老健(介護老人保健施設)は、長期入院からの在宅復帰などを目的として、専門のスタッフによるリハビリテーションや医療行為を受けられる施設です。
国や自治体からの援助を受ける公的な介護施設であるため、比較的低価格な料金ながら、手厚い医療・介護サービスが利用できることが魅力となっています。
しかし、医療が充実しているとは言うものの「具体的にどんな医療行為を提供しているのだろう?」と疑問をお持ちの方もいらっしゃいます。
「本人が必要とする医療行為が可能なのか知ったうえで、安心して入所を考えたい」
「老健ではどこまでの医療行為に対応しているのか、対応できる医療行為の全容を知りたい」
そんな思いをお抱えの方々のため、今回は老健(介護老人保健施設)で対応できる医療行為の一覧や人員体制、医療行為を受ける際の知っておきたいポイントまで詳しく解説して行きます。

老健(介護老人保健施設)で受けられる医療行為一覧
まず初めに、老健で受けられる医療行為を一覧表で紹介します。
主に老健で受けられる医療行為としては、以下のようなものが挙げられます。
看護師が行える医療行為 | インスリン注射 | 人工呼吸器の管理 | 在宅酸素療法 |
---|---|---|---|
中心静脈栄養 | 褥瘡(じょくそう)ケア | ストーマの貼り替え | |
経管栄養(胃ろうなど) | 痰の吸引 | 導尿・バルーンカテーテルの管理 | |
介護職員が行える医療的ケア | 体温測定 | 血圧測定 | 軟膏の塗布 |
湿布の貼付 | 軽い傷への処置 | 内服薬を飲むときの介助 | |
目薬の点眼 | 座薬の挿入 | 鼻腔に薬を噴射するときの介助 | |
研修を受けた介護福祉士が行える医療行為 | 喀痰'(かくたん)吸引 | 経管栄養 | |
医師が行える医療行為 | 注射・点滴 | 人工透析 | 診察及び経過の観察 |
応急処置 | 処方箋の発行 |
このほかにも末期がんなど、重度の医療行為にも対応している施設も存在します。
上記のほかにどこまで高度な医療行為に対応しているかは施設によって異なるため、入所の前に面談やパンフレットなどを活用してよく確認してみることが大切です。
関連記事
介護老人保健施設(老健)には長期入所できる?ずっと入所できない時の対処法も解説!カテゴリ:介護老人保健施設更新日:2023-06-27
老健(介護老人保健施設)には医師や看護師が常駐
老健では、医師や看護師、理学療法士などの常駐が義務付けられており、介護施設の中でも医療体制が充実していると言えます。
特別養護老人ホームを例に挙げて比較してみると、違いは以下のようになります。
職種 | 老健(介護老人保健施設) | 介護付き特別養護老人ホーム |
---|---|---|
医師 | 常勤1人 | – |
看護職員 | 9人 | 3人 |
介護職員 | 25人 | 31人 |
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士 | いずれか1人 | ー |
※ 表内の人数は利用者100名に対する必要人員です
老健は介護・看護職員と入所者の割合が3:1で設置することが義務付けられています。
したがって特養(特別養護老人ホーム)と比較しても、医師・看護師の割合が多いことが分かります。
また医師に関しては老健では、常駐が義務付けられていますが、特養(特別養護老人ホーム)では非常勤が認められています。
そのほか「理学療法士」「作業療法士」「言語聴覚士」の資格を持つもののいずれかか常駐していることも、大きな魅力です。
以上からリハビリや日々の健康管理をはじめ、医療面でより手厚く、安心の環境と言えるでしょう。
関連記事
介護老人保健施設(老健)の人員基準は? 医師や看護師の有無や夜間の体制まで詳しく解説!カテゴリ:介護老人保健施設更新日:2023-03-22
老健(介護老人保健施設)で看護師が行える医療行為
続いて、老健で行われる医療行為のそれぞれについて詳しく解説して行きます。
老健では日常的な医療行為を必要とする利用者も多く、常駐する看護師の尽力は大きいです。
本章では看護師が行うことができる主な医療行為について、詳しく解説して行きます。
- インスリン注射
- 人工呼吸器の管理
- 在宅酸素療法
- 中心静脈栄養
- 褥瘡(じょくそう)ケア
- ストーマの貼り替え
- 経管栄養(胃ろうなど)
- 痰(たん)の吸引
- バルーンカテーテルの管理
