認知症看護の手法はさまざまあり、その1つとしてユマニチュードというものがあります。ユマニチュードは認知症看護のメソッドです。実際の介護で取り入れたいなら、どのような方法なのか、実施するまでのステップなどを知っておくことが大切です。
また、実際に取り入れることでどのような効果があるのかも知り、認知症看護に関する知識を身につけていきましょう。
ユマニチュードとは
まずはユマニチュードがどのような看護メソッドなのか、基本的な部分から理解を深めていきましょう。どこで発案された看護メソッドかといった基礎知識はもちろん、いかなる目標を持って看護に取り組むものなのかなども知っておくことが大切です。
看護メソッドについての理解を深めることで、ユマニチュードがいかなるものなのかがわかり、さらに認知症に対しての知識も身につけられます。
発案のきっかけ
ユマニチュードが提唱されたのは1979年であり、これはフランス人の「イヴ・ジネスト」と「ロゼット・マレスコッティ」の両氏によって発案されています。きっかけとなったのは介護者が認知症患者によって暴力を受けたことであり、これによって新たな看護ケアのメソッドが考えられるようになったとされています。
そもそもユマニチュードとは、フランス語で「人間らしさ」という意味の言葉です。つまり、ユマニチュードにおける看護メソッドとしては、人間らしさを持って患者に接するという点に重きが置かれており、いかに患者の尊厳を守るかが重要視されています。
認知症患者だからといって、子ども扱いしたり、無理やりに介護者の命令を聞かせたりせず、介護者と患者が対等な目線を持つことで、人間らしさを尊重したケアを行います。
また、認知症患者だけではなく、介護者自身の人間らしさも守り、双方の人間的尊厳を踏まえてケアをすることも、ユマニチュードの特徴です。
ユマニチュードが目指す3つの目標
人間らしさを重視したユマニチュードですが、ただお互いの尊厳を守ることだけがケアの目標ではありません。ケアを実施するうえでの目標は次の3つがあるため、これも頭に入れておきましょう。
- 回復
- 機能維持
- 最期まで寄り添う
ユマニチュードでは心身機能の回復を目指したものであり、患者の状態をより良くすることを目標にしています。また、これ以上症状を進行させないように、機能維持を目指すことも目標の1つです。認知症は進行性の疾患であるため、回復はもちろん、機能維持を目指すことも重要といえます。
また、患者に最期まで寄り添うという点も目標であり、穏やかな最期を迎えられるように、患者に寄り添い続けることも重要視されています。これらの目標は健康に害を及ぼさないことが前提の条件として考えられていることも、頭に入れておきましょう。
記憶の仕組みについて
ユマニチュードを理解するには、記憶の仕組みについて把握しておくことが大切です。記憶の仕組みを詳しく知ることで、認知症への理解を深めることができます。
記憶は短期記憶と長期記憶の2つがあり、それぞれで役割が異なります。これらの違いを理解して、記憶の仕組みを正しく把握していきましょう。
短期記憶
数秒から数十秒程度前のことを記憶することが、短期記憶です。認知症では記憶障害が生じることも多く、数秒前のことでも思い出せなくなってしまうことは少なくありません。短期記憶は情報量が膨大であるため、一定期間で大半は忘れられてしまいますが、一部は長期の記憶として定着します。
ただし、認知症患者の場合は短期記憶で覚えられる情報量が少なくなりやすく、直前に起きた出来事のすべてを忘れてしまうということもあります。そのため、介護者にとっては数分前に話したことを覚えていないといわれ、これがストレスになってしまうことも多いです。
記憶障害が起きやすい認知症患者の場合は、健康な人よりも短期記憶として留めておける情報が極端に少ないことは理解し、記憶そのものが抜け落ちやすいと考えておきましょう。
長期記憶
数分から生涯覚えられる記憶が、長期記憶と呼ばれるものです。これは短期記憶が定着し、ある程度頭の中に残るものと考えましょう。記憶障害が起きることも多い認知症ですが、長期記憶は保存されたままということが多いです。
長期記憶にはさまざまな種類があり、その1つであるエピソード記憶と呼ばれるものは、特に記憶が定着しやすいといえます。エピソード記憶には感情が付随し、長期記憶の中でも特にこれが残りやすいです。
記憶の中でも感情を伴う記憶の方が残りやすいという性質を活かし、介護に関する記憶を嬉しいもの、心地良いものにすることが、ユマニチュードによる看護ケアのアプローチです。認知症患者が介護に対してポジティブな印象を持てるようにケアに臨み、長期記憶に喜びを定着させることが、重要なポイントといえます。
