高齢になると認知症が進行するケースも多く、自宅での介護が難しくなることも少なくありません。認知症の人を自宅介護することは、十分な介護が受けられないことで高齢者にとってのデメリットになるだけではなく、それを支える家族の負担が増えるといったリスクもあります。
そのため必要に応じて、施設の利用を考えることがおすすめです。認知症の人でも利用できる施設はあるため、どのような選択肢があるのかを知り、老後の生活に備えましょう。
認知症の方でも入居可能な施設
まずは認知症の人でも入居できる施設としては、どのようなものがあるのかを知っていきましょう。施設によって要件は異なりますが、次の施設なら認知症の人でも入居できます。
- 特別養護老人ホーム
- グループホーム(認知症対応型生活介護)
- サービス付き高齢者向け住宅
- 有料老人ホーム
それぞれの違いを知り、入居可能な施設としてどのような選択肢があるのかを知っておくことが大切です。
特別養護老人ホーム
従来型とユニット型の2つがある特別養護老人ホームでは、認知症の人の入居にも対応しています。従来型の場合は入居人数は多いですが、ユニット型の場合は1グループで10人程度と少人数になっています。
そのため、大人数での生活が苦手な人にもおすすめであり、ユニット型を選ぶならより精神的な負担を減らせるでしょう。特別養護老人ホームは原則要介護3以上の人から受け入れていますが、認知症だと要介護2から入居できる場合もあります。
要介護度の要件などは施設によって詳細が異なるため、入居先を探す際にはこの情報も確認しておくことが大切です。
グループホーム(認知症対応型生活介護)
要支援2から要介護1以上の人が入居できる施設として、グループホームというものがあります。グループホームは認知症でも入居が可能ですが、集団生活を送ることが難しいと判断されると、入居できない場合があるため注意しなければなりません。
認知症ケアだけではなく、介護や医療ケアなども受けられますが、どこまでのケアが受けられるかは施設によって異なります。また、グループホームは5人から9人程度の少人数での入居となるため、大人数での共同生活に苦手意識のある人にもおすすめです。
サービス付き高齢者向け住宅
健康な高齢者が利用する賃貸住宅として、サービス付き高齢者向け住宅というものがあります。サ高住と呼ばれるこの施設は、安否確認のサービスが付いた高齢者向けの賃貸住宅であり、一般型と介護型の2つにわけられます。
施設によって対応は異なりますが、基本的には介護型で認知症の人を受け入れていることが多いです。一般型の場合は認知症の受け入れが可能な場合でも、介護サービスが必要なら別途外部のサービス事業者と契約しなければなりません。
介護型なら介護サービスが付属しているため、サ高住で介護が受けられます。認知症で入居先を探している場合は、まずは介護型のサ高住を調べていくと良いでしょう。
有料老人ホーム
住宅型や健康型、介護付きなどさまざまな種類がある有料老人ホームは、基本的には介護付きのもののみ認知症の人の受け入れに対応しています。
住宅型や健康型は自立可能や、軽度の要介護度の人を対象にしたサービスであり、入居ができても認知症が進行すると退去を求められることもあるため、注意しなければなりません。
介護付きの有料老人ホームなら、認知症に対応しているだけではなく、医療ケアが行えるスタッフも配置されています。そのため、医療ケアも受けることができ、認知症でも安心して利用できるでしょう。
介護付きの場合は要介護1以上から入居が可能であり、施設によって詳細な条件が異なるため、入居先を選ぶ際には事前に確認しておくことが大切です。
施設選びを始めるタイミング
認知症の人が入居できる施設を探すのは、できるだけ早めから動き出しておきましょう。認知症が進行してからだと、対応が後手に回ってしまい、家族の負担が大きくなることも少なくありません。そのため、元気なうちからもし認知症になった場合にどのように対応するかを、本人と話し合っておくことがおすすめです。
また、認知症になっていない、あるいは進行が軽度なうちに話し合っておくことで、本人の希望をかなえられる施設を選びやすくなります。入居先を決める際には家族の独断で決めると、本人との関係性が悪くなってしまうことも少なくありません。
そのため、判断力が低下していないうちから将来のことを考えておき、本人とよく話し合って入居先を決めるようにしましょう。
