【インタビュー】高齢者の方が手軽にITを使える世界を目指す

【インタビュー】高齢者の方が手軽にITを使える世界を目指す

高齢者の方でも手軽にIT機器を使える社会を目指して、「Amico」の開発をされている長崎大学情報データ科学部教授の小林透教授にお話をお伺いしました。

小林 透 教授
長崎大学 情報データ科学部
博士(工学),IEEE(シニア),電子情報通信学会(シニア)、情報処理学会(シニア)各会員
1985東北大・工・精密機械卒.1987同大大学院工学研究科修士課程了.同年NTT入社.以来,ソフトウェア生産技術,情報セキュリティ、データマイニング、Web技術などの研究開発に従事。1998から2002までドイツ、デュッセルドルフに駐在し欧州研究機関とWeb技術、セキュリティ技術に関する共同研究開発、およびスマートカードに関する標準化活動に従事.2013から長崎大学大学院工学研究科教授

簡単にコミュニケーションが取れる「Amico」

ケアスル編集部:

既存のSNS(LINE)をメタバース化することで、より直感的にメッセージ交換ができるようになる「Amico」を開発しています。

参考:小林透研究室
※課題2に対する取り組み – Amico(アミコ)をご覧ください。

Amicoはタブレット上で使えるソフトウェアであり、すでにこのソフトウェアがインストールされている端末なら、簡単にコンセントの抜き差しだけで起動が可能です。

LINEと連携しているソフトウェアであり、LINEのメッセージを読み上げたり返信したりなど、アバターを介して直感的にメッセージ交換をすることができます。

また、音声でLINEにメッセージを送ることができたり、ビデオやスタンプも用いて視覚的に簡単に送ることが可能です。そのうえメッセージを読み上げてくれますので、スマホが使えない高齢者でも扱うことが可能です。

 

ケアスル編集部:

なるほど、簡単にボタンを押したり話したりしながら会話形式でメッセージのやり取りができるのですね。

小林様:

はい。比較的若い世代の方にとってはLINEの活用は簡単かもしれませんが、高齢者の方にとってはまだまだ使いづらいのが正直なところです。

ただ、メタバースのような仮想空間を通じてより直感的に扱えるようになれば、高齢者の方でもより簡単にLINEやIT機器を扱えるようになると思っています。そしてその一歩目がアバターによる会話で実現できると思っています。

 

ITリテラシに左右されず、誰でも簡単にIT機器を活用するために

ケアスル編集部:

Amicoを開発しようと思ったきっかけをお聞かせください。

小林様:

昨今のIT技術の発展により、遠方に住む人とすぐに連絡が取れるようになりました。

これにより、高齢者の方が遠くに住んでいる子や孫とすぐに・気軽に連絡を取れる環境は整っていますが、とはいえその連絡手段であるIT機器を実際に利用するとなると、使い方や操作方法がわからず、結果的に連絡ができないという問題が発生しています。

つまり、ITリテラシの有無によって子や孫と連絡を取れるかどうかが変わってくるということになるのですが、これはどうも悲しいしもったいない。

そこで私は、機械側が人間に合わせるような、直感的に使いこなせるような技術が必要だという思いから始めました。

 

ケアスル編集部:

確かにですね。その点、Amicoは直感的に使えるので評判も良いのではないでしょうか?

小林様:

両親にこのAmicoを使ってもらいメッセージをやり取りしていて、もう1年間ほどになったかと思います。ある程度使いやすく思ってくれているようですが、とはいえ改善点もたくさん出ています。

例えば、現状私本人のアバターでしか話すことができないので、誰からのメッセージなのかがわかりにくい状況です。

これについては、送信者のアバターに変更できるよう修正している最中です。メッセージ送信者のアバターに自動で代わるようになると、よりメタバース空間での会話に一歩近づくのではないかと考えています。

 

ケアスル編集部:

なるほど。メタバース空間での会話とはどういったものでしょうか?

小林様:

知ってる人がアバターとして出てきて、そのアバターと話しながらやり取りできる、というのが実現したい世界観です。

LINEはすでに多くのユーザーを抱えており、周りのほとんどの人が使っています。そのLINEを活用しつつ、もう少し現実世界となじみやすくするために、メタバースを用いたアバターを活用して接点を構築したいと思っています。

なので、既存のプラットフォームとしてのLINEを使いつつ、タブレッド上のアバターをより洗練させていきながら、現実世界の拡張として会話できるようにしたい、というのが成し遂げたい世界観です。

 

Amicoを実際に社会実装するために

ケアスル編集部:

仮想空間上での会話というイメージですね。これだと高齢者の方でも使いやすそうですね。今後は実証化していく予定なのでしょうか?

