食事(料理・食品・栄養素)は、口(消化管)から食べて初めて身体の維持・増進となります。生きるために食べることは必須ですが、食べることは1日1日生きていることを実感し、喜び、幸せを感じるものです。
旬のものを楽しみ、食卓に好きな料理を並べて、高齢者は食べやすい食品や料理(調理形態)の工夫をし、「いただきます」「ごちそうさま」と食べられる幸せを感じながら食事をしてほしいものです。今回は、高齢者が元気でいるための食事量を知り、無理することなく可能な範囲で食事作りに役立ててください。
共愛学園前橋国際大学短期大学部 生活学科 栄養専攻
管理栄養士
日本公衆衛生学会、日本調理科学会 日本食生活学会
女子栄養大学卒業後、千葉県衛生部に勤務。その後健康保険組合健康管理室で健康教育・栄養相談業務に約28年間携わった。2010年より明和学園短期大学(現共愛学園前橋国際大学短期大学部)で栄養士の養成・教育に携わり、同時に他大学の教育学部や医療保健学科看護学部の講師を勤め、他職種への栄養学教育も行っている。
高齢者とは、何歳以上を高齢者と呼ぶのでしょうか?
現在、65歳以上を高齢者とした上で、65-74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と分けて定義しています。
暦年齢の分類
前期高齢者 | 65-74歳 |
後期高齢者 | 75歳以上 |
知っておきたい、高齢者の栄養管理ポイント
「高齢者は個人差が大きい」「暦年齢ではない」
高齢者は、身体および生理機能は個人差が大きい→日常生活状況に個人差が大きい→食事状況に個人差が大きい
例えば、暦年齢75歳の人たちがいたら、身体状況、日常生活状況、食事状況が65歳のレベルの人もいれば、80歳過ぎのレベルの人がいるということです。このことから、高齢者の栄養管理は暦年齢でなく2つのグループで考えます。
問題となる栄養・疾患 | 栄養対策 | |
① 自立した高齢者 | 栄養の過少 生活習慣病 | 栄養量の是正、健康維持・増進 |
② 要介護高齢者 | 低栄養・感染症・他疾患 | 栄養量の確保、栄養補給方法・支援 |
1.自立した高齢者の栄養管理
自立した高齢者は「エネルギー量、たんぱく質をどれだけ摂ればいいの?」
体重や生活活動量や疾患の有無で、個人差がありますが基準量を示します。
エネルギー・栄養素の摂取量は、「日本人の食事摂取基準2020」で性及び年齢区分に応じ、日本人として平均的な体位・参照身長・体重と身体活動レベルで策定されています。
男性 | 女性 | 身体活動レベル | |||||
年齢区分(歳) | 参照身長(㎝) | 参照体重(㎏) | 参照身長(㎝) | 参照体重(㎏) | レベルⅠ
低い |
レベルⅡ
普通 |
レベルⅢ
高い |
65~74 | 165.2 | 65.0 | 152.0 | 52.1 | 1.45 | 1.70 | 1.95 |
75以上 | 160.8 | 59.6 | 148.0 | 48.8 | 1.40 | 1.65 |
<自立した生活で身体活動が普通の人>
男性 | 女性 | |||
年齢区分 | エネルギー量
Kcal/日 |
たんぱく質量
g/日(推奨量 |
エネルギー量
Kcal/日 |
たんぱく質量
g/日(推奨量 |
65~74(歳) | 2400 | 60 | 1850 | 50 |
75以上(歳) | 2100 | 60 | 1650 | 50 |
<自宅でほとんど外出しない生活、介護施設で自立に近い生活で身体活動が低い人>
男性(身体活動レベルⅠ・低い) | 女性(身体活動レベルⅠ・低い) | |||
年齢区分 | エネルギー量
Kcal/日 |
たんぱく質量
g/日(推奨量) |
エネルギー量
Kcal/日 |
たんぱく質量
g/日(推奨量 |
65~74(歳) | 2050 | 60 | 1550 | 50 |
75以上(歳) | 1800 | 60 | 1400 | 50 |
