「祖父・祖母に対して何かできることはないのか」
人生の最期が近づいている父や母、祖父・祖母など、大切な人に対してこのように思う方は多いでしょう。
最期の時間を充実させるために、死生観について学ぶのをおすすめします。当記事では死生観の概要と死生観を家族で共有する理由を解説しています。
死生観とは
死生観はこれからの人生をどのように生き、どう終わらせたいのかを具体的に考えることを指します。
キリスト教や仏教などの信仰を持っている方は死生観に関わる教えが存在し、自分の中で答えを見つけている方も少なくありません。しかし、日本には無宗教の方が多いため、死生観に関して考えるきっかけが少なく、「死生観」という言葉さえ知らない方が多いのが現状でしょう。
死生観を明確にし、自分のやりたいことや最期を迎えたい場所を家族と共有すれば充実した余生が過ごせます。
1点だけ注意したいのは、死生観は高齢者や重い病気を患っている方だけが考えるわけでは無いという点です。
10代・20代の方でも、近親者の死をきっかけに「自分は自宅で最期を迎えたい」「死ぬまでには海外に行きたい」などを考えてみてもいいでしょう。
日本では死に触れる言動や考えは良くないとされがちですが、必ずしもすべてが悪いわけではありません。
死は誰にでも訪れるため、今生きている誰もがいつかは向き合わなければならないものです。自分の最期と、それまでの期間をどう過ごしたいのか考えることは非常に大切です。
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家族が死生観を知っておくべき理由
家族が死生観を知っておくべき理由は以下の通りです。
- 最期を迎えたい場所を用意できる
- 余生でやりたいことに対して協力できる
- 医療処置をどこまで受けたいのか知れる
順番に説明していきます。
最期を迎えたい場所を用意できる
見送る家族は、できる限り本人の希望する場所で最期を迎えさせてあげたいと考えるでしょう。そのために死生観を共有し、本人がどこで最期を迎えたいと思っているか知っておく必要があります。
しかし、個々の状況により、希望する最期を必ず実現できるとは限りません。
自宅がよいと臨んでいても、近くに親族が住んでいなければ実現は難しいですし、希望する老人ホームが看取りを行っていなければ入居できないでしょう。
一方、亡くなったあとに本人が最期を迎えたいと考えていた場所が、家族で準備できる場所と知った場合、家族・本人共に後悔が残ります。大切な方が亡くなったあとの後悔は一生晴らせません。
大きな悔いを残さないためにも死生観の共有は必要です。亡くなる方が最期を迎える場所は以下の3箇所です。
- 自宅
- 病院
- 介護施設
各場所で看取る際の注意点を説明していきます。
自宅
自宅で最期を看取る場合、亡くなったあとの対応を把握しておくことが重要です。
病院や介護施設で亡くなった場合は、病院スタッフ・介護施設職員がマニュアル通り対応するため安心できます。
しかし自宅で看取る場合は、亡くなったあとの対応をすべて自分たちで行う必要があり、事前準備が重要です。
自宅での看取りは、以下の準備ができると判断してから行いましょう。
- 在宅医師と自宅での看取り経験のあるケアマネージャーの確保
- 看取りまでの間の訪問介護サービスの申し込み
- 親族からの十分な協力体制
- 亡くなったあとの葬儀社の選定
自宅まで訪問して死亡診断書を書いてくれる医師、訪問介護サービスや看取りについて詳しいケアマネージャーを見つけるのが自宅での看取りの大前提です。
在宅医師やケアマネージャーは地域包括支援センターや各自治体の在宅医療相談窓口で紹介してもらいましょう。
その後、訪問介護サービスへ申し込み、最期の時まで食事や入浴などの支援体制を整えます。自宅での看取りは親族のうち誰か一人が行うものではありません。
自宅で看取る場合、昼夜を問わない介護対応が増え精神的・体力的に疲弊してしまうケースもあります。周囲の協力体制を整える必要性を理解しておきましょう。
亡くなったあとは葬儀社への連絡が必要です。事前に葬儀社を決めていればすぐに連絡できるので、どこで葬儀を行うかは事前に決めておきます。
ご家族の方は上記を踏まえたうえで、自宅で看取れるかどうかを判断しましょう。
在宅での看取りについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
病院
看取りのために病院へ入院するには条件があります。病院は医療施設なので何らかの疾患や医療処置が必要な方のみ入院できます。
そのため、病院で最期を迎えるには原則、胃ろうや中心静脈栄養法などの医療処置が必要な方に限られます。ですが、近年では多くの方が最期を迎えている場所が病院です。