インスリン注射
インスリン注射とは、1型糖尿病などの方が血糖値を下げるために定期的に打つ注射のことです。
というのもインスリンは血糖値を下げるために必要なホルモンですが、1型糖尿病の方は、体の中でインスリンを作ることができません。
そのため、インスリンを下げるために定期的に注射を打つ必要性があるのです。
インスリンの注射は、一般的に決められた時間になると自分自身で注射を打つ場合もありますが、自己接種が難しい場合は、看護師などが代わりに接種します。
人工呼吸器の管理
心肺機能や神経、筋肉の病気がある人は、全身の状態や生活の質の改善を目的に人工呼吸器を使用するケースがあります。
こうした自宅や施設で扱う呼吸器のことを「在宅人工呼吸器(HMV)」と呼んでいます。
在宅人工呼吸器は命に関わる医療的ケアのため、専門知識を持った看護師による対応が必要です。
中心静脈栄養
中心静脈栄養とは、食事において経口からの栄養摂取が困難かつ消化器官の機能も低下している方に対して、心臓に近い太い血管である中心静脈から点滴で栄養を注入する行為です。
通常の腕の細い血管の点滴とは違い、太い静脈からのため比較的血管を刺激せずに苦痛なく必要な栄養分を補えます。
ほかにも10日以上の長期使用ができることなどメリットとして挙げられますが、その分徹底した管理が必要のため、看護師による対応が大切となります。
在宅酸素療法
在宅酸素療法とは、慢性呼吸不全・慢性心不全などにより、自分の力で体内に酸素を取り込むことができなくなった方が利用する治療法です。
施設に専用の機械を設置して鼻にチューブを装着して直接酸素を吸います。1ヵ月に1回の診察を受けていれば、状態が悪化した場合以外などは、施設で治療を続けることが可能です。
褥瘡(じょくそう)の処置
褥瘡(じょくそう)とは病気などの原因によりベッド上で過ごす時間が長くなった際、体重で圧迫され続けている身体部位の血流が悪化し、皮膚は皮下組織、筋肉などが壊死してしまう症状のことです。
寝たきりの方などは、体重で圧迫されている期間が長期間かどうかなど詳細な部分を理解することが困難です。
そのため、看護師を中心に細やかな管理のもと処置が必要となります。
ストーマ装具の貼り替え
人工肛門・人口膀胱のことをストーマといい、ストーマから出た排泄物などをためる装具をストーマ装具といいます。
ストーマは常に清潔に保たなければ、皮膚のかぶれ・感染症を引き起こす可能性があります。
しかし、本人・介護職員だけでは、医学的知識の問題などから常に清潔に保つことは難しいため、看護師による継続的な観察が必要です。
痰の吸引
痰(たん)の吸引とは、痰が詰まることによる窒息を防ぐために、吸引機を使って痰を排出する処置です。
吸引機にはチューブが付いており、鼻やのどに挿入することで痰を排出します。気管切開している方は、カニューレにチューブを挿入して痰を吸い出します。
バルーンカテーテルの管理
バルーンカテーテルは、病気など何かしらの原因で、自分自身で排尿が難しい場合の対処法の1つとして行われる方法です。
尿道にカテーテルを挿入し、膀胱内の尿を出します。尿道にカテーテルを挿入することにより、尿が自然とカテーテルを通り、膀胱に溜まらず畜尿袋と呼ばれる袋の中に溜まる仕組みとなっているため、問題なく排尿できます。
バルーンカテーテルも衛生的に保つ必要があり、不潔のまま使用すると、感染などの危険性があるため、カテーテルは2〜4週間で看護師による入れ替えをします。
老健(介護老人保健施設)で介護士が行える医療行為
続いて、老健で介護士が行える医療行為・医療的ケアについて解説します。
厳密には医師・看護師などの免許を持っていない方が、他人に対して医療行為を行うことは、医師法によって禁止されています。
そのため、介護職員は基本的に医療行為を行うことはできません。
しかし、利用者さんの病状が安定している場合は、介護士が「医療的ケア」として下記のような内容を行うこと可能です。
- 体温計を使用した体温測定
- 自動血圧測定器を使用しての血圧測定
- 軟膏の塗布
- 包化された内用薬の服薬介助
- 入院治療が必要のない場合のみパルスオキシメータの装着
- 目薬の点眼
- 軽い傷・やけどの専門的な判断や技術を必要としない処置
- 医薬品使用の介助
- 座薬の挿入
研修を受けた介護士が行える医療行為
医療行為へのニーズが高まった昨今では、研修を受けた介護士は喀痰(かくたん)吸引・経管栄養が行えるようになりました。
