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  • 【公開日】2024-02-21
  • 【更新日】2024-02-21

予測できない地震や津波への備え。高齢の家族を持つ人は知っておきたい「減災ケア」とは。

予測できない地震や津波への備え。高齢の家族を持つ人は知っておきたい「減災ケア」とは。

日本では、水害や地震などの自然災害が増加しています。今年に入ってまもなくの元旦に能登半島地震が起こりました。これらの災害は、特に高齢者に多大な影響を及ぼします。災害が発生すると、医療や介護サービスの提供が困難になり、高齢者は健康問題孤立心理的ストレスなど、さまざまなリスクに直面します。事前の準備と正しい知識が不可欠です。ケア施設や自宅で生活する高齢者に対して、セルフケアの重要性と減災ケアの実践方法をやさしく説明します。

神原咲子 教授
神戸市看護大学 基盤看護学領域 災害看護・国際看護学分野
日本災害看護学会 理事、日本看護科学学会 災害看護支援委員会 委員、日本予防医学会 理事、日本公衆衛生学会 認定専門家、防災学術連携体 防災連携委員

兵庫県立大学、高知県立大学などを経て、現職。災害看護の中でもコミュニティや家族にある共助のための減災ケア、特に国際看護の他、異文化理解と看護の関係などが専門。誰もが恩恵を受けられるデジタル技術利活用の減災に取り組む。
長期・広域にわたる健康支援を通じリスクコミュニケーションや現在ケアの研究に取り組む。安全や健康リスク軽減に取り組む国際的な研究・実践団体一般社団法人EpiNurseを創設し活動している。

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災害と看護・ケアの観点からの「減災ケア」

発災直後には多くの負傷者への迅速な対応が生命を救う重要な役割を果たします。一方で、災害によって交通が遮断されたり、インフラが停止したり、情報が混乱したりするなど、生活環境に多くの二次被害のリスクが生じます。このような状況では、自宅や施設に止まれても避難所でも地域と支え合いながら、できるだけはやく平時と同じ生活に戻るために協力することが必要です。東日本大震災以降、避難生活が長期にわたることが多くなり、これらの問題への対策が急務がれます。

災害看護は、災害に特有の知識や技術を活用し、他の専門分野と協力しながら、災害が人々の生命や健康に与える被害を最小限に抑えるための活動が展開されます。災害時には、治療(キュア)だけでなく、ケアの提供も重要であり、文化を理解し、人々の自立を支援する姿勢が求められます。人間の安全保障を基盤に、緊急対応だけでなく、復興や準備期を含めた人々の生活と健康状態に焦点を当てています。家庭や地域との協力などで、平常時からの健康リスクの削減や災害直後の状況把握、救援活動時の迅速・適切な配置、復興のそれぞれの段階で活動をします。これにより、安心安全な生活が守れるものです。

私はその中でも、過去の災害から学んだ教訓や、ハザードの種類や季節によるリスクの違いを理解しながら、地域コミュニティやライフスタイルに、水、食糧、生活環境、健康に関する減災を取り入れる「減災ケア」として災害リスクを減らす活動を推進しています。減災ケアは、災害発生前から復旧・復興に至るまでの各段階で安全と健康を守るためのケアです。これには、災害リスクの予防、緊急時の対応、心理的支援、健康管理、社会的連携などが含まれます。

災害発生前から、災害発生後の復旧・復興に至るまでのさまざまな段階によってケアの内容も変わってきます。大規模な災害が発生すると、災害派遣医療チーム(DMAT)、看護師、保健師などの専門家が被災地に派遣されます。これらのチームは、緊急医療の提供や健康相談、環境整備などを行い、被災者の健康を守るために活動します。しかし、外からの支援は避難所以外で生活する被災者や社会福祉施設への支援が限られます。

災害直後に支援者は、地図の利用や組織間の情報共有が救助活動を行っています。日頃も守られている地域包括ケアにも大きな負担が押し寄せます。地域の人々、地域リーダー、行政職員などが協力し、日常のくらしを見直して、いまできることを備えることが重要です。

日頃から、ご自身の健康状態を理解しつつ、どのような災害が起きえるのかを考えて、どうすれば日頃の生活を続けることができるのかという視点を取り入れた備えが必要です。

セルフケアの重要性と安心できる介護施設の選び方

セルフケアは、ご自身の健康と安全を守るための基本的なスキルです。ご自身が一日暮らすのに必要な水、食事、生活環境(特にトイレ、睡眠)などを振り買ってみましょう。

セルフケアには、非常食、水、薬、衣類、ラジオ、懐中電灯、予備の電池など一般的に言われているものはさることながら、定期的な健康チェックと疾患管理を行う中で、3日間、「これがないと困るもの」が含まれます。例えば、メガネ入れ歯を災害時になくしてしまうと避難にも困ります。必要なや病気で気をつけなければならないことを書き留め、準備できるものから揃えましょう。

また個別避難計画(注)を作成し、家族や近隣の友人、介護施設のスタッフと連絡を取り合える方法を確認しましょう。

災害が発生した際、施設がどのように対応するのかを理解し、自身がすべき行動を取れるか職員と一緒に理解しておくことが大切です。災害は予測不可能なため、事前の準備と計画が、災害時のリスクを軽減し、利用者の生命と健康を守る鍵となります。これはすなわち安心して生活できる施設を選択することともいえます。以下はそんな施設を選択するためのチェックポイントです。

