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  • 【公開日】2024-03-18
  • 【更新日】2024-03-18

介護施設の外国人介護士の需要について

介護施設の外国人介護士の需要について

厚生労働省の予測によると、高齢福祉現場では2025(令和7)年には約32万人、2040(令和22)年では約69万人の介護職員不足が生じるとされている。先駆けて地方都市では、この人材不足が事業経営の継続問題にまで発展している。また国内で介護人材の確保が困難なことから、介護業界で働く外国人の数も2023(令和5)年現在で約4万人と増加傾向にある。

上記のような、現代社会における外国人介護士の需要や今後の期待・展望についてお伝えいたします。

城田 忠 別科長/准教授
大阪青山大学 介護福祉別科
介護福祉士・日本語教師 他/教員
日本介護福祉教育学会
松山市役所 養護老人ホームや、訪問介護・通所介護の管理者等の勤務を経て、介護福祉の魅力や今後の介護福祉教育について育成及び発信していくことの大切さを感じ、教育現場に従事することとなる。校長業務・介護福祉のコース長・専任教員の立場など様々な観点から、教鞭をとっている。

介護施設における外国人介護士の必要性

日本の介護士不足の状況を改善するため、介護士の待遇改善に向けた制度作りや、外国人介護士の積極的な受け入れが進められています。
外国人が介護士として働くには、大きく分けて、4つの方法があります。各項目ごとに説明していきます。

EPA

在留資格は「特定活動(EPA介護福祉士)」として日本にやってきます。日本へ人材を送り込みたいというインドネシアや、フィリピン、ベトナムの狙いから始まった制度です。

インドネシア、フィリピン、ベトナムとの2国間の経済連携の強化を目的とした経済連携協定のことです。その協定内において、経済交流・連携強化の一環として、特例的に看護・介護人材の候補者を受け入れるものです。滞在中の在留資格は特定活動となります。母国における看護経験や高い日本語能力など、一定の経験や知識のある人材なので即戦力となることが多いです。

介護の仕事をするには、コミュニケーション技術が必要になるので、施設におられる利用者様とのコミュニケーションをするうえで、日本語能力はとても大切なスキルとなります。

介護福祉士候補者として入国した人は、日本の介護事業所で就労・研修を行うか、または介護福祉士養成校(大学,短期大学,専門学校)に通いながら、国家資格である介護福祉士資格の取得を目指していきます。EPAの方は訪問系の職に就くことができなかったり、夜勤に従事できるのは6か月が経過しないとできなかったりなどルールがあります。原則として在留期間は4年間と定められています。

技能実習「介護」

外国人技能実習制度は、外国に住む人を日本の色んな職種の現場にて、日本のすぐれた技能や知識を学んでもらい、自分の国に戻ってからその技能や知識を自分の国の経済発展のために役立てる人を育てることを目的としている制度です。介護職種も技能実習制度があり、これからの外国でも将来、介護が必要になる発展途上国に介護の仕事の技術を教えるための実習生を受け入れています。

基本的にはプログラムが終了したら、自分たちの国に帰らなければいけません。ただし、入国3年後に介護福祉士国家試験に合格すると、在留資格「介護」となり、日本で外国人介護士として働き続けることができます。

特定技能「介護」

特定技能は、大きな問題である働く人が足りないことを人が足りているようにするために、2019(平成31)年4月から始まった在留資格です。いろんな職種で働くことができます。対象となる外国人は、介護技能や日本語能力水準の試験に合格した後、施設などで一番長くて5年間働くことが出来るようになります。また介護福祉士の国家資格に合格することができれば、在留資格「介護」に資格を変えて、ずっと働くことができます。

在留資格「介護」

介護福祉士の専門学校や大学などで、勉強して介護福祉士の国家資格を取得するか、介護の実務経験を3年間おこなって、実務者研修を受けて、介護福祉士の国家試験を合格した人で、そのまま介護のお仕事をする人が、在留資格「介護」になります。