介護福祉士であっても、2015年度以降に国家試験に合格し、実地研修を修了して、「修了証明書」の交付を受けた者に限ります。
喀痰(かくたん)吸引が必要な利用者を受け入れるには、事業者が「登録事業者(登録喀痰吸引等事業者・登録特定行為事業者)」となることも必要です。
実地研修を修了して、「修了証明書」の交付を受けた介護職員は看護師と同じように、喀痰吸引(かくたんきゅういん)・経管栄養(けいかんえいよう)を行うことが可能です。
老健(介護老人保健施設)で医師が行える医療行為
老健で医師が行う医療行為に関しては、以下のようなものが挙げられます。
診察 | 曜日や時間を決めて行われる |
---|---|
経過観察 | 必要に応じて実施 |
注射 | 各種予防接種 |
点滴 | 体調不良時に実施 |
応急処置 | 簡単な処置を行い必要に応じて医療機関につなぐ |
透析 | 施設(老健)によって対応している |
処方箋の発行 | 施設(老健)の医師が処方する |
施設(老健)は病院と同じ構造ではないため、医療行為に必要な設備がありません。そのため、施設(老健)で医師が行う医療行為は病院より少ない傾向にあります。
もしも利用者の持病により日常的に注射や点滴などの医療行為を必要とする場合や、高度な医療処置が要する場合は施設内に病院・クリニックが併設している施設を探してみることがおすすめです。
老健(介護老人保健施設)で医療行為を受けるメリット・デメリット
前項までは老健で行われる医療行為の詳細について解説してきました。
ここからは老健で医療行為を受けるメリット・デメリットについて詳しく解説して行きます。
老健(介護老人保健施設)で医療行為を受けるメリット
老健で医療行為を受けるメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
- 医師や看護師などの人員が充実
- 夜間の体調不良時にも対応
- 医療が原因で早期退所になることが少ない
それぞれ順を追って説明して行きます。
医師や看護師などの人員が充実
老健で医療行為を受けるメリットとして1つ目に挙げるのは、医師や看護師などをはじめ人員体制が充実していることです。
老健は介護・看護職員と入所者の割合が3:1で設置することが義務付けられており、介護施設の中でも医療・介護の人員体制が充実していると言えます。
さらに医師や理学療法士などのリハビリスタッフの常駐も定められていることから、日ごろからの健康管理はもちろんリハビリテーションや医療行為の面で安心のサポート体制と言えるでしょう。
そのほか老健は施設内に病院やクリニックを併設する施設も存在しており、高度な重度な医療行為を必要とする方の入所も可能な場合があります。
以上のことから、人員体制・医療体制が充実していることはメリットと言えるでしょう。
夜間の体調不良時にも対応
老健で医療行為を受けるメリットとして2つ目に挙げるのは、夜間の体調不良時にも対応できることです。
老健では職員の24時間常駐が義務付けられており、緊急時も迅速・的確な対応が可能となっています。
シフト制が組まれていることが多く、すべての職員が24時間常駐しているわけではありませんが、最近では看護師が24時間常駐する施設も増えてきています。
そのほか昨今ではケアコールシステムや見守りセンサーを筆頭とするICT機器の導入が進んでおり、夜間も安心の見守り体制と言えるでしょう。
以上のことから、夜間の緊急時にも対応ができることは老健の魅力として挙げられます。
医療が原因で早期退所になることが少ない
老健で医療行為を受けるメリットとして3つ目に挙げるのは、医療が原因で早期退所になることが少ないことです。
老人ホームや介護施設においては、利用者の体調が悪化した場合や介護度が上がった場合は、退所を迫られることがあります。
しかし、老健は医師や看護師の常駐をはじめとする医療体制が充実しているため、「必要なケアサポートが受けられない」という理由での退所となることが少ないと言えます。
より高度な医療が必要になった場合も老健の医師による紹介で、外部の病院を受診しながら可能な限り施設内で生活することが可能です。
以上のことから、医療が原因で早期退所になることが少ないことはメリットとして挙げられます。
老健(介護老人保健施設)で医療行為を受けるデメリット・注意点
続いて、老健で医療行為を受けるデメリット・注意点として以下の3つを解説します。
