残存機能とは?機能を維持・向上が望めるリハビリを具体的に解説

残存機能とは?機能を維持・向上が望めるリハビリを具体的に解説

残存機能という言葉をご存じでしょうか?

あまり耳慣れない言葉かもしれません。これは老齢の方や障害のある方に残された機能を指す医療・介護の専門用語で、本人の生活の質を左右する重要なカギを握っている機能といえます。

在宅介護においても、本人の残存機能を維持・向上させ本人のできることをもっと増やせれば、ご家庭での介護負担が軽減されるのではないでしょうか。

この記事では残存機能を維持・向上させるために必要なポイントを解説します。また家庭でできるリハビリも紹介していますので参考にしてください。

名古屋大学医学部付属病院
監修竹内 想
専門分野:皮膚科、神経内科、総合内科、呼吸器内科など

国立大学医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積む。 専門分野は皮膚科をはじめ、神経内科、総合内科、呼吸器内科など多岐にわたる。 現在は主に皮膚科医・産業医として勤務。詳しくはこちら

所有資格:一般社団法人 薬機法医療法規格協会 薬機法医療法遵守広告代理店認証
専門分野:化粧品や健康食品における広告表現
職業: 薬機法管理者

2003年からヘルスケア情報サービス事業・治験支援事業を行っている企業にて、主にDTC広告の企画営業に携わる。 4年ほど企画営業を担当後、自社のヘルスケアサイトの運営、製薬会社・健康食品メーカーの記事広告の制作を行うが、この時に薬機法(薬事法)についての知識を学び、広告記事の精査を経験。 2017年退社。現在は臨床研究の支援を行う企業にて研究事務局支援に携わる。東京在住。 現在は本業の傍ら化粧品や健康食品の企業の広告等の薬機法チェックを行う。詳しくはこちら

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残存機能とは?

1980年代に入るまでの介護の常識は「すべてやってあげる」でした。しかしこの頃にようやく福祉先進国デンマークで機能の維持・向上のためには本人にできることをやってもらうことが重要」だと初めて説かれたのです。

現在では残存機能の維持・向上の考え方は介護の中心的理念となっています。しかし残存機能という言葉のニュアンスは、失われたものに焦点を当てているように響きます。また本人の尊厳を損なうとも考えられたため、現在では違った言い回しをされる場合が多いようです。

実際に私たちが耳にしているのは医療や福祉の現場ごとに配慮し言い換えられた表現ではないでしょうか。

残存機能を意味する定着した呼び名はありませんが、「保有能力」「自己資源」などと言い換えられているようです。あるいは本人が保持していてこれから発揮できる機能であるため「ポテンシャル」と言い換えてもよいかもしれません。

残存機能の具体例

残存機能と言っても人それぞれに障害や弱った部分が異なるため、一言で説明はできません。

障害の専門分野では「障害は個性」と捉えますが、同じように残存機能も個性のようなものだといえます。

また残存機能の分類の仕方は身体機能に関してだけではなく、認知症の程度なども含めて考える必要があります。つまり認知症であれ、本人ができることがあれば残存機能と位置づけてよいでしょう。

残存機能の例を具体的に紹介します。

例えば高齢になり歩いてよろける方の場合は危険なため、周囲や家族は本人に外を歩いて欲しくないと思うでしょう。それでも本人は杖あるいはシルバーカーを使えばゆっくりですが外でも安定して歩けます。それがその方の残存機能を活かした残存能力です。

また脳梗塞の後遺症などで利き手に麻痺がある方を例に取ると、食事の際に上手く食器を掴めず食べこぼしが多いため、周囲はつい手を貸してしまうでしょう。それでも時間をかければ本人自身で食事ができますし、麻痺のない手を活用あるいは持ちやすい食器を使うことで、スムーズに摂取できるようになります。

残存機能の重要性

ここで残存機能が大事と言われている理由について説明します。

多くの方は、加齢や障害によって失われた機能やできなくなったことばかりにフォーカスして考えがちです。しかしそれでは本人の生きる意欲が減退する一方であり、その心身状態でその後の長い人生を送らせてしまうのは、人間としての尊厳が損なわれているとも捉えられるでしょう。

現在の医療と介護の現場では「持っている能力を活かす」が人間の尊厳であり、生活の質向上につながるという考え方が浸透しつつあります。

高齢の方や障害を負った方でも自分でできることを自分で行い、さらに機能を向上させてできることを増やしていけば、自分らしい人生が歩めるようになり、生き甲斐を感じられるのです。

