• 介護保険
  • 【公開日】2024-03-06
  • 【更新日】2024-03-06

今こそ知りたい、日本の介護とは

今こそ知りたい、日本の介護とは

日本は、世界で最も高齢化が進行した超高齢社会となったが、やがて誰もが100歳程度まで生きる「人生100年」時代が到来するとも言われています。長寿は、人類の勝利であるとともに様々な課題を生み出しています。

その先頭を走っている日本において、2000年に介護保険制度を制定しました。23年におよぶ介護保険制度の存在により、公的介護保険で親や自身の介護負担が行われるという意識は定着しつつあります。制度創設以来、65歳以上被保険者数が約1.6倍に増加するなかで、サービス利用者数は約3.3倍に増加しました。介護ニーズの変化やサービス利用の状況に従って介護保険制度は3年毎に改正を行っていますが、ますます深刻化する高齢化問題に直面して、いかに持続可能な介護保険制度を維持していくか、介護保険制度のさらなる改革や、地域社会全体での支援体制の強化が求められています。

ここでは、介護保険制度の仕組みや、制度における介護サービスの特徴、国際の視点から日本の介護とはなにか、海外に移転した「日本式介護」の特徴を紹介します。

郭 芳 助教
同志社大学 社会学部 社会福祉学科
日本社会福祉学会、社会政策学会、日本介護福祉学会
中国山東省出身。福島大学大学院修士課程、同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程修了、博士(社会福祉学)。社会福祉士、精神保健福祉士。京都自立就労サポートセンター相談支援員として勤務後、同志社大学外国人留学生助手、助教(任期付)を経て、2020年より現職。研究キーワードは、日本式介護、介護サービスの質評価、認知症高齢者への社会参加支援。
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介護保険制度の仕組み

2000年に制定された介護保険制度は、医療保険と同様に、社会保険と呼ばれる仕組みです。国民が生活する上での高齢化や介護などのリスクに備えて強制的に保険に加入させ、リスク発生時には保険加入者に対してサービスを提供します。つまり、介護が必要になったときに、保険給付という形でサポートを受けることができる仕組みです。

図1 介護保険制度の仕組み

図1は介護保険制度の仕組みを簡略化したものです。介護保険制度における被保険者は、市町村の区域内に住所がある40歳以上の住民です。介護保険は国が加入を義務づけている制度であり、対象者は全員、強制的に介護保険に加入させられ、介護保険料を支払わなければなりません。2021~2023年度における65歳以上の介護保険料の全国平均は月額6014円です。被保険者は、65歳以上の全員である第1号被保険者と、40歳以上65歳未満の医療保険加入者である第2号被保険者に分けられます。

第1号被保険者は要介護認定を受けることで、第2号被保険者は老化に起因する特定疾病による要介護認定を受けることで、介護サービスを利用できるようになります。被保険者は、介護保険のサービスを利用するにあたって必ず要介護認定を受けなければなりません。介護保険で利用できるサービスの種類や量は要介護度に応じて決められています。また、要介護度は一時的なものなので、要介護認定には有効期間が設けられています。

介護保険制度における保険者とは、被保険者である住民が居住する区域の市町村および特別区です。保険者は、65歳になると被保険者に被保険者証を交付します。また、被保険者からの申請を受けて要介護認定を行い、被保険者の資格(要介護・支援度など)と要介護認定の有効期間を管理します。これにより、被保険者が介護保険サービスを受けられるのです。

介護サービスの提供者について、以前は、社会福祉法人や医療法人、自治体が介護サービスを提供していましたが、介護保険制度の誕生で大きく変わったのは、民間企業やNPO(特定非営利活動法人)も介護サービスを提供できるようになったことです。2000年以降、多くの民間企業が参入したことで、日本において介護サービスはより身近なものになりました。介護サービス事業所の種類ごとに開設(経営)主体別事業所数の構成割合をみると、多くのサービスで「営利法人(会社)」が最も多くなっています(「令和4年介護サービス施設・事業所調査」)。

