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  • 【公開日】2024-02-29
  • 【更新日】2024-02-29

介護ロボットは何を助けてくれる?ロボットの種類や可能性について解説

介護ロボットは何を助けてくれる?ロボットの種類や可能性について解説

少子高齢社会の現代において、介護人材の確保の難しさは深刻です。そんな現代に介護ロボットの存在はどれほどの影響を与えるのでしょうか。

本コラムでは実際に開発された介護ロボットの例から、これからの介護ロボットの可能性について解説します。

榊 泰輔 教授
九州産業大学 理工学部 機械工学科
日本機械学会、日本ロボット学会、計測自動制御学会、日本VR学会、日本生活支援工学会、日本リハビリテーション工学協会
(株)安川電機の研究所にて19年間、下水道プラント計装、テレイグジスタンス(遠隔臨場制御、現産総研でのテーマ)、NEDO極限作業ロボットの研究を経て、脳卒中患者用下肢リハビリロボットの実用化とNEDO身体機能リハビリ支援システムプロジェクト(慶応大学医学部理工学部、産業医科大学と共同)を経て、現職。理工学部機械工学科で、機械工学を教えながら引き続き医療福祉ロボットの研究を続けている。
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介護ロボットがなぜ必要なのか

日本は少子高齢化社会です。高齢者の数と割合が増えているだけでなく、15歳から64歳までの生産年齢人口が減少しています。この減少傾向は2040年にかけて、さらに大きくなりそうです。しかし、これから急激に介護ニーズが増えてくるのですが、その人材の確保が難しくなります。そのような中、介護現場の負担軽減と生産性向上(介護サービスの質を維持・向上と効率化)のための取り組みの一つが、デジタル技術と介護ロボットの活用です。

介護ロボットの例

国の研究プロジェクトでたくさんの介護ロボットが開発されています。全ては紹介しきれないのですが、少し絞って、例えば在宅で独居または二人で生活しており、認知症筋力低下を心配しつつも、できるだけ自立して生活したいという場合で考えてみます。

具体的には以下の行動を支援するロボットをとりあげます。

①外出での自立歩行、②屋内の移動、③トイレ、④浴室、⑤転倒検知など見守り、④話し相手です。

なお、紹介するのは全て開発が完了し販売中のものです。

また、今回の機器の詳細やメーカへの連絡先、さらに在宅だけでなく施設で用いる他の種類の機器については下記を参照してください。
介護ロボットポータルサイト
https://www.robotcare.jp/jp/development/index

①外出での自立歩行を助けるロボット

外出での自立歩行を助けるロボットは、体力の衰えで疲労しがちで、長距離を歩くことが難しい方向けです。

  • 高齢者の外出意欲を促がす体重免荷移動支援機((株)菊池製作所)は、体重の一部を保持し、より長距離の移動を助けます。シルバーカーのように前をふさがないため、スーパーなどのドアや商品棚へ手を伸ばしやすい利点があります。
  • 歩行アシストロボット((株)カワムラサイクル)は、屋外での散歩や買い物を助けます。登坂や下り坂、荷物を運ぶときにモーターによる補助やブレーキを行い、軽快に歩けます。歩く状態をカメラで検知し転倒を防ぎます。
  • 歩行アシストカート(RT.ワークス(株))は、上り下りの坂で楽に登ったり減速したりしてくれます。傾いた道でもハンドルを取られにくいです。ネットワークを通じ家族と連絡できます。活動量を測ることや、GPSで位置を確認し緊急通知することができます。

②屋内の移動を助けるロボット

屋内の移動を助けるロボットは、屋内歩行と立ち座りを助けます。一人での起立、着座、歩行、立位保持が難しい方向けです。

  • 寄り添いロボット(サンヨーホームズ(株))は、転倒の衝撃を低減できます。屋内で装着して使います。転倒を検知するとモーターがブレーキをかけ緩やかに倒れるので骨折などの危険が少ないです。立ち座り、段差、かがむ、左右・回転などの生活に必要な動作に支障がありません。電源が不要で便利です。

