ひとたび介護がスタートすると、数年から十数年と長い介護生活が続くことになります。介護生活においては様々な場面でお金が必要となることから、本人だけではなく家族にとっても経済的な負担は大きなものとなります。
介護生活において介護サービスは重要な役割を果たします。多くの介護サービスは介護保険制度の枠内で提供されていますが、介護保険を適用するには規定の条件を満たす必要があることから、誰もが気軽に利用できるサービスとは言い切れない側面があるのです。
しかし介護保険外サービスには介護保険内のサービスのような条件設定はほとんどなされておらず、多くの方々が介護保険外サービスを利用して介護生活のサポートを受けています。
国も推進している介護保険外サービスとは一体どんなサービスなのでしょうか。介護保険外サービスのメリットやデメリット、利用する際の費用や利用の方法まで解説していきます。
介護保険適用と適用外サービスの違い
介護の際に利用する介護支援サービスには、大きく2種類のサービスがあります。1つは「介護保険適用サービス」であり、もう1つは「介護保険適用外サービス」です。
ここでは、介護保険適用サービスと介護保険適用外サービスのそれぞれの特徴や両者の違いについて詳しく紹介します。
介護保険サービスについて
介護生活を送る上で、多くの方がもっとも利用する公的サービスが「介護保険サービス」です。介護保険制度の枠内で提供している様々なサービスを、所得状況に応じた割安な価格で利用することができます。
介護保険サービスには具体的にどのような内容のサービスがあるのでしょうか。ここでは、介護保険サービスの基本的な内容やサービスの中身、介護保険サービスが抱える問題点などをお伝えしていきます。
基本サービス
介護保険サービスとは、介護が必要になった高齢者を国民全体で支える介護保険制度を利用して受けられるサービスです。65歳以上の高齢者や40〜64歳の特定疾患病患者のうち、要支援もしくは要介護認定を受けた人が一部負担で使えるサービスとなります。
65歳以上になれば誰もがすぐに介護保険サービスを利用できるわけではなく、決められた手続きを行い介護認定を受ける必要があります。したがって介護保険サービスを利用する際は、まずは居住している市区町村の窓口に訪れて相談し、必要な申請を行いましょう。
在宅で利用する介護保険サービス
介護保険サービスには、在宅で利用できる介護保険サービスが多くあります。その中でも自宅にいながら利用できるサービスと施設に通いながら利用するサービス、自宅や施設との複合サービスなどが用意されています。
具体的には、介護計画を立てる居宅介護支援、デイサービス、リハビリテーション、ショートステイ、訪問介護、訪問看護、福祉用具貸出、リフォームなどがあげられます。
施設などで利用する介護保険サービス
先ほどの在宅で利用できる介護保険サービスとは別に、住まいを施設に変えてその施設で利用できる介護保険サービスもあります。
施設などで利用する介護保険サービスには、大きく分けて以下の2つに分類できます。
- 公的施設で利用する介護保険サービス
- 民間施設で利用する介護保険サービス
公的施設の具体例として、介護老人福祉施設や介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院などがあげられます。施設では食事や入浴、排泄などの身体的な介護やリハビリ、機能訓練、日常生活の援助、医療ケアなどを受けることができます。
民間施設で利用する介護サービスは「特定施設入居者生活介護」や「認知症対応型共同生活介護」と呼ばれており、介護サービス計画にもとづき、入浴・排泄・食事等の介護、その他の日常生活上ならびに療養上のケア、機能訓練などを行います。
問題点
介護保険サービスには様々な介護施設や提供サービスが用意されており、これらのサービスを利用している高齢者の方は数多くいます。
しかし施設の形態によっては、介護保険の適用が認められないケースがあったり、介護保険で提供されるサービスは最低限必要な自立支援サービスのみであったりと、介護保険サービスはいくつかの問題点を抱えています。
介護保険が適用されないサービスの具体例としては、以下のものがあげられます。
- 被介護者が利用していない場所の清掃
- 被介護者の家族の世話(食事や掃除、洗濯など)
- 自宅周辺の掃除や草むしり、ペットのお世話
- 旅行や遊びの付き添い
被介護者やその家族が必要としているにも関わらず、介護保険の適用範囲外となっているサービスは数多くあるのです。
介護保険外サービス
