脳卒中による後遺症を軽くするためのリハビリ・行動

脳卒中による後遺症を軽くするためのリハビリ・行動

脳卒中は後遺症を残しやすい病気であり,手・脚の麻痺は脳卒中による症状の大きな特徴です.本コラムでは家庭内で実践できる後遺症を軽くするためのリハビリ・行動を紹介します.

林 浩之 准教授
星城大学リハビリテーション学部作業療法学専攻
作業療法士,博士(リハビリテーション療法学)
日本作業療法士協会,日本義肢装具学会,日本手外科学会
名古屋大学大学院医学系研究科博士課程修了.作業療法士免許取得後,一般病院,大学病院で主に脳卒中や大腿骨近位部骨折,手外科患者さんのリハビリテーションに従事.その後,大学で勤務し,教育,研究,臨床に取り組んでいる.研究では,「運動を介した脳卒中後の身体とこころの回復」を主なテーマとしており,脳卒中患者さんの生活再建に努めている.
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脳卒中者の概要と麻痺

日本の脳卒中発症者は年間で約30万人,世界で見ると約1,200万人であり,有病者数は1億人を超えると推計されています[1]

脳卒中の症状としては,言葉を話すことや理解することの難しさ,物を見ることの難しさなど障害される脳の部位によって様々ですが,手・脚の麻痺というのも脳卒中による症状の大きな特徴です.手を動かす,脚を動かすという命令は大脳皮質から出力されます.大脳から脊髄までの経路を錐体路と呼び,この錐体路のどこかが出血や梗塞でダメージを受けると大脳からの命令が手や脚に伝わらなくなり,半身の麻痺が生じます.麻痺の程度は様々ですが,歩くことやトイレ動作,洗体や更衣など様々な日常生活に困難をきたすこともあり,本人,家族ともにもどかしい思いを持つこともあるかもしれません.

麻痺は発症時よりも回復することが多いのですが,一般的に発症後3か月までとされています.そのあとの回復はほとんどないと考えられています.ただし,最近では,継続した運動によりさらなる回復を示すことも報告されてきており,麻痺の回復に関するさらなる研究発展が待ち望まれます.

厚生労働省による2020年(令和4年)国民生活基礎調査の概況によれば,介護が必要となった主な原因として,脳卒中の割合は高く,特に要介護4や5となると脳卒中が第1位となります(表1).一般的に,麻痺が重度であるほど介護を多く要することが多いです.

 

(単位:%)

現在の要介護 第1位 第2位 第3位
要介護1 認知症 26.4 脳卒中 14.5 骨折・転倒 13.1
要介護2 認知症 23.6 脳卒中 17.5 骨折・転倒 11
要介護3 認知症 25.3 脳卒中 19.6 骨折・転倒 12.8
要介護4 脳卒中 28 骨折・転倒 18.7 認知症 14.4
要介護5 脳卒中 26.3 認知症 23.1 骨折・転倒 11.3

表1:要介護度とその原因(出典:2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況の資料を参考に作成)

家庭内の運動方法や注意点について

上記の通り,脳卒中者は介護を必要とすることがあります.一方で,介護度を減らすことも可能であり,より自立した生活を望む場合は,家庭での体・心づくりが重要となってきます.発症から数か月以上経過した麻痺については,どうしても回復に限界があるため,麻痺した手や脚の回復に期待するだけではなく,反対側の麻痺していない手や脚を強化することも必要です.なぜなら,麻痺していない手や脚がどれだけ正確に,強く働くかによって可能となる動作や活動が増えてきます.

(1)脚の運動方法と注意点

そのため日ごろからの運動がとても重要になります.例えば,家庭で生活する中で,不安を感じることとして転倒が挙げられるかと思います.転倒を予防するためには,動作時に上手にバランスをとることが必要となってきます.