どのような災害に遭いやすい場所なのか。
・災害に強い建築基準を満たしているか。
・災害発生時の避難計画があり、それが適切に機能するものなのか。
・安全な避難場所への移動方法や、避難生活を支えるためのリソースが整っているか
・電気、水道、ガスなどのライフラインが途絶えた場合の対策があるか。
医療連携に関する緊急時の対応計画があるか。
・施設が災害時の健康モニタリングや緊急時のケア計画を持っているか。
定期的な健康チェックや、衛生状態の維持に関する計画があるか。
慢性疾患や特別な医療ニーズを持つ利用者に対しての対策があるか。
心理的ストレスや社会的孤立を防ぐためのサポート体制はあるか。
・災害救助法に基づく支援や救助活動への参加体制があるか。
・施設が地域の医療機関やボランティア組織と連携しているか。
・施設職員が災害対応訓練を受けているか、実際の訓練が行われているか。

災害発生時に必要なこと

避難指示が出たら、できるだけはやくに安全な場所や避難所へ移動する必要があります。家族や周囲の人々と連絡を取り合いましょう。避難所は多くの方が出入りするため、清潔な水の利用、衛生的なトイレ、手洗いなどの衛生習慣が大切です。高齢者や障害のある方が利用しやすい設備があるか、事前に確認しましょう。

避難後の生活では、最初のうちは必要な物資が不足になりがちな中、食事も我慢しがちです。特に高齢者や慢性疾患を持つ方は、栄養状態を定期的にチェックし、必要に応じて食事を調整しましょう。また食後の口内の清潔を保つことは全身の健康にもつながります。歯磨きを忘れないようにしましょう。

避難所や在宅での生活において、避難所は快適な温度になりにくく空気環境も悪いです。冬場は寒さ対策をしっかりと行い、低体温症などに注意しましょう。清潔で快適な居住空間を確保し、アレルギーや病原体のリスクを減らしましょう。心理的な安心感を得られる空間の確保も重要です。

避難所では、ストレスや不安を感じやすいため、心理的なサポートが必要です。高齢者や持病を持つ方は特に、適切なカウンセリングや支援を受けることが大切です。

特に慢性疾患をお持ちの方は、常備薬を手元に置くようにしましょう。避難所や自宅での健康状態を定期的にチェックし、異常があれば速やかに医療機関や支援団体に相談しましょう。

また、長期の車中泊や避難所生活で起きやすいのが DVT(深部静脈血栓症)です。長時間同じ姿勢でいることを避け、定期的に体を動かしましょう。弾性ストッキングを使用して血流の促進を図ることも効果的です。また、長時間寝たきりの方は、褥瘡(床ずれ)に注意も必要です。

地域コミュニティや支援団体との連携は、災害時のセルフケアの強化になります。地域で、情報共有、物資の支援、生活支援など受けることもあります。避難所内でのコミュニティ活動に参加し、互いの支援を促しましょう。地域の方々と情報交換したり、コミュニケーションをとることがストレスの軽減になるだけでなく、これからどのように生活を取り戻していくかを考える重要な時間となります。

時間が経つにつれてこれらの教訓が風化し、かつての災害経験を忘れた新たな住宅地が危険なエリアに建てられることもあります。さらに、行政からの避難勧告であっても、実際に避難することが難しい状況もあります。特に高齢化が進む中で、「ダブルケア」、つまり育児と介護を同時に担う状況が増えています。これからもその傾向は強くなると予測されており、そのような時代に合った多様な地域での「減災ケア」が求められています。

減災ケアは家族や施設の役割や暮らし方、社会の変化に応じて進化し続けています。今後も、しなやかで包摂的な地域包括ケアの提供が追求されることが望まれます。新たに住む場所が決まったら地域の危険や安全性とともに暮らしやすさを理解し、適切なケアを提供したり受けることがすべての人々の安全と健康を守るために不可欠です。

日本では、過去の大きな地震で多くの方が被害に遭われていますが、その中には、災害そのものによる直接的な影響だけでなく、その後の避難生活における身体的、心理的な負担が原因での体調の悪化による関連死も含まれます。たとえば、1995年の阪神・淡路大震災では、避難所でのインフルエンザの流行などが原因で多くの方が亡くなりました。2004年の新潟県中越地震では、震災後に肺血栓塞栓症による死者が出ました。2011年の東日本大震災でも、呼吸器疾患や循環器疾患などが原因で、多くの災害関連死が報告されています。

能登半島地震で懸念されること・まとめ

熊本地震の後、多くの保健医療職が現地に急行し、病院や避難所での支援を行いました。 しかし、福祉避難所や在宅訪問などの支援は、避難所に比べて少なかったことも明らかになっています。特に、在宅避難者への支援は限られており、特に訪問看護や健康チェックに時間がかかりました。

加えて、現在、日本は高齢化が進んでおり、災害時には特に高齢者の方々の健康と安全が懸念されます。例えば、地震による断水や停電が高齢者施設に影響を与え、日常生活に必要な水や電気が使えなくなっています。また、冬の寒さの中での避難生活は、特に高齢の方々にとっては大きな負担となります。車中泊を余儀なくされる方々もおり、深部静脈血栓症(DVT)一酸化炭素中毒のリスクが高まっています。

災害時には、病院や避難所だけでなく、社会福祉施設や在宅での支援も非常に重要です。医療・健康ニーズに迅速かつ包括的に対応するため、地元の保健医療職の適切な配置と外部支援などとの連携が必要です。

このような状況も踏まえて、それぞれ個人が、「私たちが安心して生活し続けられるところはどこなのかと考えながら、こべつの「個別避難計画」として、誰とどこに何を持って避難するのかを考えておくことが大事です。それは、指定避難所だけではなく、親戚宅、日頃利用している福祉施設、ホテル・旅館などの宿泊施設なども併せて考えてみてください。

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