介護保険サービスはあくまで介護保険制度の枠内で提供するサービスであり、自ずとサービス内容に限界が生じることになります。そのため最近は、介護保険サービスが行き届かない細かなサービスを提供する「介護保険外サービス」に注目が集まっています。
介護保険外サービスは介護保険の枠外のサービスであることから、介護認定を受けていない方でも利用することが可能です。もちろん介護認定を受けている方も利用できるため、中には介護保険サービスと介護保険外サービスを上手に併用されている方もいるようです。
介護保険外サービスとは具体的にどのようなサービスを提供しているのでしょうか。ここからは、介護保険外サービスの内容やサービスの種類を細かく紹介していきます。
基本サービス
介護保険外サービスの中身として、大きく4つの基本サービスがあげられます。
- 家事代行・支援サービス
- 見守りサービス
- 心の支援サービス
- 健康支援サービス
これらをそれぞれ具体的に解説します。
家事代行・支援サービス
食事の用意や掃除洗濯、日用品の買い物、庭の雑草除去など、日常生活を送る上で必要な支援だけに限らずその周辺にあるさまざまな行為を代行するサービスです。病院や買い物、美容室や冠婚葬祭の付き添いや移動手段の確保、荷物の移動など、高齢者一人では難しいありとあらゆる行為の支援が含まれています。
見守りサービス
一人暮らしの高齢者や認知症の高齢者の毎日の状況の見守りや観察をするサービスです。認知症患者は徘徊の恐れがあり、一人暮らしの高齢者は病気や転倒の恐れがあります。これらのトラブルを未然に防ぎ、何か異常があれば早期に発見できるサービスとして広く利用されています。
心の支援サービス
一人暮らしの高齢者の孤独を解消するために、話し相手や相談相手となって心の支援を行います。趣味の機会を提供したり、ボランティアやさまざまな集まりの参加を促すこともあります。高齢者がうつ状態にならず毎日健康に過ごせるように、精神的な側面からの支援を行います。
健康支援サービス
自宅に閉じこもりがちな高齢者に運動を促し、健康な体力作りを支援するサービスです。具体的には軽い運動や筋トレ、ウォーキングや体操などを通じ、できるだけ長く元気に人生を過ごせるための体作りをサポートしていきます。
種類
介護保険外サービスのニーズは非常に高く、今後高齢者の増加とともにそのニーズはさらに高まることが見込まれています。国も介護保険外サービスの推進を行っており、超高齢化社会の到来を見据えて民間や市区町村などさまざまな団体や組織が介護保険外サービスに乗り出しつつあります。
介護保険外サービスを提供する事業者によって提供しているサービスの種類や内容は異なります。具体的には大きく分けて4つの事業者が、介護保険外サービスを提供しています。
- 市区町村
- 介護サービス事業者
- 社会福祉協議会やシルバー人材センター
- 民間企業
ここからは、それぞれの事業者が提供している介護保険街サービスの種類について解説していきます。
市区町村
各市区町村では、独自の高齢者向け在宅サービスとしてさまざまな取り組みを行っています。例えば病院や施設への移送サービス、おむつの費用の補助サービス、緊急通報サービス、訪問利用サービスなどがあげられます。
また市区町村では「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」として、訪問による生活援助サービスや通所による生活援助サービスなども提供しています。
介護サービス事業者
通常は介護保険の枠内でサービスを提供している介護サービス事業者も、さまざまな介護保険街サービスを提供しています。
具体的には被介護者の家族の日常生活の手伝いや部屋の掃除、入院や手術の付き添い、旅行や趣味、冠婚葬祭の付き添いや世話、認知症の高齢者の見守り観察などさまざまなサービスを行っています。
社会福祉協議会やシルバー人材センター
社会福祉協議会やシルバー人材センターでは、料理や掃除、洗濯、買い物や見守り、話し相手や付き添い、電話番や留守番、草むしりや窓拭きなど、高齢者に対して日常生活におけるあらゆる支援を行います。
いずれも非営利組織であることから、利用料は他の組織や団体と比べて割安となっています。
民間企業
一般の民間企業が新たなビジネスの一環として介護保険外サービスを提供します。具体的には家事支援サービスや配送サービス、食事や食材提供サービスなどがあげられます。
民間企業はビジネスの一環として業務を行うことから、他の団体のサービスと比較するとやや割高になる傾向があります。
