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  • 【公開日】2024-02-28
  • 【更新日】2024-02-28

住み慣れた地域の中でのとも暮らし -ホームホスピス-

住み慣れた地域の中でのとも暮らし -ホームホスピス-
ホームホスピスという仕組みをご存じでしょうか?ホームホスピスは高齢者や難病をお持ちの方など様々な方が利用できる「」です。本コラムではホームホスピスについて解説します。
山口 健太郎 教授
近畿大学 建築学部
日本建築学会、都市住宅学会、人間・環境学会など
京都大学大学院工学研究科を卒業後、㈱メトス、国立保健医療科学院協力研究員、近畿大学理工学部講師、建築学部准教授を経て現職。専門は建築計画、高齢者施設の計画。主な著書(分担執筆)に小規模多機能ホーム読本(ミネルヴァ書房)、ケア空間の設計手法(学芸出版社)などがある。一般社団法人全国ホームホスピス協会理事。
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1.ホームホスピスとはどのような仕組みでしょうか?

ホームホスピスとは、5人~6人の人がともに暮らす家です。ホスピスというと、がん末期の方の緩和治療をイメージしてしまいますが、ホームホスピスは、がんの方だけではなく高齢者や難病をお持ちの方など様々な方が利用できます。ホームホスピスの仕組みは、住まいケアを分けていることに特徴があります。サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームと基本的な仕組みは同じですが、住まいとしての賃貸住宅に訪問介護などの外付けサービスを利用することにより、ケアを受けながらも安心した生活を営むことができます。

ホームホスピスの住まいとは「」です。英語では家を表す言葉に2つの種類があります。一つはHouse、もう一つはHomeです。Houseとは物理的な建物を指しており、誰も住んでいない建物でも家の形をしていればHouseとなります。その一方、Homeとは人々の生活により築かれてきた家を指しています。みなさんもマイホームというときには、箱としての家という意味よりも、愛着あるわが家という意味で使っているのではないでしょうか。ホームホスピスのホームという言葉には、愛着あるわが家のような場所で生活してもらいたいという理念が込められています。そのためホームホスピスでは、民家を活用しています(写真1、2)。

写真1 ホームホスピスの外観(われもこう:熊本市)
写真2 ホームホスピスの台所・食堂(われもこう:熊本市)

民家にも様々なものがありますが、地域の中で長く使われ、愛されてきた建物を民家と呼んでいます。やはり長く使われるものには、多くの住民が大事にしてきた愛着歴史があり、民家に入ると「ホッとした」気分になります。認知症を患っている方、重い病気を患っている方も同じく民家に入ると心が落ち着き、安心することができます。ホームホスピスでは民家の力を利用して、自宅から引越ししてきてもすぐになじむことができる環境を整えています。なじみの環境の重要性という点では認知症高齢者グループホームとも共通しています。これまでの生活や環境を継続することで、転居に伴うリロケーションショック(環境移行によるストレス)を緩和できます。

このようにホームホスピスは民家を活用していますので、1軒あたりの住人1)は5から6名程度の少人数となります。現代的な表現になりますが5~6人の方がともに暮らすシェアハウスと思っていただけると理解しやすいかもしれません。

1) ホームホスピスは施設ではなく、居住者の家となりますので、住人という言葉をつかっています。

2.ホームホスピスに必要な費用を教えてください

ホームホスピスには、24時間体制で常時1名以上の職員が常駐しています。加えて外部の訪問介護事業所や訪問看護事業所を利用し、住人の生活を最期まで支えていきます。自宅で利用できる介護保険や医療保険の在宅サービスはホームホスピスでも利用できます。