発症から約1~2年経過した脳卒中者を対象とした研究では,1回15分,週3回,背もたれのある椅子からの立ち上がり練習を4週間繰り返すことで,バランスをとる能力や太ももから足首までの両脚の筋力に改善があったことが報告されています[2].この運動は比較的単純な運動であり,バランスや筋力に良い影響をもたらします.また,背もたれのある椅子からの立ち上がりであるため安全性も高いと思います.ただし,立ち上がりの際にふらつく場合や何かにつかまらなければ立ち上がることが難しい場合は,テーブルを利用して縁を把持することや杖に手をかけておくとより容易になり安全性も増します(図1).

図1:安全のために机に手をついて立ち上がる・座る

また,歩行可能な方のみが適用となりますが,20分間止まらずに歩くことで歩行速度が上がり,これは地上歩行,トレッドミル歩行のどちらでもでも同等の効果が得られます[3]

注意点としては,この運動は歩行であるため運動強度は高くはありませんが,「息が少しはずむ」,「ややきつい」という程度にとどめておくことが良いと思います.できるだけ長い時間歩き続けるということが歩行能力を高めることにつながりますので,散歩やトレーニングジムなどでも意識してみてはいかがでしょうか.

(2)腕の運動方法と注意点

肩や手に関しては,関節が固くなりやすく毎日動かすことが重要です.麻痺した腕が動きにくい場合は,麻痺していない手を利用して関節が固くなるのを予防します.

おすすめの方法は机上のタオルがけです.机の前で椅子に腰かけ,両手を組み,机の上においたタオルに両手を乗せます.そして体全体を前に倒し,机を拭くようにタオルを前に押し出し,そこで10秒ほど止め,もとに位置に戻します(図2).これを繰り返し15分ほど行えば十分です.この運動は肩から指までの関節が固くなることを予防します.よくリハビリテーション室にあるプーリー(滑車)という器具を用いて腕の運動を行うこともあるかと思います.ただし,脳卒中者においてはプーリーを利用した運動で肩に痛みが生じやすく,あまりお勧めできるものではありません.

図2:タオルを前に押し出し,肩から手の関節をしっかり伸ばす

このように病院を退院した後も運動を継続することで身体機能や動作能力を高めることが可能です.実際,私が非常勤として勤務する法人にもデイケアやデイサービスがありますが,そこに通い運動を継続している人は運動能力の低下を抑制できています.

脳卒中後の認知機能低下予防

これまで運動に着目してきましたが,認知機能も脳卒中とかかわりがあります.脳卒中後の認知機能(いわゆる考えること,記憶すること,計画立てて行動することなど)の低下は,脳卒中者の活動や社会参加を制限・制約します[4].それだけではなく,介護者の介護負担も大きくなります.そのため可能な限り認知機能低下を抑制することが重要です.認知機能低下を抑制するために重要なことは地域に出ることです.脳卒中者の多くは,以前と同じように仕事や余暇活動を再開することが難しいかもしれません.しかし,認知機能の維持のためにも地域社会への参加が重要であることは国際的に認識されています[5]

(1)孤立状態を避けることが認知機能を保つ

可能な限り1人にならず他者とコミュニケーションをとり,生活が困難なときには社会資源を十分に活用して,孤立状態を避けることが望ましいです.実際,我々は孤立状態と認知機能との関連性について研究しました.脳卒中者に限定したわけではありませんが,地域で生活している高齢者を対象としたこの研究において,約半年という短い期間であっても他者との交流がない人や地域に参加しない,いわゆる孤立状態の方々は,そうでない方々に比べて認知機能低下の発症が2倍以上も多いという結果になりました[6].この結果については我々も驚いたのですが,いかに社会に出ることや人と関わること,社会資源を活用して他者の支援を受けることが重要なのかが分かります.

(2)地域の催しに参加することが認知機能を保つ

地域には介護保険等を利用した通所サービスもありますが,それ以外にも各自治体が独自に開催しているものもあります.例えば,交流を目的とした地域サロンではみんなでお茶を飲んだり,工作をしたり,鑑賞会をしたりと様々な取り組みが実施されています.その他にも,体力向上や介護予防を目的とした運動教室もあります.これらに参加することで認知機能が低下することを防ぎ,介護状態になりにくいことが数多く報告されています.私が勤務する大学でも,学生がサロンや運動教室等に参画しています.同世代だけでなく,若い世代との交流も刺激的だと思います.

