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  • 【公開日】2024-02-28
  • 【更新日】2024-02-28

高齢者と幼児の世代間交流 ―役割と生きがい

高齢者と幼児の世代間交流 ―役割と生きがい
高齢者と幼児の関係性はそれぞれにポジティブな影響を与えると言われています。本コラムではお互いの関係性・影響に焦点を当てて,高齢者と幼児の世代間交流の大切さについて解説します。
西村 めぐみ 准教授
宝塚大学 大阪梅田キャンパス 看護学部看護学科
日本老年看護学会、日本家族看護学会、日本健康医学会
北海道旭川市出身。看護師として総合病院等に勤務後、宝塚大学所属、現在に至る。老年看護学分野の講義や実習に携わる。高齢者の生活史、生活の質、世代間交流に関する研究を主としている。
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日本の高齢化の現状

まずは,日本の高齢化ついて見てみます。65歳以上人口を老年人口と言い,この老年人口の全人口に占める割合(高齢化率)が人口の高齢化をあらわす指標となります。高齢化とは,65歳以上の高齢者の全人口に占める割合が7%を超えた社会を指し,日本が7%に届いたのは1970年でした。その後,高齢化はどこの国よりも急速に進んでいきました。そして1994年,7%の倍にあたる14%を超えた高齢社会を迎え,21%を超えて超高齢社会を迎えたのが2010年です。日本の高齢化の速度について,高齢化率が7%を超えてからその倍の14%に達するまでの所要年数(倍加年数といいます)によって比較すると,フランス が115年,スウェーデンが85年,アメリカが 72年,比較的短いとされているイギリスが46年,ドイツが 40年であるのに対し,とても早いスピードで高齢化が進んでいるのかわかります。さらに日本の高齢化率は,2060年には40%に達すると推測されています1)2)3)

「家族の相談相手」としての高齢者の役割

テーマにあります「役割」についてです。高齢者にとって役割をもつことはとても重要であることをお伝えして,その中で「幼児との交流」についてもお話しようと思いますが,その前に,ご存じのことと思いますが,『「サザエさん」一家』を例にしてお話したい思います。アニメ『サザエさん』は,1969(昭和44)年10月5日にテレビ放送がスタートしました。サザエさん(旧姓磯野)家は,サザエさんの父親,浪平さんと母親のフネさん,二人の長女であるサザエさんと夫のフグ田マスオさん,二人の子どものタラオちゃん。そして,タラオちゃんにとって,叔父と叔母にあたるカツオさん(サザエさんの弟)とワカメさん(サザエさんの妹)の3世代世帯,7人4)大家族です。(猫のタマもいます)そこで,この礒野家,大家族における浪平さんとフネさんの役割について考えてみます。(私も幼稚園まで礒野家と同じく,祖父母と両親,叔母(父の妹),姉の7人家族で暮らしていました。犬もいました。共稼ぎの両親に代わって,私たち姉妹の面倒を見てくれていました。その頃は,祖父は浪平さんと同じく仕事をしていましたので,主に祖母が面倒を見てくれました)。

高齢者の役割の一つに「家族の相談相手」があります。礒野家では,家族揃って食事をします。サザエさん,カツオさん,ワカメさんが浪平さんの部屋で相談事をする場面,台所でフネさんに相談をする場面,居酒屋でマスオさんが浪平さんに相談する場面など印象的です。また,役割は「生きがい」とも関連があると言われています5)6)。また,高齢者が「生きがいを感じるとき」は,「孫など家族との団らんの時」が最も多くなっていて5),礒野家の食事の場面や,卓袱台でお茶をする場面,まさにこの時のことを言うのでしょうか。

高齢者と孫(幼児)の関係性

高齢者にとっての幼児の存在

さて,浪平さん,フネさんにとって孫のタラオちゃんはどのような存在なのでしょうか。サザエさん一家にみる,高齢者(とはいっても,浪平さんは「54歳」,フネさんは「50ン歳」4)で,ここでは「祖父母と孫」という関係としてご容赦ください)と孫の存在について考えていこうと思います。高齢者にとって孫の存在には,様々な意味があります。まず,存在そのものが「高齢者の生きがい」になることもあり,その理由の一つとして,高齢者は老いて衰退する自分に対し,孫は成長・発展しつつあり,生のエネルギーに満ちている3)ことがあげられています。タラオちゃんの存在が,浪平さんとフネさんにとって生きがいとなっていることでしょう。孫にとっても,祖父母を通して人間の生・老・病・死を見聞きする機会が得られるなど,祖父母との関係性を築くことは成長のために意味がある3)ことと言われています。