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ユマニチュードメソッド
実際にユマニチュードがどのような看護ケアなのか、メソッドを知っていきましょう。ユマニチュードを理解するうえでは、ケアにおける「4つの柱」や実際にケアを開始するまでの5つのステップを知っておくことが大切です。
実際的な方法やケアのメソッドを知ることで、ユマニチュードについての理解をさらに深めていきましょう。
4つの柱
ユマニチュードによる看護には、次の4つの柱があります。
- 見る
- 話す
- 触れる
- 立つ
これらの4つを意識しながら看護ケアに臨むことが、ユマニチュードでは重要視されています。
見る
人間らしさを意識した看護アプローチをするユマニチュードでは、認知症患者を見るという行為が重要視されています。相手を見ることで相手の存在を認識する、目を合わせて誠実な気持ちで看護に臨んでいると伝えることが、見る行為が大切にされている理由です。
認知症患者を見ないということは、その人のことを無視することになってしまい、これによって精神的なストレスを与えたり、社会的な孤立感を覚えさせてしまったりすることは少なくありません。
また、見るという行為では、目線を合わせることが大切とされており、これは患者と介護者が平等な関係性であるとアピールするためです。目線の違いがあると、介護者が上、患者が下の立場のように圧迫的な関係になってしまい、これがお互いの関係性を壊してしまうこともあるため、注意しなければなりません。
話す
認知症ケアにおいてコミュニケーションは重要であり、話す行為は介護者と患者がコミュニケーションを取る手段の1つです。話すことによって認知機能の低下を防ぐことができ、コミュニケーション能力の向上が見込めます。
関係性が深まることでお互いに信頼感を持つことができ、看護に関する良い記憶へと変換されやすいでしょう。患者に良い印象を与えるには、ゆっくりと穏やかに話すことが重要であり、耳が遠くなった高齢者でも聞き取りやすいように、大きな声で話すことが大切です。
また、身体介護や看護をしている際には、今どのような行動をしているのか、実況するように伝えることも重要なポイントです。患者自身の体に起こっていることを伝えることで、自分の存在を再認識でき、これにより認知機能の向上が期待できます。
触れる
認知症患者とのコミュニケーションとしては、体に触れることも大切です。優しく触れることを意識し、できるだけ肌への接触面積が広くなるよう、包み込むイメージを持ちましょう。
体に触れることで、患者自身が自分の存在を再認識できるだけではなく、コミュニケーションを取ることがお互いの良好な関係性の構築にもつながります。ただし、触れる際に勢い良く触ったり、力をこめたりすると攻撃的な印象を与えかねないため注意しなければなりません。
ネガティブな感情にさせないためには、ゆっくり優しく触れることが大切であり、肩や腕などの鈍感な部分から触れていくようにしましょう。
立つ
高齢になると身体機能が低下することも多いですが、可能な限り立つという動作をすることが大切です。立ち座りの動作をすることで、筋力アップや身体機能の維持、向上に役立ち、これが身体的なケアにつながります。
また、立ち座りをすることで空間を立体的に認知することができ、これによって認知機能の低下予防が行えます。高齢になると体を動かさなくなり、これによって身体機能が低下して、さらに運動をしなくなるという負のサイクルが生じてしまうことも少なくありません。
体が動かせなくなると、社会とのかかわりが減ったり、意欲的に行動しづらくなったりして、ストレスを感じてしまうこともあります。そのため、立つという動作は非常に重要であり、身体機能の低下を防ぐために4つの柱の1つとして大切にされています。
5つのステップ
ユマニチュードは5つのステップでケアが実施されています。
- 出会いの準備
- ケアの準備
- 知覚の連結
- 感情の固定
- 再会の約束
出会いの準備から再会の約束まで、ケアの開始から終了までのステップを把握しておきましょう。
出会いの準備
まずは出会いの準備として、認知症患者に介護者が来訪したことを伝えます。自宅での介護の場合はこの準備は不要ですが、体に触れる際などは声をかけてからケアを行うようにしましょう。
もし認知症患者が施設に入居していたり、入院していたりするなら、部屋に入る前に声をかけて、介護者の存在を認識させることが大切です。出会いの準備をしていないと、認知症患者が自分の空間に土足で踏み込まれたなど、ネガティブな印象を持ってしまうことも少なくありません。
