• くらし
  • 【公開日】2024-02-16
  • 【更新日】2024-02-21

高齢者に対する買い物の意義と支援への取り組み

高齢者に対する買い物の意義と支援への取り組み

買い物は生活に必要なものを購入するだけではなく、人と出会い、自分の好みのものを探すという楽しみでもあります。高齢になり心身が弱ってくることで、買い物への不安に感じている人も多いのではないでしょうか。買い物を支援するための取り組みについて解説します。

山井 理恵 教授
明星大学 人文学部 福祉実践学科
社会福祉士
日本社会福祉学会
北星学園大学卒業後、医療ソーシャルワーカー、社会福祉協議会職員(非常勤)を経て、明治学院大学大学院博士後期課程満期退学。2002年より明星大学にて高齢者福祉、ソーシャルワーク、実習を担当。2008年、お茶の水女子大学にて博士(社会科学)を取得。高齢者の地域生活を支えるためのケアマネジメントを研究。
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高齢者にとっての買い物の意義

食料や日用品を購入することは、地域での生活を維持するためには欠かせません。医療サービスや介護サービスを利用しない人はいるかもしれませんが、食料や日用品など生活に必要な品物を購入しない人はいないことでしょう。そのため、高齢者のみならず、すべての人にとって買い物は生活を維持するうえで非常に大きな意味を持っています。

買い物のためにスーパーマーケットや商店、コンビニエンスストアなどの店舗に行くこと自体にも大きな意義があります。店舗に行き、商品を選び、購入するという一連の行為は、生活に刺激を与え、要介護状態になることを防ぐことにもつながります。店舗でなじみの従業員や知人に会うことは、高齢者にとっても大切なコミュニケーションの場、楽しみの場といえるのではないでしょうか。

最近では、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの従業員が、買い物に訪れた高齢者などの異変に気付き、行政や地域包括支援センターなどの専門機関につなげることで、見守り体制の構築介護サービスの利用につながったという事例も報告されてます。

さらに地域の会場として、スーパーマーケットで、介護相談、熱中症予防や詐欺被害、認知症などに対する行政や専門機関の取り組みやサービスに関する展示を行うことで情報提供の場ともなっています。「世界アルツハイマー月間」である9月、9月21日の「世界アルツハイマーデー」に、認知症啓発イベントや相談会を行っている場面をご覧になったことがあるかもしれません。また、認知症の当事者や家族が、同じような悩みを抱えている地域住民や専門職と交流する認知症カフェの会場を提供している取り組みもみられています。

買い物をめぐる課題と解決への試み

このように買い物は地域での生活を支えるうえで欠かせないものです。その一方で、買い物をめぐる課題が出現しています。

店舗へのアクセス困難

最近、徒歩で行ける範囲にスーパーマーケットや商店などの店舗がなく困っているという声がよく聞かれています。次のようなサービスを利用することも一案です。

①移動販売や既存施設を利用した店舗

近くに店舗がないという声にこたえるために、移動販売を行う事業者も増えています。これは一定の曜日や時間に、食料や日用品をトラックや軽自動車で運び、販売を行うものです。

移動販売には、スーパーマーケットを経営する事業者や関連事業者が行うものと、個人事業主がスーパーマーケットなどと連携して実施するものがあります。個人事業主が行うものとしては「とくし丸」がニュースなどでも良く紹介されています。

また行政などの支援を受けて、NPO法人や自治会などが移動販売に取り組む事例、あるいは空き店舗や廃校などの既存施設を利用して、店舗経営を行う取り組みも見られています。このような移動販売や既存施設を利用した店舗経営では、商品を販売するだけではなく、見守りの役割を果たしていることもあります。

②宅配サービス

宅配サービスは、申し込んだ商品を自宅まで運ぶものです。宅配サービスを行っている事業者として、生活協同組合(生協)が最も知られています。最近では多くのスーパーマーケットでも宅配サービスを実施するようになりました。申し込み方法としては、インターネットによるもの、申込用紙によるもの、電話によるもの、店舗で購入したものの配達を行うものがあります。

③送迎バス

移動販売や宅配サービスは、自宅や自宅そばまでに商品を運ぶという点では非常に便利ですが、「店に展示してある商品から好きなものを選びたい」「店内を歩いて楽しみたい」という希望も多いことでしょう。事業者のなかには、店舗まで送迎バス運行を行っているところもあります。行政と事業者が連携し、ショッピングセンターなどへの定期的な運行を行っている地域もあります。

認知症や障がいなどによる買い物の困難

高齢化が進むにしたがって、認知症高齢者の数も増加しています。認知症が進行し、商品の選択、支払いや手続きが困難となる高齢者、買い物後に自宅に帰ることができなくなった高齢者も多くみられています。認知症以外にも、筋力や視力などの障がいや病気のために、店舗の利用が難しくなっている人も少なくありません。

このような配慮を必要とする高齢者の見守りに必要な知識や対応を学ぶための方法として、認知症サポーター養成研修が開催されています。認知症サポーターとは、特別なことをするのでなく、認知症の人たちが暮らしやすい社会になるように、市民の立場でサポートを行うものです。認知症サポーターは2023年12月31日現在、1500万人を超えています。

認知症サポーター養成研修は、学校や地域のほか、事業所でも実施されており、イトーヨーカドーやイオンなどのスーパーマーケットは、金融機関や鉄道等ともに認知症サポーターが多い業種のひとつです。そのため、スーパーマーケット向けの認知症対応マニュアルも作成されています。このマニュアルでは、店舗内での商品持ち去りや金銭の支払いなどへの対応方法が解説されています。

