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  • 【公開日】2024-05-14
  • 【更新日】2024-05-16

サクセスフル・エイジングについて

サクセスフル・エイジングについて

寿命の伸展により、「いかに長生きするか」から「いかに生きるか」への質を問うようになりました。今回は、サクセスフル・エイジングエイジングについて紹介いたします。

笠原 幸子 教授
四天王寺大学大学院 人文社会学研究科
社会福祉士・介護福祉士
日本社会福祉学会・日本介護福祉学会
大阪市立大学大学院を卒業後、学校法人玉手山学園関西医療技術専門学校に4年間勤務。その後、学校法人四天王寺学園四天王寺大学にて勤務、2024年で24年目になる。
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1.サクセスフル・エイジングとは何か

1950年代より、米国を中心にサクセスフル・エイジングに関する研究発表が見られるようになりました。例えば、医学におけるサクセスフル・エイジングは、成人病の克服や加齢に伴う生理的機能変化の解明等に焦点を当て、寿命を延ばすことに関心を寄せました。

その結果、iPS細胞の発明は、再生治療、病気の原因究明、新薬の開発を促しました。また、細胞や臓器のレベルで老化や寿命を制御する仕組みが明らかになってきたことにより、ヒトの抗老化の研究に大きな期待が寄せられています1)。このように寿命の伸展という目標がある程度達成されると、個人や社会の関心は「いかに長生きするか」という時間(量)から、「いかに生きるか」という質を問うようになりました。

「いかに生きるか」について焦点をあてた場合、医学者であるジョン・ロウと社会学者であるロバート・カーンの研究をあげることができます。

彼らは、元気なシニアには「普通のエイジング」と「サクセスフルなエイジング」があるとし、「サクセスフルなエイジング」の成立条件は、①病気やそれに伴う障がいのリスクが低いこと、②高い身体・認知機能を有していること、③生産活動(productivity)に参加し、人生への積極的な関与があることを提案しました2)

彼らの提案は、シニアをネガティブな側面ではなくポジティブな側面から捉えたこと、そして、医学、社会学、経済学等、個別で行われていたシニアの研究を老年学(gerontology)として学際的な研究領域に進化させました。

その後、ロウとカーンの研究成果を踏まえた学際的チームによる研究は、生産活動(productivity)に非経済的活動を意味する社会的活動(地域活動、ボランティア活動等)を含むこと、4つ目の条件として主観的な側面である積極的な精神(positive spirituality)を加えること3)を発表しました。

 

2.「いかに生きるか」へのアプローチ

「いかに生きるか」に焦点をあてたアプローチには、社会的立場や家庭内の役割の変化という大きなライフイベントに適応しつつ、これまでの生活を再編成することが求められるようです。その際、個人的ネットワーク(personal network) 4)は重要であり、人間関係や社会関係、特に、地域社会との関係無しに生活の再編成は難しいように思われます。

しかし、地域では日常の様々な場面における「つながり」の弱まり5)を背景に、「社会的孤立」6)等の課題が表面化しています。人と人とのつながりを育み、誰もがその人らしい生活を実現できる地域社会を構築するためには、自分の暮らす地域をより良くしたいという地域住民の主体性が求められ、シニアの社会活動は極めて重要な意味を持つようです。

社会活動の重要性は、「令和元(2019)年高齢者の経済生活に関する調査」においても、「生きがい」を高く維持するためには、健康状態の維持や社会活動への参加、そして経済面において心配しないで暮らすことができるようにすることが大切だと指摘しています。

つまり、健康と社会活動と経済的安定がシニア時代のサクセスフルな生活にとって大切な条件のようです。

 

3.SOC(Selective Optimization with Compensation)モデル

シニア時代のサクセスフルな生活を検討する場合、発達心理学者のボルテスらのSOC(Selective Optimization with Compensation)モデル7)はとても興味深いです。加齢に伴う身体的・精神心理的機能の低下を認め、残された機能や社会資源8)を活用しながら、充実した生活を営むことがサクセスフル・エイジングであると指摘しました。

89歳まで現役であったピアニストを例にあげて、①自分の現状に即し、自分にとって意味のある領域を選び、新たな目標を設定する「選択」、②選択した領域に、残された機能や社会資源を集中的に投入して、新たな目標の達成に努力する「最適化」、③失った機能を残された機能や社会資源で上手く補い、新たな目標の達成を可能にする「補填」が相互に関連していると説明しました。

