介護施設入居をしないと強く意思表示している高齢者とのコミュニケーション方法

介護施設入居をしないと強く意思表示している高齢者とのコミュニケーション方法

介護施設入居をしないと意思表示をする高齢者とはどのようにコミュニケーションを取ればいいのでしょうか。ご本人がそのような意思表示をする理由やコミュニケーションに必要な過程について解説します。

中村美智代 准教授
龍谷大学 短期大学部
社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員/教員
日本社会福祉学会/日本介護福祉学会/日本社会福祉士会/日本介護福祉士会など
障害者支援施設で支援員として勤務後,高齢者の在宅介護,高齢者福祉施設では介護支援専門員や相談員などを経験して、介護福祉士や社会福祉士養成に携わる。高齢者が生活の場が変わっても自身が主体的に生活できるよう、高齢者の居場所感に着目した支援について研究している。
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ご本人が介護施設入居をしないと強く意思表示する理由

誰もが歳を重ねて高齢者と呼ばれる時期が来て、老化と言われる何かしらの心身の変化があります。一般的に高齢者は、頑固になり保守的傾向が強く、人に対して疑いの感情を抱きやすくなるという心理的変化があるといわれています。身体面の老化からの心理的、肉体上の喪失や大切な人との死別の経験、職業や社会的立場の喪失体験が精神機能に大きく影響します。

高齢者は心身機能の低下から日常生活であたりまえに行っている習慣的な活動や動作(ADL:日常生活動作)や、生活を管理するより複雑な手段的な活動(IADL:手段的日常生活動作)ができなくなり、生活に障害がある状態になって自尊心が傷つけられている状態となります。この状況を高齢者やご家族はどのように受け止めていくのか、以下にそのプロセスを示します。

ご本人とご家族における障害受容のプロセス

障害受容のプロセスとは、自分自身の困難や社会的障壁を現実として受け入れられない時期を経て、最終的に自分自身の障害に対する態度を構築していく過程のことです。ここでいう障害受容を、高齢化にともなった身体的機能・認知機能・生活機能・社会的機能の低下による障害ととらえて、高齢者とご家族に当てはめて考えてみましょう。

障害受容の過程については、ご本人についてコーン(1961)が、ご家族についてはドローター(1975)が下記のように述べています。

『ご本人の受容過程』

「ショック」→「回復への期待」→「悲嘆」→「防衛」→「適応」という5つの過程を経て受容していく。

『ご家族の受容過程』

「衝撃」→「否認」→「悲しみ・怒り・不安」→「適応」→「再起」という5つの過程過程を経て受容していく。

ご本人の受容過程に着目すると、施設入居が必要な時期にある高齢者は、第3の「悲嘆」から第4の「防衛」の段階にあると考えられます。第3の「悲哀」の段階では、すべてが失われてしまうと感じ、ここで適切に対処できれば良い方向に向かうのですが、そうでなければ高齢化による障害の影響を否定する第4の「防衛」において、防衛機制(自分を守ろうとする心理的な働き)が多発するようになります。この時期はご本人やご家族間との間に最も対立が生じやすい時期となり、ご本人の心身の変化を目の当たりにして心配したご家族が、安全に生活できるよう施設入居をすすめることでなお関係が悪化します。

高齢者にとって、生活の場を変えるということは居場所がなくなることであり、大きな喪失感となり、やがては生きがいの喪失大きな孤独感を抱きます。筆者が高齢者の方を対象に行った居場所に関しての調査では、高齢者が望むものは物理的な居場所だけではなく、「高齢者が安心していられたり、他者との交流を楽しんだり、他者の役に立ったりするといった自己の存在の実感」であり、愛着のある今の生活の場から変わることで、これらが脅かされると考えるのです。