厚生労働省の「令和2年人口動態統計」によると死亡場所の調査で病院が68.3%と最も高くなっており、自宅は15.7%、老人ホームは9.2%です。
自宅や老人ホームで生活していたものの、基礎疾患の悪化や転倒による骨折、病気の発症が原因で自宅や老人ホームでは生活できなくなり、病院へ入院し亡くなる方が増えています。
病院で亡くなる場合、家族が看取りを行えない可能性があります。昨今の新型コロナウイルスの影響で病院内に入れる人数に制限が掛けられており、希望者全員が会えない可能性もあるため理解しておきましょう。
介護施設
厚生労働省が2019年に調査した人口動態調査の死亡場所によると、介護施設で最期を迎えた方は約12万人です。
1995年以降、介護施設で亡くなる方が年々増えています。すべての介護施設で看取りを行っているわけではないので、各施設に問い合わせが必要です。
介護施設では日常生活のフォローは十分に行ってくれますが、医療処置を受けるには限界があります。
そのため、入居希望者の状態によっては入居を断られる可能性もあるでしょう。医師や看護師が常勤で勤めているような介護施設であれば医療処置対応可能です。
注意点として、入居中に状態が悪化し病院へ入院したり、介護度が上がり他施設に移動になったりする可能性があります。
また、施設からの連絡のタイミングによっては、最期の瞬間に間に合わない場合もある点には留意しておく必要があります。亡くなる瞬間は絶対に居合わせておきたい方は、自宅での看取りを検討するか、事前に介護施設スタッフと十分な話し合いを行いましょう。
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「プロに相談したい」という方は、ご気軽に無料相談を活用ください。
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余生でやりたいことに対して協力できる
残りの人生で何がしたいのかは人それぞれ異なります。例えば、「国内旅行に行きたい」「孫に会いたい」といった内容であれば、家族の協力によって比較的簡単に叶えられます。
一つでもやりたいことを達成すると、本人は希望が叶ったと喜び、家族も叶えてあげられたと満足感を得られるでしょう。
どんなに小さな希望でもいいので、本人のやりたいことをしっかりとヒアリングし、引き出せるかが重要です。
やりたいことを実現させるコツは「すぐに実現できるものから順番に行う」です。やりたいことが多く出てきたときほど、簡単に達成できる物から順番に並べてリストアップしてみましょう。
並べ替えたリストの上から順番に行っていけば、最も多くのやりたいことが実現できます。
- しっかりとしたヒアリング
- 簡単に達成できる物から並び変える
以上を行えば、残りの人生を有意義なものにできます。やりたい希望の中には、明らかに達成が難しいものや病状によって家族では判断できないものも出てくるでしょう。
自分たちでは判断できない場合は、医師や看護師に相談し出来る範囲内で協力してもらいましょう。
医療処置をどこまで受けたいのか知れる
人生の終盤である終末期において、本人がどこまで医療処置を受けたいのかは知っておくべき情報です。
処置を受けるか受けないかは本人の意志が第一優先ですが、時には本人の意識なく決定権が家族に委ねられる場合もあります。
年齢を重ねるほど病気になる確率はどうしても上がってしまうため、今元気だからといって万が一の際に実施する医療処置について、まったく考えないのはおすすめしません。
近年、政府やメディアによる早期発見・早期治療への働きかけが積極的に実施されていることもありますが、それでも20~40代に比べ50代以上の患者数は圧倒的に多い傾向にあります。
誰もが「明日も元気でいられる」という保障はなく、高齢になるほどリスクは高まっていきます。その点を一人ひとりが自覚し、高を括らずにしっかり準備を進めておくことが重要です。
もし、ご家族が医療処置の程度など、「死」に対する話を拒んだ場合は、周囲の家族がまず一歩踏み込んだ話を切り出してみる方法もあります。年齢や持病の有無を問わず、家族全員で自分自身の希望を共有する雰囲気を作り出すことで、ためらいの気持ちを解消できるかもしれません。
万が一の際、本人の望まない対応を避けるためにも、あらかじめ死生観を共有しておき、現時点で医療処置をどこまで受けたいのか聞いておきましょう。医療処置の一例として以下が挙げられます。
- 人工呼吸器や心肺補助装置の使用
- 心肺蘇生を行うか
- 経管栄養、胃ろうを行うか
- どこまでがん治療を行うか
順番に説明していきます。
人工呼吸器や心肺補助装置の使用
現代の医療技術は目覚ましく進歩しており、呼吸が止まったり心臓の機能が弱ったりしても、人工呼吸器などを付ければ延命を続けられる可能性があります。
