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  • 【公開日】2024-02-19
  • 【更新日】2024-02-19

住み慣れた自宅で住み続けるために ~介護保険の住宅改修と福祉用具の活用~

住み慣れた自宅で住み続けるために ~介護保険の住宅改修と福祉用具の活用~
皆様は老後をどこで誰とどのように過ごしたいと考えていますか?本コラムでは住み慣れた自宅で住み続けるための環境の整え方について解説します。
飛永 高秀 教授
長崎純心大学 人文学部 地域包括支援学科(令和6年4月より福祉・心理学科)
社会福祉士
日本社会福祉学会・日本地域福祉学会など
東洋大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士前期課程修了・博士後期課程満期退学。特別養護老人ホーム介護職員、日本福祉教育専門学校(専任講師)、大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科(助手)、中部学院大学人間福祉学部(専任講師)を経て、2007年に長崎純心大学に着任。高齢者や障害者等の居住支援の方策や社会福祉士等の福祉専門職養成、社会福祉施設等の経営や職員組織・人材育成等に関する研究を行っている。
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はじめに

高齢者の住まいを巡る問題は、「高齢になって、介護などが必要となった時に自宅で住み続けることができるか」という老後の介護問題から生じてくることが多いです。また、特別養護老人ホーム等の施設への入所の理由の上位に「住宅事情」があることも指摘されています。

特に高齢者世帯や一人暮らす高齢者の増加によって老後生活と介護との関係によって、どこで誰とどのように老後を過ごすのかということに関心が集まります。

現在、国は「地域包括ケアシステムの構築」として、住み慣れた自宅を中心に、住み慣れた地域で住み続けるための支援の仕組みを作っています。特に2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となります。その方々は、平均寿命も長くなり、認知症やガンなどの疾患を抱えながら、医療的なケアを受けながら生活していくことが増えてくると思います。

私ごとになりますが、実母と義母はそれぞれ築年数の経った持家で一人暮らしをしています。実母、義母ともに慢性疾患がありますが、今のところ元気に暮らしています。実母は、なるべく住み慣れたこの家で住みたいと考えているようですが、介護が必要となったら、子ども(私や妹)に迷惑をかけると申し訳ないと思っているようで、どこか、老人ホームに入ろうかと考えているようです。

また、3年前に頼りにしていた義父が末期のがんで亡くなりました。自分が建て住み慣れた思い出深い家で暮らし続けたいという思いがあり、また、義母もそれを叶えたいと考え、在宅で主治医や看護師の方々の訪問診療・看護のサポートなど終末期医療を受け、自分らしく気の向くまま過ごし、義母、娘、孫に見守られながら生を全うしました。

さて、皆さんは、老後をどこで誰とどのように過ごしたいと考えていますか?

そこで、今住んでいる自宅に住み続けるための大事な考え方とその視点を考えていきたいと思います。

老後の生活における「住まい」への関心

では、高齢者の方々は、どのような住まいで生活をしているのでしょうか。

高齢者の住居形態は、「持家(一戸建て)」が8割を超え、「持家(分譲マンション等の集合住宅)」を含めると約9割が持家に住んでいます。また、現在の住まいの居住年数では、「生まれた時から」、「31年以上」が6割以上となっており、長い期間自宅を中心に地域で生活していることが分かります。さらに完治が見込めない病気の場合に迎えたい最期の場所では、半数以上が「自宅」とし、病院や施設よりも多くなっています。このように、高齢者は、住み慣れた自宅で最後まで住み続けたいと願っているのです。

図1:「どこでどのような介護を受けたいか」についての意識
令和2年版厚生労働白書より

調査によれば、高齢者は住まいに関して、7割以上が「不安と感じていることはない」としています。

一方で「不安と感じていることがある」とした者の割合(26.3%)は、男女ともに年齢が上がると低くなり、住宅に対する認識が薄くなってきていることもうかがえます。そして、「不安と感じていることがある」とした者の具体的な内容は、「虚弱化した時の住居の構造」が最も多くなっています。また、「現在の住居で困っていること」では、「住まいが古くなりいたんでいる」が最も多く、次いで「住宅の構造(段差や階段など)」や造りが高齢者には使いにくい」、「住宅が広すぎて管理がたいへん」などがあげられています。

表1:住まいに関して不安を感じていること
平成30年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査より
表2:現在の住宅で困っていること(複数回答)
平成30年 高齢者の住宅と生活環境に関する調査より

このように虚弱化した際の「住まい」の老朽化や段差等の住宅構造が不安要因になっていますが、多くの高齢者が「住まい」については、「不安」や「問題点はない」と認識しているようで、住まいに対する関心は高いとは言えません。