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残存機能に影響を及ぼす意欲低下の原因

残存機能の維持・向上は本人の意欲と深く関わり合っています。

ところが高齢になるとさまざまな要因が絡み合い、物事への意欲、時には生きる意欲さえ失われてしまう場合も少なくありません。

しかし高齢であるがために意欲低下で活動量が減ると、身体機能の低下が急速に進んでしまいます。そのためできる限り早く意欲低下の原因を知り、対処する必要があるでしょう。

また原因を探るうちに認知症の発症に気付く場合がある点も、高齢期の特徴といえます。

喪失体験

高齢者の意欲低下の一番の因は数々の喪失体験だといわれます。

特に高齢期は人との結びつきが減る場合が多いです。例えば退職して社会的な地位を失う、パートナーや親友と死別するなどが挙げられます。

また退職し収入が激減した現実に気落ちしてしまう方も多いようです。

喪失体験があっても挽回できるならよいのですが、高齢者の場合は一度失った物は二度と取り返せないと感じ、深い喪失感に苛まれてしまう傾向にあります。

高齢期の喪失感には若年期と違う対応が必要かもしれません。もし家族でケアの糸口が掴めないようでしたら、心療内科やカウンセラーを頼るとよいでしょう。

身体の衰え

高齢者の意欲低下でもう一つ大きな原因になっているのは、加齢による身体の衰えです。

加齢や病気から身体が思うように動かなくなり、徐々に外出などのアクティビティが減少します。そして活動量と比例して次第に気力も減退し、人によってはうつ状態にまで進行してしまうケースもあるようです。

残存能力に影響を及ぼす意欲低下への対処法

残存機能の維持・向上には、本人の意欲の低下を抑え、改善することがカギとなりそうです。

いくらリハビリをがんばれと叱咤激励しても、本人にその気がなければリハビリの効果も薄れてしまうでしょう。

ここから、本人の意欲低下への具体的な対処法を紹介しますので参考にしてください。

否定せず傾聴する

意欲が低下気味の高齢者の話は、多少つじつまが合っていなくても否定せず、そのまま聴き入れ、いったんすべて受容するようにしてください。

話を否定されると本人は自分が否定されたと感じ、存在意義を見失って生きる意欲まで失いかねません。そうでなくても高齢者は「落ちぶれた自分を見られたくない」と自己否定をしている場合が多いので、まずは本人の気持ちに寄り添うところから始めましょう。

気分転換を勧める

本人の気持ちが塞いで家に引きこもりがちだと、生活や身体のリズムが乱れてしまうでしょう。

そんなときは、日光を浴びると神経伝達物質のセロトニンが分泌され、体内時計が整い気持が和らぐ効果が期待できます。また負担にならない程度の運動でもセロトニンの分泌が促進され、心身の調子が整いやすくなるでしょう。

また、本人がもともと得意だったことや好きなことを行うなど、プラスの感情を引き出すのも効果的です。

人と関わる機会を作る

自宅に引きこもりがちの方は、できればデイサービス・デイケアなどでいろんな方に会う機会があるとよいでしょう。

1人でも多くの方と関わる方が脳に加わる刺激が増えるため、認知機能の向上が期待できます。

ただ適切なコミュニケーションの量は性格などにより人それぞれです。どうしても大勢に会うのが苦手な方の場合、訪問リハビリなどの訪問系サービスを利用するのも有効でしょう。訪問者に心を開くうちに、次第に本人が外に出られるようになるかもしれません。

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本人の残存機能を在宅介護へ上手に活かすために大切なこと

残存機能を活かす考え方は、これまで医療や介護など専門家の間だけで語られていました。

しかし施設介護から在宅介護へのシフトを考える方が多くなっている昨今、家庭でも残存機能を活かせる方法が求められています。

そこで医療や介護の現場で実践している残存機能の活かし方を、家庭でも応用できるように解説します。

過剰介護をしない

高齢者や身体が不自由な方に介護をする際に、つい何でも手伝ってあげたくなるでしょう。しかし度が過ぎた介助は残存機能を維持・向上する妨げになってしまいます。

例えば、自分で何とか着替えられるのに全部手伝ってしまう、自分で何とか食べられるのに食事を介助してしまうなどが過剰介護に当たります。

自分でできることを自分でさせると聞くと冷たい印象を持ちますが、手取り足取りやってしまうと本人の機能が低下し、介助量を増やす結果になってしまうでしょう。

注意点としては本人にただやらせるのではなく、必要があればサポートできるよう見守りが大切です。やってあげないのは単なる介護者の怠慢となるため注意しましょう。

本人のペースに合わせる

本人が行うと時間がかかってしまうといった理由で、介助者が手を出してしまうケースは多々あるでしょう。

過剰介護とも関連しますが、本人のできることを代わりにやってしまうとお互いのためになりません。

本人に行ってもらう際には急かさず、根気強く見守るよう心がけてください。そうすれば本人のできることが増え意欲が増し、結果的に双方の負担を減らせる可能性があります。

本人の意欲を引き出す

残存能力を活かすには、本人の「できるようになりたい」と思うモチベーションが不可欠です。

まず日常生活の中で、本人に具体的に何ができるようになりたいかをイメージしてもらいます。目標は「不自由なところを動かす」などリハビリそのものではなく、例えば好きだった趣味を楽しむなど、自分がイキイキできる内容が望ましいです。

