• 認知症
  • 【公開日】2024-03-07
  • 【更新日】2024-03-11

認知症ケアにおけるメモリーブックの作り方や活用方法

認知症ケアにおけるメモリーブックの作り方や活用方法

認知症の方々が集まるサロンである「認知症カフェ
私の研究室では患者の方々とそのご家族の支援活動を行っています。

今回ご紹介するメモリーブックは、当研究室で開催していました「認知症カフェ」で利用していたものです。認知症カフェとは、オランダの「アルツハイマーカフェ」から始まり世界に広がりました。認知症の方やご家族、地域住民、専門職などが交流を深めることができる場です。認知症カフェの目的は、家に閉じこもりがちな認知症の方々やご家族の通い集まる場を提供し、孤立してしまうことを防いだり、心理的負担やストレスを減らすことです。

 

その認知症カフェにおいて、認知症の方々が楽しく会話するのに適し、さらに支援側も活用しやすいメモリーブックを用いました。これから、メモリーブックとはなにかに始まり、その次に効果、メモリーブックをするための準備と活用について、最後にメモリーブックをする際の重要な点についてお伝えしていこうと思います。

中島 園美 准教授
神戸薬科大学 薬学部
公認心理士・臨床心理士・教員
日本心理臨床学会・日本カウンセリング学会・日本マインドフルネス学会・日本薬学教育学会・日本薬学会・日本在宅医療学会
大阪大学大学院人間科学研究科後期博士課程を修了後、現在は神戸薬科大学にて「医療コミュニケーション」「在宅医療演習」「高齢者医療」などを担当し医療プロフェッショナリズムを持った薬剤師育成に従事している。研究テーマは慢性疾患患者と家族介護者支援、表現療法など。
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認知症ケアにおけるメモリーブックとは

一般的にメモリーブックとは、認知症の方から生まれてからの生活をお聴きし、それを文章にして、写真やイラストを加えて1冊のノートにまとめたもので、アメリカの言語病理学者であるBourgeois教授が考案しました。

本研究室では、そのメモリーブックをより簡易に、時間も短く、そしてアクティビティとして活用できるように、工夫したものを用いました。一般的にはその方たちの人生を全部お聴きしていく方法が取り入れられていますが、継続して参加して頂いたり、短時間でも十分楽しめるように、毎回テーマを設定した写真やイラストをお見せして、それに関する思い出を引き出してお聴きしていく構成にしました(テーマ設定につきましては、後ほどお伝え致します)。そして、その毎回作ったものを、ファイルに収めていき、後でゆっくりご家族と一緒に見て頂けるメモリーブックとなるようにしました。

高齢の認知症の方への心理療法に「回想法」というものがあります。これは、昔の懐かしい写真や音楽にふれながら、ご自分の経験や思い出を語っていただくものです。この回想法も簡便で大変有用です。これは心理療法のひとつですが、心理カウンセラー以外でも誰でもすることができます。語られる内容は、ご自分が一番輝いていた頃の話が多いと言われています。それらによって、満足感や肯定的な感情が生まれたり、活動性、自発性、集中力の向上や自発語の増加が促されたりする効果があります。その方にとって大切な思い出をお聴きしていくという本質的なところは同じですので、メモリーブックは回想法のひとつと言え、効果的なツールとなると思っています。

メモリーブックの効果とメモリーブックを用いるメリット

メモリーブックの効果としては、回想法で得られる効果とほぼ同じであり、ご自分が生き生きと生活されていた頃を思い出すことによる満足感や精神的な安定、自発語の増加があります。さらに、それをお聴きする側がその認知症の方の思い出を知ることで、理解や共感が生まれ、お互い良い関係が促進されるとされています。

実際どのような効果があったのか

上記の効果やメリット以外にも、お話を聴く側、つまり、ケアスタッフやご家族などにとってもメリットがあります。

本研究室で実施した「認知症カフェ」では、学生がお話をお聴きする側になったのですが、最近の若い方は祖父母と同居していないことが多く、高齢者の方々と話す機会がほとんどありません。そこで、年代がかけ離れていることからも何を話題にしたらいいかわからないと困難感をかかえてしまう可能性がありました。そのため、テーマを設定したメモリーブックを用いることにしたのですが、思惑通り学生はうまく、テーマに関する写真やイラストを指で示しながらお話を引き出すことができ、学生もリラックスして、楽しくお話を毎回聴かせていただいていました。このように、メモリーブックというツールを用いることで容易にコミュニケーションが図れるというのも大きなメリットだと考えられます。

