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  • 【公開日】2024-03-26
  • 【更新日】2024-03-26

就労による高齢者の介護予防と社会参加
―シルバー人材センターの「生きがい就業」と介護予防―

就労による高齢者の介護予防と社会参加<br>―シルバー人材センターの「生きがい就業」と介護予防―

高齢化が進む、現代日本での高齢者の就労と介護予防のつながりについてご紹介いたします。

塚本 成美 教授
城西大学 経営学部/城西大学大学院 経営学研究科
資格:教員/学会:日本経営学会、日本社会学会、日本老年社会科学会、組織学会、日本労務学会
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程満期退学、2010年より現職。現在、シルバー人材センターを中心に高齢者就労問題を研究している。
全国シルバー人材センター事業協会「シルバー事業のあり方に関する検討会」委員、埼玉県シルバー人材センター連合事業推進計画検討委員会、東京しごと財団理事、厚生労働省「生涯現役社会の実現に向けた検討会」委員などを歴任。

1.高齢者就労の現状

現在の日本の高齢者数は3623万人で高齢化率は29.1%ですが、2022年の高齢者(65歳以上)就業率は25.2%で就業者数912万人にのぼり、就業者総数に占める高齢就業者の割合は13.6%になっています。60歳代前半層は継続雇用制度の普及によりいまでも73.0%のひとが働いていますが、2023年の「生活設計と年金に関する世論調査」によれば18歳以上人口の42.6%は66歳以上まで働きたいと回答しています。

他方で、高齢者が働く理由は、「自分の都合の良い時間に働きたいから」「専門的な技能を生かせるから」「家計の補助・学費等を得たいから」「収入をえたいから」「働くのは体によいから、老化を防ぐから」「仕事そのものが面白いから、自分の活力になるから」などがおおく、高齢者にとっては生活の自律性と働きがい、健康、収入が就労の重要な要因となっていることがわかります。

2.就労の介護予防効果

現役世代にとっては働くことは収入を得るということが第一の目的になりますが、近年、就労は高齢者にとって介護予防効果があることも明らかになっています。東京都健康長寿医療センター研究所によれば(Fujiwara et.al., 2023)、フレイルではない元気な高齢者が就労している場合、就労していないひとと比べて、パートタイムであってもフルタイムであっても新規要介護認定が約30%抑制され(図1)、フレイルの高齢者であっても、フルタイムで就労するひとは、就労していないひとと比べて新規要介護認定が57%も抑制されることがわかっています(図2)。

出所:https://www.tmghig.jp/research/release/2023/1026.html

また、ダイヤ高齢社会研究財団がシルバー人材センター会員に対しておこなった調査では、フレイル状態にあった会員の18%が1年後に「改善」していました(ダイヤ財団、2018)。ダイヤ財団では、現在も全国シルバー人材センター事業協会からの委託を受けて「生きがい就業」の介護予防効果についての研究が進行中ですが、適度な就労は高齢者の健康にとってポジティブな影響を与えるようです。

3.就労と社会参加―シルバー人材センターの「生きがい就業」

シルバー人材センターは1974年に設立された東京都高齢者事業団をルーツとする、「生きがい就業」を掲げる高齢者就業組織です。ほとんどの自治体にあり、自治体と緊密に連携している組織でもあります。現在、会員数69.3万人、平均年齢は約74歳、70歳以上が会員の77.5%、75歳以上が39.6%を占め、新入会員の平均は70歳という超高齢者集団です。

シルバー人材センターでは、高齢者就業を地域の高齢者が「自主的にまた共助的に行うものであり、地域コミュニティを活力あるものにするのはこのような高齢者の自信にみちた活動」であるとともに、「自分の長い人生の中で身につけた経験と技能と生活の智慧とでもいうべきものを地域のために提供することに、老後の積極的生きがいをみつけ出そうとする運動である」としています。

ダイヤ財団の「生きがい就業」の介護予防に関する調査の一環でシルバー人材センター会員にインタビューをおこなったさいにも、「地域とのつながりや貢献」「仲間がいる」「みんな同年代で気楽」「仕事への責任感」「程よい緊張感」「自分に合った仕事」「身体を動かす」「規則正しい生活」「自由に使えるお金」「感謝される」などの発言がたくさんありました。自分に合った無理のない就労を通じて地域社会とつながり、生きがいをもつこと、つまり、社会参加や社会的交流こそが最大の介護予防であると言えます。

【参考・引用文献】
ダイヤ高齢社会研究財団(2018)「生きがい就業の介護予防効果に関する共同研究事業」
Fujiwara, Yoshinori et.al.(2023), The relationship between working status in old age and cause-specific disability in Japanese community-dwelling older adults with or without frailty: A 3.6-year prospective study, Geriatrics & Gerontology International, 14686, pp.855-863
大河内一男(1985)『高齢化社会を生きる―大河内一男講演集』 東京都高齢者事業振興財団
令和4年 高齢者の健康に関する調査結果(全体版)PDF形式 – 内閣府 (cao.go.jp)
統計トピックスNo.138 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで- (stat.go.jp)