小林様:

改善ポイントもわかっており、結構商用化は近いと思っています。

私たちの大学がある長崎は過疎化が深刻な問題となっており、1つでも多くの自治体に声をかけていって、高齢者世帯に置かせてもらえればなと思っています。そのうえで、個人・法人向けそれぞれに商用化して展開することも考えています。

個人向けに関しては、主に遠方に親族が住んでいる高齢者の方向けで、タブレットを貸し出しAmicoを使ってもらおうと考えています。

ただ、これは正直なところ、メッセージやり取りとしてのAmicoだけでは導入が厳しいとは思っています。正直1日でLINEする回数も限られていますし、そんなに頻繁に使わないですよね。

そこで、Amicoに別ソフトウェア、例えば「会話サービス」等も乗せようと思っています。AIのアバターと会話して楽しむコンテンツを作るといったイメージです。

現在私の研究室では、英会話の練習ができるAIソフトウェアを開発しています。

これを日本語に変えれば、日本語AIと会話することも可能だと思っています。

なお、この会話型サービスを活用することで、利用者本人が楽しむだけでなく、ご家族や医療の観点からも良い点があるのがポイントです。

高齢者の方がAmicoとの会話を通じて、さりげない会話データを収集することができるようになり、表情、話し方、会話の成立度合い、目の瞳孔の動き方など、さまざまなデータを収集しつつ、あらかじめ大きな病気の兆候をつかんでご家族や病院に知らせることができるようになると考えています。

認知症や脳梗塞など、さまざまな病気の前兆を読み取ることができるようになる点で、一次情報である表情や声を収集できることに価値があると思っています。

 

ケアスル編集部:

予防医療の一環としても活用できるということですね。法人向けはどういう活用イメージになるのでしょうか?

小林様:

法人向けの方は、主に高齢者向け施設への導入を想定しています。

ショッピングモールにあるようなデジタルサイネージを高齢者施設の食堂などにおいてもらい、複数人でシェアしてもらい利用してもらうイメージです。

あくまでも想定段階ですが、さまざまな方向性での展開は考えています。

 

ケアスル編集部:

個人・法人向け双方で検討されているのですね。1点気になった点として、個人向けとなると高齢者の方がタブレットを導入して利用し始めることが少し難しいのでは?と感じました。

今後はどのように広めていくことを想定しているのでしょうか?

小林様:

タブレットを導入してLINEに接続し、アバターなどを連携して使えるようにする、という各種設定は必要なのですが、この難易度は確かに高いです。若い人でも難しいかもしれませんね。。

なので、初期設定は研究室側で行った上で送り、利用者は「電源を入れたらすぐに使える」という状態にしたいと思っています。

実際遠方の母に送った時も、電源ケーブルを接続したタブレットだけを送り、母は電源ケーブルのコンセントを刺すだけという状態で送りました。届いた後は電話で教えながらでしたので、実際に母のもとへ駆けつけることなく簡単にAmicoを導入できました

また、設定を研究室側でおこなうと言っても、一つずつ手作業で設定するのは現実的ではないので、初期設定を自動化する仕組みも作っています。

LINEとAmicoを連携し、その後メッセージが届くかまで自動確認できるツールを作っているので、運用コストもかからず導入できる仕組みも整いつつあります。

 

ケアスル編集部:

初期設定が自動化されている分、運用コストもあまりかからなそうですね。なるほど、ありがとうございます。

ケアスル介護の読者へのメッセージ

ケアスル編集部:

ここまでお時間いただきましてありがとうございました。最後にケアスル介護の読者に向けてメッセージをお願いいたします。

小林様:

IT技術の発達によって様々なことが便利になっていますが、もっと人間がやりたいことを「簡単に」実現できる世の中にしたいと思っています。

昨今導入されているセルフレジや飲食店の券売機でも、確かに使い慣れると便利ではありますが、初めて見る方や高齢者の方にとってはどうも使い慣れない。

そのうえ、場合によっては「使えない方が悪い」と思われてしまうことだってある。これは正直おかしいと思っています。機械に人間が合わせないといけないですし、合わせられない人間が悪いというふうになってしまっていますから。

本来、人間に合わせて作られたはずの機械に、人間が合わせているという変な構図になっているところがまだまだあるのが現状です。

そこで、私は機械が人間のやりたいことをやらせてあげることをサポートできるようになる社会にしたいと思っています。つまり、機械が人間に合わせる社会を作っていきたいのです。

Amicoもこの思想の元作っています。もちろんLINEも現状かなり使いやすいですが、高齢者の方の中にはまだまだ使い慣れない方もいらっしゃいます。

あくまでもSNSを通じて私たちがしたいのは「遠くの人とメッセージを交わすこと」なので、もっと直感的にかつ簡単にできるようにさせてあげたいのです。

この社会実装が私のライフワークであり、テーマであると思っています。