「大人になっても引きこもりで自立できていない子どもがいる」「自分が介護が必要になったら頼れる人がいない……」このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。
ここ数年、メディアでも「8050問題」が日本の高齢化社会での深刻な問題として取り上げられています。8050問題は、大人の引きこもりが主な原因です。
この記事では、大人の引きこもりの原因や対策をわかりやすく解説します。国が行っている新しい施策についても紹介しますので参考にしてください。
早めの対策で将来の不安を軽減しましょう。
8050問題は大人の引きこもりが原因
近年では大人の引きこもりが増え、社会問題となっています。「8050問題」もそのうちの一つです。
80代になった親が、引きこもっている50代の子どもの世話をしなければいけない逆転の構図が生まれ、今後もさらに深刻化すると言われています。
厚生労働省の定義によると、引きこもりとは、さまざまな原因から学校や仕事に行かずに社会的参加を避け、6ヶ月以上にわたって家庭にとどまり続けている状態を指します。
具体的には、「普段どのくらい外出をしますか?」の質問に対して以下のような返答をした場合をいいます。
- 自分の部屋からほとんど出ない
- 自分の部屋からは出るが家からは出ない
- 近所のコンビなどには出かける
- 趣味の用事の時だけ外出する
上記のような状況が6ヶ月以上続いている場合を、引きこもりと定義しています。
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なぜ大人の引きこもりが増えた?
平成30年度の内閣府の調査によると、引きこもりの状態になっている40歳~64歳の人数は約61.3万人です。
初めて引きこもりの状態になった年齢が全年齢層に偏りなく分布していることからも、引きこもり状態が始まる時期も高年齢化していると言えます。大人の引きこもりが増えている原因として考えられるのは以下のような状況です。
- ひきこもりが長期化している
- 退職や職場の人間関係
- 精神疾患や障害がある
- 親が世間体を気にして隠している
原因は一概には言えませんが、さまざまな背景から引きこもりの高年齢化が進んでいます。詳しく見ていきましょう。
ひきこもりが長期化している
引きこもりの状態になっている40歳~64歳の約61.3万人のうち、その状態が7年以上続いている方は46.7%に上ります。このことからも、大人の引きこもり状態の半数近くの方が長期化しているのが顕著です。
8050問題は80年代〜90年代のバブル期を経験した世代の引きこもりを放置してきたことが要因であると指摘する専門家もいます。
8050問題の中心である50代前後の世代は、バブルの崩壊後、就職氷河期やリーマンショックなど不況のあおりを受けてきました。現在ではコロナ禍の影響でさらに引きこもりが増えていると言われています。生きづらさを感じることで引きこもりの数は増加が懸念されます。
引きこもりが問題視され、行政の支援が本格化してきたのはここ数年です。以前から引きこもりの状態にあった方はこれまで充分な支援を受けられず、長期化してしまったのかもしれません。
退職や職場の人間関係
内閣府の調査による、引きこもりになったきっかけの結果は以下の通りです。
- 退職したこと
- 人間関係がうまくいかなかったこと
- 病気
- 職場になじめなかったこと
- 就職活動がうまくいかなかったこと
1位は「退職したこと」、4位の「職場になじめなかったこと」など、社会人生活を経験してからの出来事が原因の上位になっています。また、2位の「人間関係がうまくいかなかったこと」も職場での人間関係が大半を占めるのではないでしょうか。
長引く不況によるリストラやコスト削減、最近ではコロナ禍による業績悪化などの影響も考えられます。中高年がさまざまな原因で退職したあと、自宅にこもってしまうことで引きこもりが高年齢化しているといえます。
精神疾患や障害がある
引きこもりは、精神疾患がきっかけになるケースも少なくありません。心の病気を抱えることで生きづらさを感じ、社会参加ができなくなってしまいます。
引きこもりの原因となる心の病気や不調は以下のようなものです。
- 統合失調症
- うつ病
- 強迫性障害
- パニック障害
- 社交不安障害
- 発達障害
心の病気をきっかけに睡眠障害や食欲低下などの体調不良が起こり、通学や通勤が難しくなる場合があります。
心の病気で意欲低下・不安感・緊張感・恐怖感などが強くなり人と会うことも困難になり、周囲の環境に適応できにくくなった時に、外出できずひきこもりの状態になってしまいます。
親が世間体を気にして隠している
大人の引きこもりが増えてしまった原因の一つとして、日本社会の風潮が影響しているのかもしれません。
日本人は、「ほかのみんなと同じようでなくてはいけない」「同じでなくては恥ずかしい」と感じたり、個人の問題ではなく「あの家庭は」「親の育て方が」と家の問題として捉えたりする傾向があります。
個人の問題ではなく、家庭内の問題として捉えてしまうと、世間体を気にしすぎて助けを求められないケースもみられます。