施設選びの前に下準備をする
入居先の施設を選ぶ際には、事前の準備を徹底して行うことが大切です。施設選びの際にやっておきたい下準備としては、次の2つがあげられます。
- 本人と家族の希望などを明確にする
- 今後どうしていくのか本人と話し合う
これら2点を押さえて、施設選びの下準備は念入りに行いましょう。
本人と家族の希望などを明確にする
施設を選ぶ際には、本人と家族それぞれの希望を明確にしておくことが大切です。施設に入居する本人と家族の希望はわけて考えることが重要であり、混同しないように注意しましょう。本人の希望だけを押し通したり、家族の希望を優先したりすると、それぞれにストレスがかかってしまうことも少なくありません。
そのため、お互いの希望は明確にしておき、両者の希望をかなえられる折衷案を考えることが大切です。また、なぜ施設を利用するのか、目的もはっきりさせておく必要があります。目的が明確になっていないと、施設を利用することが本当に正しいのかがわかりません。
場合によっては施設を利用しないほうがお互いのためになるといったケースもあるため、入居の必要性や目的もきちんと考えておきましょう。
今後どうしていくのか本人と話し合う
施設を選ぶ際には、今後どのようにしていくのか、本人と話し合うことが大切です。例えば現在認知症を患っていない場合は、今後認知症が発症した場合にどのような対応を取るのかを確認しておきましょう。
また、入居後のことを考えておくことも大切であり、認知症が進行した場合は同じ施設を利用し続けるのか、別の施設へ転居するのかなど、長期的に見た対応も話し合っておきましょう。
施設選びのいろは
入居する施設を選ぶ際には、いくつかポイントがあります。
- まずは担当のケアマネージャーに相談する
- インターネットや口コミなどで幅広く情報収集
- 気になる施設に連絡し見学をする
これら3つのポイントを把握して、より利用者に合った施設を見つけましょう。
まずは担当のケアマネージャーに相談する
施設を選ぶ際には、まずは担当のケアマネージャーに相談しましょう。まだ相談できるケアマネージャーがいない場合は、最寄りの地域包括支援センターを利用し、担当してもらえるケアマネージャーを見つけておくことが大切です。
ケアマネージャーは介護に関する知識を豊富に持っており、おすすめの施設を紹介してくれます。本人の身体状況に合った施設を教えてくれたり、どの施設なら空きがあるかなども知っていたりするため、まずはケアマネージャーに相談してみましょう。
インターネットや口コミなどで幅広く情報収集
施設を選ぶ際には、インターネットや口コミなどの情報を参考にすることがおすすめです。インターネットなら「地域名+認知症施設」などのワードで選択肢を広く検索することができ、さまざまな情報を確認できます。
また、情報の比較もしやすいため、どの施設が本人に合っているのか、条件面から比較がしやすいです。この際には施設の口コミなどをチェックし、利用者からの評判を確認しておきましょう。
友人や知人などで介護をしている人がいるなら、その人の意見を参考にすることもおすすめです。実際に介護をしている人の意見を聞くことで、施設選びの参考となることもあります。
気になる施設に連絡し見学をする
施設の情報を集め、気になるところが見つかったなら、直接施設に連絡しましょう。このときすぐに申し込みはせずに、まずは見学をすることがおすすめです。施設の見学をすることで、雰囲気や設備、利用者やスタッフの雰囲気などを知ることができ、安心して利用できそうかを判断しやすくなります。
また、施設によっては体験入居が可能な場合もあるため、これができる施設なら、実際にサービスを体験してみてから、利用するかどうかを決めることがおすすめです。
見学でチェックしておくべきポイント
施設の見学に行く際には、次の5つの点をチェックしておくことが大切です。
- 施設の雰囲気
- 施設職員の様子
- 入居されている方の様子
- どのような対応をしてくれるのか聞く
- 退去のケースを聞く
これらのポイントは家族だけではなく、本人も同席して確認するようにしましょう。
施設の雰囲気
見学の際には、施設全体の雰囲気を確認しておきましょう。施設によって特徴は異なり、入居者同士での交流が多いアットホームな環境もあれば、1人の時間をゆったりと過ごせるものもあります。
