最近、パーキンソン病の嗅覚障害がクローズアップされている。しかし、パーキンソン病では、運動症状・ON-OFF現象・ジスキネジア・不眠などいろいろな症状があるので、嗅覚障害など大した問題とは感じないというような患者も多い。つまり、においに関しては直接生命にかかわる問題ではないため、嗅覚障害をさほど大きな問題とは捉えていない患者も少なからず存在する。
しかし、よく話を聞くと食事面・安全面・衛生面・情緒面それぞれに問題がある。そこで、これらの問題に対して取るべき対策あるいは援助について整理する。
広島国際大学 看護学部
看護師/難病看護師(日本難病看護学会認定)/介護支援専門員
日本難病看護学会(代表理事),日本難病医療ネットワーク学会(評議員)、日本看護診断学会(評議員)、日本看護研究学会(評議員)、日本看護科学学会、日本看護学教育学会、日本看護歴史学会、日本公衆衛生学会、他
青山学院大学大学院博士後期課程修了。看護師経験の後、愛媛大学、産業医科大学を経て2006年から広島国際大学勤務。神経難病患者の看護、若年性パーキンソン病患者のQOLを主な研究領域とし、「若年性パーキンソン病を生きる」(長崎出版,2011)「難病患者の恋愛・結婚・出産・子育て」(あっぷる出版,2017)などを出版している。
1.食事面
・食事面としては、嗅覚障害がある場合、腐りかけているものがわかりにくいという傾向がある。嗅覚障害により例えば魚や肉、果物など生ものの腐りかけたにおいを感じにくかったり、さらに味もわからない人ではなお鮮度がわかりにくかったりすることが考えられる。そのため、製造月日や賞味期限を確認することに加え、冷蔵庫保管後も購入日、開封などを記載することで、なるべく新鮮な状態で食べることができる。
・特に患者が主婦の場合など、家族全員の食事を作ることが多いため、家族の健康を守るためにもより注意が必要である。
・さらに、塩分や味付けの問題である。味付けで困らないようにするために、食塩などは好みの味に応じた分量を目やはかりなどの器具で量ることが必要である。可能であれば、味付けの際に家族の協力を得られたらなおよい。
・また、焼き物を焦がしても気づかない恐れがあるため、目とタイマーを利用することで注意して調理することが必要である。
2.安全面
・安全面としては、嗅覚障害により、ガス漏れ、火災に対する検知能力が低下する。そのことから、対策としてはまずガス検知器や火災報知機を設置することが挙げられる。特に、一人暮らしである場合には、周囲に危険を知らせてくれる人がいないため、より危険性が増す。よって、ガス検知器や火災報知器などの危険を感知する器具は必需品といえる。
可能であれば、IHの導入が一番有効である。昨今では実際に家族や知人などからの勧めでIH に変更している人も多くなってきている。
3.衛生面
・衛生面としては、体臭や口臭、ペットや部屋の中の様々なにおい、香水などのにおいが感じにくくなる。体臭や口臭に関しては、会社など自宅外で仕事をしている有職者がより強く気にする傾向にある。そのため入浴や歯磨きなどの回数を増やす人が多い。また有職者の場合では特に周囲への影響が大きいため、香水の付けすぎには注意が必要である。
・一方、家の中のことでは、例えば、ペットの排泄、子供のおむつなどに関してはこまめな観察により対処する。洗濯物はなるべく外に干す。また部屋はできるだけ整理整頓し、掃除をこまめにする。部屋や衣類のにおいを取るために消臭剤などを利用する場合は、香りのしない無香性のものが望ましい。
4.情緒面
・情緒面としては、まず花などの植物の香りが感じにくく季節感を味わいにくくなることがあがる。しかし、たとえにおいがわかなくとも植物を見ることで視覚に刺激を与えることでも季節を感じる一つの手段になる。また、香りを楽しめずに寂しさを感じたり、においに関連した周りの会話に入れず疎外感を感じたりすることもある。
・そういった情緒的な苛立ち、落胆、疎外感に対して、対象者の話を傾聴し、その気持ちを理解することが必要である。また、傾聴だけでなく、同様な悩みを感じている者同士で話すことで孤独感を軽減し、精神的苦痛を減少することができる。
秋山智他(2019)、パーキンソン病患者の嗅覚障害による日常生活への影響と看護援助、広島国際大学看護学ジャーナル、17(1)、3-15.,
秋山智(2023)、パーキンソン病患者の嗅覚障害、Precision Medicine、6(5)、56-59,