延命治療が必要なときに意思確認できるとは限らない!家族で確認しておきたい最期のこと

延命治療が必要なときに意思確認できるとは限らない!家族で確認しておきたい最期のこと

「延命治療を受けたいか本人に確認したい」

「将来的に延命治療を受けるべきか迷っている」

終末期では本人の意思を確認できない場合が多く、事前に延命治療をどうするか家族で話し合っておくのが理想です。

しかし気軽に話せる内容ではないため、実行に移せずそのままになっている方が大半でしょう。

内閣府の調査によると、65歳以上の高齢者は3,589万人で全人口の28.4%(令和元年10月現在)にも上り、高齢化に伴って延命治療について考える方も増えると想定されます。

そこで本記事では、終末期を迎える前に本人の意思を確認する方法や、延命治療を選択した場合のメリット・デメリットについて紹介します。

延命治療を受けるべきか悩む方は、本記事を参考にしてください。

精神医学教室 病院助教(病棟医長)
所有資格:精神保健指定医 日本精神神経学会精神科専門医・指導医・認知症診療医など
専門分野:精神科臨床、精神病理学など

山梨大学医学部在学中は、ライフサイエンス特進コース(現:研究委養成プログラム)に入り、培養細胞を用いたエピジェネティクス研究に従事。同大学卒業後は、精神病理学を学ぶため、自治医科大学附属病院初期研修医を経て、自治医科大学精神医学講座へ入局。精神科臨床や疫学的研究を並行して行いつつ、精神病理学の論文投稿も行っている。近年では、1873年にErnest Charles Lasègueが報告したAnorexie Hystériqueを導きの糸として、non-fat phobic anorexia nervosaや中年期摂食障害に関する精神病理学的考察を進めている。詳しくはこちら

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延命治療の意思確認は「事前指示書」の作成で可能

終末期を迎える前に「事前指示書」と呼ばれる書類をあらかじめ作成しておくと、延命治療を受けるかどうかの意思確認が可能になります。

もしも体調が悪化して本人の意志確認ができなくなった場合でも、「事前指示書」をもとに意向に沿った治療を進められるためです。

「事前指示書」は各自治体あるいは入院先の病院で入手できます。全国的に統一された書式はないものの書類の主な内容は以下の通りです。

  • 最期を迎えたい場所(病院・ホスピス・自宅など)を記載
  • 心肺蘇生(心臓マッサージや人工呼吸器の装着)の希望有無
  • 胃ろう・経鼻経管栄養(カテーテルによる栄養剤の投与)の希望有無
  • 点滴による栄養補給の希望有無
  • その他