つまり、日本で、介護の勉強または、なにかの在留資格で、日本の介護士として働いていた人が、介護福祉士を取得したときに、在留資格「介護」に変更するので、とても優秀な外国人介護士の人が多いです。日本語能力についても、日本に入国してから少なくとも2年以上が経過しているので、ネイティブな日本語が話せ、日常生活にも問題ありません。介護の在留資格を取得した後は、条件はありますが、日本国内に永住も可能となります。

外国人介護士の現在の活動者数

1.EPA(経済連携協定) 

在留者数:3.257人(うち資格取得者635人) ※2023(令和5)年1月1日時点(国際厚生事業団調べ)

2.在留資格「介護」

在留者数:5.339人 ※2022(令和4)年6月末時点(入管庁)

3.技能実習

在留者数:15.011人 ※2022(令和4)年6月末時点(入管庁)

4.特定技能1号 

在留者数:17.066人 ※2023(令和5)年1月末時点、速報値(入管庁)

外国人介護士が働くことでのリスクやそのリスク回避

日本語によるコミュニケーションが十分でないとことや、文化・価値観などの違いなどにより、職員同士や対利用者とのトラブルが起こるリスクが考えられます。日本のコミュニケーションは聞き手側に重きを置く文化であるが、外国のコミュニケーションは話し手側の分かりやすさを重視する文化が多いです。日本語の話し手の裏側に隠れた感情や趣などを汲み取ることはなかなか難しいことですが、これも日本特有の文化です。ジェスチャーやイメージなどの言葉以外の方法を用いながら、簡単に何度も繰り返し説明していく必要があります。

これらのリスクを回避していくための手立てとして、最も大切なことは関わる人たちのさりげない目配り・気配り・心配りです。お互いの文化を理解した上で、1つひとつ丁寧かつ簡単に(相手に伝わるように)ことばを添えていくことがリスク回避にもつながり、外国人介護士も気持ち良く日本での暮らしを送ることができると考えます。

日本語がわかると言っても、生まれ育った環境の違いであったり、食べるものや、慣れ親しんだ風景や友だちなど、異なる文化の中で、毎日生活をしていると、昔のことを思い出したり、自分の住んでいた場所にいる家族のことを思い出したりするものです。一概に、「環境に慣れろ」「仕事にきているんだろう」「自分で選んで日本にきたんだろ」などと周りから言われても、責められている雰囲気や、自分の選んだ道に後悔がうまれるかもしれません。外国人介護士の人たちが、日本に来てよかった。安心した生活、充実感を味わえるように考えてあげると、お互いが、楽しい雰囲気で仕事を継続することができます。

外国人介護士だからこそ介護の効果があがった話

ベトナム人女性の留学生が、最初の介護実習に行ったとき、施設の利用者から、「かわいいね」と声をかけてくれました。そのあとも、続けて、その利用者からたくさんの話しをしてくれました。でも、利用者とのコミュニケーションは、方言もあって、声をかけてくれるものの、半分くらいしか日本語が理解できずにベトナム人留学生は困っていました。

その学生は、頭もよく、賢かったので、どうすればよいか考え、利用者の手をそっと握り、「ありがとう」と満面の笑みで、その利用者に言葉を返しました。その利用者はうれしくなって、「こちらこそありがとう、日本にきてくれて・・・」と大変喜んでくれたエピソードを話してくれました。

いまも、立派に介護福祉士として働いてくれています。また、その時のエピソードは今でも覚えており、「しっかりと介護の学校で学んだ甲斐があった。いろいろと教えてくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝えてくれました。日本語が100%理解できなくても、気持ちが伝わるのだと、理解しました。

他にも、ネパール人の男性留学生が、デイサービスの介護実習に行ったとき、利用者から「あなた、なにじん?」「なんで、日本来たん?」と言われ、初日の実習であったので、最初は驚いていたけれど、「ぼくは、ネパール人です。みなさんに会うために日本にきました。」と話したときに、「デイサービスの利用者のひとりが、泣いていたんです。」と、その学生から報告を受けました。

実は、その利用者は、朝、息子と喧嘩をして、そのままデイサービスを利用されており、デイサービスの職員にも、そのことを黙っていて、モヤモヤしていたとのことです。そんなとき、「みなさんに会うために日本にやってきたと言われたことが、すごくうれしくて、ネパールという遠い場所から、わざわざ会いに来てくれるなんて・・・」と、外国人でなければ、ここまでの感動を与えることができなかったとおもいます。心が温まるエピソードは、数えきれないくらいあります。