ただし、民間企業によるサービス提供が認められた後も、自治体が指定介護サービス事業者を指定することで、事業者の質を担保し、厚生労働省が介護サービスの種類と範囲、要介護度に応じた利用限度額を定めることで、サービスの提供が過剰にならないように調整しています。

介護保険制度が導入される以前、高齢者への介護サービスは措置制度と呼ばれる仕組みで提供されていました。介護保険では契約制度(利用制度)でサービスが提供されるようになっています。介護保険の契約制度では、サービスの利用にあたり、利用者が指定介護サービス事業者を選び、選ばれた事業者が利用者にサービスを提供します。その結果、利用者は自らの選択に基づいてサービスを利用できるようになりました。

介護保険制度を利用する際の流れは、高齢者または家族が保険者(市町村窓口)に要介護認定申請の相談を行い、役所が要介護認定調査を実施し、その結果に基づいて介護保険サービスの選択を行います。

具体的なサービス選択については、日本の介護保険制度にケアマネジャー(介護支援専門員)という専門職があり、ケアマネジャーは利用者の課題を分析してケアプラン(介護サービス計画書)を作成します。ケアプランでは、利用者はどのような介護サービスをどのくらい受けるかを決められます。利用者の費用負担について、介護サービスの利用者は原則、所得に応じて介護報酬(介護保険が適用される介護サービスごとに決められた基本的なサービス利用料金のこと)の1割から3割をサービス利用料として負担します。

日本における介護サービスの種類と性格

では、介護保険サービスはどのようなものがありますか?介護保険制度におけるサービスは大きく、介護給付におけるサービス(要介護1~5の認定者を対象)、介護予防給付におけるサービス(要支援1~2の認定者を対象)、地域支援事業によるサービス(要支援1~2の認定者と2次予防事業対象者と一般高齢者を対象)の3つに分類できます。

ここでは、介護給付サービスを中心に日本の介護サービスの種類と性格を紹介します。介護給付におけるサービスは、介護と介護・医療というサービスの内容と、居宅と施設というサービスの提供場所で分けて理解するとわかりやすいです。介護のサービスでは身体介護や生活援助などのサービスを主に提供し、介護・医療のサービスでは医療行為やリハビリ、療養指導などのサービスと介護を一体的に提供します。また居宅サービスは自宅で暮らす利用者に提供されるのに対して、施設サービスは福祉施設や介護保険施設などに入所した利用者に提供されます。

介護サービスを提供する場所は、自宅に住む利用者が利用する居宅事業所、利用者を受け入れる介護保険施設や居住系施設、その他(地域包括支援センター、住宅改修・福祉用具事業所など)があります。居宅事業所には、訪問してサービスを提供する訪問施設、要介護者を日中受け入れる通所施設や数日間受け入れる短期入所施設などがあり、居宅介護支援事業所もケアプラン作成など重要な役割を担っています。一方、介護保険施設は、重度の要介護者を受け入れる介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、医学管理が必要な重度の要介護者を受け入れる介護老人保健施設や介護医療院であり、居住系施設は有料老人ホームに代表される特定施設やグループホームです。図2はサービス別の介護保険施設数を示しています。認知症高齢者を対象にするグループホームの数は多いことがわかります。

出典:「令和4 年介護サービス施設・事業所調査」により筆者作成

図2の最後にある特定施設入居者生活介護を提供する施設には、民間企業が運営する有料老人ホーム、社会福祉法人や地方自治体などが運営するケアハウス、市町村が運営する養護老人ホーム、そして民間企業が運営するサービス付き高齢者住宅があります。特定施設は、現在、一時金無しの安い費用で最低限のサービスを提供する施設と、高額な費用で手厚いサービスを提供する施設に2極化しています。施設によって、居室の広さや共有設備の充実度にも差があります(イノウ2019)。