具体例を知りたい方は、千葉大学病院や国立長寿医療研究センターなどで公開しているものを参考にしてもよいでしょう。

「事前指示書」に記載する際の流れは、「延命治療で「事前指示書」を作成する流れ」で紹介します。

延命治療で「事前指示書」を作成するときの注意点

延命治療の方針を決める「事前指示書」を作成するときの注意点は、以下の2点です。

  1. かならず家族も交えて考えること
  2. 自宅での看取りを希望する場合は各施設と連携すること

それぞれの注意点を理解し、後悔のない終末期を過ごすための参考にしてください。

1.かならず家族も交えて考えること

「事前指示書」を記載する際は本人だけでなく、かならず家族も交えて考えるようにしましょう。

内閣府の調査(2012年)によると、本人が延命治療を希望する割合は5.1%なのに対し、家族が希望する方の割合は14.7%となっています。

つまり、本人と家族とで延命治療に対する見解の相違が生じている場合が多いのです。

担当の医師や医療スタッフに助言を求めながら、延命治療について家族を交えてよく話し合っておく必要があります。

参照:内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」

2.自宅での看取りを希望する場合は各施設と連携すること

「事前指示書」では延命治療の希望有無だけでなく、最期を迎える場所も記載可能です。

そのため、本来退院が難しい病状でも「事前指示書」に沿って自宅に戻るケースもあります。

ただし終末期を自宅で過ごす場合、家族だけの力では困難です。そこで、協力してもらえる医療機関・訪問看護・訪問介護など各施設との連携が重要になります。

延命治療で「事前指示書」を作成する流れ

ここまで、延命治療における「事前指示書」の概要や作成時の注意点を紹介しました。そこで本章では、実際に「事前指示書」を記載する際の流れについて解説します。

具体的には以下の3つです。

  1. 最期を迎えたい場所を決める
  2. 蘇生の希望有無を決める
  3. 食事を口から摂取できないときの対応を決める

それぞれについてみていきましょう。

1.最期を迎えたい場所を決める

「事前指示書」に最期を迎えたい場所を決めて記載します。病院ではなく住み慣れた自宅で最期を迎えたいと考える方も多いでしょう。

一方で自分の体調面や家族の負担が心配なため、介護施設やホスピス等でケアを受けながら安心して最期を迎える方法もあります。

またその時の病状にあわせて、家族の判断に任せる決断もあり得ます。

いずれの場合も、最期を迎えたい場所を本人と家族がよく話し合って考えておく必要があるでしょう。

2.蘇生の希望有無を決める

心臓や呼吸が停止した際に蘇生措置(心臓マッサージや人工呼吸器の装着)を希望するかどうかを決めて「事前指示書」に記載します。

心肺停止状態では当然本人の意思確認はできません。そのため「事前指示書」がない場合は、家族がその場で本人の意向も推定しながら判断しなくてはならず、非常に辛い状況になるでしょう。