外国人介護士として日本で働くことで失敗した話

失敗してしまうことは、誰にでもあります。聞き間違いやいい間違い、勘違いなどなど、それは、外国人だからということに限ってではありませんが、あまり日本語が理解できていない場合には、特に失敗が目立ってしまう傾向があります。

特定技能「介護」1年目の男性が、食事の配膳する場面において、ご飯を盛りつけるときに、介護職員から、「今日からOさんのご飯は、100gから120gになったからよろしくね」と伝えたところ、この特定技能生は、ご飯を220g盛ってしまいました。接続詞「から」の意味をしっかり理解しておらず、それを「加える」と認識していたことで失敗してしまいました。

その後は接続詞を用いずに、はっきりと「Aさんのご飯は120gね」と伝えることで間違いをすることなくできるようになりました。

他には、「やってもいいよ」という言葉です。やったほうがいいものなのか、やらなかったほうが正解だったのか、日本人でもどっちが正解だったのかわかりにく曖昧な表現を使われると、外国人介護士にとっては、もっと判断に迷ってしまいます。はっきりとやってほしいこと。お願いしたいことを明確にすることで、お互いが気持ちよく働くことができます。

決まった業務や内容であれば、マニュアルを作って、その通りにやってもらうことや、日々忙しくても、あいさつやコミュニケーションを介護職員同士でとれる環境づくりを目指していくのがよいでしょう。みんなが共有できるSNSに発信をして、みんなが共通理解をし、既読スルーするのではなく、お互いが助け合って、力を合わせていく環境づくりを目指すことで、失敗やトラブルを避けることができます。

利用者様への影響やいただく反応

外国人介護士は、現在では、たくさんの施設で実際働いています。そこでの、利用者さんの反応は、とてもよく、施設の雰囲気が明るくなったと話してくれる方もたくさんいます。また、ニュースでも、ネパール人の外国人介護士がリーダー的立場で働いていると、報道されたりと、活躍されている人が増えてきました。利用者からも愛され、職員からも愛されている存在になりつつあり、外国人だからといった否定的なことは、払拭されていないものの、受け入れは徐々に良くなっている雰囲気です。このまま、外国人介護士が増えていくことを期待しています。

外国人介護士とうまく付き合っていく方法

私たちも相手国の文化を理解し関わっていくことが求められます。相手だけに求めるのではなく、日本人も、外国人の気持ちを理解することが大切になっていきます。

日々の小さなコミュニケーションの中にも、自分たちが知らない文化や風習は多く隠されていると思います。様々なことに興味を持ち、知る姿勢。これは介護分野においても重要なスキルです。相手の文化や風習を知り、また日本の文化も知ってもらうことを意識していくことが大事です。

多様性の尊重、お互いの文化を無理に当てはめて考えようとしたり、否定したりするのではなく、尊重しながらかかわっていく姿勢が大事になると考えます。持続可能なしくみ作りをこれからの日本全体の社会づくりとして、重要になるでしょう。

これからの外国人介護士の動向について

介護福祉士の専門学校や大学を2027(令和9)年3月に卒業すると、いまは介護福祉士に国家試験で受からなくても、介護福祉士の国家資格が取得できる移行期間となっています。そのため、いまは留学生が介護の学校に入学し、介護福祉士を目指したいという方が多いですが、この移行期間が終了すると、本当に介護福祉士の国家試験が合格できるかわからないし、そのあとの在留資格のことなどを考えると、介護の学校に入学をするか悩んでしまうという人も少なくないです。

だからといって外国人介護士の増加を期待することに合わせて介護福祉士国家試験合格のレベルやハードルも今後低くなってしまうのも問題です。

今後も質の高くて専門性のある日本の国家資格である『介護福祉士』をよりよいものにしていくために、日本の介護技術が世界からも選ばれるようになっていかなければいけないと思います。そのために、一人ひとりが、意識を持って、働くこと、勉強していくことを考えて行動してほしいと願っています。