親自体が子どもの引きこもりの状態を恥じて隠し続けることで、周囲とのコミュニケーションが希薄になり、介護サービスや引きこもり支援などのサポートを受け入れるのも困難になります。
特に中高年になってからの引きこもりであれば、いい年をした子が働きもせず引きこもっている状況を恥じ、周囲に相談できず放置してしまい、解決に向かうのはさらに難しくなるでしょう。
8050問題への厚生労働省の対策
厚生労働省はこれまでも引きこもりの相談支援などを行ってきましたが、8050問題等により顕在化した引きこもりの問題が課題となり、より一層の強化を図っています。
平成21年度からは「ひきこもり対策推進事業」を創設し、平成25年、平成30年と見直しをして拡充してきました。
また、令和3年4月より社会福祉法に基づいた「重層的支援体制整備事業」が新たな取り組みとしてスタートしています。
引きこもり支援推進事業
引きこもり支援推進事業として平成21年から、引きこもりに特化した相談窓口の「ひきこもり地域支援センター」が都道府県、指定都市に設置されました。
ひきこもり地域支援センターでは、資格を持った引きこもり支援コーディネーターが、第一次相談窓口として適切な支援が受けられるようにサポートします。また、引きこもりに関する情報を発信する啓発活動も主な役割の一つです。
平成25年度からは市町村においても支援を広げるために、「ひきこもりサポート事業」が設置されました。ひきこもりサポート事業の主な内容はひきこもりサポーターの養成や派遣を通した支援です。平成30年度からは事業が拡充され、引きこもりの方や家族の居場所づくり等、地域の特性を活かした支援が導入されています。
さらに、令和4年度からは新たな取り組みとして「ひきこもり支援ステーション事業」が開始されました。
ひきこもり支援ステーション事業は、「相談支援事業」「居場所づくり事業」「連絡協議会・ネットワークづくり事業」が必須の事業とされており、市町村の状況に応じて任意事業も実施されています。
重層的支援体制整備事業
令和3年4月から、社会福祉法の改正により「重層的支援体制整備事業」が施行されました。重層的支援体制整備事業は市町村が主体となり、複雑化した支援のニーズに応じるために「属性を問わない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」を一体的に行うものとされています。
これまでの支援では対応できなかった多様な悩みを解決し、適切な支援に結びつけて、包括的にサポートするのが主な役割です。
世代・属性を問わず、幅広く支援する仕組みが特徴の事業です。
重層的支援体制整備事業を実施する際には、「属性を問わない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」を創設するのが必須条件になっています。
「属性を問わない相談支援」とは、属性や世代を問わず包括的に相談を受け止め、多機関協働事業につなぐ支援とされています。
「参加支援」は利用者のニーズを踏まえ、就労支援や見守り等居住支援などの社会とのつながりを作るための支援です。
「地域づくりに向けた支援」では、地域での相談支援体制の構築、住民同士が交流できる居場所の確保、交流や学びの機会などを通して地域活動を活性化させます。
重層的支援体制整備事業において地域での取り組みが活性化し、住民同士のつながりを作ることで、早期の相談支援への連携が期待されています。
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引きこもり支援窓口に相談しよう
前述した通り、引きこもりは世間体などから相談に至っていないケースが多いのが現状です。
大人になればなるほど、支援を受けるのに躊躇してしまう方が多数になってしまいます。そもそも、どこに相談したらよいのか知らない方も多いのではないでしょうか。
最近では、引きこもりに対する行政の支援が強化されている状況もあり、相談に対応している窓口も増えています。
- 各都道府県及び指定都市の引きこもり地域支援センター
- 市町村のひきこもりサポート事業
- 精神保健福祉センター
- 保健所
- 地域包括支援センター
- 自立相談支援機関相談窓口
この章ではこれらの引きこもりに関する相談窓口の概要をご紹介します。
各都道府県及び指定都市の引きこもり地域支援センター
厚生労働省の取り組みとしてご紹介した引きこもり地域支援センターでは、ひきこもり支援コーディネーターへの相談が可能です。
引きこもりに特化した相談窓口であるため、より専門的で相談しやすいでしょう。
引きこもり支援センターは医療機関や教育機関、ハローワークなどの関係機関との連携体制も取れているため、適切なサポートがスムーズに受けられやすくなっています。
市町村のひきこもりサポート事業
引きこもり支援推進事業の一つ、ひきこもりサポート事業は市町村単位で地域の特性に合わせた支援を行っているのが特徴です。
引きこもり状態を早めに発見し支援ができるように、相談窓口や居場所づくりを設置、引きこもりサポータの派遣も行う地域の支援拠点となっています。
また、市町村の相談窓口や支援機関の情報を集約して発信する活動も行っており、地域での身近な支援機関を探す手段としても活用できるでしょう。
