リハビリテーションを継続している高齢者とご家族のために

リハビリテーションを継続している高齢者とご家族のために

現在、私は保健医療系大学で老年看護学を担当しています。人生の年輪を重ねた高齢者の皆様に、看護学生がどのように接すればよいか、また、高齢者特有の病気はいかにして起こるか、など実践を通して共に学んでいます。

リハビリテーションの対象は、摂食・嚥下、呼吸器、循環器、がんの終末期など実に多様ですが、今回は特に身体機能維持や回復のためにリハビリテーションが必要になった高齢者ご本人と、そのご家族の方々に向けたお話しをします。

山下 知子 准教授
日本保健医療大学 保健医療学部 看護学科
看護師 / 看護教員
老年行動科学会/看護研究学会/看護教育学学会
埼玉県立大学大学院修士課程修了。修士(看護学)。専業主婦、工場アルバイト、介護施設職員を経て看護師資格を取得。総合病院勤務後は、看護専門学校教員、大学教員として看護師育成に携わる。2022年より現職。

1.リハビリテーションとは

リハビリテーション(rehabilitation)の語源は、もともとはラテン語で「再び」を意味する接頭辞reと、「たやすく使いこなす」「適応する」「適する」という意味のhabilitasが接合され、英語のation(すること)を接合したものです。「再び適したものになる」や「再び能力や才能に見合うようになる」1)ことを意味します。

かつてリハビリテーションは、人道的見地から、障害者の身体機能を回復させ自立した生活を営めることに主眼が置かれていましたが、最近では身体機能の回復のみならず、人生を最後までより健康で満足して暮らせるようにという観点から取り組まれています2)

とりわけ高齢者の場合は、ひとたび病にかかると、身体的にも機能が低下し、元の状態に戻ることが難しい場合も多く、活動範囲が狭まって自宅にこもりがちになり、さまざまな影響が出ると言われています。

2.リハビリテーションを継続する高齢者の思い

一般に高齢期には、加齢とともに筋力の低下や骨の変形が起こり、身体機能が低下していきます。膝・股関節などの変形、首や背中などから痛みが出現し、日常生活にも影響が出現しやすくなります。
そのため、たくさんの高齢者が身体機能維持のリハビリテーションを継続しています。

一人暮らしの方も多いのですが、毎日元気に外来通院し、身体機能の維持を図りながら仲間づくりも楽しんでいるようです。通院すること自体が、身体や精神機能に好影響を及ぼし、リハビリテーションの効果を高めているといえます。

実際、整形外科の看護師が数年以上通院する高齢者に、なぜリハビリテーションに励むかを尋ねたところ、「ずっと自宅で暮らしたいから」「ここにくれば友だちができるから」と答えたそうです。リハビリテーションを継続する高齢者の多くは、住み慣れた我が家で生活し続け、気の合う友人をつくり、人生の時間を充実させたいと思っているのだと見受けられます。

なお、日帰り介護のデイサービスにおいても、リハビリテーションをサポートしてくれる施設があるため、必要に応じて利用するとよいでしょう。

3.その日は突然やってくる

それでは、リハビリテーションは、具体的にどのような状況で必要になるのでしょうか。その状況は、長年の生活習慣が積み重なって生じるとされています。例えば、高血圧や動脈硬化により、身体的に徐々に変化が起き、ふだん通りの日々を過ごしていく中である日突然その日がやってくるのです。それまで明るく元気に過ごしていたのに、突然意識を失い、救急搬送され、緊急手術や急性期治療を施され、気づいたときにはベッドの上……という状況も珍しくありません。

もちろん、医師はなぜその状況が起こったかを説明しますが、患者さんやご家族にとっては、「そうなのか……」と思いながらも、「なぜ、予防できなかったのか」、「何もできず不甲斐ない」など、自責の念に駆られる方が多いようです。

いずれにしても、「生命の危機」をようやく乗り越えた先に待ち受けるのが、リハビリテーションです。

突然の身体機能の変化をどのように受け止めているのか、心理学者のフィンクは、危機に陥った人が回復に至る4段階の特徴的な身体的・心理的反応を明らかにしています3)

1)フィンクの障害受容型危機モデル4つの段階4)

①衝撃(ストレス)

急激な予期せぬ出来事を体験したときの最初の段階。現実に起こったことに対処できず、しばしばパニックに陥る段階。

②防衛的退行

ショックを伴う強烈な混乱に耐えることができず、脅威をシャットアウトしたり、コントロールしようとする段階。

③承認(ストレスの再現)

現実と向き合い、生活は以前のようには戻らないこと、期待する身体的変化は起こらないことを知り、新たなストレスを体験する段階。

④適応と変化

修正された自己イメージと新たな価値観を築く段階。

肝心な点は、これらの段階は、必ずしも結果がくっきりと現れて次の段階に進むのではなく、それぞれの段階を行き来しながら移行していくところです。そして、最終的には、新しい価値観を創造しながら再び人生を歩んでいくのですが、ここに私は、人間に備わった本質的な強さを感じずにはいられません。

