ヤングケアラーの実態と私たちができること

ヤングケアラーの実態と私たちができること

ヤングケアラー」関連のCM、ポスター、記事などを目にした人は少なくありません。以下では、ヤングケアラーと支援の実態および、私たちができることを解説します。

楊 慧敏 助教
県立広島大学 保健福祉学部
社会福祉士・精神保健福祉士
日本社会福祉学会、社会政策学会、日本子ども家庭福祉学会等
同志社大学社会学研究科を修了し、社会学研究科外国人留学生助手として勤務後、県立広島大学所属、現在に至る。主に、ヤングケアラー支援、介護保険制度、国際比較に関する研究を行っている。
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ヤングケアラーとは?

こども家庭庁のホームページによると、ヤングケアラーとは「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」を指します。

同ホームページにヤングケアラー啓発イラスト(図1)が掲載されています。イラストに示しているように、子どもは障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理などの家事、幼いきょうだいの世話、家族の看病や入浴・トイレの介助などをしています。しかし、家族構成や子どもの年齢などの違いがある中、子どもが担うケアの内容はイラスト以外のものもあります。例えば、子どもは母の愚痴を聞いたり、妄想で会話ができない母の代わりにジレで店員とやりとりをしたりすることや(河西2022:140-142)、家族のためにアルバイトで働き家計を支援する(三菱UFJリサーチ&コンサルティング2021:157)などがあります。

図1 ヤングケアラー啓発イラスト 出所:こども家庭庁HP

ヤングケアラーの実態―小学生の15人に1人「世話をしている家族がいる」

ヤングケアラーと思われる子どもの実態を把握するため、国は全国規模の調査を実施しました。

全国調査業務委託先の三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2021)と株式会社日本総合研究所(2022)の調査報告書によると、小学6年生の6.5%、中学2年生の5.7%、高校2年生の4.1%が「世話をしている家族がいる」と回答しました。そのうち、約5割の子どもが「ほぼ毎日」家族の世話をしていると回答しました。その家族、そして世話内容の割合がもっとも高いのはきょうだい、家事・見守りでした。

家族の世話をすることにより、子どもは勉強・遊びの時間が取れない、勉強と家族の世話の両立が難しいため精神的に不安定になるなどの悩みを抱えています。これらは子どもの学業だけではなく、友人関係やのちの就職にも負の影響を与える可能性があります。

ところが、自分がヤングケアラーであるという自覚がなく、家族の世話について相談した経験がない子どもが多いです。その背景には、「家族の世話をすることが当たり前」、自分がヤングケアラーであることを認めることにより家族が責められることや、「相談しても状況が変わるとは思わない」などがあります。

家族一員としてケアを担うヤングケアラー

ここまでは、ヤングケアラーの意味と実態を解説しました。子どもは自分の時間が取れなく、精神的不安定になる、つまり、ケアの負担感を感じながらも家族の世話をしています。「なぜ」と疑問に思うと同時に、子どもが「かわいそう」、「親は何をしているんだ」などの悲しみ、怒りの感情が込み上げる人もいるでしょう。

日本では、「家族は助け合い、協力し合うべきだ」、「お手伝いは家庭教育の一環だ」ということが当たり前のように考えられています。だが、ここの「家族」は、父母、成人した息子や娘およびそれらの配偶者などの大人が想定されています(楊2023:98)。そして、「お手伝い」は、子どもの年齢や成長の度合いに見合った内容で、子どもに「お手伝いをしない」という選択の権利をもつものです。

ところが、大人の家族の就労・病気・加齢などによって本来大人が担う家事や家族の世話がその家族の一員である子どもに過重にのしかかっています。ケアを担う子ども、つまりヤングケアラーはつらい・疲れたと思っても休めることができません。なぜなら、自分がケアをしないと、家族の生活が回らないとヤングケアラーが思っているからです。

