地域包括支援センターと介護予防

地域包括支援センターと介護予防
介護の入り口に立ったみなさんに、地域包括支援センターの役割と介護予防について解説します。
川島典子 教授
福知山公立大学 地域経営学部 医療福祉経営学科
日本社会福祉学会、日本地域福祉学会、日本ソーシャルワーク学会、日本ジェンダー学会、日本NPO学会、日本地域政策学会、日本社会関係学会、日本計画行政学会 、会員など
1986年 同志社大学文学部社会学科社会福祉学専攻卒、元産経新聞大阪本社社会部記者、現在、日本ペンクラブ会員。2007年 同志社大学大学院文学研究科社会福祉学専攻博士後期課程単位取得満期退学、2018年 同志社大学大学院総合政策科学研究科博士課程後期退学、政策科学博士。主な研究テーマは包括的支援における介護予防と子育て支援。
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ご家族が要介護状態になったら地域包括支援センターへ

みなさんは、地域包括支援センターをご存じでしょうか?地域包括支援センターは、日常生活圏域にあり、介護などの相談にのってくれる機関です。地域包括支援センターには、総合相談業務などにあたる社会福祉士、保健師、主任ケアマネージャーの3職種が常駐し、みなさんの介護を支えています。

地域包括支援センターは、2006年に介護保険制度が初めて改正された時にできた「地域包括ケアシステム」を実践する機関として設置されました。「地域包括ケアシステム」とは、保健・医療・福祉の専門職が、地域のボランティアなどとも協働して、地域で包括的に高齢者をケアしていくシステムです。

地域包括支援センターは、当初、2万人~3万人規模に1ケ所設置することが定められていました。しかし、今は、中学校区に1つある自治体も少なくありません。市が直轄して運営しているセンターもあれば、社会福祉法人や医療法人、社会福祉協議会、NPO法人、生協などの協同組合などが市から委託されて運営しているケースもあります。

実は、数年前に私の父も脳梗塞で倒れ、右半身完全麻痺、全失語症になりました。半年ほど総合病院に入院しましたが、やがて、退院しなくてはならないことに・・・。私の実家は、島根県松江市にあります。当時、私は福岡の大学に勤務していて、弟は大阪で働いていました。退院後は、高齢の母が、ひとりで父の面倒をみなければなりませんでした。

「どうしていいのか、わからない」と悩む母に、私は、地域包括支援センターに相談することを勧めました。「地域包括支援センターって何?どこにあるの?」と尋ねる母。私は、ネットで実家の近くにある地域包括支援センターを探し、電話番号を調べて母に伝えました。「ここに電話するといいよ。保健師さんか主任ケアマネージャーさんが病院に来てくれると思うから・・・」。

母は、すぐに最寄りの地域包括支援センターに電話をかけたようです。やがて、センターのケアマネージャーさんが父の入院する病院まで来てくれて、退院後の生活の各種相談にのってくれました。そして、介護保険制度が利用できるように、要介護認定をするための聞き取り調査をしてくれたのです。

2000年に施行された介護保険制度は、40歳以上の人が介護保険料を給料や年金から天引きする形で支払っています。介護保険料を払っていれば、現状では2割負担で各種の介護給付のサービスや予防給付のサービスが受けられる制度です。介護保険制度は、初めて市町村が実施主体となった制度ですから、介護保険料などは市町村ごとに若干、異なります。しかし、要介護認定を受けなければ利用できない点は、全国共通です。

みなさんは、今、要介護状態になったご家族が入所される施設をお探しのことと思います。介護保険制度を利用すれば、特別養護老人ホームに入所する際も2割負担で入所できますので、まずは、お近くの地域包括支援センターに電話をして、要介護認定を行ってもらって下さい。

要介護度は、1~5に分けられ、5が最も重度になります。特別養護老人ホームには要介護3以上でないと入所できません。しかし、要介護3以下であったとしても、たとえば、認知症の高齢者が入所する地域に密着した小規模なグループホームや、その他の地域密着型の小規模多機能施設、軽費老人ホームなどの施設を利用することもできます。

要介護1の下には、要支援1と要支援2があり、この要支援状態の人は、介護保険制度の介護給付ではなく、予防給付という介護予防に資する給付を受給することができます。介護予防とは、読んで字のごとく、要介護状態になることを予防することです。私は、2001年より介護予防の研究を継続して行っています。

地域包括支援センターで行われる介護予防

 地域包括支援センターでは、介護に関する「各種相談」に応じたり、「介護予防マネジメント」を行う業務の他に、高齢者虐待防止や成年後見制度の利用促進などの高齢者の「権利擁護」を行ったり、地域ケア会議を通した「包括的・継続的マネジメント支援業務」も行っています。

