私たちにとって、コミュニケーションは大変重要です。有益な情報を手に入れたり、自分の気持ちを相手に伝えたりする役割に留まらず、良い人間関係を作るためにも、コミュニケーションは基盤となるでしょう。
ここでは、我が国が直面している高齢社会で、高齢者と、ご家族、異なる世代の人、看護や介護に携わる専門職とのコミュニケーションに焦点を当て、望ましいコミュニケーションの3つのヒントをご紹介したいと思います。
長田 久雄
東京都立大学(客員教授)
桜美林大学
日本老年社会科学会
早稲田大学大学院修了後、東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)・東京都立大学勤務を経て桜美林大学大学院教授 現在に至る。
東京都立大学(客員教授)
桜美林大学
日本老年社会科学会
早稲田大学大学院修了後、東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)・東京都立大学勤務を経て桜美林大学大学院教授 現在に至る。
高齢患者と女性看護師の会話の例
次の高齢の男性患者と若い女性看護師との会話の例をご覧ください。
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例1
• 看護師:おはようございます。
• 患者:おはよう。
• 看護師:きょうは良い天気ですね。
• 患者:明け方から腰が痛くて。
• 看護師:これから朝の検温です。
• 患者:昨晩、急に冷え込んだのがいけなかったのかな。
• 看護師:それでは、体温計を脇に挟んでくださいね。
• 患者:おはよう。
• 看護師:きょうは良い天気ですね。
• 患者:明け方から腰が痛くて。
• 看護師:これから朝の検温です。
• 患者:昨晩、急に冷え込んだのがいけなかったのかな。
• 看護師:それでは、体温計を脇に挟んでくださいね。
皆さんが患者の立場だったら、どのような気持ちになるでしょうか。恐らく患者は、看護師さんは自分の気持ちを聞いてくれていない、と不満や不快、不安を感じることでしょう。
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例2
例1に対して、以下の例では如何でしょうか。
• 看護師:おはようございます。
• 患者:おはよう。
• 看護師:きょうは良い天気ですね。
• 患者:明け方から腰が痛くて。
• 看護師:えっ、それはいけませんね。
• 患者:昨晩、急に冷え込んだのがいけなかったのかな。
• 看護師:これから朝の検温ですが我慢できますか。
• 患者:ありがとう。大丈夫だよ。
• 看護師:それでは、体温計を脇に挟んでください。検温が済んだら、すぐにA先生に診察して貰いましょう。
• 患者:おはよう。
• 看護師:きょうは良い天気ですね。
• 患者:明け方から腰が痛くて。
• 看護師:えっ、それはいけませんね。
• 患者:昨晩、急に冷え込んだのがいけなかったのかな。
• 看護師:これから朝の検温ですが我慢できますか。
• 患者:ありがとう。大丈夫だよ。
• 看護師:それでは、体温計を脇に挟んでください。検温が済んだら、すぐにA先生に診察して貰いましょう。
患者の、「明け方から腰が痛くて。」という発言までは例1と同じですが、看護師は、「えっ、それはいけませんね。」と患者の腰が痛いという言葉を受け、その後は、それを基にした会話になっています。すなわち、会話がかみ合っていて、患者は看護師が自分の状態や気持ちを受け止めてくれたと感じるのではないでしょうか。
1つ目のヒント
例1では、一見、交互に会話しているように見えますが、それぞれの人が一方通行(ワンウェイ)のコミュニケーションをしていますので、ワンウェイ・ワンウェイ・コミュニケーションと言えるかも知れません。これに対して、例2では、会話が交互で、しかも内容が噛み合っていますので、相互的コミュニケーション、すなわちツーウェイ・コミュニケーションとなっているのです。先ずは、例2のコミュニケーションになるように心がけたいものです。
2つ目のヒント
私たちは、会話の場面で言葉を交わしますが、言葉そのものだけでなく、表情や身振りによっても情報交換やコミュニケーションを行っていると考えられています。これが、2つ目のヒントです。
ニコッと微笑みながら「おはようございます。」と言うのと、しかめっ面をして不愉快そうに投げやりに「おはようございます。」と言うのは、相手に同じように受け止められることはないでしょう。恐らく、微笑みながらであれば、親しみや好感がもたれるでしょうが、しかめっ面であれば、あまり良い感じは受けないはずです。文字で表せるような言葉を通してだけでなく、表情や身振りによってもコミュニケーションが行われています。それを非言語的コミュニケーションと言いますが、場合によっては、言語的コミュニケーションよりも非言語的コミュニケーションの方が、本音を伝えたり気持ちを示すのに重要だと言われています。私たちは、高齢者を含めて、コミュニケーションの際に、自分の表情や身振りにも注意を払うことが必要でしょう。
3つ目のヒント
3つ目のヒントは、加齢・老化に伴って増えるといわれる加齢性難聴への対応です。聞こえが悪くなった高齢者への対応は、なかなか難しい場合が多いですが、関わる際には、「短い文章ではっきり話す」、「叫ぶようにはならないように大きめの声で話す」、「静かな場所で話す」、「顔や口元が見える方向から話しかける」、「わかり難い言葉は避ける」、「身振りを使う」、「相手が理解していることを確認する」、「ゆっくりと話」、「話す前に注意を促す」などの配慮が効果的だと言われています。
これは、難聴ではなくても、高齢者と話す際にも有効な関わり方でしょう。
終わりに
適切なコミュニケーションは良好な人間関係の基本です。家族との交流だけでなく、専門職の看護や介護の場面でも、高齢者との関わりを快適で楽しいものにすることに役に立つのではないでしょうか。