この認識・関心の低さは、加齢に伴う心身機能の低下がある中で、住み慣れた家で使い親しんだ間取りや家具など思い出の詰まった生活用品に囲まれ、無意識的に無理な行動をしたり、我慢したりすることが習慣化されることによって引き起こされていると考えられます。

「無理すれば、我慢すれば」できるといった状況が、「何も問題はない」という主観的な考えにつながっているものと指摘できます。

皆さんは、日頃の自宅での生活で、無理したり、我慢したりしていることはありませんか。

また、住まいが古くなって、老朽化していたり、住宅構造が不安であるという点については、住宅の築年数が大きく影響します。今、お住まいの住宅は、建ってからどのくらいの年数が経っていますか?一般的に日本の住宅の耐用年数は25年程度と言われています。そのため、築年数が経ち、住宅が老朽化してくると住宅そのもののメンテナンスも必要となり、住宅改善等のリフォームを検討することも必要となります。

築年数が浅く、また、リフォーム等を行っていれば、不安をいくらかは解消できますが、築年数が30年以上経っていたりする場合は、壁などの住宅構造そのものがバリアフリーに適さない場合があります。築年数が経てば経つほど、バリアフリー化は行われていない現状があるので、皆さんのご自宅も見直して下さい。

表3:住宅の建築の時期別高齢者のいる世帯数(%)
平成30年住宅・土地統計調査より

予防という視点に立った住まい方の確認と工夫

  • 「掃除をしていて、段差につまづいたり、壁に手足をぶつけてしまった。」
  • 「階段を踏み外し、怖い思いをした。」
  • 「浴室のタイルで滑ってしまった。」
  • 「料理中、熱いやかんを触ってしまい、やけどをした。」

など、日常的な生活場面で、ビックリしたことやケガをした経験はありませんか。

実は自宅内での、掃除や洗濯、トイレ、入浴、外出の際など、日常生活動作における「無理」や「我慢」が大きな危険をはらんでいます。

 

さて、突然ですが、「家庭における不慮の事故」と「交通事故」で亡くなった方の数を比較するとどちらが多いと思いますか。答えは、「家庭における不慮の事故死」が「交通事故死」よりも約4.4倍多いのです。その中でも死亡者の年齢の内訳をみると、65歳から79歳が31.2%、80歳以上が57.5%と「家庭における不慮の事故」で亡くなる方の9割近くを高齢者が占めているのです。

特に高齢者では「同一平面上でのスリップ、つまづき、よろめきによる転倒」が8割以上、「溺死・溺水」では浴槽での事故が約8割を占めているのです。このように高齢者にとって、自宅には死に繋がる危険が沢山潜んでいるのです。

表4:家庭における不慮の事故による主な死因(%)
厚労省「人口動態統計(確定数)」2022

 

中年の私も日頃の生活で「気持ち」と「身体」が一緒に動かず歯がゆい経験をしています。子どもの部活の練習に付き合い、一緒に走ったのはいいのですが、気持ちばかりが先に行き、転んでしまいます。端から見れば大笑いの場面ですが、本人は笑い事ではありません。このような自分自身の身体と心(気持ち)の乖離状態が大きな危険を生んでしまいます。

まずは、自分の身体の変化に注意を向け、今までの生活における「無理」や「我慢」、「キツい」、「大変」という行動、動作を正直に受け止めることが、危険を回避することに繋がります。もちろん、持病等がある場合は、病気に関わる身体や行動の変化、服薬等にも意識を向ける必要があります。

「できないこと」、「大変なこと」などを否定的でネガティブに捉えると言うことではありません。自分の「身体」と「気持ち」の現状を知るということです。そうすることにより、予防的にどのような生活行動・動作を行う必要があるか、周りの環境を整えて行く必要があるかを考えるきっかけになります。それが危険を回避することに繋がります。「ひざ」、「腰」、「肩」の動きや「心臓」、「肺」、「脳」などの病気の症状はいかがでしょうか。

そこで、まず身の回りのテーブルやソファー、椅子などの家具の使い勝手や配置を確認すると良いと思います。また、玄関、日中いる居間・居室、寝室、トイレ、浴室、台所など、それぞれの場所を自分の身体の状態に合わせて確認してみると良いと思います。

少しでも、ちょっとでも、使い勝手が悪いと感じた場合は生活の見直しが必要となると思います。生活は、動作の連続で成り立ちます。そのため、「生活動線」にも気をつけることが必要です。2階建ての持家に住んでいる場合、日中を1階にある居間(リビング)で過ごし、そこを拠点にトイレや浴室を使い、寝る時には2階の寝室に行くと言ったような場合があると思います。私の母は、リュウマチを患っているため、手足の関節の動きが季節や天候によって左右されます。調子が悪い時は、身体を動かすことすら難しいようです。そのため、階段に手すりを取り付け、体調がすぐれない時には1階で寝ていたりします。