費用の仕組みは、家賃、水道光熱費、食費・雑費、生活支援費に加えて、介護保険料の自己負担分が必要となります2)。家賃、水光熱費は家をシェア(共有している)分の費用となり、食事は実費(調理代等含む)となります。生活支援費は24時間体制で常駐している職員の費用です。地方より都市部の方が物価(家賃や食費)は高くなりますので、一概に費用を述べることはできませんが、関西圏の都市部での費用をみると家賃、水光熱費、食費、生活支援費を含めて15万円~18万円程度となっています(2024年2月時点)。この費用に訪問介護や訪問介護などを利用した際の介護保険料(自己負担分)を加えたのが1か月あたりの費用です。少し高いと感じる方もおられると思いますが、水光熱費が1日1000円、食費が1日1000円、生活支援費(24時間の生活支援)が1日1000円~3000円とすると1日あたり3000円~5000円の費用が必要となります(全て材料費だけではなく人件費も含む)。30日分に換算すると9万円から15万円となり、そこに家賃が加わると最低でも15万円から20万円程度となります。ホームホスピスはNPO法人など小規模な事業所により運営されていることが多く、地域の中で良いケアをしたいという思いを持って事業を行われています。小規模な環境の中で良いケアをするための最低限の費用設定になっています。

2) 各事業所により費用の内訳、内容は異なります。

3.ケアの内容や特徴について教えてください。

ホームホスピスでは、最期まで住人に寄り添うホスピスケアを提供します。終の棲家となるのがホームホスピスです。ホームホスピスでは常駐している職員が介護や看護の専門職であり、24時間体制でケアを提供します。訪問介護事業所や訪問看護事業所とも連携しており、様々な状態の方に対応できます。常駐職員が基本的なケアを担い、その上で個別に応じたケアを外部の訪問介護事業所が担うというイメージになります。在宅医療が可能な医師とも連携していますので、最期の瞬間までホームホスピスで生活することができます。

ホームホスピスは住まいとケアを分けていますので、在宅で利用してきた訪問介護サービス、ケアマネジャーを利用することもできます。ホームホスピスから外部のデイサービスに通う人もいます。ホームホスピスに入居したからと言って、全て同一事業所のサービスを使う必要はありません。地域にある資源を活用しながら生活していくのがホームホスピスの理念となります。地域の訪問診療、訪問介護事業所、訪問看護事業所、居宅介護事業所などと連携しながら地域全体で支えていくことを目指しています。

また、各事業所により対応できるレベルは異なりますが、高度な看護力を有する事業所も多く、訪問診療の医師と連携しながらがん末期の方や神経難病などに対する緩和ケアを行っている事業所もあります。

4.どのような人におすすめですか?

ホームホスピスは、民家を活用した小規模な事業所であるため住人と職員、住人と住人の距離がとても近く、アットホームな雰囲気になっています。ホームホスピスが目指しているとも暮らしとは、という未経験の出来事を前にしながらも孤立や孤独になることなく、他の住人や職員、家族とのつながりを感じながら、自分らしく日々の生活を営んでいくことを目指しています。まずは、とも暮らしという暮らし方に共感する人におすすめです。

また、ホームホスピスでは住人だけではなく、住人と家族のつながりを大切にしています。看取りはご本人だけではなく、家族にとっても大きな出来事となります。愛する人との別れをどのように受け止め、次のステップへと進んでいくかは、看取りの過程と大きく関わってきます。ホームホスピスでは、住人との別れを受容し、そして、振り返ることができるように家族の支援も行っています。多くのホームホスピスは、住人の家族にとっても家のようであり、住人が亡くなった後もときおり訪れ、日々の出来事を共有し合う場でもあります。住人同士や家族と住人、そして、職員とのつながりを大切にしたいという人にもおすすめです。

5.ほかの老人ホーム等との違いは何でしょうか?

