• 在宅介護
  • 【公開日】2024-02-13
  • 【更新日】2024-02-13

後悔を生まない在宅での看取りを実現するためにできること

後悔を生まない在宅での看取りを実現するためにできること

ご自身やご家族の最期を迎える際に後悔を生まない看取りをすることは可能なのでしょうか。後悔を生まないための在宅での看取りに必要な考え方やポイントについて解説します。

角谷あゆみ 准教授
中京学院大学 看護学部看護学科
看護師・介護支援専門員・教員・NPO法人くわのみ理事
日本在宅看護学会、日本在宅ケア学会、NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワークなど
看護師免許取得後、脳神経系、呼吸器系等の病棟に勤務。祖父母の遠距離介護、在宅看取りをきっかけに在宅ケア現場へ転職し、介護支援専門員、訪問看護師として勤務する。その後、専門学校での看護師養成に携わり、2011年より中京学院大学看護学部で在宅看護学領域を担当、現在に至る。
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はじめに

「あなたはご自身の最期をどこで迎えたいですか」と尋ねられたら、何と答えるでしょうか。また「あなたのご家族の最期をどこで迎えたいですか」と尋ねられたら、どう答えますか。

「人生の最期の迎え方に関する全国調査結果」(日本財団,2021)によると、人生の最期を迎えたい場所として「自宅」58.8%、避けたい場所として「子の家」42.1%、「介護施設」34.4%という回答結果があります。また人生の最期をどこで迎えたいかを考える際に重視することについては、親世代(67歳~ 81歳)は「家族の負担にならないこと」95.1%である一方、子世代(35歳 ~59歳)は「(親が)家族等との十分な時間を過ごせること」85.7%と回答し、親子の考えにギャップがあることがわかりました。

新型コロナウイルスの流行を機に病院や介護施設での面会が制限されたことで、患者、家族の双方が、大きな不安にさいなまれました。それを機に、人生の最期をどこで迎えるかを模索する動きが、さらに広がっているように思います。実際に在宅での看取りを経験した方に感想をうかがうと、「とても有意義だった」と回答する方がいる一方で、「大変だった」「在宅看取りを選択したことに後悔した」と回答される方がいらっしゃるのも事実です。

そこで今回は、「後悔を生まないための在宅での看取り」について、考えていきたいと思います。

在宅での看取りをして後悔をする方がいるという現実
~大変さや後悔を感じてしまう理由~

在宅での看取りをして後悔をする方は、何が原因で後悔の気持ちを感じてしまうのでしょう。その理由は大きく分けて二つあると考えます。

一つはいわゆる「介護疲れ」です。介護保険サービスをはじめ、在宅での看取りを支える社会保険サービスの整備がされてきているとはいえ、24時間365日の介護の担い手の中心はやはり家族です。複数人の家族で分担することもあるとはいえ、期間の長期化で徐々に疲労が蓄積し私生活の多くを犠牲にせざるを得なかったということも耳にします。場合によっては家族の誰か一人に負担が集中してしまい「介護離職」を選択せざるを得ない状況になったり、それによって経済面で影響が生じたり、「介護疲れ」から優しく接することができない時間があった、もしくは優しく接することができなかったと介護者が感じ、精神的に辛くなってしまったという声も聞かれます。

それでは「介護疲れ」だけが後悔の理由なのでしょうか。もう一つの理由は、「大切な家族を思う気持ち」だと考えます。大切な家族の死を看取ることは、死が近いことをいくら説明されて頭では理解し覚悟をしたつもりであっても、まもなく訪れる出来事を想像しただけで悲しく辛い気持ちで心はいっぱいになり、そんなことは起きないで欲しいという、現実を否定する気持ちがあふれるからなのではないでしょうか。死にゆく原因が病気であれ、事故であれ、その人が自分にとって大切な人であればあるほど「生きていて欲しい」「私のそばからいなくならないで欲しい」という思いは常にあり、亡くなってしまったという事実が受け止めきれず、後悔という気持ちにつながるのではないでしょうか。

