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  • 【公開日】2024-02-01
  • 【更新日】2024-02-01

大切な人を亡くした悲しみを乗り越えるには ~グリーフケアの観点より、家族の皆様が意識できること~

大切な人を亡くした悲しみを乗り越えるには ~グリーフケアの観点より、家族の皆様が意識できること~

核家族世帯の増加など家族形態や人とのつながり方が変化した社会の中で、大切な人との死別による悲しみにどう向き合っていくか解説していきます。

佐々木祐子 教授
新潟青陵大学大学院 看護学研究科
看護師・保健師 / 教員
日本死の臨床研究会、日本グリーフ&ビリーブメント学会、日本臨床死生学会
北里大学を卒業後、地元のがんセンターや緩和ケア病棟に勤務。臨床で多くの人の看取りを経験してきた。東洋英和女学院大学大学院で死生学を学び、日本人の看取りや身内と死別した人のグリーフケアをテーマに研究を行っている。大学では人の生と死、成人看護学の授業、人生会議やおひとり様の終活などの公開講座を担当している。
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1.大切な人を亡くした際の悲しみ

家族や親しい人を亡くすことは、悲しい出来事であり、どんなに死が近いことを説明されて覚悟はしていても、遺された人にとっては衝撃的な出来事です。

家族の方から死別直後のことをお聞きすると、「頭が真っ白になった」「亡くなった後のことは覚えていない」などショックを受けて茫然自失の状態だったと思い返される方が多くいます。

死別後の悲しみは、病気などで療養していた場合、突然の事故や予期せぬ災害で亡くなった場合などの死別状況、故人との関係性によっても違いが生じます。亡くなった人が自分にとって大事な人であればあるほど悲しみは深く、強いものとなります。死別によって起きる反応は個人差が大きく、「涙が枯れるほど泣く」人もいれば、「悲しすぎて涙が出てこない」人もいるのは当然のことで、悲しみが表出されないから苦しんでいないわけでないことを理解しておく必要があります。

 

死別後の悲しみは一般的に「悲嘆(グリーフ)」と表現されるため、感情面だけに起きるものだと理解されがちですが、死別した直後から悲嘆反応は心理面だけでなく、身体面、社会面において様々な反応が起きます。

『心理面』では、ショック、混乱、不安、恐怖、抑うつ、孤独感、怒り、いらだち、自責の念、集中力の低下、思慕などがみられます。

『身体面』では食欲不振、睡眠障害、活力の低下、身体愁訴などがみられます。

『社会面』では、ひきこもりや他者への攻撃、過活動などがあげられます。

2.悲嘆の影響

身内や親しい人と死別した後、気分が落ち込んだり、食欲がなくなったりするなど、誰にでも何かしらの反応が起きますが、個人差も大きいものです。そういった経験をすることをあらかじめ知っておくことも必要です。

家族は悲しむ間もなく葬儀や相続など、様々な事務手続きに追われますが、やがて日常の生活を送るようになると、故人のいない現実に向き合うことになります。

多くの遺族は何度も故人が亡くなる前のことを思い返して、「もっとお世話ができたのではないか」「本人の希望に沿ってあげられただろうか」など心残りを言葉にされます。医療者や介護者、家族が最善を尽くしてきたとしても、自責の念後悔を抱く印象があります。

 

また、同じ家族であっても悲嘆は異なるため、「理解してもらえない」と温度差を感じることもあるようです。ある方は、息子夫婦は死別前の状況に戻っているのに、自分はまだ夫を喪った悲しみの中にいて、取り残された気持ちになると話していました。息子さんは母親を元気づけたいために「早く立ち直りなよ」と言葉をかけたそうですが、しばらくは孤独を感じていたそうです。悲しい時には気持ちを無理に抑え込まないで、思いきり悲しむことも必要です。

周囲の人は何も接し方を変えていないのに、自分だけが疎外感を感じ、これまで親しかった人といても溶け込めない気持ちがすると地域のサークル活動をしばらくお休みした方もいました。

その一方で、仕事や社会活動などで無意識にオーバーワークとなって無理をしすぎてしまい、結果として体調を崩す方もみられます。配偶者を亡くした場合、男性のほうが悲嘆を表出しにくい傾向があり、死亡リスクが高くなるなど健康状態に影響を及ぼす報告があります。

