• その他
  • 【公開日】2024-03-29
  • 【更新日】2024-03-29

統計でわかる高齢者介護の実態

統計でわかる高齢者介護の実態

今回は、統計学による高齢者介護の分析について簡単にご紹介させていただきます。

菅原 慎矢 准教授
東京理科大学 経営学部 ビジネスエコノミクス学科
資格:教員/学会:日本経済学会、日本統計学会、医療経済学会
東京大学大学院経済学研究科で博士号取得後、同研究科助教、東京大学大学院情報理工学系研究科特任助教を経て現職。専門はベイズ統計学、高齢者介護の経済データ分析。
最近の論文に、本校でも紹介したSugawara et al. (2024) (Health Economics誌に掲載)がある

高齢者介護の実態

急増する介護の必要性に対して、日本政府は2000年に介護保険制度を施行しました。これは、国際的に見ても、かなり予算規模が大きく、広範囲に及ぶ介護政策です。幸いなことに、2000年にはすでにコンピュータが広く普及していました。コンピュータ普及以前から患者情報の蓄積が行われていた医療分野では、病院ごとのデータ形式の違いによって却ってデータの集積が遅れたのですが、介護分野は異なっていたのです。この結果、制度が始まった当初から、政府によって統一的に、詳細な情報が電子データとして集められています。蓄積された情報は様々な範囲に及び、まさに「介護ビッグデータ」と呼べるものです。

私はこうしたデータを活用し、統計学に基づいた高齢者介護に関わる分析を行っています。例として最近の研究Sugawara et al. (2024)を紹介しましょう。この研究では、レセプトデータと呼ばれる詳細な購入記録を用いて、様々な医療・介護サービスがどのように利用されているのかの相互依存関係を分析しました。分析の結果、高額な入院治療から比較的費用の少ない在宅医療、そしてより安価な在宅介護へと利用サービスが移行されていることが示されました。日本では過去20年間に急速な高齢化がすすんだにもかかわらず、医療・介護に関わる総費用の伸びは比較的抑制されてきました。この分析は、介護保険制度よって医療から介護へのサービスの転換がなされていることが、費用抑制の背景にあることを示唆しています。

今後の高齢者介護の展望

では、今後の高齢者介護がどうなるのか、統計学によって語ることは可能でしょうか?人口統計からは、高齢化のおおよそのイメージをつかむことができます。例えば、2040年には団塊ジュニア世代が65歳になり、このころには人口ピラミッドの最突出部が高齢者層になることはほぼ確実です。

このような状況では、これまで抑制をすすめてきた医療・介護費用を、さらに減少させようという動きは止まらないでしょう。先述の研究では、介護保険で行われている通所リハビリテーション(デイケア)と通所介護(デイサービス)があまり連携を取れていないことが示唆されています。前者のような介護保険の中でも比較的高価なサービスから、後者のような比較的安価なサービスへの移行が今後はすすめられていくことが予想されます。

一方で、こうした移行が健康状態に悪影響を与えるようなら、医療・介護政策としては疑問符がつくことになります。費用抑制は必要ですが、介護の質の悪化につながらないよう、政策の影響を慎重に判断することもまた重要なのです。

まとめ

統計学による高齢者介護の分析と、そこから得られた知見を軽く解説させていただきました。その程度は知っているよ、と思えるようなものばかりだったかもしれません。統計学は、現場に近い利用者、サービス提供者の皆さんなら気づいているようなことを、数字によって裏付ける役割を持っている学問なので、それはまったく問題ではないのです。

むしろ、統計学によってはじめて明らかになるものなどほとんどなく、そのようなものが出てきたとしたら大抵は計算間違いだと考えることにしています。私自身、分析結果が現場の声に近いかどうか、ネット上の意見を検索したり、現場へのヒアリングを行ったりして確認することが常になっています。

したがって、様々な声を持っている皆さんには、ネット上でも構いませんので、様々な情報発信をしていただけるとありがたいです。また、政府の統計調査への回答依頼が合った場合には、面倒であることはもちろん理解していますが、ご協力いただけますと幸いです。