「認知症カフェ」でのメモリーブックの時間でのご様子は会話を楽しまれていることが伝わり、またにこやかな表情を見ることができました。さらに、一緒に来られたご家族の方はその話をされる様子をご覧になり、「あんなによく話すとは」といつもより会話が多いと喜ばれてらっしゃいました(ご家族の方も一緒にメモリーブックをすると、ご家族の方が話すことが多いことがあったので、その時間はご家族同士で集まって頂き情報交換などの話し合いの時間としました)。帰宅後も表情が明るいともお伝えして頂きました。

このように、ご自分の興味のあることをご自分のペースで話せることによって、自己肯定感、幸福感をもたらされると考えています。

メモリーブックの作り方と活用方法

メモリーブックは、準備として台紙を作成します。サイズは自由ですが、認知症カフェでは、A4サイズを使用しました。A4サイズのコピー紙だと手に入りやすく、またお聴きした言葉を書き込んでいくことができるサイズ感です。小さいサイズだと、書き込みがしにくく、また写真や絵のサイズも小さくなってしまいます。

まず、台紙に印刷する写真や絵のテーマを決めます。ポジティブな感情が生まれるようなテーマにするようにします。テーマとしては、高齢者の方々にとって良い思い出であろう、お祭り、お正月やひな祭りのような季節の行事、結婚式などお祝い事の行事、話題にしやすい季節の食べ物や風景(紅葉や桜など)、人生の良い思い出が回想されやすい、幼少期の遊び(コマや鬼ごっこなど)、学校時代の行事(入学式や卒業式)、子育てに関するもの、仕事に関するもの(その方の職業がわかれば、それに合った写真。以前、「認知症カフェ」に参加頂いた方に、パティシエの方がいらっしゃいました。そこで、様々なケーキの写真を台紙に印刷して準備したところ、パティシエ時代の多くの思い出が語られました。)、などがあります。

テーマを決めたら、PCを用いてインターネットの画像からテーマの写真やイラストを選び、A4サイズのWordの白紙にコピーをして配置していきます。インターネットでは、無料で使用できる写真やイラストが豊富に掲載されています。適度に隙間を空けて配置するのがコツで、その空白部分にお聴きしている側が語られた言葉を書き込んだり、またその語られた内容に関する絵を描いたりしていき話を広げていきます。台紙がそのような言葉や絵で埋められていくことで、その方のオリジナルなメモリーブックとなっていきます。後に、ご家族と一緒にそれを眺めながらお話をする時間も素敵だと思われます。お話を文章や絵を書き込むために、あらかじめ色とりどりのサインペンなどを準備しておきます。

下記に使用した台紙を掲載いたします。

そして、メモリーブックを使ってお話をした後の台紙を下記に掲載します。

このように写真や絵から楽しかった記憶がよみがえります。

これらを、ファイルにまとめて、大切な思い出ブックが出来上がっていきます。

時間に決まりはありませんが、毎回30分ほどとしました。

最後に

メモリーブックを用いる場合で一番大切なことは認知症の方のお話を聴く態度です。
重要ポイントを以下に4つ挙げてみました。

  • 相手が発した言葉を反復したりしてしっかり受け止めていることを表し、共感的な言葉を返す。例えば、「昔は~で楽しかったです」と話されると「~さんは、~されて楽しかったのですね」や「お話を聞いているだけでも楽しそうです」など。
  • 話の内容に関心を持つ。世代の違いや昔のことで分からないことでも、関心を持ってお聴きし、分からないことは質問して教えて頂いたりしてみます。お聴きする側も、昔の行事や生活を知ることが出来たりし、楽しい時間となります。
  • 相づち(「そうだったんですね」「すごいですね」など)を打ったり、表情も豊かに加えたりしてみる。例えば、目を見張って驚いたりなどです。
  • お話がでてくるのをゆっくり待つなど、その方のペースに任せることも重要です。それでもお話が出てこない時は、写真や絵を指しながら、応えやすいものからうまくお話を聴きだすようにしてみます。また、テーマと違う話が出てきたら、そちらのお話をお聴きしていく柔軟な姿勢も大切でしょう。

今回ご紹介した少しアレンジしたメモリーブックの方法は、認知症カフェ、ケアホームなどでのアクティビティとして、取り入れやすいかたちにしていますので、是非用いてみてください。

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