死別後しばらくは、悲しみの反応によって深く考えられずに適切な判断ができないこともあるので、転居や実家の売却など、大きな決断をするのは少し先に延ばすなど慎重にしましょう。

 

悲嘆からの回復過程において、遺された人は死の現実に向き合う『喪失志向』と亡き人のいない生活や人生に向き合う『回復志向』の双方を行き来しながら、日々を過ごしていきます。死別からの時間の経過に伴って、喪失志向から回復志向に軸が移っていき、少しずつこれからのことを考えられるようになっていきます。

悲しみの波は時間とともに落ち着いていくとされていますが、時間が経っていても祥月命日や誕生日が近づいたり、そういったきっかけになる刺激や出来事によって落ち着いていた感情があふれ出し、急に気分が落ち込んで涙が出たり悲しみに襲われて思い出してしまうことがあります。これらは「命日反応」「記念日反応」とよばれています。私も父の誕生日に街中で似た背格好の人をみた際、ふいに涙がにじんできたことがあったり、家族旅行を毎年していた時期は落ち着かなかったりしました。愛する人のいない生活にようやく慣れてきた中でも故人のことを思い出して涙が出たりすることは、病気ではありません。

 

このように死別直後から悲嘆反応が生じていても大部分の人たちは、時間が経過していくとともに悲しみに向き合っていきます。ところが、悲嘆反応が長時間強く続き、日常生活にも大きな支障をきたす状態になることがあります。故人のいない生活に絶望し、常に故人のことばかり考えて仕事に行けない、家のことができないなど、遺された人に著しい影響が出る場合は、こころの専門家の支援をうけることが必要になります。

3.悲しみを最小限、または乗り越えるための方法・相談先や具体例

多くの人は悲しい気持ちがいつまで続くのか、本当に向き合えるようになるのかと思われるでしょう。死別後は、気分が落ち込んで何もする気になれないうつ的な不調よく眠れないなど、死別前の状況に戻るにはある程度の時間の経過が必要です。

そのような状態では生きていくことがつらく感じるでしょうが、いつもの時間に起きてごはんを食べ、仕事に行ったり家事や買い物をしたり、夜は十分に睡眠をとるという生活のリズムを整えることが大切になります。食事を作る気になれないなどこれまでできていたことが難しい場合は、無理せずに周囲の人に頼ることも時には必要です。このような時期に普段の生活を送ることは、とてもエネルギーを消耗するものですが、一日一日を送ることでこころの揺れが少しずつ戻っていくようになります。

私自身は物事を決めるのに時間がかかるようになり、疲れやすいと感じるようになったので、頑張りすぎないようにしていました。夫と死別したAさんは、もともと地域のサークル活動や友人との定期的な食べ歩きをしていましたが、これまでと違って人と一緒にいることで疲れた時は、無理して出かけることはせずにゆっくりと過ごし、徐々に自分のペースで出かけるようになったそうです。疲れや気持ちが追いつかないことを感じた時は焦らず、頑張りすぎず、自分をいたわってください。

 

前述のように死別後に「もっと何かしてあげられたのでは」と繰り返し後悔される方もいますが、生前にお世話をしてきたことや時間をつくって面会をしてきたなどこれまでの行動を肯定的に捉えることで、自分を責める気持ちが少しは楽になります。

好物を差し入れたこと、孫の発表会を観るために一時外出したなど、故人のために「できることはしてきた」と思うことは大事なことです。遠方に住んでいてなかなか面会に来られなかったとしても、故人を思う気持ちは変わりがありません。

亡くなるまで故人のためにできたことをこころの支えにする遺族の方が多いことから、悲嘆のケアは亡くなる前から行えるものです。家族を遺して旅立つ方も残される方も、思い残すことがないように、感謝の言葉や自分の思いを率直に伝えることが大切です。

 

欧米では地域で死別した人のケアを行っているところもありますが、日本での死別した人の支援は限られているのが現状です。がん患者の方が過ごすホスピスなどの緩和ケア施設では、死別後の遺族に看護師が手紙やカード送付でのお悔やみや体調を気遣い、年に1~2回の遺族会を開催することがあります。