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、都道府県や指定都市に必置の機関で、精神保健福祉士や医師・臨床心理士・保健師・作業療法士などの資格を持つ専門家が在籍し、心の病気についての相談に対応しています。
地域住民の心の健康を守るために、精神的健康の保持・精神障害の予防に関する活動や、社会復帰、社会参加の促進も主な業務です。
精神保健福祉センターの役割はほかにも、精神障害者福祉に関する知識の普及や啓発活動、市町村や関係機関への指導や技術指導など、相談及び指導のうち複雑困難なものを行うことになっています。
引きこもりの原因に多い、精神疾患についてお悩みの方は精神保健福祉センターに相談するのも選択肢の一つです。
保健所
保健所も精神保健福祉センターと同様に都道府県や指定都市、中核市などに令和2年度現在で全国に469カ所設置されています。
精神保健福祉センターが精神疾患に特化しているのに対し保健所の役割は幅広く、感染症、食品衛生、難病等さまざまな業務を担います。配置されているのは保健師・医師・精神保健福祉士・栄養士など専門性の高い職員です。
もちろん、心の病気などの精神疾患に関する相談にも対応しており、引きこもりに対する相談も業務の一つです。相談は電話や窓口で対応し、必要があれば関係機関への紹介もしてくれます。
地域包括支援センター
地域包括支援センターは、平成18年の介護保険制度改正により各市町村が設置主体となり創設されました。
配置されている職員は主任ケアマネジャー・社会福祉士・保健師などで、「総合相談」「介護予防ケアマネジメント」「包括的・継続的ケアマネジメント」「権利擁護」の4つの役割があります。住み慣れた場所で生活し続けられるよう、さまざまな側面から地域の高齢者の生活を支えています。
地域の高齢者の総合相談窓口としての役割があるため、8050問題のような事例を発見しやすい立場にあるのも地域包括支援センターです。介護が必要になったときに、家族の支援が
期待できない場合は地域包括支援センターに相談してみましょう。

自立相談支援機関相談窓口
引きこもり状態の方の中には、職に就けず生活に困窮している方も多いのではないでしょうか。平成27年度から生活困窮者の支援制度が始まり、相談窓口が全国に設置されました。
自立相談支援機関相談窓口は、経済的な問題、家族の問題、社会的孤立など生活全般の課題に対して解決に向けた支援が主な業務です。
生活困窮者自立支援制度の取り組みの一つ、自立相談支援事業では、相談者がどのような支援が必要かを、支援相談員が一緒に考えたうえで、具体的なプランを作成します。
また、就労準備支援事業や就労訓練事業などでは、就労が難しい方に向けた支援も事業内容の一つです。
住居確保給付金の支給や期間を決めて宿泊場所や衣食を提供する一時生活支援事業など、経済的な支援も行なっています。
KHJ 全国ひきこもり家族会連合会
KHJ全国ひきこもり家族会連合会は、日本で唯一の引きこもり全国組織の家族会として平成11年に結成されました。
KHJとは、「Kazoku」「Hikikomori」「Japan」の頭文字です。引きこもりの当事者がなかなか動き出せない中、家族支援の重要性を大切にしてさまざまなサポートを行なっています。
主な活動内容は、家族の学習会・講演会・居場所づくりなどです。引きこもり状態が長期高齢化していく中、孤立を避けるためにも家族の支援は大切です。
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引きこもりは深刻化する前に早めに支援を受けよう
8050問題がクローズアップされ、引きこもりに関する行政の取り組みがますます拡充しています。
引きこもり状態といえば、当初は甘えからくるもので自己責任であると認識されており、引きこもりに対する支援も、当事者の就労支援が主でした。
新しく展開されている事業では居場所づくりや、家族会などさまざまなアプローチで引きこもりの解決に取り組んでいます。
引きこもりが高年齢化してくると、再就職が難しいうえ、新しいことを受け入れるのが困難になり、現状から変化していくのが難しくなります。8050問題を避けるためにも、早めに専門機関に相談し、支援を受ける準備をはじめましょう。
2018年1月、札幌市のアパートで、親子が低栄養状態による低体温症で孤立死した姿を検針に来たガス業者が発見しました。娘は長年にわたる引きこもり状態だったそうです。また、2019年6月の元農水事務次官長男殺害事件は、元農林水産事務次官の父親を無職で引きこもり状態の長男が刺殺した事件など、8050問題の深刻さを伺わせる事件が明らかになっています。詳しくはこちらをご覧ください。
民間団体でも、引きこもり問題の支援に取り組んでいるところがあり、厚生労働省もこの取り組みを支援しています。しかし、消費生活センターより民間事業者との契約や解約に関するトラブルへの注意勧告がされています。サポートを受ける際には注意しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。