このように自らの身体状況を正確に把握し、日常の行動を意識的に行うこと、そして、家屋内の環境を整えていく必要があります。

住宅改修・福祉用具の活用

家屋内の環境を整えることは、テーブルやソファー、椅子、タンスなど生活用品の配置だけではなく、手すりを設置したり、段差を解消するなどの住宅改善も一つの方法です。これには小規模なものから、住まい全体の生活動線も考慮し、トイレ、浴室、洗面所、台所などの配置や位置を動かすなど大規模なものとなる場合もあります。

また、車椅子や歩行器、介護用ベットなどの福祉用具を組み合わせて活用することも屋内の危険を防止したり、快適に生活することに繫がります。

このような住宅改善や福祉用具の活用で重要となるのは、安全かつ無理を要しなくても利用でき、身体状況の変化にも対応できることです。このような考え方は、高齢者ばかりではなく、介護する家族の負担の軽減にも繫がります。

 

介護保険では、以下に示すように保険を利用して段差の解消や手すりの設置など、経済的な負担を軽減して、自宅の住環境を改善することができます。

<住宅改修の種類>

  • 手すりの取り付け
  • 段差の解消
  • 滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
  • 引き戸等への扉の取替え
  • 洋式便器等への便器の取替え
  • その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修

また、介護保険では福祉用具についても保険給付の対象とされています。

福祉用具については、下記に示すように対象種目において貸与できるものと購入費の支給がうけられるものがあります。

<福祉用具貸与>

車いす(付属品含む)、特殊寝台(付属品含む)、床ずれ防止用具、体位変換気、手すり、スロープ、歩行器、歩行補助杖、認知症老人徘徊感知機器、移動用リフト(吊り具の部分を除く)、自動排泄処理装置

<特定福祉用具販売>

腰掛便座、自動排泄処理装置の交換可能部品、排泄予測支援機器、入浴補助用具(入浴用いす・浴槽用手すり・浴槽内いす・入浴台・浴室内すのこ・浴槽内すのこ・入浴用介助ベルト)、簡易浴槽、移動用リフトの吊り具の部分

 

介護保険の住宅改修費の支給では、要支援や要介護といった要介護度に関わらず定額20万円を限度額として支給されます。ただし、要介護状態区分が三段階以上重くなった際や転居した場合などは再度利用することができます。

住宅改修や福祉用具の活用については、すでに介護保険サービス等を利用されている方は、その事業所の職員やケアマネージャーに相談されると良いと思います。また、最寄りの地域包括支援センターや役所の介護相談の窓口、通院されている方は病院の医療ソーシャルワーカーなどに相談してみると良いと思います。住宅改善は本人の身体状況に適切にそして柔軟に対処する必要があります。もちろん経済的な負担がかかります。そのため、必ず専門職に相談し、決して、知識のない事業者等にお願いするようなことが無いようにして下さい。

コラム介護保険 介護保険適用の住宅改修はどんなことができる?内容や例外についても解説 も見てください。

生活動線を考慮した居宅サービスの活用と日常生活の継続・拡大

住宅改善や福祉用具の活用は、屋内での環境整備に過ぎません。そのため、身体状況等、介護の程度に応じて、訪問介護(ホームヘルパー)通所介護(デイサービス)等の居宅サービスを活用し、屋外、地域での活動の場を広げていくことも重要です。

その際に気をつけておくべきことは、屋内だけではなく、敷地内の環境にも目を向ける必要があります。玄関から舗道目的地までの動線、アクセスにおけるバリアについても考える必要があります。玄関から外に出ると階段があったり、砂利道で車椅子での通行が困難だったり、草や花木が剪定されていないなど、ありませんか。また、地理的特性によって公共交通機関が利用しづらかったりする地域もあります。そのため移送サービス等も活用し、日常生活を拡大していくことも考える必要もあります。

おわりに

住み慣れた地域で住み続けるためには、地域社会との関わりは欠かすことができません。私たちの生活は、屋内だけではとどまらず、日頃の買い物や友人との交流など地域社会の中で広がりを持って成り立っています。

居宅のサービスだけでなく、地域でのふれあいサロンや仲間内の会合などに赴くなど、屋内から屋外への生活動線も考慮し、自宅内外の環境を整えることによって、住み慣れた自宅で住み続けることが可能となります。

【引用・参考文献】

  • 令和5年版高齢社会白書 内閣府
  • 平成30年度高齢者の住宅と生活環境に関する調査 内閣府
  • 厚生労働省 人口動態統計 2022
  • 山本美香編「福祉臨床シリーズ17 居住福祉論 臨床に必要な居住福祉」弘文堂 平成20年
  • 山本美香編「知識・技術が身につく 実践・高齢者介護第5巻 高齢者の住環境」 ぎょうせい 2009年
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