また、もうひとつの大切な役割に、要介護状態にない健康な高齢者のみなさんが、今後、要介護状態にならないように介護予防を行う「介護予防事業」を行うことがあります。これは、2006年に改正介護保険制度が施行された時にできた「地域支援事業」を財源として実施されている事業です。この「地域支援事業」による「介護予防事業」は、地域包括支援センターだけでなく、公民館や市区町村社会福祉協議会、地域の集会所などを拠点としても実施されています。

「介護予防事業」では、主に、転倒骨折予防教室や、認知症予防教室などを行っています。

転倒骨折予防教室とは、転んで骨折し、寝たきりにならないように筋肉を鍛える簡単な体操を行う教室です。特に、85歳を過ぎてから転んで大腿骨などの大きな骨を骨折すると、なかなか元には戻りにくく、寝たきりになりやすいといわれています。そもそも、骨折して整形外科に入院した高齢者のかなりの割合の方が、なぜか認知症になりやすいというデータもあり、転倒しないように適度の運動をすることは大切なことなのです。

認知症予防教室は、文字通り、認知症になることを予防する教室です。私たちの脳は右脳と左脳に分かれています。左脳は20歳を過ぎると発達しないといわれていますが、右脳は80歳を過ぎても、刺激すると活性化するそうです。右脳は創造的なことをつかさどる脳ですから、たとえば、歌を歌ったり、絵を描くなどの創造的な活動をすれば、活性化するわけです。それゆえ、地域包括支援センターで行われる認知症予防教室では、みんなで歌を歌ったり、絵を描いたりしています。

私たちは、右脳と左脳を別々に使っているわけでなく、同時に両方を使っています。しかし、認知症になると、右脳と左脳を同時に使うことができなくなるともいわれています。逆にいえば、常に、右脳と左脳を同時に使う作業をしていれば、認知症になりにくくなるわけです。日常生活のなかでお勧めの認知症予防は、料理をすることです。料理をする際、どんな材料を買おうか?などと考えているときには左脳を使っており、実際に料理する際には右脳を使っています。料理は極めて創造的な作業だからです。

地域包括支援センターでの認知症予防教室でも、料理教室を行っているところは多いです。脳には毛細血管が多くあり、その毛細血管を通り得る分子の大きさのぶとう糖が脳の栄養だといわれていますので、ぶどう糖を上手に摂取できるお菓子づくり教室を開く自治体もあります。また、歌を歌いながら、もうひとつ別のことをするなど、2つのことを同時に行い、常に右脳と左脳を同時に使うようにする認知症予防教室を行うところも多いです。

閉じこもらず「社会参加」することが介護予防につながる

以上、地域包括支援センターの説明と、地域包括支援センターなどで行われている介護予防教室に関する簡単な説明をさせて頂きました。

介護予防は、地域包括支援センターだけでなく、さまざまな機関で行われています。たとえば、社会福祉協議会が行っている「ふれあい・いきいきサロン」も、そのひとつです。このサロンは、全国の市区町村で展開されており、主に、高齢者の「閉じこもり予防」をその目的としています。内容は、さまざまで、茶話会やおしゃべり会を行っている自治体もあれば、趣味の会やスポーツの会を行っているところもあります。

家に閉じこもってしまうと、誰ともしゃべらなくなるために認知症になりやすくなります。また、外に出ないことで歩かなくなり筋力が衰えると、転倒しやすくもなります。閉じこもることは、要介護状態になりやすくなる要素のひとつであるわけです。だからこそ、閉じこもらないためのサロンや通いの場が必要なのです。

外に出て人と会い、「社会参加」することは、要介護状態になりにくくなる要因のひとつであることを私が所属する介護予防の研究班であるJAGES(日本老年学的評価研究:研究代表者・近藤克則千葉大学医学部教授)が全国約40市町村の要介護状態にない約20万人の高齢者のデータを分析して明らかにしています。また、何かの役割(たとえば介護予防教室運営のボランティアや町内会の仕事など)を持つことも、要介護状態になりにくい要素のひとつだそうです。

私の母は、71歳で父の介護を始め、曲がりかけていた腰がのびました。父が亡くなるまでの6年半の間、母は父の介護をするという役割を担ったことで元気でいれたような気もします。みなさんは今、介護の入り口に立ち、何かとお悩みの多い日常を送っておられることでしょう。介護される側にとっても介護する側にとっても、人生の最後のときを互いに感謝しながら、共に幸せに生きられる介護生活を送られるようお祈りしています。

そして何より、介護されるご本人の意志と「自己決定」に基づいた施設選びであることが、一番大切なことなのではないでしょうか。

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