高齢であったり、障がいはあるものの“一人暮らし”をされている方や、自宅で介護を行っている方が「入浴(介助)」に不安と負担を感じたときに利用できる介護保険サービスがあります。
- 通所型サービスの「デイサービス」「デイケア」などで入浴介助を受ける
- 訪問型サービスの「訪問介護」を利用して、訪問介護員(ホームヘルパー)に自宅の浴室を使って入浴介助を受ける、または移動入浴車(浴槽と湯沸かし器を搭載した車)による「訪問入浴介護」を利用する
- 「介護用品・福祉用具のレンタル・購入」や「介護リフォームによる住宅改修費の支給」を利用して、浴室をより使いやすく安全に整える
上記の「居宅サービス」(介護保険サービスのうち、現在の家に住みながら受けられるサービスを「居宅サービス」と言います)を利用したときの自己負担額はかかった費用の1割です(一定以上の所得者の場合は2~3割、逆に負担軽減措置もあります)。
ただし、1ヶ月に利用できるサービスの量(支給限度額)が要介護度別に定められています。
また、介護用品・福祉用具のレンタル・購入、介護リフォームについても限度額がありますので、利用をお考えの方はケアマネジャーに相談してください。
なお、居宅サービスは要介護認定を受けている必要がありますので、受けていない方はまず先に申請をご検討ください。
今回は、「自宅で入浴を続けたい」「自宅で入浴介助を行いたい」という方へ、“より安全で快適な入浴”についてご紹介しています。
1.入浴のメリット(効果・効用)
老若男女問わず、日本人にとって入浴は日常的な生活行為であり、楽しみの一つでもあります。その入浴には“身体の清潔を保つ”という意味や目的のほかに、様々なメリット(効果・効用)があることをご存じでしょうか。
そこで、まずメリットからご紹介します。
浮力効果・温熱効果・水圧効果
これら3つが合わさり、次のような効果を発揮します。
- 筋肉や関節の緊張が弛む
- 血行促進
- 新陳代謝が活発になることで、傷などの皮膚損傷の回復を早める
- 副交感神経が優位になり、心身ともにリラックスする
- 痛みが軽減する
- 食欲が増進する
- 便秘が改善する
- ストレスが解消できる など
良眠効果
適度な体力消耗やリラックス効果などによって良眠が期待できます。就寝前に入浴するならば、就寝時間の90分くらい前までに入る方がいいでしょう。
清潔を保つ
感染症予防効果のほかに、心身の爽快感が前向きな気持ちをもたらしたり、他者との関係を良好に保つという役割もあります。
身体の観察の機会
裸になることで傷や湿疹、足の皮膚疾患や変形、乳ガンなどの異変を発見する機会になります。
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2.入浴のリスク・デメリット
一方で、入浴にはリスク・デメリットがあります。
全国の交通事故による死亡者数は年間約2,600人(2022年警察庁調べ)ですが、浴室での推定死亡者数は全国で年間約19,000人という報告があり、交通事故死に比べるとおよそ7倍の多さです。
その大半は高齢者ですが、若い方や持病のない方でも油断はできません。若い方に比較的多いのは転倒事故です。
転倒
歳を重ねることで足腰が弱ってきたり、バランス能力が低下してくると、ちょっとした段差につまずき転倒につながります。
また浴室には排水のためにわずかながら傾斜があり、水分や石けん分が残っていると、より滑って転倒しやすくなります。
裸であるため転倒すると大きなケガや事故につながる可能性が常にあります。
転倒や転落を防ぐためには、
- 移動のための手すり
- 浴槽の出入りを助ける手すり
- 洗い場と浴槽の底に敷く滑り止めマット
- 身体を洗うときに座る安定したイス
を準備することをおすすめします。
また、身体や髪を洗うときに座るイスが低かったり、座面が狭い・湾曲しているなど高齢者に向いていないイスを使用していると、イスからの転落や、立ったり座ったりするときにバランスを崩して転倒するということもあります。
溺れる
①ヒートショック
急な温度差は血圧の急激な変化につながり、失神したり脳卒中や心疾患を引き起こしたりして、溺水や溺死に至る可能性があると指摘されています。
具体的には、寒い脱衣所で服を脱ぐと血管が収縮して血圧が上昇、お湯に浸かって身体が温まると血管が拡張して血圧が下降、その結果一時的に脳まで血液が回らず失神したり意識障害を起こしたりすることになります。
②熱中症
体温が37℃の人が湯温41℃で全身浴をすると33分、湯温42℃ならば26分で体温が40℃に達するという研究報告があります。
体温が40℃を超えると熱中症の症状が出始めて意識障害が起こる可能性があります。ボーとしたりウトウトしたまま入浴を続けていると溺れる危険性は高くなります。