高齢者とそのご家族に必要なコミュニケーション

まずはご家族で話し合うことから始めましょう。

生活上に障害があるとわかったとき、ご本人だけでなくそのご家族も、大きなショックや悲しみ、これからの生活に対する不安や負担を体験します。実際に、高齢者が一人暮らしの場合、生活上の障害が1日のほとんどの時間に影響すると、在宅生活の継続に大きな不安を抱えます。ご家族と同居している場合でも、高齢者の社会的認知機能の低下により生活上のさまざまな共同作業におけるコミュニケーションがうまくいかなくなり、家庭内での関係性が悪化します。

このような時、ご家族は「どうしたらいいのかわからない」と途方に暮れ、どこに相談すればいいのかわからないまま一人で抱え込んでしまうことが多いでしょう。肉体的にも精神的にも疲弊して孤立してしまうことで、ご家族や親族間のトラブルに発展するケースもあります。その予防のためには、ご本人の不安な心情や希望などの意思や、ご本人の状態像についての理解と対応について、ご家族や親族の間で共有しておくことが必要です。

『ご家族が心がけておきたいこと』

①ご家族内の人間関係を良好にしておく
ご家族がご本人の身体的・認知的機能の衰えに対する不安や劣等感を理解し、受容していることが大切です。この理解ができないと、ご本人を受け入られず対立してしましいます。ご本人がなぜそのような言葉を言ったり、態度を取ったりするかがわかると受け入れやすくなります。またこれをご家族間で共有することが、ご本人をめぐるご家族間におけるすれ違いや誤解の解消に役立ちます。これはお互いを支え合うためにも必要です。

②経済的な費用負担や具体的な施設入居について知っていること
施設入居に関連する費用は、無理ない範囲でないとご家族の生活に悪影響を与え、ご本人との関係も悪化します。現在想定する金額から、ご本人の今後の介護状態によって上昇することも視野に入れ、介護サービスの専門家に相談しておきましょう。

③施設入居先の支援者やケアマネージャーなど福祉の専門家との信頼関係を持つこと
施設入居利用の際の衝突などは、ご本人とともにご家族にとっても非常に大きい負担感をもたらします。専門家から、ご本人とのコミュニケーションにおいてアドバイスを受けるとその低減や解消に役立ちます。そのためにも、ご本人とのコミュニケーションを持つ際には、自尊心の高さや心理的な問題とともに、生活能力の障害や認知力の低下・病態の失認・失語症などに代表される意思疎通の困難性がないかについても気をつけておきましょう。
なにか「以前と違うな?」などの違和感を持った場合には専門家の助言を得て、ご本人の理解にあった手段や方法を用いることで、より円滑なコミュニケーションも成り立つでしょう。施設入居する際にご本人の居場所感が充足できるようなケアについても、事前にご相談ください。

④高齢者を抱えるご家族の団体や集まりなどの存在を把握しておくこと
ご家族は前述のドローターの受容過程にあることを認識し、感情的になる自分たちを恥ずかしく思ったり責めたりしないように注意しましょう。このような状態になりそうなら、高齢者を抱えるご家族の団体や集まりなどで、思い切って日ごろのストレスや感情を言葉にして話してみてください。ご家族に湧き上がる負の感情を話しても、誰もそれを責めたりはしません。
むしろ、その状態を認め、自らの体験も話しくださったり、共感してもらったりできます。
同じような境遇にある当事者にしかわからない感情の安らぎが得られます。さらに、同じ経験をしている人の成功例の具体やご家族側に役立つ地域の情報などが得られるなど数多くのメリットがあります。

最後に

施設入居を考える段階にある高齢者の心理的な状態は、私たちが身体や心に受けた傷が回復していく過程に似た状態にあるといえるでしょう。ご本人が自らの状態を受け入れて安堵していくためには、前向きにその状態を認めていくということよりも、あたたかなご家族や関係する人々とのなかでこそ進むものと考えられます。これにより、できない自分に対する劣等感や知らない施設入居への不安などがゆっくりと低減し、施設入居後の生活の中にある自らの居場所を受入れていくのです。

また、ご家族にとっても自身の将来を考えたとき、親が教えてくれる「年をとる」ことの意味づけのプロセスの在り方なのかもしれません。

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