帝塚山大学 現代生活学部 食物栄養学科
管理栄養士/教員
日本栄養治療学会(JSPEN)、日本健康・栄養システム学会、日本サルコペニア・フレイル学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本栄養・食糧学会、日本栄養改善学会、日本栄養経営実践協会
病院や介護老人保健施設での勤務を経て2020年4月より現職。2014年 神奈川県立保健福祉大学修士課程にて修士 (栄養学) 取得、2017年 昭和女子大学大学院博士後期課程にて博士 (学術) 取得。
日本栄養治療学会(JSPEN)認定NST専門療法士、日本健康・栄養システム学会認定臨床栄養師、日本栄養経営実践協会認定栄養経営士、介護支援専門員を取得。
高齢者が脱水症に陥りやすい理由
私たちの体の大部分は、水分と塩分(電解質)が混ざった液体(体液)からできています。年代によって体液の量は異なりますが、体重当たり成人は約60%、高齢者は約50%とされています。高齢者の体液が少ない最も大きな理由は筋肉量が少ないからです。体液を多く保持しているのは筋肉になります。その筋肉が少ないため、体に水分を溜めておく量が少なくなり、容易に脱水症に陥りやすくなるからです。
その他、食欲や飲み込む力の低下に伴い食事量や水分量が少なくなり水分不足につながったり、利尿薬による尿量の増加、夜間のトイレの心配から水分を控えたりするなどの理由があげられます。加齢に伴い生理機能が変化し、体温調節機能が鈍くなり、気温が高くても必要以上に着込むことや、喉の渇きを感じにくくなるなどの理由から脱水症が引き起こしやすくなります。高齢者は季節に関わらず脱水症に陥りやすい危険性があり、1年を通じた水分管理が必要であると考えられます。
栄養管理の前に水分管理が重要
前職になりますが高齢者施設の管理栄養士として勤務していた際は、脱水症の予防に力を注いできました。栄養管理の基本として水分管理が必要であると感じていたからです。その理由は、体液不足が生じると臓器の血流量が減少し、消化器系の働きが悪くなり、食欲中枢が鈍り、さらに食欲が低下します。そして、肝臓への血流も少なくなり、栄養素の代謝異常が起こり、低栄養状態につながります。
つまり脱水症を改善させなければ栄養管理は困難であるとのことです。また臓器の血流量が低下する理由は体液が減少するからです。各細胞に栄養素を運んでいる体液が減少すれば栄養素が運ばれにくくなります。これらのことから、栄養管理の前に水分管理が重要であると考えられます。
脱水症の症状として、頭痛や微熱がある、血圧が低い、手足が冷たい、口の中が乾燥している、舌の赤みが強い、舌の表面が白く覆われている、普段よりも活気がない、傾眠傾向である、反対に落ち着きがなく興奮気味であるなどの症状がみられたりします。脱水症状がみられ口からの水分補給が可能な時は通常の飲み物から経口補水液を提供し、水分と電解質を補い重度化予防に努めてきました。脱水症状が改善されたら通常の水分管理に戻すなどの対応を行っていました。
水分管理の方法
体重1kgあたり25~35mL/日程度の水分量が必要とされていますが、加齢に伴い補うことは大変かと思います。大量に水分を摂っても、一度に吸収できる量は200mL程度です。吸収できなかった水分は、ほとんどが尿として排出されます。そのため、一度にたくさん飲むのではなく少しずつ、こまめに飲むことをお勧めします。
日頃から脱水症になりやすいことを意識して水分補給を行う、身の回りに水分などを置き意識することも重要ですが、乾いた口を湿させる程度に一口飲む程度でも水分補給につながります。またお水やお茶からでなくても問題はありません。いつも身近に飲みやすい、好みに合わせた飲み物などで水分補給しやすい環境や雰囲気づくりを心がけることも大切です。
好きなお菓子に添えて、好きな飲み物を勧めてみてもよいと思います。普段のお茶から梅昆布茶などに置き換えることで塩分も同時に摂れたりします。また水分が進まない時はヨーグルトやプリン、果物などからでも水分補給につながります。
高齢者は、加齢に伴い体液量が減少するために食事からの水分と電解質の摂取が大きな比重を占めています。普段よりも食欲がなくなった、食べる量が少なくなったなどからでも脱水症に陥ります。身体や行動からのメッセージを素早くキャッチし、栄養管理とともに水分管理にも努めていく必要があると思います。