MaaS(Mobility as a Service)とは、車やバス、電車といった様々な乗り物をITを活用しつつシームレスにつなげ、移動を1つのサービスとして提供するサービスおよび概念のことを指します。
移動者1人1人のニーズに合わせて、検索・予約・決済等を一括で行うことができ、移動の利便性向上に役立てることが可能になります。
このMaaSの概念を介護・福祉業界に持ち込み、実証実験を成功させているダイハツ工業株式会社の「福祉介護・共同送迎サービス ゴイッショ(以下、ゴイッショ)」というサービスについて、今回はインタビューしてみました。
(写真下)岡本 仁也(おかもと じんや)様
所属:ダイハツ工業株式会社 コーポレート統括本部 新規事業戦略室
経歴:2008年入社。福祉介護分野を中心とした新サービスの企画、推進を統括。
(写真左上)小林 徹(こばやし とおる)様
所属:ダイハツ工業株式会社 コーポレート統括本部 新規事業戦略室
経歴:2018年入社。現在は「ゴイッショ」の全国展開に関わる業務を担当。
ケアスル編集部:
本日はインタビューをお受けいただきありがとうございます。我々も介護業界に携わっているものとして、「ゴイッショ」のお取り組みを少し前から拝見しておりました。
まずそもそも、「ゴイッショ」とはどういったサービスなのでしょうか?
ダイハツ岡本様・小林様:
「ゴイッショ」は、通所介護施設が単独で行っている送迎業務を地域一体で共同運行する、共同送迎サービスです。
介護施設が利用者を送迎する際、それぞれの介護施設が車を保有し、職員が自ら車を運転して利用者を送迎しているというのが今の状況です。「ゴイッショ」はこれを一元化して一つの運行団体が送迎業務を一手に担うことで、複数の介護施設が乗り合いで通所者の送迎をするというサービスになっています。
この乗り合い通所送迎を、ダイハツが独自に開発した運行管理システムを用いることで、AIを活用し、複数の介護施設や、その利用者の希望をくみ取った最適な運行計画を実現しようとしています。
また介護施設への送迎だけでなく、送迎の空き時間を活用して、病院への送迎やスーパーマーケットへのお出かけ、食事のお届けといったこともできるように企画しており、それぞれの地域のニーズに合わせた送迎・移動の提供を試みています。
ケアスル編集部:
ダイハツ様が、このサービスに取り組み始めた経緯やきっかけをお聞かせください。
ダイハツ岡本様・小林様:
当初は「ゴイッショ」ではなく、福祉車両の訪問営業から始まりました。実際私も飛び込み訪問で福祉車両のニーズヒアリングや、購入・買い替えのご提案をしていたのですが、介護施設はどこも忙しく、時間を取ってくれません。
そして話を聞けたとしても、そこまで車の機能や種類に大きな違いはないという声が返ってくるのです。私たちは車の提案を軸に考えていましたが、現場の課題が掴みづらかったので発想を切り替えて、まず介護施設のことを徹底的に学ぶ・知ることにしました。
そこで色々と話を聞いていくと、多くの介護職員さんは「送迎業務が大変」とおっしゃっていました。実際、1日の業務の約3割が送迎業務に割かれており、介護に直接関連しない送迎業務に多くの時間が割かれていることがわかりました。
また、地域内で同じ時間の同じ場所に異なる施設の車が迎えに行っているケースがあることも知りました。そこで我々は「乗り合いにして一緒に乗車いやだければ効率的になるのではないか」という着想を得てサービス開発をすることになりました。
ケアスル編集部:
1日の業務の3割も送迎業務に割かれているのには驚きました。こういった背景から「ゴイッショ」がリリースされることになったのでしょうか?
ダイハツ岡本様・小林様:
はい。ただ、ゴイッショよりも少し早く「らくぴた送迎」というサービスもリリースしています。
これは個別施設で導入するシステムになっており、送迎業務の効率化を目的としたさまざまな機能を備えています。現在、全国の多くの通所事業所介護施設でご利用頂いています。
ただ施設によっては、送迎担当の人員を割けないほど人手不足なところもあります。であれば、送迎業務自体を介護施設が実施せず、委託できるようにすればよいのでは?という発想のもと始まったのが「ゴイッショ」です。
ケアスル編集部:
なるほど、そういった経緯で始まったのですね。「ゴイッショ」の名前の由来は、「一緒」からきているのでしょうか?