元気なうちに本人と心肺蘇生や人工呼吸器の希望有無を「事前指示書」に記載しておくと、いざという時に家族の精神的負担が軽減されます。

3.食事を口から摂取できないときの対応を決める

「食事が食べられないほど衰弱した」「食べると“のどつまり”をおこす」など、病状によっては口から食事を摂るのが難しくなる場合があります。

食事を摂れなくなった際に、延命治療として長期的な点滴や胃ろうによる人工栄養(栄養療法)を希望するかどうかを「事前指示書」に記載しておきます。

病状が進行し、食事が口から摂取できない状態になると、衰弱が酷く本人の意思確認が難しくなる可能性があるためです。

食事が摂れなくなった際に、自然に任せるか延命治療を希望するかを家族と話し合って意思表示しておくとよいでしょう。

延命治療の意思確認では「尊厳死宣言公正証書」の作成も可能

「尊厳死宣言公正証書」と呼ばれる書類を作成し、“延命治療を希望しない”と公的に意思表示できます。

事前に作成しておき医師に提示すれば、終末期に延命治療を実施せず、人間として尊厳を保ちながら自然に死を迎える「尊厳死」を希望できます。

書類は法務省が管轄する「公証役場」で作成可能です。

全国の主要都市を中心に約300箇所あり、各公証役場には法律の専門家から認められた「公証人」が在籍し、証書の認証を行っています。

認証された「尊厳死宣言公正証書」は、公的な書類として効力をもちます。一方で、医療の現場では100%尊厳死を保証するものではないと覚えておきましょう。

ちなみに、公証役場は各自治体の役場とは異なるため注意が必要です。

延命治療を受けるメリット

終末期に延命治療を受けるかどうか悩む方も多いと思います。そこで本章では、判断材料として延命治療を受けるメリットを3つ紹介します。

  1. やりたいことを実行する時間が持てる
  2. 家族と一緒にいられる時間が長くなる
  3. 思い出を振り返ったり身辺整理をしたりできる

延命治療が成功し、回復した場合に生じるメリットをそれぞれみていきましょう。

1.やりたいことを実行する時間が持てる

延命治療により余命が伸びると、やりたいことを実行する時間が持てます。安静前提の上ですが、以下のような内容が実現できる場合があります。

  • 読みたかった本を読む
  • 見たかった映画を見る
  • 友人・子ども・孫に会う

病状にもよりますが、読書や映画鑑賞であればベッド上でも楽しめるでしょう。

また自分から訪ねるのは難しくても、友人・子ども・孫などが面会に来てくれれば近況を話し合ったり、会話を楽しんだりできます。

2.家族と一緒にいられる時間が長くなる

延命治療が成功すれば、ケアしてくれる家族と少しでも長い時間を一緒に過ごせます。

たとえ言葉を話すのが難しい状況でも、背中をさすったり手を握るなどの非言語的コミュニケーションがとれるだけでも、本人・家族ともに安心感や伝わるものがあります。

余命が限られる中でも、最期のその時までできるだけ長く一緒にいられるのは本人・家族にとって共通の望みと言えるでしょう。

3.思い出を振り返ったり身辺整理をしたりできる

延命治療により時間ができると思い出を振り返ったり、身辺整理などを行ったりできる可能性があります。

例えば、旅行の楽しい思い出を家族や友人と話したり、感謝を伝えたりしてもよいでしょう。

また終末期では自分で実行するのは難しいケースが多いものの、信頼できる方に身辺整理を改めて依頼できれば安心できます。

遺言を残していない方も、延命治療により時間ができれば残す機会が得られます。

延命治療を受けるデメリット

前章では延命治療を受けるメリットを紹介しましたが、デメリットも存在します。デメリットは以下の2つです。

  1. 本人の意思に反する場合がある
  2. 費用がかかる

デメリットも把握しておき、延命治療を受けるかどうかの参考にしましょう。

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1.本人の意思に反する場合がある

本人の意思に反して希望しない延命治療が実施される可能性があります。

病状により意思疎通が困難になると、延命治療を希望するかどうかはその場で本人に確認できないためです。

ただし前述した「事前指示書」などを通じて、本人の意思が確認できる場合は心配ありません。

一方で意思が確認できないまま医師の勧めで延命治療を続けると、本人が苦しむ危険性があるのはデメリットと言えるでしょう。

2.費用がかかる

延命治療は長期に渡る可能性があるため、治療費が高くなる可能性があります。

日本慢性期医療協会の資料を参考にすると、終末期患者が入院した場合の医療費平均は以下表の通りです。

【終末期患者|入院時の医療費平均】

入院費用 1割負担 2割負担 3割負担
1日あたり 28,500円 2,850円 5,700円 8,550円
1ヶ月あたり 855,500円 85,550円 171,000円 256,500円

上記表によると、3割負担では1ヶ月あたり平均約26万円の窓口負担が必要です。

所得に応じて費用負担が軽減される「高額療養費制度」などもあるものの、延命治療を続ければ“まとまった費用がかかる”と覚えておく必要があるでしょう。

参照:日本慢性期医療協会「定例記者会見」

延命治療にかかる費用とは

前章では延命治療にはまとまった費用がかかると紹介しましたが、本章では治療内容別に実際にかかる費用を紹介します。

延命治療で行われる主な治療は以下の3つです。

  1. 人工呼吸
  2. 人工透析
  3. 人工栄養

それぞれの治療内容と費用をみていきましょう。

1.人工呼吸

人工呼吸とは病状により自発的な呼吸が困難になった方に対して、機械を用いて肺に酸素を送り体内の二酸化炭素を排出する機能を担うものです。

自発呼吸がない患者から人工呼吸器を外すと死に至り、過去には殺人罪が適用された事例もあるため、延命目的で一度装着すると外すタイミングが難しくなります。

人工呼吸器を使用した場合の費用は、初日〜14日までは1日につき9,500円(950点)、15日目以降は8,150円(815点)です。合わせて人工呼吸に必要な気管内挿管を行うと1回につき5,000円(500点)が別にかかります。

例えば1ヶ月(30日間)人工呼吸器を使用した場合は以下のように計算できます。

  1. 初日〜14日まで:9,500円×14日=133,000円
  2. 15〜30日まで:8,150円×16日=130,400円
  3. 気管内挿管:5,000円