たんぱく質量は、体重が小さいものや身体活動が少ないものでもフレイル予防から推奨量をとることが望ましいと同じ値になっています。
毎日の生活で摂取する必要なものに「水」があります。
「水はどれだけ摂ればいいの?」
必要水分量(ml)の算出は、「30(ml)×体重(㎏)」で簡易的に算出できます。
例)男性 75歳以上(参照体重59.6㎏)
30 〈ml)×59.6(kg)=1788 (ml) ≒1800ml/日
例)女性 75歳以上(参照体重48.4㎏)
30 (ml)×48.4(kg)=1464 (ml) ≒1500ml/日
<1日の栄養摂取量>
自立した高齢者:75歳以上 身体活動が低い
エネルギー必要量(kcal/日) 男性 1800(kcal/日) 女性 1400(kcal/日) |
たんぱく質の推奨量 男性 60g/日 女性 50g/日 |
脂質 20~30%エネルギー(エネルギー産生栄養素バランス) |
炭水化物 50~65%エネルギー(エネルギー産生栄養素バランス) |
食塩相当量 男性 7.5g/日未満 女性 6.5g/日未満 |
水分必要量の算出 男性 1800ml/日 女性 1500ml/日 |
食品量と献立例:1800kcal たんぱく質 63.6g 脂質 25%エネルギー
写真提供)群馬大学名誉教授 高橋久仁子
写真の食品を食べやすい料理や軟らかさで食べていますか?ごはん1杯+おかず1皿+小鉢1杯+(牛乳や果物)食べていますか?元気でいるための目標量です。食欲があること、食べれることが大切です。
2.要介護高齢者の栄養管理
要介護高齢者は「エネルギー量、たんぱく質をどれだけ摂ればいいの?」
安静状態における呼吸や血液の循環、体内の生合成と分解、体温維持に必要なエネルギー量が「基礎代謝量(kcal/日)」です。寝たきりでも生命維持に必要なエネルギー量です。
「基礎代謝量(kcal/日)」は、基礎代謝基準値(kcal/kg/日)×体重で算出します。
(基礎代謝基準値は「日本人の食事摂取基準2020」より)
例)男性 75歳以上(参照体重59.6㎏、基礎代謝基準値21.5kcal/kg/日))
21.5kcal/kg/日)×59.6 (kg)=1281 (kcal/日)
◎男性・介護高齢者の体重で算出してみましょう。
21.5 (kcal/kg/日)×介護者体重(kg)= (kcal/日)
例)女性 75歳以上(参照体重48.8㎏、基礎代謝基準値20.7(kcal/kg/日))
20.7 (kcal/kg/日)×48.8 (kg)=1010 (kcal/日)
◎女性・介護者の体重で算出してみましょう。
20.7 (kcal/kg/日)×介護者体重(kg)= (kcal/日)
要介護者が、寝たきりでも男性1287 (kcal/日)、女性1010 (kcal/日)のエネルギーが必要です。
たんぱく質は、低栄養・感染症予防からも表で示した同様量を不足ないようとることが望まれています。男性 60g/日、女性 50g/日です。
エネルギー・たんぱく質不足の低栄養状態は、身体機能の低下や認知症を加速させ、褥瘡(床ずれ)の要因となります。しかし、要介護者の栄養管理は、摂食・嚥下障害への対応が必要となり、料理に手間がかかり、食べるのに時間がかかるなどから十分な栄養が摂れず低栄養状態の者が少なくないと言われています。在宅介護高齢者、居宅介護施設高齢者、入院高齢者の「食事量(栄養量)が不足していないか」を家族や介護支援者も管理できる知識を持つことが期待されます。
「介護食は、食べて栄養」です。食事作りのポイントを挙げてみます。
・介護食に旬の香りや味がしますか?
・介護食にし好が反映されていますか?
・介護食に笑顔がありますか?
食品は、「旬の食品」「食べなれた食品」「栄養補助食品」を利用しましょう。料理は、「食べなれた料理」に軟食・刻み食の食形態・トロミをつけましょう。
例)軟食・刻み食の食形態
摂食・嚥下障害への対応で少し料理に手間がかかり、食べるのにも時間がかかりますが、介護者の笑顔を力に寄り添っていきましょう。