海外に進出した日本式介護の展開から日本の介護の特徴を見る

日本の介護保険制度は、要介護状態となった高齢者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うことを目的としています(介護保険法第1条)。介護保険制度全体を貫く理念と基本的な考え方は高齢者の尊厳の維持、自立支援、利用者本位があります。

また、日本の介護は、要支援・要介護者に対する予防を3段階に分けてきめ細かく提供されています。特に、介護予防は、「要介護状態の発生をできるかぎり防ぐこと、そして要介護状態にあってもその悪化をできるかぎり防ぐこと、さらには軽減を目指すこと」が目的とされています。そのため、高齢者の状態の維持・改善を指向した各種サービスが揃っており、日本の介護サービスメニューは豊富です。

筆者はこれまで、中国に進出した「日本式介護」(日本の介護サービスが日本から海外に進出し、進出国の諸環境・制度、文化・習慣に影響を受け、現地化して形成した新たなサービスであると定義しています)の現地化について検討してきました。海外に進出した日本式介護はどのような特徴を持っていますか?

日本式介護の現地化のプロセスにおいて、中国の環境・制度、文化・習慣に影響を受けて、ハード面である施設の【建物設計】や【設備環境】、【サービスの内容】は現地の状況に合わせて調整しています。一方で、日本の介護事業者はソフト面の【ケアに対する考え方】である、自立支援、尊厳のある支援、エビデンス支援などの相手本位の介護理念や考え方を日本の介護の真髄と考え、中国での事業展開においては維持しようとしています(郭2018)。利用者である中国人高齢者とその家族が、最初は抵抗感がありましたが、サービスの機能や目的の説明を聞くと、受け入れるようになりました。

しかし、日本の強みであるケアに対する考え方の浸透と認知症ケアの実施には、現地採用の中国人介護職員 の【姿勢】が問われています。日本の介護事業者は中国人介護人材を現地採用し、日本式介護サービス展開において、職員の姿勢が整えられていないため、維持したい日本の強みがなかなか浸透させられないことが、事業者を悩ませている課題です。

中国人職員は介護政策や生活習慣、文化など自分の国の状況によるインプットは彼らの介護観形成に影響しています。現地で採用された中国人職員のほうは、経営者が展開したい日本式介護をどう考えているか、また、中国国内の介護サービスと比較してこのような考え方は本当に日本式介護の特徴になるかなど、別の視点からの検証が必要であると考えられます。そこで、筆者は中国人介護職員にも聞き取り調査を行いました。

調査の結果、中国人介護職員が認識している日本式介護の特徴として、「自立支援」、「利用者本位」(個別化、自由度、その人らしい生活)、「情緒ケア、心へのケア」、「きめ細かい」、「チームワーク」が挙げられました。中国の介護と日本の介護を比較して、異なる部分が日本式介護の特徴であると理解した部分もあると推測されますが、中国人介護職員は日本の介護の理念や考え方を評価し、頭で理解できていると分析できます。

また、「ケアプランの作成」について、高齢者の支援において重要にもかかわらず、あまり展開されていません。その理由はケアプランを作成できる専門人材が不足しているためです。日本の介護保険制度に規定されている介護専門支援員が実施するケアマネジメントは高い専門性があり、日本式介護の輸出において重要であるが非常に難しい技能移転であると言えます。

終わりに

上記のように、日本の介護は国内においても、国境を越えて海外の展開においても、高齢者の尊厳の維持、自立支援、利用者本位という介護保険制度全体を貫く理念と基本的な考え方は大切にしています。海外の介護と比較して顕著な特徴と言えます。このような理念を実現するためには、チームワークを発揮して、高齢者に対して身体のケアだけではなく、心へのケアもきめ細かく行う必要があります。このような日本の介護は中国をはじめとするこれから高齢化問題を直面するアジアの国々にとって魅力的です。これは日本介護を評価すべき点でありますが、しかし、介護保険料や利用者負担の引き上げ、介護人材不足など検討すべき課題も山積みです。冒頭で述べましたように、持続可能な介護保険を維持する方法は今後の日本にとって大きな課題です。

【参考文献】

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