ホームホスピスは、制度の中に位置づけられた仕組みではなく、制度のはざまを埋めるセーフティネットとしての役割を持っています。仕組みとしては、サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームと同じく、住まいと介護を分けて、住まいとしての賃貸住宅に訪問介護等の外付けサービスが付帯しています。一見するとホームホスピスも住宅型有料老人ホームでは?と見えますが、ホームホスピスは高齢者だけに限らず、地域の中でホームホスピスを利用したいという人を受入れています。

日本の制度は年齢や疾病の状態で施設を分けているため、制度のはざまからこぼれ落ちてしまう人や、制度の中でうまく対応できない人が生じてしまいます。そのような制度のはざまを埋めているのがホームホスピスです。高齢者だけを対象とした仕組みではないため、有料老人ホームではありません。ただ、制度に位置付けられていないからといって、ホームホスピスに基準がないわけではありません。ホームホスピスとは全国ホームホスピス協会の基準を満たし、厳しいレビューを受けた事業所のみが称することができる名称3)です。全国ホームホスピス協会では、理念、建物、ケアについての現地レビューを行い、その上で認証していますので、行政の基準よりも厳しいチェックが入っています。さらに、開設後も定期的な研修を行い、継続的にレビューを行っています。

さて、読者の皆様は、独自基準があるとは言え、制度に位置付けられていないことに不安を感じる方もおられると思います。そこで、なぜホームホスピスが制度に位置付けることを目指していないのかを表す身近なエピソードをご紹介したいと思います。

2020年に始まった新型コロナウイルスは全ての人々に大きな影響を与えました。特に病院で入院している重度の方にとっては苦しい時期がありました。病院は面会謝絶となり、残り少ない時間の中で家族とも会えない日々が続いていました。ある若いがんの末期の方はどうしても家族と最期の時間を過ごしたいと思っていましたが、家族も高齢であり自宅に戻ることができませんでした。そのような中、高齢のお母様を担当していたケアマネジャーの方が相談に来られたのがホームホスピスでした。ホームホスピスにも重度の方が利用していますので、外部の方を容易に迎え入れることはできません。しかし、多くのホームホスピスでは、感染リスクに対して細心の注意を払いながら面会を許可していました。それは、親族の終末期や看取りは、かけがえのない、取り返しのつかない時間だと考えているからです。

さて、この若いがん末期の方は病院からホームホスピスに移り、最期の時間を家族とともに過ごされました。お母様にはがんであることを打ち明けていなかったのですが、最期の時間を過ごす中でお母様もそれを理解し受け止めようとされていました。利用は短期間でしたが、家族や知人に囲まれながら最期を迎えることができました。この方はコロナ禍の中でも愛する人々に囲まれて看取りを迎えることができましたが、悔いの残る最期であった人も少なくないと思います。なぜ、ホームホスピスではできることが、他の施設ではできなかったのか。その背景にあるのが制度です。

制度というのは、自分たちに課された厳しいルールである一方、便利な存在でもあります。年齢や症状、行政からの要請等により、利用を断ったり、利用者の行動を制限することができます。上記の方のように、数日だけでも家族と一緒に過ごしたいという思いを前にしても、「基準がありますので」と断ることができます。ホームホスピスが制度に位置付けられていないのは、制度を守るだけではなく、制度では対応できない状況に対しても柔軟に対応できるようにするためです。そのためにもホームホスピスでは独自基準をつくり日々のケアの質が低下しないように取り組んでいます。

3) ホームホスピスとは、一般社団法人全国ホームホスピス協会の認定を受けた事業所を指します。

6.まとめ

介護保険の制度化以降、さまざまな施設種別が登場し、どのように違うのか分かりにくい。という状況の方も多いと思います。その中でもホームホスピスは、自宅に近い環境の中で「看取ることができる・看取られることができる」終の棲家です。高齢者施設でも看取りを実践している事業所が多くなっていますが、最期の瞬間は救急搬送され病院で亡くなったという事例も少なくありません。ホームホスピスでは、看取りに対する高い専門知識をもった職員が地域の在宅医療と連携しながら、最期までゆったりとした環境の中で過ごすことができます。ホームホスピスは独自の仕組みであるため、その数は多くありませんが、その理念は全国に拡がっています。ぜひ一度、お近くのホームホスピスを訪問してみてください。

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