リハビリをしている高齢者との向き合い方

脳卒中後,家庭に戻ってもリハビリあるいは運動などを継続している方の多くは,友人と歩いて温泉巡りをしたい,家族に料理を振舞いたい,お墓参りに行きたい,人の手を借りずに自立して生活したいなど,何らかの目標を持って取り組んでいるかと思います.しかし,高齢になれば基本的には五感や筋力,柔軟性等が徐々に低下してくることは当然です.そのためどんなに一生懸命励んでも十分な効果が出ずに目標を達成することが難しいこともあるかもしれません.時にはご家族と意見の対立があるかもしれません.作業療法士や理学療法士は,運動や認知機能に対する効果的な改善方法,さらに自宅でのよりよい生活方法を指導できるリハビリテーション専門家です.運動や生活方法で迷われたら,ぜひ作業療法士や理学療法士にご相談ください.

コラム:有酸素運動が麻痺や認知機能を改善する?

私の研究室では有酸素運動を行うことによって,麻痺や認知機能の回復が促進されるか検証しています.有酸素運動を行うことで脳内にBDNFという神経栄養因子が発現します.このBDNFは脳の神経成長や生存に非常に重要であり,脳卒中後の回復を促進する可能性も指摘されています.実際,我々は,発症から3か月以上が経過し麻痺の回復がほぼとまった脳卒中の患者さんに4週間の有酸素運動を導入したところ,腕の麻痺がさらに回復したことを確認しました[7].現在は,さらにエビデンスを付加するために脳卒中患者さんに協力してもらい,有酸素運動によってBDNFが増えるか,麻痺や認知機能が回復するか研究しているところです.

まとめ

脳卒中は後遺症を残しやすい病気であり,生活を困難にすることもあります.しかし,リハビリテーションの立場からは,ご家庭,あるいはデイケアなどのサービス利用,または地域に出ることによって運動や社会交流等を継続することをお勧めします.これらのことにより身体機能や認知機能の低下を抑制することができ,さらに生活しやすくなることもあります.もし運動方法など専門的なアドバイスを求めたい場合は,作業療法士や理学療法士に相談することも良いと思います.

【参考文献】

[1]  Global, regional, and national burden of stroke and its risk factors, 1990-2019: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2019. Lancet Neurol 2021; 20:795-820.

[2]  Tung FL, Yang YR, Lee CC, Wang RY. Balance outcomes after additional sit-to-stand training in subjects with stroke: a randomized controlled trial. Clin Rehabil 2010; 24:533-42.

[3]  Bonnyaud C, Zory R, Robertson J, Bensmail D, Vuillerme N, Roche N. Effect of an overground training session versus a treadmill training session on timed up and go in hemiparetic patients. Top Stroke Rehabil 2014; 21:477-83.

[4] Stolwyk RJ, Mihaljcic T, Wong DK, Chapman JE, Rogers JM. Poststroke Cognitive Impairment Negatively Impacts Activity and Participation Outcomes: A Systematic Review and Meta-Analysis. Stroke 2021; 52:748-60.

[5]  Mountain A, Patrice Lindsay M, Teasell R, Salbach NM, de Jong A, Foley N, et al. Canadian Stroke Best Practice Recommendations: Rehabilitation, Recovery, and Community Participation following Stroke. Part Two: Transitions and Community Participation Following Stroke. Int J Stroke 2020; 15:789-806.

[6]  Noguchi T, Kubo Y, Hayashi T, Tomiyama N, Ochi A, Hayashi H. Social Isolation and Self-Reported Cognitive Decline Among Older Adults in Japan: A Longitudinal Study in the COVID-19 Pandemic. J Am Med Dir Assoc 2021; 22:1352-6.e2.

[7]  Kato A, Hayashi H. Aerobic Exercise for Upper Limb Function in a Patient With Severe Paralysis With Subacute Stroke: A Case Report. Cureus 2023; 15:e39502.

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