いずれにしても、人間の感情は複雑で繊細なため、周囲の方はリハビリテーションにおいても高齢者ご本人やそのご家族のその時の心情を察し、丁寧かつ辛抱強く寄り添う姿勢が大切です。

4.機能回復した高齢者の事例

実際のリハビリテーションは、受傷した部位や程度を踏まえ、身体の機能回復を目指し開始されます。ある70代前半の女性の事例では、5年前に心筋梗塞により意識を失い緊急入院し、閉塞した血管を拡張させるステント治療を受けました。加えて、入院中さらに脳梗塞まで発症し、左半身麻痺の状態となりました。

リハビリテーション開始当初は左手に力が入らず、粘土をちぎることからプログラムが始まりました。本人いわく「自分はこんなこともできないのか……」と自覚し愕然としたといいます。平行棒を伝って歩行した際も「少し歩いただけなのに、とても疲れた」とのことです。

それでも、理学療法士が本人の回復の段階に合わせてリハビリテーションを進めたこともあり、粘り強く社会復帰の訓練を開始しました。

また、退院後を見据えて介護認定を受け、「要介護3」の認定も受けました。

本人のひたむきな努力が功を奏したのでしょう。まわりの家族にも好影響がありました。夫は、妻の見舞いに足しげく通うようになっただけでなく、彼女にまかせきりだった家事にもいそしむようになり、同居の息子・娘の毎日のお弁当作りにも挑戦するようになりました。一家の危機を通じて、家族の団結が深まったのです。

その後、彼女は無事に退院。退院当初はうまく言葉が出ず、いらいらして感情的になることもあったようですが、辛抱強く乗り越え、現在は身体の麻痺がほぼ回復し、介護認定も取り下げたとのことです。すべてのリハビリテーションが、常にこのような経過をたどるわけではありませんが、それでも希望をもってリハビリテーションに取り組むことが大切です。

5.気をつけたい言葉かけ

そして本人が希望をもってリハビリテーションに励むためには、本人の心に寄り添う周囲のあたたかな言葉が必要になります。

一般にリハビリテーションに励む人の心の変化は実に多様です。例えば、家庭や会社や地域で何らかの役割を担っていた場合、まわりから「無理しなくていいんだよ」と言われると、「もう必要とされていないのではないか……」と寂しさを感じる場合もあります。同様に「そんなに頑張らなくてもいいのよ」という言葉も、「自分はもう期待されていないのでは」と受け取られ、人知れず傷つく場合もあります。

実際、ある高齢者が左半身麻痺になった時に、看護師が「利き手の右ではなくてよかったですね」と言葉をかけました。しかし当人は、「私の気持ちも知らないで……」「利き手が使えるから良いという訳ではない」と、後日、悲しそうな表情で語ってくれました。

本人にどのような言葉をかけるのが妥当かは、お互いの関係性にもよるのでしょうが、言葉の選び方、かけ方、かけるタイミングには十分な配慮が必要でしょう。まずは相手の言葉を傾聴し、反応を見極めつつ、じっくりと忍耐強く支えていくことが必要です。

6.介護されている方への休息

同時に、家族のレスパイト(休息)も大切です。病の急激な発症と緊急の入院、長きに及ぶリハビリテーションなど、常に緊張を強いられる家族の方々には知らず知らずのうちに心身に大きな負荷がかかっているものです。短時間でも良いので、お見舞いの帰りに映画やランチに出かけるなどして、心身共にリフレッシュし、新たな気持ちで本人を支えて欲しいと思います。

場合によっては、ご家族内でよく相談の上、短期施設入所のショートステイサービスの利用などについて検討しても良いでしょう。

いずれにしても、リハビリテーションは長き道のりです。この道のりを歩み切るためにも、身近な友人・知人・親戚や、行政や福祉、例えば「地域包括支援センター」などに相談し、継続可能な介護やサポートを心掛けていただければと願っています。

【引用・参考文献】
1) 武田宣子,下村晃子,道木恭子他:系統看護学講座別巻,リハビリテーション看護,2022第6版第8刷,医学書院,P.3.
2) 林泰史監修:新訂版写真でわかるリハビリテーション看護アドバンス,2021,インターメディカ,P.15.
3) 野川道子,桑原ゆみ,神田直樹編著:看護実践に活かす中範囲理論,2023第3版第1刷,メヂカルフレンド社,P.297.
4) 野川道子,桑原ゆみ,神田直樹編著:看護実践に活かす中範囲理論,2023第3版第1刷,メヂカルフレンド社,P.299.
5) 厚生労働省.平成28年版厚生労働白書:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/16/dl/1-02.pdf,(2024,3,14参照)