③トイレ周りを支援するロボット

トイレ周りを支援するロボットは、高齢者が一人で、または他者の見守りの中で使います。

  • 居室型移動式水洗便器(TOTO(株))は、ベッドの近くにおいて使います。排泄後に便器を水洗、排泄物を粉砕圧送し室外に排出します。臭いが広がりません。異物混入でもロックしにくく、異常検知・報します。給排水管がフレキシブルで便器の位置を変更しやすいです。
  • 真空式水洗ポータブルトイレ キューレット(アロン化成(株))は、ベッドから移乗しやすいです。排泄物はトイレ外に排出、室内・室外ユニットを選べます。給排水の工事は不要です。
  • 自動ラップ式排泄処理システム(日本セイフティー(株))は、水を使わず自動で処理します。バケツも不要で臭いが漏れにくく掃除の手間が省けます。
  • リバティひまわり((株)リハティソリューション)は、要介護4,5の人向けの排泄処理を助けます。人工乳房にも使われる特殊シリコーンを用い、尿漏れや水漏れを防止します。オムツが不要になります。排泄物の状態(尿、軟便、硬便など)に応じ洗浄処理し時間短縮と洗浄水も節水できます。排泄処理回数や時間表示できます。
  • 排泄予測デバイス「DFree」(トリプル・ダブリュー・ジャパン(株))は、超音波センサーで膀胱の尿のたまり具合を検知、排尿のタイミングを事前(そろそろ)、事後(出たかも)で知らせます。排尿のパターンをグラフで示し、排せつリズムを見える化、記録します。
  • 排泄動作支援機器 SATOILET((株)がまかつ)は、トイレ排泄後の要介護者に支持具を装着、2本の支持アームを引き寄せリモコン操作で立ち上がりを助けます。一人介助でできます。限られたトイレ空間にも設置できます。工事不要のフレーム設置もできます。

④浴室で助けてくれるロボット

  • 在宅居室向けシャワー入浴装置(エア・ウオーター・メディカル(株))は、浴槽の跨ぎ、浴室への移動に不安がある方で、自立して入浴したい方むけです。狭い浴室でも使える、超コンパクトなシャワー式入浴装置です。

⑤転倒などを見守るロボット

転倒などを見守るロボットはどのようなものでしょうか。

  • レーダーライト((株)CQ-Sネット)は、天井のLED照明器具に内蔵、カメラに比べ監視されている不快感が少なくプライバシーを守ります。レーダーで距離変化や動きを検知、転倒やしゃがみ込みなど態勢の急変をとらえます。非接触で検知する。携帯端末に通知できます。

⑥話し相手になるロボット

  • 人型コミュニケーションロボット Pepper for Biz(ソフトバンクロボティクス(株)は、歌やダンスなどのレクリエーションが充実しています。顔認証ができ人ごとに名前の呼びかけや簡単な対話ができます。回想法的会話によりノスタルジックなことを思い出させることにより認知症の進行抑止が期待できます。

介護ロボットのこれから

さて、介護ロボットは今後どんな風に発展するのでしょうか。研究プロジェクトの報告書から今後の課題を考えてみます。

まず、導入・定着にむけた制度は整いつつあります。例えば、介護福祉士養成カリキュラムは平成31年に施行されました。介護ロボットふくむ福祉用具をもちいる知識・技術の習得を位置づけています。また、介護報酬制度も平成30年に見直され、ロボット技術等による負担軽減として見守り機器で加算などがされました。

次に、ロボットに期待できることは何でしょうか?まず介護現場の生産性の向上です。身体的負担の軽減、心理的余裕の増加、時間・コスト削減が期待できます。また、見える化も期待されます。勘と経験に頼り定量化が難しい作業もデータをあつめ解析できる、暗黙知で伝えにくい現場スキルが伝えやすくなる、無駄の発見と改善というメリットがあります。さらに、品質の維持管理が期待できます。介護者のスキルによりサービスの質がばらつく、例えば抱え方ひとつでも被介護者が受ける印象が異なるのを抑えます。このようにロボットは正確な反復動作が得意なためサービス品質の維持が期待できます。

一方、ロボットの限界はなんでしょうか?一般的に、被介護者の個体差や症状の違い、状況変化への適応が難しいです。例えば、形・大きさ・向き・硬さの変化への適応、小型軽量化、ベッド・トイレ・車いす等への寄り付きが難しいです。また、車両等への携帯性、使い勝手、習得の手間、コストの問題や、介護者・被介護者、訓練支援・自立支援・介護支援で設計が異なるため、どれも1台で兼ねるのは難しいです。

今後は、社会への浸透をさらに進めていく必要があります。まず導入ありきはダメで介護現場への本当の課題が何かをユーザと技術者間で共有することが大事です。また安全評価ガイドラインにそった介護ロボットの評価を進めていくことです。今後は、健康増進やリハビリにも範囲が広がっていくでしょう。