誰しも自分らしく生きるためのリハビリならば頑張れるのではないでしょうか。

安心・安全に過ごせる環境へ調整する

残存機能を維持・向上するためには、本人が安心して安全に行動できる自宅環境も大切です。怪我をしては元も子もありませんし、そうかといって事故を恐れて何もさせなければ、本人の意欲を削ぎ機能の低下を招いてしまうでしょう。

家の中の段差解消や手すりの設置、福祉用具の購入・レンタルなどの工夫をすれば、自宅内で本人の行動範囲が拡がり活動量が増えます。

住宅改修や福祉用具については、要介護認定を受けている方であれば介護保険から費用の補助が受けられます。詳しくはケアマネージャーか福祉相談窓口にお問い合わせください。

他者と交流できる機会を作る

他人との交流機会が多い方ほど、健康長寿の傾向にあると専門家の間でいわれています。

そのため高齢者はできるだけ趣味の集いや町内会などで、他人と関わる方がよいでしょう。皆現役時代の人脈とは一線を隔しているでしょうから、新しいコミュニティへ参加し自分の居場所を作ることが望ましいです。

コミュニティの中で自分ができること・役に立つことを見つけて本人に生き甲斐ができれば、機能の維持・向上にもつながります。

親類からアイデアをもらう

もし離れて暮らす兄弟姉妹がいるのなら、ぜひ介護の相談に乗ってもらいましょう。

残存機能の見つけ方・活かし方についても、離れているからこそ気が付く点もあるでしょう。忘れていた昔の本人の様子など、いつもと違う視点で教えてもらうと、本人の新たな可能性が見い出せるかもしれません。

同時に介護の協力を要請して、負担を上手に分散しましょう。

必要なら専門家のサポートも取り入れる

現在の住環境や家族構成では本人の残存能力が引き出せないと感じたら、専門家による介護やリハビリを考える時期かもしれません。

介護・リハビリ従事者なら、家族と違ったプロの目線で本人のできることを引き出してくれるはずです。

もしまだ介護サービスを利用しておらず、介護で行き詰まったり悩んだりしたときには、お住まいの地区の地域包括支援センターや市区町村の福祉課への相談をおすすめします。医療や介護の専門家が、適切なアドバイスをしてくれるでしょう。

残存機能の活用に重要な本人の「意欲」の引き出し方

残存機能を維持・向上させ生活の質を上げるには、まず本人の意欲を引き出す必要があります。

ここから、本人の意欲を最大限に引き出しリハビリ効果をアップさせるために、家庭でできるアプローチの方法を解説します。

本人のできているところに目を向ける

高齢者の家族はとかく「なんでそんなこともできないの?」「もっとがんばらないと!」と本人を叱咤激励しがちです。家族は本人の「できていた頃」を知っているだけに、できない現在の状態に失望するのも仕方がないかもしれません。

しかし「できないこと」ではなく、敢えて「できていること」にフォーカスしましょう。そして「できていること」を本人のペースで行ってもらい、できた喜びを本人と共有する姿勢が大切です。

そうすれば本人は一度失った自信を再び取り戻し、「もっとできるように」と意欲的になるでしょう。

自分で意思決定をさせる

高齢になると、判断力が鈍り決断に時間がかかるようになります。

高齢者と共に生活しているとつい、よかれと思って周囲が本人の判断を先回りして、決めてしまう場合も多いでしょう。

しかしなるべく本人に選択肢を与え、自分で物事を決定してもらう方が、本人の生活意欲が上がると研究からも明らかになっています。

【自宅でできる!】残存機能の維持・向上が期待できるリハビリ

体力や機能を維持するためには、長時間のウォーキングや専門機関への通院・通園が必要と思う方も多いでしょう。しかし昨今は感染症の心配もありますし、それでなくとも高齢になるほど外出には気を遣います。