少子化にも触れておきます。少子化とは出生率が低下し,子どもの数が減少することを表した言葉です12)13)出生数は,1985年には約143万人であったのが,1995年に118万人と減少していき,2022年の出生数は,80万人を割り込むなど,急速に少子化が進展しています2)。高齢化とともに少子化によって,家族の形に影響を与え,礒野家のような3世代世帯が減少し,夫婦のみの世帯が増加し,さらに,単独世帯(60歳代の一人暮らし世帯)が増えており,2040年には最多となると推測されています2)

このように,血縁の子どもや孫をもたない夫婦のみの世帯や単独世帯の高齢者はどうしたらよいでしょうか。高齢者と交流できる場として,その一つに,注目されている幼老複合施設というものがあります。幼老複合施設とは,保育園などの児童向け施設とグループホームなどの高齢者向け施設を併設した施設です施設によって「グループホームと保育園」や「デイサービスと学童保育」など,さまざまな組み合わせがあります7)

幼児との交流が高齢者に与える影響について高齢者と幼児の交流に関して家族,とりわけ孫との関わりについてお話しました。高齢者と幼児が交流に関することでは,高齢者にとっては,「高齢者の行動や心理状態の安定」「高齢者の生活の質の向上」をもたらすことが明らかになっています8)9)。具体的には,風船バレー等の競技性の高い活動については,活動に夢中になり高齢者に対する配慮というより,自身が楽しむということに没頭する様子も見られたが,そのような姿が子どもらしく映るのか,笑顔で見守っている様子がみられ,高齢者心身が安定に影響しているというものです。

幼児にとっての高齢者の存在

では,幼児にとってはどうかというと,高齢者と交流することで,「幼児の他者への思いやり,コミュニケーションスキルの発達」「高齢者のゆったりした生活リズムに触れることで,幼児には親とは違った安堵感」7)8)が報告されています。具体的な場面として,幼児が高齢者に気軽に語りかける場面がよく見られたり,折り紙の時などに手先が不自由な高齢者には進んで声をかけ手伝う様子が見られていて,高齢者との日常的な交流は,他者への思いやりコミュニケーションスキルの発達に役立つ9)10)ということです。

まとめ

子どもがいない夫婦についての統計もあります。結婚してから5年~9年経過した時点で子どもがいない割合ですが,1977年では4.2%だったのに比べ,2021年では12.3%11)12)13)という結果が報告されており増加しています。この統計上の夫婦が高齢になったときに,私も子どもがいない夫婦の一組なのですが,血縁ではない幼児がいてもいなくても,高齢者も幼児もお互い世代を超えた交流がもてるような環境があることは幸せなことだと思います。家族の形は多様化しています。少子高齢化,人口減が本格化する中で,若年層においても,結婚・家族に関する意識も変わっていっています。「一生結婚するつもりはない」と答える未婚者は2000年代に入って増加し,結婚意思を持たない若者が増加傾向にある2)という報告もあります。

幸せな人生は一人で得られるものではなく,他者,家族や周囲の人々との相互支援によって得られるもの14),家族の形が変われども周囲の人々とつながり,支え合うことで幸せな人生を送ることができるよう,今後も高齢者と幼児の世代間交流,幼児だけでなく,様々な人々との世代間交流について考えていきたいと思います。

【引用・参考文献】

1)内閣府:平成30年度高齢者の住宅と生活環境に関する調査結果(全体版),http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h30/zentai/index.html

2)厚生労働省編:令和5年版 厚生労働白書,

3)堀内ふき,他編:老年看護学① 高齢者の健康と障害,ナーシング・グラフィカ,P84,株式会社メディカ出版.

4)サザエさん 公式サイト:http://www.sazaesan.jp/.

5)公益財団法人長寿科学振興団:高齢者の生きがいとは | 健康長寿ネットhttps://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/ikigai.html

6)佐藤美由紀,他(2011);地域高齢者の家庭内役割とQOLの関連,日本保健福祉学会誌,2011.

7)ケアする介護,老人ホームの種類,幼老複合施設とは?:https://caresul-kaigo.jp/column/articles/5312/.

8)村山 陽,他(2017):幼老複合施設における世代間交流の可能性と課題,老年社会学,38(4).

9)上村 眞生,他(2007):世代間交流が幼児・高齢者に及ぼす影響に関する実証的研究,幼年教育研究年報29.

10)土永典明,他(2005):世代間交流に関する調査研究-高齢者福祉関係施設を併設している保育所の側面から-九州保健福祉大学研究紀要6.

11)国立社会保障・人口問題研究所:第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)令和3(2021)年6月実施,https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/doukou16_gaiyo.asp

12)厚生労働省:令和4年(2022)人口動態計月報念系(概数)の概況,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/index.html

13)内閣府:少子化問題,https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/0224/shiryou_03.pdf .

14)前掲3)p82.

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