認知症の人は環境の変化が苦手であり、人と会うときでも心の準備をしてもらうことが大切であるため、顔を見せる前の声かけは必ず行いましょう。
ケアの準備
ケアはいきなり始めずに、事前の準備をして認知症患者に心の準備をしてもらうことが大切です。認知症患者と目線の高さを合わせ、相手の目を見て話しかけましょう。この際には目を合わせて3秒以内を目安に話し始めることが大切であり、ゆっくりと穏やかな声かけをすることが大切です。
また、この際には認知症患者の人に会えて嬉しいこと、その人に会うために介護者が今ここにいることなどを伝えておきましょう。認知症患者のために来訪したという旨を伝えることが、良好な関係を築くためには重要です。
知覚の連結
認知症患者と知覚の連結をすることも大切であり、4つの柱である「見る」や「話す」、「触れる」の3つのポイントを意識しましょう。ケアを行う際には、それぞれの行動が矛盾しないように、認知症患者に声をかけていくことが大切です。
例えば体を拭く際には、相手の目を見ながら「体を拭きます」、「右腕から拭いていきます」などのように、言葉と行動を一致させるようにしましょう。知覚の連結によって認知機能の向上が期待でき、より良い介護につながります。
感情の固定
ユマニチュードは介護や看護の記憶をより良い経験として、長期記憶に保存することを目的にしています。そのため、長期記憶にポジティブな感情を保存するためにも、楽しい時間を過ごせたと、言葉にして伝えることが大切です。
声かけをする際にはネガティブな言葉は使わないように、「楽しい」、「気持ちよかった」、「協力していただきありがとうございます」などと伝えるようにしましょう。
ケア自体は良くても、否定的な言葉を伝えてしまうと、ネガティブな感情が根付いてしまうこともあるため、どのような言葉を使うかは意識して慎重に選ばなければなりません。
再会の約束
ケア終了の際には、別れのあいさつをして帰らず、再会の約束をしましょう。また来ることを具体的に伝えることで、丁寧なケアをしてくれる人に再会できると、期待感や喜びなどの感情を呼び起こしやすくなります。
別れのあいさつをしてしまうと、寂しさが募って介護や看護の記憶にネガティブな感情が付随してしまうことも少なくありません。そのため、再会の約束はできるだけ具体的にし、次はいつ来るのか、日時も述べておくと、ポジティブな感情と記憶を結びつけやすくなります。
ユマニチュードの効果
実際に認知症ケアにユマニチュードを取り入れるなら、どのような効果があるのかを知っておくことが大切です。ユマニチュードによるケアを実施することで、認知症患者の態度が柔らかくなったり、攻撃的な言動や行動が減ったりするという効果があります。
これは介護者と認知症患者で信頼関係が結べていることが大きな理由であり、双方が気持ち良くかかわりを持てる点は大きな魅力です。認知症患者が安心してケアを受けられることはもちろん、介護者自身の負担を減らせる点もメリットです。
施設で働く介護や看護スタッフなどの離職を防ぐ効果もあり、認知症ケアをするうえで、ユマニチュードは重要なものといえるでしょう。
一部だけ取り入れても効果あり
ユマニチュードのメソッドは、5つのステップのすべてを実施するだけではなく、一部のみ取り入れても効果があります。例えば自宅で看護をしている場合は、出会いの準備や再会の約束が難しいため、その段階を飛ばして、ケアを実施しても構いません。
5つのステップは一部を行うだけでも効果があるため、できることからケアに取り入れて、介護者と認知症患者との良好な関係を築きましょう。
ピッタリの施設をプロが提案
ユマニチュードは認知症看護ケアに有効
介護や看護の現場では、ユマニチュードが話題となっており、介護者と認知症患者の双方の人間らしさを守ることが重要視されています。ユマニチュードのケアによって認知症患者との関係性を良好に保つことができ、介護や看護をスムーズに行いやすくなります。
施設や医療機関だけではなく、自宅でも取り入れることが可能であるため、ケアのステップや基本的な特徴を理解して、認知症患者と上手に付き合っていきましょう。
ユマニチュードとは、認知症看護の手法のひとつのことです。人間らしさを持って患者に接するという点に重きが置かれており、いかに患者の尊厳を守るかが重要視されている点が特徴として挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。
ユマニチュードによるケアを実施することで、認知症患者の態度が柔らかくなったり、攻撃的な言動や行動が減ったりするという効果があります。これは介護者と認知症患者で信頼関係が結べていることが大きな理由です。詳しくはこちらをご覧ください。