福山平成大学 福祉健康学部 福祉学科
緩和ケア認定看護師、看護師、介護支援専門員、認知症ケア専門士、BLS等
佐賀大学大学院医学系研究科博士前期課程修了(看護学)
長崎国際大学大学院人間社会学部博士後期課程修了 学位:博士(地域マネジメント)
日本緩和医療学会、日本看護福祉学会、日本産業精神保健学会、日本在宅ケア学会、日本介護福祉教育学会、日本ケアマネジメント学会. 緩和ケア認定看護師の資格を取得後、緩和ケア病棟・在宅緩和ケアの開設とともに師長職に着任.
2021年4月より現職に着任し、これまで数多くの看取りの経験やELNEC-Jコアカリキュラム指導者として、大学・専門学校や地域の医療・福祉施設等の多職種を対象にエンドオブライフケア及び医療的ケアの研修を実施し後進の育成に務めている.
あなたは、人生の最終段階で、誰とどこで、どのように過ごしたいか、そしてどのような治療やケアを受けるかなどについて考えたことはありますか?
これは、もしもの時のために考えておくべき重要な問いと言えます。
高齢社会とアドバンス・ケア・プランニング
日本は、世界で最も高齢者の割合が高く、2025年には年間約150万人が死亡する 超高齢多死社会 を迎えると言われています(日本医師会:2017)。そうした中、患者さんへのエンド・オブ・ライフケア(以下、EOLケア)の質の向上が、重要な課題となっています。
中でも注目されているのが、アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)です。
ACPとは、「人生会議」とも呼ばれ、患者さんが将来の変化に備えて自らが望む医療やケアについて考え、家族や親しい人々、医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取り組みです(厚生労働省:2023)。この取り組みが患者さんにとっても意思を明確にする手助けとなります。
ACPの進め方
ACPは患者さんの意思が明確なときから開始し、主に4つのステップ(図1)で進めます。これらのステップを経て得られた結果を互いに共有し、記録します。
そして、患者さんの意思決定能力が低下した場合は、その記録をもとにかかりつけ医を中心とした医療・ケアチームと代弁者が協力して患者さんの意思を推測します。人の感情は状況により変化しますので、話し合いを重ねて、記録内容を更新しておくことが大切です。
ACPの認知度
ACPは患者さんの希望と利益を尊重するために重要な取り組みですが、一般国民における認知度はまだ低い状況です。2022年から2023年にかけて実施された調査(厚生労働省:2023)では、ACPを「よく知っている」と回答した割合は、医療従事者等でも回答者の5割に届かず、一般国民ではわずか5.9%でした(図2)。
ACPとともに、患者さんの意思決定能力が低下した場合に、その意思を確認する手がかりとなるのが事前指示書です。これについては、医療従事者等では8割以上が、一般国民でも約7割が作成に賛成と回答しました。
人生最終段階におけるDNARという選択
ACPで是非話し合っておきたいことの一つにDNARがあります。これは「心肺蘇生(CPR)を試みない」という医療指示です(日本緩和医療学会:2020)。
CPRには、心臓マッサージ、気管挿管、人工呼吸器、薬物投与などの医療処置が含まれます(緩和医療学会:2020)。ただし、CPRは必ずしもすべての人にとって最善策とは言えず、特に高齢者や末期状態の患者さんは、生命の延長より苦痛やQOL(生活の質)の低下を避けることを優先したいと考えることもあります。
DNARは、そういった患者さんの意思を尊重する医療指示であり、患者さん本人や家族、医療スタッフ間で十分に話し合い、必要に応じて見直しておくことが重要です。
ただし、DNARは治療放棄を意味するものではなく、心肺蘇生以外の治療やケアは引き続き提供されます。
ACPの役割
愛する人が人生の最終段階を迎えるとき、その支えとなることは困難な局面を伴うこともあります。しかし、患者さん本人の意思を尊重し、共に大切な時間を過ごすことが心の準備となり、最終段階の様々な変化を穏やかに受け入れることにつながります。
患者さんの希望や想い、そして感情を受け止めるのが難しい場合は、患者さんのケアに関与する専門職の支援を求めることも有効です。
その意味で、ACPは人生の最期を迎える患者さんの尊厳を保ち、家族自身の心の平穏を保つための、大切な役割を担っていると言えるでしょう。
1)ELNEC-Jコアカリキュラム指導者用ガイド:エンド・オブ・ライフケアにおける倫理的問題,日本緩和医療学会,2020
2)厚生労働省:「人生会議」してみませんか,2023 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html
3)厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書,2023 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryo_a_r04.pdf
4)超高齢社会と終末期医療:日本医師会,2017 https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20171206_1.pdf