ヒートショックや熱中症を防ぐためには、次のような対策をとることをおすすめします。
・冬場は各部屋の寒暖差をできる限り小さくする
・脱衣所や浴室の温度は18~25℃に保つ
・湯温は41℃以下、浸かる時間は10分以下を目安にする
・脱水症予防が熱中症予防につながるので、入浴の前後に必ずコップ1杯の水分を摂る
表皮剥離・皮下出血
高齢者は皮膚が薄く弱くなって傷つきやすいので、少しの摩擦やズレ、打撲でも皮膚が裂けたり、皮下出血してしまうことがあります。
それを防ぐためには、身体を洗うときは強くこすらず撫でるように洗い、拭くときはタオルを押し当てるようにして水分を取るようにしましょう。
3.入浴環境をできる限り安全なものにする
介護保険を利用して、例えば「浴室の出入口の戸を引き戸にする」「段差を解消する」「床に滑り止め加工を施す」「出入りしやすい浴槽の形状や設置法にする」「浴室や脱衣所に暖房を導入する」などのリフォームができれば、それに勝るものはありませんが、そこまで大がかりではなくても、モノ(介護用品)を活用すると安全になり、介助も楽になります。
手すり
脱衣所と浴室の間を移動するときや、浴槽の出入りをするときに、身体を支える手すりがあると安心です。
浴槽のフチに付ける手すりなら、工事の必要がなく取り外しが容易なタイプもあります。
滑り止めマット
洗い場と浴槽の底には、滑り止めマットがあると安心です。
もし、洗い場にお風呂用マット(一般的なもの)を敷く場合は、滑り止め加工されているものを選ぶか、洗い場全面に敷き詰めて“マットごと動いて転倒”とならないようにしておくことが大切です。
シャワーチェア
かけ湯をしたり、身体や髪を洗ったりするときにはシャワーチェアなどの安定したイスに腰かけて行うことが、転倒や転落防止になります。
シャワーチェアが浴槽のフチと同じ高さのものであれば、立って浴槽を跨ぐのではなく、イスに腰かけたまま身体の向きを変えて浴槽に浸かる、または出るという方法が取れ、より安全な動作になります。
浴槽台
浴槽の中に沈めて腰かけて使います。
浴槽に浸かっているときの姿勢を安定させたり、浴槽の中で立ち上がるときの動作を楽にさせてくれるもので、半身浴にも役立ちます。
浴槽台には高さを調整できるもの、吸盤で動かないようにできるもの、自重で沈むものなど、大きさも含めて様々なタイプがあります。
その他、その家に合った工夫をすることで、より安全で介助を楽にする介護用品・福祉用具は色々あります。ぜひケアマネジャーや、福祉住環境コーディネーターのいる介護用品取扱店へ相談してみてください。
4.入浴前の準備
体調確認
まず、体調に変わりがないか確認しましょう。
体温や血圧などは毎日同じ時間に測定し記録をつけておくと、変化に気づきやすくなります。
熱はないし血圧もいつも通りという場合でも、なんとなく不快だったり元気がなかったりするときは、入浴を控えた方がいいかもしれません。
明らかに体調不良のときや食後1時間以内、飲酒後、精神安定剤などの薬を服用したあとは、入浴を控えましょう。
冷えて眠れないというときは、足浴(大きめの容器に湯をはり、足を温めたり洗ったりすること)でも十分効果があります。
なお、入浴の前には、排泄を済ませておきましょう。
入浴前にも水分補給
入浴中の脱水症を防ぐために、入浴前にコップ1杯の水分を摂りましょう。
浴室と脱衣所の温度の目安は18~25℃
冬の寒い時期は、脱衣所に小型の暖房機器があると安心です。
浴室はシャワーで給湯したり、給湯(または追い炊き)したあとフタをせずにおき、湯気で温めたりする方法もあります。誰かが入ったあとにすぐに入ることができれば浴室は温まっていますので、入る順番を工夫してはどうでしょうか。
夏場は逆に高温・多湿を防ぐために(熱中症予防のために)換気が必要です。
必要なものを揃えておく
入浴中に使うものが手元にあるか、予め確認しておきましょう。特に介助中に要介護者のそばを離れることは危険です。
また、湯上がり後すぐに着替えられるよう、タオルや衣服を準備しておくことも大切です。
着脱衣もイスに座って
服を脱いだり着たりするときや、湯上がり後に身だしなみを整えるときも、安定したイスに腰かけて行いましょう。自分自身で行うときも、介助する場合でも安全にゆっくり行うことができます。
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5.入浴中のポイント
かけ湯は十分に
シャワーの場合も、桶などによるかけ湯の場合も、まず手で湯温を確かめましょう。いきやり高温のシャワーを浴びて火傷をするという事故事例もあります。
ややぬるめのお湯を手足などの心臓から遠い部分からかけ、身体を徐々にお湯に慣らしていくと、血圧の変動が緩やかですみます。
お湯の温度は41℃以下、浸かる時間も10分以内