私自身は、「後悔のない看取りはない」と考えています。大切な人に「生きていて欲しい」「私のそばからいなくならないで欲しい」という願いが叶わない以上、その悲しみ喪失感は何で埋められるのでしょうか。何によっても埋められない心にあいた穴が、「後悔」という気持ちだと思っているからです。

在宅での看取りでの後悔をしないために準備すること

それでは在宅での看取りを少しでも後悔しないためにはどうしたらいいのでしょうか。

まずはご本人の意志を確認しておくということです。ご自分の人生の終焉(しゅうえん)をどのように迎えたいと思っているのかということを、できるだけご自身の言葉でご家族や周囲の方にあらかじめ伝えていだだくことです。つまり元気な時から、ご自分の最期について希望や考えを話される機会を、ご家族で定期的に設けるということです。

ご本人の価値観や気持ちをあらかじめ知っておくことは、看取り介護をするにあたり重要な助けとなるのです。万が一、ご本人が自分の気持ちを話せなくなった時には、ご家族がご本人の心の声を代わりに伝えることができるかけがえのないものになります。また、「本人はこの様に望んでいた」ということを周囲に伝えそれに沿って介護をした時間が、ご家族の心の負担を軽くすることになるでしょう。

そして家族だけで介護を担おうとしないことです。在宅での看取りを支える社会保障制度の整備がされてきています。必要に応じて訪問介護訪問看護といったサービスを利用し、ご家族自身の心身の健康と生活をも尊重しながら、家族としての最期の時間を過ごすことが、在宅での看取りのあり方で最も重要なことです。

ご家族がとても苦しんでいたり疲れていたりする姿を目の当たりにすることは、ご本人にとって、「家族に迷惑をかけている」「負担をかけている」という辛い気持ちにつながりかねません。ご本人だけでなくご家族のおひとりおひとりが、「家族みんなでのあたりまえの暮らし」「日々の生活時間を一緒に過ごせること」が、何より大切なのではないでしょうか。

そもそも看取り介護とはいつ、何をすることなのでしょうか。「人生の最期に望むこと」は、ご本人の価値観や気持ちによって十人十色です。もしもの時に、どんな治療法をどこまで望むかをあらかじめ意思表示しておくとよいとされています。

それだけではなく、「〇〇へ出かけたい」「〇〇さんに会いたい」といったことも、人生最期までに望む大切な事です。このような「~しておきたい」は、あらかじめ聞いておくことで、ご本人の気力や体力があるうちに望みを叶えることができます。いよいよ動けなくなったり意思表示が難しい状況になったりすると、ご本人が望んでいたことであっても実現が難しくなることが考えられます。

看取り介護とは、人生を終えるその瞬間を共に迎えることではなく、人生を終えるその瞬間まで、共に歩むことだと思います。共に歩むこと、共に過ごす時間は、ご家族にとってその時の充実した気持ちと共に、「大事な思い出」となることでしょう。その「大事な思い出」は、大切な家族を亡くし悲しみに打ちひしがれているなかで、「もっとこうしてあげたかった」「あの時、こうすればよかった」という後悔の気持ちを、「でも、こんな時間を一緒に過ごせたね」と和らげることにつながることでしょう。

何かあったときの相談窓口

在宅での看取りを支える社会保障制度の整備がされてきています。その調整を担うのが、介護支援専門員(ケアマネジャー)です。同居、別居に関わらず家族間で情報共有や話し合いを重ねることも大事ですが、家族だけで抱えるのは負担が大きいのも事実です。常日頃から介護サービスを活用することで、介護支援専門員をはじめとする専門職と話す機会が増えます。何かあったときのために、何かがなくても、日頃から相談の機会を意識的にもつことをお勧めします。

まとめ

わが国では、人前で「死」に関すること話すことはタブー視されてきました。しかし、高齢化が進んだことや価値観の多様化などから、「自分らしく生きる」ことが重要視されるようになってきました。「自分らしく生きる」ことの延長上に自分らしく最期を迎えることがあります。人生の限られた時間を有意義に過ごしてもらうために、早い段階から、元気なうちから、「どのような最期を迎えたいか」「そのためにはどんな準備が必要か」を、ご家族や周囲の人々と話す機会をもつことは非常に重要です。人生の最期まで、「自分らしく生ききる」ことを実現したいものです。

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