ヤングケアラーの対策―国が提示した対応方針

厚生労働省と文部科学省は「ヤングケアラーの支援に関する令和4年度概算要求等について」の資料にヤングケアラーの現状と課題を提示した上で、対応方針4つを示しています。

現状と課題として、地方自治体での実態把握が不十分や、福祉・介護・医療・学校など関係機関における研修が十分でないこと、ヤングケアラーに対する具体的支援策、支援に繋ぐための窓口が明確でないなどがあげられています。それらに対応する4つの対応方針が提示されました。四つ目以外の対応方針は新規事業です。

一つ目は、ヤングケアラー支援体制強化事業の創設【新規】です。

国は2つの事業内容を実施する自治体に対して財政支援を行う。

事業内容①ヤングケアラー実態調査・支援研修事業:実態調査または福祉・介護・医療・教育などの関係機関(図2)職員がヤングケアラーについて学ぶための研修などを実施する。

事業内容②ヤングケアラー支援体制構築モデル事業:地方自治体におけるヤングケアラーの支援体制を構築するため、地方自治体に関係機関と民間支援団体などとのパイプ役となる「ヤングケアラー・コーディネーター」を配置し、ヤングケアラーを適切な福祉サービスにつなぐ機能の強化、ピアサポートなどの悩み相談を行う支援者団体への支援、ヤングケアラー同士が悩みや経験を共有し合うオンラインサロンの設置運営・支援を行う。

二つ目は、ヤングケアラー相互ネットワーク形成推進事業の創設【新規】です。

民間団体などで全国規模のイベントやシンポジウムなどを開催し、地域ごとの当事者、支援者同士の相互交流を促すことにより、ヤングケアラーの相互ネットワークの形成を図る。

三つ目は、子育て世帯訪問支援モデル事業の創設【新規】です。

対象家庭に育児支援ヘルパーを派遣し、傾聴による相談支援、家事・育児支援などを行う。

四つ目は、ヤングケアラーに関する社会的認知度の向上【拡充】です。

令和4年度から令和6年度までの3年間を「集中取組期間」として、ヤングケアラーの社会的認知度の向上に向けた集中的な広報啓発を実施する。

さらに、一つ目のヤングケアラー支援体制事業は「令和5年度予算概算要求の概要」に拡充が図られました。それによって、①ヤングケアラー実態調査・支援研修事業を実施する場合、自治体の負担割合が2分の1から3分の1に減少しました。

図2 ヤングケアラー支援体制事業 出所:厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課・虐待防止対策推進室(2022:23)

②ヤングケアラー支援体制構築モデル事業について2点の内容拡充がありました。1点目は、ヤングケアラー・コーディネーターが福祉サービスだけではなく、就労支援サービスなどにつなぐ機能の強化です。2点目は、下図にある「通訳派遣」、つまり、外国語対応が必要な家庭に対し、病院や行政における通訳派遣などを行うことです。

図3 ヤングケアラー支援体制構築モデル事業 出所:厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課・虐待防止対策推進室(2022:24)

ヤングケアラーの対策―自治体の取り組み

ヤングケアラーの支援に関する取り組みを取り入れている自治体が増えつつあります。以下では、ヤングケアラー関連の条例制定・施行、相談窓口、家事・介護・育児ヘルパー派遣の3つを紹介します。

一つ目の条例制定・施行について、埼玉県は、ケアする人(ケアラー)にもケアが必要という考えに基づき、2020年3月に「埼玉県ケアラー支援条例」を制定しました。こちらは日本で初めてヤングケアラーに対する支援条例です。その中では、県の責務、県民・事業者・関係機関の役割が明文化されています。例えば、第五条に県民はケアラーが置かれている状況および支援の必要性の理解や、ケアラーが孤立しないように配慮するとともに、自治体が実施する支援に協力することが定められています。

埼玉県以外、表1の他の19都道府県、市町村もケアラーに関する条例を策定し、施行しています。

表1 ケアラーに関する条例を策定・施行する自治体 出所:一般財団法人地方自治研究機構HP

 