- 介護保険と医療保険が同時に使えない
- かかりつけ医の診療が受けられなくなる
- 希望している薬が処方されない場合がある
それぞれについて順を追って説明して行きます。
介護保険と医療保険が同時に使えない
老健で医療行為を受けるデメリット・注意点として1つ目に紹介するのは、介護保険と医療保険が同時に使えないことです。
介護保険と医療保険を併用して少しでも費用を抑えたいと考えている方が多いと思いますが、日本の法律では介護保険制度と医療保険制度は併用できないのです。
したがって入所される方が介護サービスと医療行為のどちらも必要な場合であっても、介護保険制度が優先されるので医療保険は併用できません。
しかし、注意しておきたいのは医療保険が適用できないからといって損をしている訳ではないということです。
というのも利用者が老健に入所中に発生した医療費に関しては、基本的に老健側が全額負担負担しています。
つまり結果的に介護サービス費・医療費の両方に介護保険が適用されることになるのです。
介護保険制度の自己負担額が最小で1割なのに対して、医療保険制度は75歳までは2~3割となっています。したがって、実際にはきちんと自己負担額が減っているためご安心ください。
思わぬ誤算を招かないように、老健では介護保険と医療保険が同時に使えないとうことを理解しておくことが大切です。
関連記事
老健(介護老人保健施設)は医療保険が使えない?カテゴリ:介護老人保健施設更新日:2024-05-31
かかりつけ医の診療が受けられなくなる
老健で医療行為を受けるデメリット・注意点として2つ目に紹介するのは、これまでお世話になっていたかかりつけ医の診療が受けられなくなることです。
なぜなら公的介護保険制度の関係で、入所者の診療は施設に常駐している医師が行わなければいけないと定められているのです。
そのため、入所するまでどれだけ長い間お世話になっていたかかりつけ医がいたとしても、入所後には常駐している医師からの診療しか受けられなくなります。
担当医師が変わって不安に感じる方も多いと思いますが、きちんと医師同士でこれまでの診察状況や症状の情報を共有しているので問題はありません。
それでも気になる点があれば、入所相談の際に施設側にお問い合わせください。
希望している薬が処方されない場合がある
老健で医療行為を受けるデメリット・注意点として3つ目に紹介するのは、希望している薬が処方されない場合があることです。
というのも施設に入所すると常駐している医師の判断で服用薬が決められるため、認知症の方に処方されるような高価な薬は処方が制限されてしまう場合があります。
前述したとおり、老健の入所中に発生した医療費は全額を老健側が負担することになるので、保険適用以上の価格の薬は処方されないケースが多いのです。
とはいえ、人によってはどうしても特定の薬を服用しなければいけない、と不安な方も多いはずです。そんなときは一人で悩まずにきちんと担当医に相談しましょう。
ほかに代用できる薬や費用についても対応してくれる場合があるので、それでも不安な場合はケアマネジャーにご相談ください。
まとめ
老健には医師や看護師、リハビリスタッフなどの常駐が義務付けられており、幅広い医療行為に対応しています。
インスリン注射や在宅酸素、喀痰(かくたん)吸引、経管栄養などをはじめ、医師のもと各職員が連携し、万全の医療体制を築き上げています。
昨今では介護職員だけでなく看護師も24時間常駐していることも増えてきており、夜間も安心の環境だと言えるでしょう。
ほかにも、理学療法士などによる専門的なリハビリテーションが受けられることなどは大きなメリットとして挙げられます。
しかしその一方で、老健では医療保険と介護保険を併用できなくなることや、今までのかかりつけ医を受診できなくなることなどに注意が必要です。
医療行為を受けることを目的として老健への入所を検討する際には、施設の見学やケアマネージャーへの相談などをつうじて、安心して決断することが大切と言えるでしょう。
インスリン注射や在宅酸素、喀痰(かくたん)吸引、経管栄養などをはじめ、幅広い医療行為に対応しています。詳しくはこちらをご覧ください。
医師や看護師、理学療法士などの常駐が義務付けられています。ほかの介護施設では医師や看護師が常駐していることは少ないため、手厚い人員体制であることが分かります。詳しくはこちらをご覧ください。