認知症サポーターのほかにも、障害をもった人への対応を学ぶ「ユニバ―サルマナー検定」を企業や事業所内で受講している取り組みが出ています。

このように認知症や障害を持つ人への対応に取り組むスーパーマーケットも増えています。認知症や障がいなどのために店舗内での配慮を必要とする場合は、よく利用する店舗のサービスカウンターなどに事情を伝えておくことで、何らかの対応につながる可能性があります。

認知症や障害をもつ人への対応は一企業内だけにとどまらず、地域全体で取り組むべき課題です。最近では、行政が民間事業所との包括協定や見守りネットワーク事業の協定を締結し、定期的に情報交換を行う自治体もみられています。

高齢者等への買い物支援への取り組み事例

次に、高齢者や支援を必要とする人たちに対する取り組み事例として、イトーヨーカドーの取り組みを紹介します。

イトーヨーカドーの取り組み

イトーヨーカドーでは、配慮を必要とする顧客の増加、特に認知症と思われる高齢者の増加にともない、2014年から認知症サポーターの養成を本格的に開始しました。2015年より、社内の認知症キャラバン・メイトを育成、認知症サポーターの社内研修を拡大した。あわせて自治体との包括協定を締結していきました。このほか、2020年からは「妊婦・高齢者・障がい」の顧客対象の食品レジ 「おもいやり優先レジ」を一部の店舗に設置しています。移動販売とくし丸を通じた見守り活動へも参画をしています。

さらに、事前に電話やファックスで予約、店内のサービスカウンターでの申し込みをすることで、従業員が希望する商品のある売場に案内し、買い物を介助するサービス、買い物の途中で支援が必要な場合にボタンを押すことで従業員に知らせる回転灯、新入社員への手話研修、基本的な手話技能の社内講習会などが取り組まれています。そのほかに、店舗を利用した認知症カフェや介護予防教室にも取り組んでいます。

イトーヨーカドー八王子店での取り組み

イトーヨーカドー八王子店では、認知症当事者団体、地域包括支援センター職員との共同による店舗づくりに取り組んできました。

イトーヨーカドー八王子店は、山間部に近い住宅地にある駅から徒歩3分に位置しています。近くには大きな団地があります。1階は、食料品のほか、衣料品、宝石や時計などを扱う専門店、フードコート、2階が女性向けの衣料品を中心としたフロア、3階が子ども向けの商品、日用品、飲食店等があります。

イトーヨーカドーは、2017年に八王子市と包括連携協定を締結し、市内の2店舗(八王子店南大沢店)と同市の関係各課との地域・社会課題の解決、市民サービスの向上、地域の活性化を目的に連携を推進することとなりました。

同社では従業員の認知症サポーター養成講座を推進してきましが、講座受講を進めるなかで、店舗内でより実践的な取り組みを進めたいという希望が聞かれるようになりました。そこから、従業員を対象に困っていることや課題などのアンケートを実施しました。その結果を踏まえ、八王子市内の地域包括支援センターと同店舗の従業員で座談会を実施し、オリジナルテキストを作成しました。

オリジナルテキストでは、地域包括支援センターの役割、店内の設備やその役割を解説、市内の認知症者への支援事業を紹介しています。さらに、店内での事例を踏まえた認知症高齢者の適切な応対も解説しています。講座終了後に、参加者アンケートを実施し、地域包括支援センターのスタッフとイトーヨーカドー担当者との座談会で、従業員が受講後の業務や接客応対への変化を確認しています。

さらに同店では、同市内にある域密着型通所介護「DAYS BLG!はちおうじ」と協働し、「認知症当事者によるショッピングセンター練り歩き」を定期的に開催しています。これは、認知症の当事者である同施設のメンバーの視点から、不便な点や気になる点をチェックするものです。店舗内の掲示物やレジの位置などを確認します。あわせて、食料や飲み物、肌着などの商品などを店舗で探すことを通して、店舗内での買い物しやすさも検討しています。

以上の一連の結果を、同社社員や市職員、地域包括支援センター職員、大学教員を交えて意見交換しています。この意見交換をもとに、商品の配置や店舗内の掲示物をわかりやすいものに改善したり、サービスの内容の改善に反映させています。

終わりに

高齢になり、認知症や障がいを持つと、ともすれば「何もできない」「代わりにやってあげなくては」と思われがちです。できることに目を向け、そのできることを生かしてくことで、生活に張りを持つことができます。買い物をすることは自分らしい生活を維持するうえでも重要な要素の一つです。買い物を支援するための体制を整備していくことを社会全体で進めていく必要があると考えます。

【参考文献】

  • 特定非営利活動法人地域共生政策自治体連携機構、認知症サポーターキャラバン https://www.caravanmate.com/(参照日: 2024年2月9日)
  • 特定非営利活動法人地域共生政策自治体連携機構、認知症サポーターキャラバン、サポーター講座教材等、https://www.caravanmate.com/goods/(参照日: 2024年2月9日)
  • 株式会社ミライロ、一般社団法人ユニバーサルマナー検定協会、ユニバーサルマナー検定、universal-manners.jp
  • 株式会社イトーヨー堂経営企画室CSR・SDGs推進部、「認知症サポーター養成を通じた地域共生社会実現への貢献」(認知症キャラバン令和3年度表彰式・報告会資料)、https://www.caravanmate.com/dcms_media/other/R03jirei-itoyokado.pdf(参照日: 2024年2月9日)
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