開発中の機器の紹介

研究室全体のテーマは、SDGs(国連の持続可能な開発目標)の目標3「すべての人に健康と福祉を」に貢献することで、具体的には、超高齢社会の日本において厚労省の進めている地域包括ケアシステムを、ロボット工学で支援することです。九州の地域社会と産業に資するだけでなく、近い将来同様な問題を抱えるアジア諸国に役立てればいいなと考えています。以下、開発中の機器をご紹介します。

脳卒中患者用 歩行リハビリロボット

健康寿命を延伸し高齢者が活躍する社会とするには、転倒を予防し要介護状態を防ぐ仕組みを地域包括ケアシステムに実装することが喫緊の課題です。在宅高齢者の歩行機能を維持するには、動的バランスが重要で、脳卒中による麻痺や筋力低下への対応が必要です。

本ロボットは、脳卒中片麻痺患者で退院後の訓練の必要な方、および筋力バランス機能が低下した方が対象です。小型軽量低コストの機構で在宅・施設での歩行訓練をアシストします。特に左右下肢への荷重移動を促す動的バランス訓練を支援します。このとき荷重移動の様子を計測しバランス機能をもとに回復レベルを評価します。またどのように動けばよいか分かりやすく表示します。

脳卒中 歩行リハビリロボット

高齢者の転倒予測

高齢者が地域で生き生きと活躍する社会とするには、まず転倒を予防し要介護状態を防ぐ仕組み、たとえば転倒リスクの評価と予防訓練の普及が喫緊の課題です。

転倒リスクの評価は、施設で試験することが多いですが、時間やコスト、身体的負担がかかります。そこで、統計手法とAI(人工知能)を駆使し、精度がよく、簡便で低コストの転倒リスク評価方法を開発しています。転倒リスクを日常的にモニタし、健常なうちから転倒を予防する訓練につなげます。現在、転倒リスクを計算するアルゴリズムを開発し介護現場のデータで検証中です。

介護アシストスーツ

介護現場の人手不足の中、現場の生産性向上のニーズは益々高くなっています。その際、介護者離職の主な原因である腰痛防止が喫緊の課題です。

本研究では、移乗介助時の腰痛を防止し、小型軽量・低コスト・使い勝手がよい機構と機能を研究し、もって介護業務の生産性と安全性を高めることを目指します。現在、老健施設で使い勝手などを実証試験をしています。また作業中の動作を計測し無理な姿勢の際に警告する機能も開発中です。

介護アシストスーツ

高齢者みまもりシステム

在宅高齢者の見守りが課題です。定期的に在宅高齢者を訪問し、フレイル予防などの身体機能のほか、引きこもりやウツ傾向を見守る活動があります。しかしマンパワー不足で限界があります。

そこで、臨床心理学の知見を基にAIとアバター技術を応用し、在宅高齢者の状態を把握しつつ、行動変容を促がし、異常事態をケアセンターへ通報するシステムを開発しています。高齢者の感情・行動を観察するセンサ群と、感情・認知度・行動の解析エンジン、共感と行動変容をうながすアバターとを開発しています。SmartAvatar ®(BOND社)というアバター技術で感情豊かに発話や身振りを表し、高齢者の共感を得ながら日常生活を見守ります。具体的には熱中症やヒートショックを見守るシステムを開発中です。

高齢者見守りシステム

被介護者に安心感を与える介護用リフト

介護従事者の腰痛が大きな問題となっており、ベッドと車椅子間の移乗にリフト使用が推奨されています.しかしリフトでの作業中に介護される人の姿勢が不安定になることがあります。

そこで被介護者の転落事故を防ぎ両手で支える動作で操作する介護用リフトを開発中です。これはパワーアシスト機能を備え、吊り下げた被介護者を両手で支えながら昇降し着座します.これにより安全と安心感を与えることができます。

被介護者に安心感を与える介護リフト

全身性麻痺障害者の移動支援ロボット

SDGsの「誰一人取り残さない」という考え方の下、重度であっても能力を補綴し社会での活躍を支援することは、少子高齢化に対応する「一億総活躍社会」につながる喫緊の課題です。

全身麻痺障害者からの依頼を受け、自立移動機器(ロボットストレッチャー)を開発、実証実験を重ねてきました。 本研究では、操作方法、周囲画像提示、身体支持機構、安全性について開発中です。さらに、遠隔の機器の操作機能を組合せ、幅広い障害者がリモート就労などで活躍社会を目指します。

全身性麻痺障害者の移動支援ロボット
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