まだ数は少ないですが、がん患者やその家族、遺族のための外来(遺族外来家族ケア外来)などを設けている病院(埼玉医科大学国際医療センターほか)もあります。

 

日本人は周囲の人に迷惑をかけたくないため、自分の気持ちを押さえる傾向にありますが、親しい人に話を聴いてもらうことは悲しみを癒すことにつながります。

例えば仏教の供養では四十九日法要、1周忌、3回忌など節目において故人に縁ある人が集まります。故人を偲び、遺族が安心して悲しみを表現したり、話ができたりする場所があることは、遺された人の助けになります。普段から家族や親しい人、死別経験者と故人の思い出や話を聴いてもらうことで、前を向いて歩んでいく力となります。

 

周囲に分かち合える人がいない場合、全国にある死別経験者の自助グループ、分かち合いの会を利用するのも一つです。私自身も父を亡くしてから気持ちが整理できなかった時、NPO法人が主催する分かち合いの会に参加したことがありました。

一度じっくりと話を聴いてもらう機会があったことで、自分でも気づかなかった抑えていた気持ちを自覚し、楽になりました。参加者の方の話を聴いて辛いのは自分だけではないことが分かり、安堵しました。また、同じ死別経験者の主催者の方の温かな声かけや故人との思い出を振り返るワークなどが、今思えば死別と向き合うきっかけになったと思います。

故人への思いを日記やスマートフォンに残したり、カードに書いて宝箱にしまうなど、自分の思いを書き出す作業をして悲しみを和らげたりすることもあります。

4.グリーフケアとは

大切な人を亡くした人のケアをグリーフケア(悲嘆ケア)といい、人それぞれの悲しみがあることから、何がその人に適したケアとなるか違いがでるものです。言葉に表現できないほどの悲しくて苦しい思いにたった一人で向き合うことは、非常につらいものです。

グリーフケアで重要なことは、死別した人の悲しみに寄り添うことです。日常で行われるグリーフケアでは、家族や周囲の人など信頼できる人が自分の苦しみを聴いて気持ちを受け止めようとしてくれることで、こころが少し軽くなることもあるでしょう。また、体調を気遣われることで、ついつい頑張りすぎてしまう人も身体を休めることにもつながります。

その一方で、親しいからといって自分の思いを理解してもらえるか、心配になることでしょう。安心して自分の気持ちを話せる相手が近くにいない場合は、こころの専門家の支援や自助グループ参加してみてもいいかもしれません。

病院や介護施設で担当していたスタッフは、家族のこれまでの介護をねぎらい、生前の様子や家族について話していたエピソードなどを伝えるようにしています。故人からの感謝の言葉などを自分の支えにしている遺族もみられます。

 

悲嘆からの回復で述べた「喪失志向」では故人との絆を再認識したり、自分の中での故人の位置づけを再確認したりすることで、故人のいない現実に向き合い始めます。

愛する人はこの世に存在していなくとも故人とのつながりは切れることはありません。「自分のすぐそばで見守ってくれている」と思う人や仏壇やお墓、写真に話しかける、「私の(こころの)中にいます」と故人との絆がつながっていることを嬉しそうに話す方は多くいます。

これまで介護のためにできなかった庭の手入れをしながら、故人の大切にしてきた木を愛で、その世話を新たな自分の仕事と思うようになったなど、心境の変化を実感する人もいます。地域の子育て支援ボランティアに参加する人、医療や介護に関心を持って公開講座などに参加するなど、自分のペースで新しい一歩を踏み出しています。少しずつ自分の好きなことを楽しみ、健康に過ごすことは、亡き人の供養にもなります。

死別は人に別離の苦悩をもたらしますが、このように自分なりの悲しみとの向き合い方を模索していく中で、人間的に成長し、故人のいない中でも自分の人生を送っていかれます。

故人との絆を再確認する中で、人は自分の生き方や存在意義を考えるようになります。「故人にあの世で再会した時に、恥じないように生きていきたい」と人生の道標にし、いつしか前に進んでいくようになります。

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