そのため、本人にも確認をしてもらい、施設の雰囲気が気に入るかどうかはチェックしておきましょう。一度入居すると長期間過ごすことも多いからこそ、本人が雰囲気を気に入るかどうかは重要なポイントです。
施設職員の様子
施設で働いている職員の様子を確認しておくことも大切であり、スタッフがきびきび働いているか、疲れた顔をしていないかなどは確認しておきましょう。スタッフのやる気がなかったり、疲れ切った表情や態度をとっている場合は、サービスが十分に提供されていない可能性があります。
また、あまりにも慌ただしく動いていると、入居者が落ち着いて過ごせなくなるため、この点にも注意が必要です。職員の状態次第で快適に過ごせるか、安心してサービスを利用できるかは異なるため、様子は必ずチェックしておくことが大切です。
入居されている方の様子
すでに入居している人の様子も確認しておき、楽しそうに過ごしているか、服が汚れていないかなどもチェックが必要です。入居者同士で楽しく交流が持てているようなら、アットホームな環境で過ごしやすい可能性があります。
また、服が汚れておらず、清潔な状態が保たれているなら、施設側のサービスが手厚く行われていることがわかります。もし利用者で気分が沈んでいる人が多かったり、服が汚れたままになっていたりする場合は、快適な環境で過ごせているとはいえない可能性があるため、注意しなければなりません。
どのような対応をしてくれるのか聞く
職員にはいかなる対応をするのかも聞いておくことが大切であり、実際のシーンを想定して質問しておきましょう。これまでに認知症の人にどのように対応してきたのか、また特定の症状が出たときに、いかに対処しているのかなどは聞いておくことがおすすめです。
質問してすぐに明確な答えがある場合は、安心して利用できる可能性が高いです。また、回答に納得できるかも重要なポイントであり、もし納得できない返事があった場合は、別の施設の利用を考えてみても良いでしょう。
退去のケースを聞く
過去にどのようなケースで退去したのか、その理由やケースを聞いておくこともおすすめです。退去のケースや理由を知ることで、施設でいかなるケアの方針を取っているかが判断しやすくなります。
例えば要介護度が上がったために退去したという答えなら、重度の要介護度だとその施設は利用できないということがわかります。退去する理由は人によって違うため、複数のケースを聞き、その施設がどのような方針を取っているのかを見極めましょう。
入居を嫌がられた場合の対応
家族が施設の利用を考えていても、本人が入居を嫌がるということもあります。そのため、もし入居を嫌がられた場合には、どのような対応をするのか考えておくことが大切です。
- 入居を嫌がる原因を確認
- 原因から不安要素を拭う
これらの2点を意識しながら、スムーズに施設への入居を促せるようにしましょう。
入居を嫌がる原因を確認
まずはなぜ施設への入居を嫌がっているのか、その原因を確認しておきましょう。施設への入居を嫌がる原因としては、施設に預けられることで家族に見捨てられたのではないかと思うことや、施設そのものにマイナスイメージを持っていることなどが考えられます。
家族で聞きづらい場合は、親戚や担当のケアマネージャーなどに聞いてもらい、何が入居を拒む理由となっているのかを確認しましょう。
原因から不安要素を拭う
施設への入居を嫌がる原因を把握したなら、本人が抱えている不安要素を払拭しましょう。例えば見放された気がするという理由で施設への入居を拒むなら、そうではないことを伝え、家族での介護の難しさや、入居したほうが本人の生活にとってもメリットがあることを話すことが大切です。
また、施設に対して否定的なイメージを持っているなら、レクリエーションやイベントが豊富であること、スタッフが優しく対応してくれることなどを伝え、マイナスイメージを取り除きましょう。
納得して施設を選ぶには本人と家族の話し合いも必要
認知症の人の受け入れに対応した施設はさまざまありますが、施設の種類によって入居の条件や提供しているサービスなどは異なります。そのため、施設ごとの違いを把握し、どれがもっとも本人に適しているかを考えることが大切です。
また、施設選びの際には本人とも話し合うようにし、家族だけの希望で入居先を決めないように注意しなければなりません。本人の希望や意思を尊重して施設を選ぶことで、本人と家族のそれぞれが満足できる入居先を見つけましょう。