二つ目の相談窓口を設置する自治体、団体が増えています。中では、窓口相談や電話相談だけではなく、ヤングケアラーが気軽に相談できるようにLINEなどのSNSやチャット相談を行っている自治体や団体が多数あります。神奈川県のかながわヤングケアラー等相談LINE、一般社団法人ヤングケアラー協会の就職支援などはSNS相談の具体例です。

三つ目の家事・介護・育児ヘルパー派遣について、兵庫県神戸市と群馬県高崎市の取り組みを紹介します(表2)。両市のサービスは、ヤングケアラーに代わって家事や介護などを行うサポーター、ヘルパーを無料で派遣し、ヤングケアラーの生活における負担を軽減することを目的としたものです。ただ、利用時間数や期間などの制限が設けられています。神戸市の場合、ヘルパー派遣開始から3か月以内、週1回・1回あたり2時間を上限とすることが原則です。高崎市の利用は、1日2時間、週2日までとなっています。

表2 神戸市・高崎市の支援事業 出所:神戸市、高崎市HPより作成

私たちができること

ヤングケアラーに対する社会的認知度の向上および、支援体制の整備を図るには、学校や医療、福祉機関との連携が重要です。その中で、私たち一人ひとりができることもあります。ここでは、下記のような2つを紹介します。

第一に、ヤングケアラーが置かれている状況を理解し、彼(女)らの気持ちを尊重できるようにすることです。少子高齢化や大人の家族の就労・疾病などを背景として、ヤングケアラーの像、彼(女)らが抱えている課題は多様化、複雑化しています。私たち一人ひとりがヤングケアラーについて理解を深めることが、ヤングケアラーを早期発見し、必要な支援につなげることができます。その理解を深めるには、私たちができることは、ヤングケアラー関連の広報・啓発活動、国と自治体の取り組みなどの情報を収集し、内容を確認することなどがあります。

第二に、ヤングケアラーがSOSを出しやすい環境をつくることです。上で相談窓口の設置が増えていることを紹介しました。しかし、実際の相談件数が少ない、または、ゼロのところもあります。相談するのはハードルが高いことがその一つの要因として考えられます。相談をするということは、自分の気持ちや置かれている状況を言葉で表現できるうえで、相談の意味や方法を理解し、安心して相談できる相手がいて成立します。ヤングケアラーやその家族の一部は、困っているのに助けを求めることができずに一人で抱え込んだり、相談するのが遅れたりするため問題がさらに深刻になってしまうことがあります。

私たちは、日ごろから子どもに声をかけ、顔見知りになることで子どもと信頼関係を築くことができます。この信頼関係は、彼(女)らが悩みを抱えるときに「あの人(たち)に話してみる」、つまり、SOSを引き出す力になります。

文献

  • 一般財団法人地方自治研究機構HP「ケアラー支援に関する条例」(http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/023_carersupport.htm,2024.01.24)
  • 河西優(2022)「いま、自分と向き合う時―2020年春、「ニコイチ」だった母から離れて」斎藤真緒・濱島淑恵・松本理沙・公益財団法人京都市ユースサービス協会編『子ども・若者ケアラーの声からはじまる ヤングケアラー支援の課題』株式会社クリエイツかもがわ。
  • 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課・虐待防止対策推進室(2022)「令和5年度予算概算要求の概要(児童虐待防止対策及び社会的養育関係)」(https://www.mhlw.go.jp/content/001019600.pdf,2024.01.24)。
  • 厚生労働省・文部科学省(2021)「ヤングケアラーの支援に関する令和4年度概算要求等について」(https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000831374.pdf,2024.01.24)。
  • こども家庭庁HP「ヤングケアラーについて」(https://www.cfa.go.jp/policies/young-carer/,2024.01.24)。
  • 株式会社日本総合研究所(2022)「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」。
  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2021)「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」。
  • 楊慧敏(2023)「ヤングケアラーの支援体制の問題点」『社会政策』15(1),89−101。
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