以上を合計すると1ヶ月間の医療費は398,800円です。これは3割負担の場合119,640円、1割負担なら39,880円です。

前章で紹介した入院費用に加えて人工呼吸器の使用料がかかるため、かなり高額な窓口負担になるのは間違いないでしょう。

参照:診療報酬点数表「令和4年医科」

2.人工透析

人工透析は体内の老廃物を腎臓の代わりに人工的に排出する治療法です。

病状により腎臓の機能が低下し、老廃物を自力で排出できなくなると体内に有害な物質が蓄積し、命を落とす危険性があります。

そこで人工透析を行えば血液中の老廃物を除去し、体内の適切な水分量・電解質が維持できるため延命可能です。

人工透析にかかる医療費は1ヶ月あたり約40万円と高額ですが、国の「特定疾病(高額長期疾病)」が利用できるため自己負担額は1〜2万円程度まで軽減できます。

参照:厚生労働省「高額療養費制度について」

3.人工栄養

人工栄養とは、自力で口から食事を摂取できなくなった患者さんに対して点滴あるいはカテーテルで栄養剤を直接胃や腸に注入し、長期間生命を保つ延命治療の一つです。

延命治療で長期的に生命を維持するための点滴は「中心静脈栄養(IVH)」と呼ばれます。

頚や鎖骨の下、脚の付け根にある大きな血管に太い針をいれるため、カロリーの高い点滴ができるのが特徴で、数ヶ月以上に渡って絶飲食であっても命を保てます。

治療にかかる費用は中心静脈栄養で、1日つき1,400円(140点)です。加えて点滴そのものも1日1本あたり約1,500円が薬剤費として別途請求されます。

つまり中心静脈栄養を1ヶ月間実施した場合の費用は概ね以下のように計算可能です。

  1. 中心静脈栄養:1,400円×30日=42,000円
  2. 点滴(薬剤費):1,500円×30日=45,000円

以上を合計すると1ヶ月の医療費は87,000円となり、3割負担の場合は26,100円、1割負担なら8,700円が目安になるでしょう。

一方でカテーテルで栄養剤を入れる方法には胃ろうや経鼻経管栄養などがあり、胃や腸が働いている場合に選択されます。

経鼻経管栄養の場合、治療にかかる費用は1日につき600円(60点)です。加えて栄養剤やカテーテル交換の費用もかかり、1ヶ月実施した場合は以下のように計算できます。

  1. 経鼻経管栄養:600円×30日=18,000円
  2. 栄養剤(薬剤費):1,000円×30日=30,000円
  3. カテーテル交換費用(2週間に1回):2,000円×2回=4,000円

合計すると1ヶ月約52,000円です。そのため窓口負担は3割負担なら15,600円、1割負担なら5,200円になります。

参照:診療報酬点数表「令和4年医科」

延命治療が必要になる前に家族でしっかり話し合っておこう

本記事では延命治療が必要になる前に意思確認しておく方法や、治療を受けるメリット・デメリットを紹介しました。

たとえ終末期で本人に意識がなくなったとしても「事前指示書」を利用すれば、最期を迎えたい場所や延命治療の希望有無について事前に意思確認できます。

また、公証役場で「尊厳死宣言公正証書」を作成しておけば、延命治療を受けずに尊厳ある最期を迎える希望を周囲に表明できます。

延命治療を受けると余命が長くなり、やりたいことができたり家族と過ごせる時間が長くなったりするでしょう。

一方で、本人の意思に反する場合や延命治療にかかる費用が高額になる可能性があります。

そのため、一度本人が元気なうちに家族で延命治療について話し合ってみましょう。

「事前指示書」とはなんですか?

延命治療の希望有無などの治療方針をあらかじめ決めておく書類です。病状が悪化して本人の意思確認が難しくなった場合でも事前に作成しておけば、書類の内容に沿って治療が進められます。

延命治療の意思確認はどのようにして行いますか?

元気なうちに家族と話し合って「事前指示書」や「尊厳死宣言公正証書」を作成し、延命治療に関する意思を事前に書類に残しておけば、終末期になっても確認できます。詳しくはこちらをご覧ください。

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