SOCモデルを実行するためには、①自分自身を客観的に評価する能力、②新たな目標の設定及びそれを達成するための実行能力、③残された機能や社会資源の活用能力が求められるようです。

 

4.サクセスフル・エイジングを得るためのヒント

サクセスフル・エイジングの条件やモデルを理解しても、サクセスフルなエイジングを迎えることはできません。サクセスフル・エイジングを自分のものにするためのヒントについてお話ししたいと思います。そこで、人間関係や社会関係、特に、地域社会との関係など、個人的ネットワーク(personal network)づくりに欠かせない社会活動に焦点をあてて説明します。

社会活動には多様な捉え方がありますが、ここでは社会活動を、①社会的活動(地域活動、ボランティア活動等)、②学習的活動(老人大学、カルチャーセンター、市民講座等)、③個人活動(近所づきあい、買い物、友人訪問、友人や知人と食事等)、④仕事とします8)

 

★社会活動に対するシニアの意識

内閣府による高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査結果をみると、2021年の調査時は、コロナウィルスの感染拡大により人との接触に制限があったため、2013年の調査結果と比較して、「過去1年以内に活動または参加したものはない」と回答した人は2.7ポイント増加しました。

一方、「活動または参加したものがある」と回答した人は「生活に充実感ができた」と回答していました。さらに、「社会活動を行うために必要だと思うこと」について質問すると、「一緒にいる仲間」「経済的ゆとり」は5割以上の人が必要だと回答していました。

図1 過去1年間に参加した社会活動
図2 社会活動に参加して良かったと思うこと
図3 社会活動を行うために必要だと思うこと

 

 

★仕事について:働けるうちは いつまでも

「あなたは、現在、収入のある仕事をしていますか」という質問に対して、加齢とともに「していない」と回答した人が増加しています。一方、すべての年代で2割の人が「働けるうちは いつまでも」と回答していました。欧米諸国と比較して働くことを希望する人が多いのが日本の特徴です。

図4 あなたは、現在、収入のある仕事をしていますか

5.「長い旅路の果てに 輝く何かが誰にでもあるさ」竹内まりや「人生の扉」より

65歳以上の人を高齢者といったステレオタイプ的な定義を前提とするのではなく、色々なことに興味・関心を持つことができ、年齢を重ねることによって変わる自分を楽しんだり加齢とともに自分のことを素敵だと思えるような自分を目指す言葉として「サクセスフル・エイジング」という言葉を使用したいと思います。サクセスフル・エイジングについて関心のある方は、参考文献10にある論文をご確認いただければ幸いです。

 

参考文献

1.今井真一郎,そこが聞きたい老化にあらがう技術,毎日新聞(2024年4月21日)12版,p.11.

2.Rowe, J. W.; Kahn, R. L. Successful aging. The Gerontologist,37(4),p.433-440,1997.

3.Crowther, M.R., Parker, M.W., Achenbaum, W.A. et all, Row and Kahn’s model of Successful Aging revisited; Positive spirituality The forgotten factor, The Gerontologist, 42(5),613-620,2002.

4.浅川達人,第Ⅳ章 高齢者の人間関係1.人間関係を捉える,古谷野亘・安藤孝敏編,新社会老年学 シニアライフのゆくえ,110,2003.

5.稲垣円,近所づきあいのその先へ-改めて「コミュニティ」を考える,ライフデザインレポート, 第一生命生命経済研究所,2018.

6.堀純子,日本における孤独・孤立の現状と対策,レファレンス(The Reference)866, 国立国会図書館,1-29.2023.

7.Baltes, P.B. & Baltes, M.M., Psychological perspectives on successful aging: The model of selective optimization with compensation, In P.B. Baltes & M.M. Baltes (Eds.) Successful Aging: Perspectives From the behavioral sciences, New York : Cambridge University Press,1-33,1990.

8.社会資源とは、施設・事業所・行政・民間企業等のサービス(資源)、そして、家族・友人・ボランティア等のサービス(資源)等、物的・人的な資源の総称です。

9.佐藤秀紀,佐藤秀一,山下弘二,他,地域在宅高齢者の社会活動に関連する要因,厚生の指標48,12-21,2001.

10.笠原幸子, 准高齢者のサクセスフル・エイジングへのアプローチ:ソーシャルワーカーの視点,四天王寺大学紀要67号,315-336,2019.

https://shitennojiuniversity.repo.nii.ac.jp/records/254

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