そこで自宅でも手軽に行えて、残存機能の維持・向上を望めるリハビリ法を紹介します。デイサービスなどでもよく行われるメニューですので、ぜひ参考にしてください。

身体の体操

ここではイスに座ったまま行えて、家庭にあるもの以外の道具を極力使わない体操を紹介します。

負担になり過ぎない範囲で無理なく行いましょう。

まず腕の体操です。

  • タオルの両端を持ちピンと張ります。そして身体の前で前後にぐるぐる回します。ゆっくり長時間行えば有酸素運動にもなり、心肺機能の維持にも効果があります。
  • ボクシングの要領でパンチを交互に出します。

このほか、てのひらでグーパーを力強く繰り返す動きだけでも、手指の力と握力の維持・向上が図れます。手指は生活のあらゆる面で動作の基本になるため、意識的に維持しましょう。

続いて脚の体操です。

  • イスに座ったままつま先立ち・つま先上げを行います。
  • 座ったまま片脚を前にピンと伸ばし、そのまま10秒キープします。左右交互に行います。
  • やわらかいゴムボールを太ももの間に挟みギュッと潰して開きます。この動作を繰り返します。

ここで使うボールは100円ショップで販売している柔らかいもので構いません。

最後に首・喉まわりの体操です。

  • 「あ」「い」「う」「え」「お」の母音、「か」「き」「く」「け」「こ」の子音を発音します。口の動きをやや大げさにするのがポイントです。首・喉まわりの筋肉を刺激して咀嚼・嚥下を助けます。

最近ではYouTubeでもさまざまな体操が紹介されていますので、楽しく取り組めそうなものは取り入れるとよいでしょう。

運動をすると気持ちが上向く効果も認められます。毎日決まった体操をしなければと気負わずに、生活の中で身体を動かす習慣を作るくらいの軽い気持ちで取り組みましょう。

頭の体操

自宅でできる頭の体操、いわゆる脳トレを紹介します。

  • 漢字・計算・クロスワードなどのドリルは適度に頭を使うため、高齢者にはちょうどよいです。ドリルは100円ショップでも購入できます。
  • インターネットでも多くの「ドリル」「なぞなぞ」が閲覧・ダウンロード可能ですので、その場でプリントアウトして使えます。

さらに最近は子どもの塾・学習教材の会社でも高齢者向けの教材を作成しています。脳や記憶力への科学的なアプローチを希望する方は、挑戦するとよいでしょう。

高齢者はテレビのクイズ番組を観る機会が多いようですが、高齢者にはテンポが速すぎるかもしれません。回答にムキにならない範囲で楽しみましょう。

最後に、施設でよく行われる認知機能へのその他のアプローチ法を紹介します。

  • 回想法:昔使っていた家庭の器具や懐かしい写真・音楽などを、五感で感じながら過去の思い出を語る手法。脳の血流を促進し、本人が自分の存在意義を再確認できる効果も認められます。
  • 音楽療法:本人の好きな音楽や懐かしいメロディーを流し、一緒に口ずさんでもらったりリズムを取ってもらったりする手法。認知症や障害で言葉が出づらい方でも、音楽を通してなら感情表出がしやすく、ナチュラルキラー細胞が活性化され免疫効果が高まると期待できます。

そのほか高齢者の脳トレについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

まとめ:本人の残存機能を上手に活用して、無理のない介護生活を!

在宅介護での残存機能の維持・向上には、家族が本人のできることを知り、それを伸ばせるかどうかがカギになります。加えて本人の「できるようになりたい」意欲も重要です。

しかし家族の力だけでは意欲の引き出しや機能の向上が難しいと感じたら、リハビリや介護の専門家に相談して助言を受けるとよいでしょう。

本人の生活の質を上げ家族の介護負担を減らすためにも、本人が残存機能を活かしできることを増やせるよう、上手にサポートしましょう。

残存機能を活かせば、できなくなったことができるようになるのですか?

「残存機能を活かす」とは、機能訓練をすれば、老齢や病気になる前の状態に戻ることではありません。まず始めに本人のできることとできないこととを把握します。そしてできないことを補うよりも、本人のできることを伸ばす方法によって生活の質を上げれば、本人のありたい姿を目指せると考えます。それが「残存機能を活かす」考え方です。

親が何にも意欲がなくて困ります。このままではもっと衰えてしまうので何とかリハビリをさせたいのですが、何かよい方法はありますか?

もし他人と関わることに抵抗がないのでしたら、デイサービス・デイケアに参加されてはいかがでしょうか。曜日違いで多くの方々が通われているので、きっと気の合う方がいるでしょう。友達と交流したことで意欲が出て、身体機能が上向く方も大勢いらっしゃいます。

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