冬場は特に入り始めの温度はぬるめに、浴槽から出る前に少し熱めのお湯を足したり、追い炊きすると満足度が高まります。
浸かる時間は全身浴なら5分程度で十分でしょう。
髪を洗う
十分に髪を濡らしてから、シャンプー剤を手で取り伸ばして髪につけます。地肌はマッサージする要領で、指の腹を使って優しく洗います。
洗髪後は、シャンプー剤を十分に洗い流すことで、頭皮のトラブルを防ぎましょう。
身体を洗う
高齢者は皮膚が薄く弱くなって傷つきやすいので、ゴシゴシ洗わずに、泡立てた石けんを使い、手のひらで撫でるように洗う方法が適しています。タオルやスポンジを使う場合は、できるだけ柔らかいものを使ってください。
乾燥による痒みや湿疹のある場合は、石けんは部分的に使うことをおすすめします。
皮膚が合わさり汗や汚れの溜まりやすい部位、耳の周辺、首周り、脇の下、胸の下(女性)、陰部、臀部、足の指などはしっかり洗いましょう。それ以外は、お湯に浸かるだけでも十分に皮膚の汚れは落ちます。
浴槽に浸かる、浴槽へ出入りする
特に浴槽(湯船)から出るときは、ゆっくり立ち上がりましょう。急な動きをすると血圧が下がり“立ちくらみ”を起こすことがあります。
前述した通り、立って浴槽を跨ぐことが不安になったり難しくなったりしたときは、まず手すりが必要です。
さらに、イスに腰かけたまま身体の向きを変えて浴槽に出入りする方法であれば、より安全になり介助も楽になります。
そのための入浴用品は色々あります。「浴槽に浸かるのは難しい」と諦める前に、ケアマネジャーや介護用品取扱店に相談してください。
姿勢について
髪や身体を洗うときの姿勢は、シャワーチェアなどのイスに深く腰かけ、床に足を着けたやや前屈みの姿勢がもっとも安定しています。のけぞっていたり、身体が傾いていたりすると、水分や石けん分によって滑り落ちることや、横倒しになる危険性があります。
また、浴槽(湯船)に浸かっているときの姿勢も、上半身を起こし気味にした方が安定します。
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6.入浴後のポイント
身体を拭く
浴室から脱衣所へ移る前に身体を拭きましょう。気化熱によるヒンヤリ感や体温変化を小さくするためと、足元が濡れているために滑ったり転倒したりすることを防ぐためです。
脱衣所に移ったら、もう一度しっかり身体を拭きましょう。
拭くときも、洗うときと同じようにゴシゴシではなく、そっとタオルを押し当てて拭き取るようにすることをおすすめします。
湯上がりには、保湿クリームなどでお肌のケア(保湿)も忘れずに。
服を着る
汗が十分に引いてから上着を着ましょう。急いで着込んでしまうと汗をかき、湯冷めにつながるからです。
爪を切ったりヤスリをかけたりする場合、入浴後の方が爪が軟らかくなっているため楽にできます。
着患脱健
脳卒中などの後遺症や肩関節などに痛みや可動域に制限がある場合、服を脱ぐときは支障のない側(健側)の手や足から脱ぎ、着るときは支障のある側(患側)から着ると楽です。
衣服の大きさ、素材、様式(かぶりか前開きか)によっても着脱のしやすさが違うので、工夫のしどころです。
湯上がりにも十分な水分を
湯上がりにも十分な水分を摂りましょう。合わせて体調に変化がないかよく確認しましょう。
できることは自分自身で
入浴介助をする場合は、できる限りご本人のできることはご本人に任せましょう。特に陰部はご自身で洗っていただきましょう。女性であれば顔や胸周りもご自身で洗っていただいてはどうでしょうか。
今できることをするということは、今ある機能や能力を維持することになります。また自尊心や意欲を維持することでもあります。
7.まとめ
高齢であったり、障がいはあるものの“一人暮らし”をされている方や、自宅で介護を行っている方・介護を受けている方が、過度なストレスや負担を感じることなく入浴が続けられるように、ポイントや工夫をご紹介しました。
安全で気持ちのよい入浴のために、ぜひ参考にしてください。
高齢者の入浴に関して詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
- 関連記事高齢者が入浴しないとどうなる?入浴拒否の原因や対応も詳しく解説カテゴリ:介護に関するトピック更新日:2023-02-21
入浴介助のメリットとしては、「良眠効果」「清潔を保てる」「身体状態のチェックができる」などが挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。
入浴介助のデメリット・リスクについては、「転倒」「溺れる」「表皮剥離」などが挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。