メリット
介護保険外サービスの最大のメリットは、自由度が高いことから介護保険内のサービスでは行き届かない細かなサービスまで提供できる点です。介護サービスを利用する方が求めるサービスはそれぞれ細かく異なります。痒いところまで手が届く、柔軟な対応ができる点は、介護保険外サービスの大きなメリットといえるでしょう。
デメリット
介護保険外サービスのデメリットは、まだまだ介護保険外サービスの存在を知らない方が多い点です。介護保険外サービスは現在発展途上段階にあり、新規参入も多い反面、長期間持続できずに衰退していく事業者も多い傾向があります。
さらに認知度が低いことから、利用者がサービスを認知できずうまく使いこなせない可能性があるのです。
介護保険外サービスを利用する
それでは、実際に介護保険外サービスを利用するためにはどのような手続きを行えばよいのでしょうか。ここでは、介護保険外サービスを利用するまでの流れや利用した際にかかる費用について解説します。
サービス利用の流れ
介護保険外サービスを利用したい場合は、まずは事業所を探し出してどのようなサービスを受けたいのか相談する必要があります。
事業所については、担当のケアマネジャーや主治医に相談して情報を入手することをおすすめします。パソコンやスマホなどのネット環境があればインターネットを活用し、ネット上の口コミや評判などを参考にして自分に合う事業所を探してもよいでしょう。
いくつか候補の事業所が見つかったら連絡をし、具体的なサービス内容や費用のヒヤリングを受け、契約を交わします。問い合わせは複数の事業所に対して行い、サービス内容や費用を比較して最適な事業所を探すことをおすすめします。
費用
介護保険外サービスを利用した際にかかる費用は、介護保険の適用ができず全額自己負担となります。具体的な料金設定は提供事業者やサービス内容ごとに異なることから、利用する際は事前に費用を確認することが必要です。
特に民間業者が提供する介護保険外サービスは、他の事業者に比べて費用が高くなる傾向があります。その分品質も高いサービスもあることから、自分たちの予算に応じて利用するとよいでしょう。
混合介護とは
混合介護とは、 介護保険サービスを利用している被介護者が介護保険外サービスを利用する場合を指します。
介護サービスには介護保険が適用されるサービスと、介護保険では認められておらず全額負担で利用する介護保険外サービスの2種類があります。混合介護ではこの両方の介護を受けることをいいます。
具体的には、介護保険内のサービスである通所リハビリを利用しながら、その送り迎えや付き添いのために介護保険外のサービスを受けるケースがあります。
さらに昼間は介護保険が適用されるデイサービスを利用し、介護保険外の宿泊サービスを利用して宿泊するケースもあります。
ここでは、混合介護のメリットとデメリットについて解説していきます。
メリット
混合介護のメリットは、上手に混合介護を活用することによって被介護者やその家族に対して質の高い介護サービスを提供できるようになる点です。
介護保険内のサービスは利用条件が規定されており、提供できるサービスも限られているため限界が生じます。
混合介護を利用すると、介護保険が適用されるサービスと介護保険では認められていない介護保険外サービスをうまく併用することができ、より満足度が高く行き届いた介護サービスを受けることができるメリットがあるのです。
デメリット
混合介護のデメリットは、介護保険外サービスの中には費用が高いサービスもあることから、誰もが全てのサービスを利用できるとは限らない点です。
所得が高い人と低い人で利用できるサービスに差が生じる可能性があります。所得が低い人の中には混合介護の利用はハードルが高く、困難に感じている方もいるのではないでしょうか。
介護保険外サービスを利用して介護負担を軽減しよう
今回は、介護保険外サービスの中身や利用方法、費用など介護保険外サービス全般について解説してきました。
介護保険サービスでは対応できない部分をカバーしてくれる介護保険外サービスは、今後さらに高齢化社会が進む中で必要とされる大切な存在になることでしょう。
介護保険外サービスを提供する業者がさらに増え、サービスが拡充すれば介護生活の負担を減らすことが可能となります。利用者側も介護保険外サービスをうまく活用することにより、充実した介護生活を送れるようになるでしょう。
既存の介護保険サービスと今回の介護保険外サービスの中身をしっかりと把握して、今後の介護生活に役立ててみてはいかがでしょうか。