れ方を徹底しましょう.

まとめ

高齢化の進展とともに拘縮の有病率はますます増加することが懸念されています.そして,高齢者における拘縮は介護の難易度を高めるだけでなく,最期の姿に直結します.つまり,「人間の尊厳」を守る意味でも拘縮を予防することは極めて重要ですので,このことをご理解いただければ幸いです.

【参考文献】

  • みずほ情報総研:平成29 年度産業経済研究委託事業 高齢化社会の進展と地域経済・社会における課題に関する調査研究報告書.2018.
  • 福田卓民,沖田 実(編): フレイル高齢者の関節可動域-ケアの指標としての活用.三輪書店,2023.
  • 大田仁史:終末期リハビリテーション-リハビリテーション医療と福祉との接点を求めて.荘道社,
  • 沖田 実(編):関節可動域制限第2版-病態の理解と治療の考え方.三輪書店,2013.
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