ダイハツ岡本様・小林様:
はい。「みんなで一緒に」という想いを込めています。ただ、このみんなにはさまざまな意味があります。
- 送迎を協調領域として捉え、みんなでご一緒に
- 施設の垣根をこえて、みんなでご一緒に。
- サービスの垣根をこえて、”ひと”も”もの”もご一緒に。
- 団体/企業の垣根をこえて、地域/福祉業界のサポートをご一緒に。
- 将来は、福祉介護以外の分野でもご一緒に。
- 共助の想いをのせて「ゴイッショ」に。
これらの思いを踏まえつつ、地域全体の支え合いの潤滑油になるという期待を、この「ゴイッショ」というネーミングに込めています。
ケアスル編集部:
ありがとうございます。地域福祉業界全体まで見据えて一緒に支えあうというコンセプトになっているんですね。
送迎サービスだけではなく、移動という手段を中心として、地域全体を盛り上げるという思いがとても素敵だなと感じました。実際に利用されている方はどういったお声が多いのでしょうか?
ダイハツ岡本様・小林様:
様々なお声をいただくことが多いです。利用者の方からは「今までの施設で実施している送迎と変わらず、安心して乗れる」「ドライバーの方と話しやすい」といった声をいただいています。
また、施設側からは「送迎業務がなくなったので、勤務時間が短くなった」「もともと送迎に使っていた時間を、介護業務のレベル向上やマネジメント運営に割けるようになった」「送迎業務なしで採用できるようになったので、運転免許必須で採用する必要がなくなった」といった、お喜びの声をいただいています。
実際、私たちは2019年に香川県三豊市と連携協定を結び、ゴイッショのモデルづくりに向けて実証実験を行いましたが、その際も多くのお喜びの声をいただきました。
特に、実証実験の際には介護送迎の空き時間を活用して、地域の高齢者の方の買い物や通院の同行支援サービスも提供したのですが、その際は泣いて喜んでくれた方もいらっしゃるほどお喜びいただけました。
高齢者になって移動の自由が利きづらくなった中で、このゴイッショが足となって色々な場所へ訪れるきっかけを作ることができるんだろうなと思っています。
ケアスル編集部:
続いて、「ゴイッショ」利用開始までの導入の流れを教えてください。
ダイハツ岡本様・小林様:
調査・準備・運行の大きく3つのステップに分かれます。
まずは調査段階です。この地域でゴイッショを導入することでどのようなメリットがあるのか、持続的なサービス運営体制の実現可能性があるのかを分析します。私たちが主催しているオンラインセミナーにお越しいただいた自治体様のうち、ご興味を持っていただいた自治体様と実際に相談します。
この調査段階では、主に地域にどのくらいのニーズがあるのかを調査します。介護施設のお困りごとや課題の調査、高齢者が抱える移動課題の整理などを行いつつ、効果シミュレーションも細かく行います。
また、ダイハツのシミュレーションの強みとして、1回の送迎当たりのコストを施設ごとに見えるようにしています。これらのシミュレーション結果をもとにしたうえで、この地域でゴイッショの導入を行うかどうかを判断頂きます。
続いて、運行準備フェーズです。ここでは、運行開始に向けた準備やインフラの構築を行います。
具体的なロードマップや運営フローの構築、人材の発掘などもこのタイミングで行います。特にこのタイミングで大事なのは、地域としてのマネタイズをどうするのか、を考える点です。
黒字化を目指して運営するのか、多少の赤字が出たとしても補助金等を活用しつつ進めていくのか等々、自治体の意思・考えとセットでマネタイズのサポートを進めていきます。
また、ここでは各種運行に必要な免許取得もおこなうため、半年くらいの期間がかかります。そして運行準備が終わったのち、実際に運行が始まります。運行開始後は共同送迎運行管理システムを用いながら、日々の運行が効率的になるようにサポートも行います。
ケアスル介護:
各自治体と二人三脚で進むことになるんですね。今後は自治体との連携も踏まえつつ、どういった形でゴイッショの展開を考えられているのでしょうか?
ダイハツ岡本様・小林様:
この「ゴイッショ」を、新しい移動のプラットフォームにしたいと思っています。
正直、介護施設の共同送迎はまだまだ一歩目でしかないと思っています。今の段階で参画施設を増やし、多くのドライバーさんにも集まっていただくことで、介護施設の共同送迎以外の場所へもどんどん移動を広げていきたいと思っています。
そして、その結果地域の経済が回る状態まで「ゴイッショ」をプラットフォームとして大きくできたらなと考えています。
今は必要最低限の移動しか提供できていませんが、今後は昔行ったレストランに気軽に行けたり、かつて若いころの定番だったデートスポットに夫婦で行ってもらったりなど、「生きがいにつながる移動」を提供したいと思っています。
また、これは高齢者の介護だけでなく児童や学生にも当てはまると思っています。例えば、スポーツや習い事をしたいけれど近くにサービスがないから行けないといった、立地条件による機会損失をなくすこともできると思っています。
「ゴイッショ」が新しい移動のプラットフォームになることで、そういった課題を一つでも多く解決していきたいです。
ゴイッショについて話を聞いてみたい方は、こちらからぜひご相談ください。