事故で脳が深刻なダメージを受け植物状態となっても、人工呼吸器を付ければ呼吸可能です。
しかし、病態によっては人工呼吸器などの生体機能代行装置の取り付けは延命治療にあたります。さまざまな医療機器を取り付け、できる限り命をつなぎたいかどうか、価値観は人それぞれです。
回復の見込みがない場合、治療不要と本人が希望していれば、書面に直筆で日付と記名してもらい、家族やかかりつけ医と共有しておきましょう。書面で残しておくことで、時間が経ってからも風化することなく意思を提示できます。
内容の撤回は本人であればいつでも可能ですので、現時点での本人の意思表示を明確にしておく準備が、自分と家族のためになります。
心肺蘇生を行うか
心臓が止まった際に胸骨圧迫や除細動器、薬剤を使用して心肺蘇生を行ってほしいかを確認しましょう。心臓が止まった際の心肺蘇生を行うか蘇生しないかは、家族の意思表示により決定されます。
「心肺蘇生を行ってください」と意思表示をすれば、医療従事者は全力で救命に当たります。ただし、救命処置を行ったからといって必ず救えるわけではありません。心肺蘇生後に脳へのダメージが発覚し、呼吸器での管理が必要な状態や寝たきり状態になってしまう可能性もあります。
よって、心肺蘇生を行うかどうか判断する際は、一歩踏み込んだ蘇生後の状態についても考え、先に紹介した生体機能代行装置の使用に関する希望と一貫性を持たせておきましょう。
冷静に物事を考えられる状態で答えを出しておかないと、いざという場面ではパニックになってしまい即座に答えを出せません。緊急を要する現場では一分一秒を争うため、重要な答えは事前に決めておくと安心です。
経管栄養・胃ろうを行うか
脳の病気やがん、加齢により飲み込む力が衰えた方に対しては、経管栄養や胃ろうによる管理が必要となります。口から十分な食事の摂取が困難になった方は、胃ろうの増設や経管栄養による栄養管理のもとで日常生活を送ります。
しかし経管栄養・胃ろうからの食事注入は、看護師・介護福祉士などの専門スタッフ、もしくは家族が行うため、周囲の協力や介護力の確保が必要です。
経管栄養・胃ろうを適切に管理するため、定期的なチューブ・胃ろう交換や通院の必要性も出てきます。
経管栄養や胃ろうを行うことを希望する場合、周囲の協力が得られるか、難しい場合は施設への入所を希望するかなど、実施の有無だけでなくその後の対応を見据えた話し合いができるのが理想です。
どこまでがん治療を行うか
がんを患うとさまざまな選択肢を迫られます。がん治療には主に以下の選択肢が存在します。
- 外科手術
- 放射線治療
- 抗がん剤の服用
- 治療しない
外科手術・放射線治療・抗がん剤の服用を選んだ場合、一度で完治せず長期化する可能性もあります。治療が長期化した際は、通院の手間や治療費による出費の増加、治療にともなう苦痛に耐えられるかを考慮しなければなりません。
外科手術・放射線治療・抗がん剤すべてを併用する場合もあります。治療が始まったあとでは本人の意思確認ができない可能性もあります。治療をどこまで行うのか、先に本人の意思を確認しておきましょう。
また、積極的な治療はせず、がんによる痛みの緩和のみを行い、がん自体の治療は行わない選択もあります。これは緩和ケアやホスピスと呼ばれ、がんが複数臓器に転移し回復の見込みがない方や、手術・抗がん剤治療を希望しない方が利用の対象となります。
治療方針は本人の希望が優先されますが、家族の意見も踏まえながら話し合いましょう。
家族みんなで死生観について話し合いを行おう
本人と家族が死生観を共有することで充実した余生を過ごせます。そのためには、時間をかけて話し合いを行う必要があります。
死生観とは、普段話さない死に関する内容です。死生観自体の認知度が低いため、適切に話し合いの場を作るためにも、まずは死生観への理解を深めましょう。
話しにくい内容のため一度で完結しないかもしれません。ですが、後悔を残さないために、本人にとっても家族にとっても必要な概念となります。時間をかけながら少しずつ向き合っていきましょう。
Q.死生観を家族で共有する際に注意するべきことはなんですか?
A:本人の希望項目を紙に書き起こしましょう。記憶頼みにしておくと時間経過とともに曖昧になってしまいます。
死生観は人生最期のわがままが言えるチャンスですので、重要性を理解し家族がしっかりと受け止めてあげましょう。
Q.安楽死や尊厳死についても話し合っておくべきですか?
A:死生観は「死」についても考えるため、尊厳死についても話し合っておきましょう。安楽死は日本では認められていないため、話し合っておく必要はありません。
尊厳死は回復の見込みがない方にのみ適用されます。